NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
純視点
まだ紅葉が彩っていない十月の中頃、まだ着込むほど寒くは無いが、少しずつ冬が近づいてきているのを知らせてくれる。例年よりも強い低気圧発生したせいか、肌を伝う冷たい風に僕の身体は冷えることはなかった。
それもそのはず、今日は三日前から待ち続けた滝本さんとの初デートの日だからだ。彼女と恋人という関係になってから初めて行う外出。僕は待ち合わせ場所に指定した銅像がある駅の改札口に30分以上前から経っているが冬の予感が感じる程度の寒空では、この火照りは静まりそうにない。肌を撫でているこの秋風ももっと冷たくてもかまわないほどに。寧ろもっと冷やして欲しい。でなければ緊張でどうにかなってしまいそうだ。
「変じゃないよな」
ある程度時間に余裕を持ってきたから、駅の窓ガラスに映る自分の格好や髪型がどうにも気になってしまう。昨日は、佐藤さんにフルボッコにされた花男さんが服選びに付き合ってくれたから大丈夫と信じたいのだけれど。
「ん?」
駅前を歩く人だかりに視線を移すと、人だかりや看板の合間からひょっこりとこちら見ている人物を見つけ、目が合うと同時に心臓の動悸が跳ね上がった。
遠目からでも分かる。あの特徴的な暗紅色のポニーテールとそれを留めている大きなリボンの主は滝本さんだ。
彼女は人の波をゆっくりとよけながらこちらに向かってくる。僕もそれに合わせて呼吸を整えて準備をする。
落ち着け、滝本さんと会うのはこれで初めてじゃないだろう。実際、ゲーム展のときはちゃんとできたじゃないか。
「っ……」
それでまた、ゲーム展でやらかしたことを思い出してしまう。こういう時に、先輩から今までやってきた通りにやればいいというアドバイスも完全に頭から消し飛んでしまうほどだ。
だけど彼女は待ってくれない。あと十数秒もすればこちらにたどり着く。いいや、大丈夫だ。僕にならできるはずだ。
「純君、お、おはよ」
「お、おはようございますっ」
僕のところまで歩み寄ってきた滝本さんに簡単に挨拶を交わす。時間的にはおはようでいいのかと迷いながらも、彼女に合わせる。きっと滝本さんも慣れ得ていないはずだ。ちゃんとエスコートしてあげないと、せっかくのデートを楽しんでもらえなくなるだろう。
あぁそうだった。最後に服装を褒めることを忘れるところだった。これは花男さんからのアドバイス。女の子は初デートは格好にも気を遣うから褒めてやれと口を酸っぱく言われた。
「その服、可愛いですね」
「…ありが、と」
この言葉はお世辞では無い。彼女が今身にまとっているは、ちょっと厚着のコートに可愛らしいベレー帽。肌寒いからか少し温かくするために来ているであろうソレは、シンプル故に滝本さん本来の魅力を十分に主張していた。
でも、ストレートに可愛いというのもお互いに恥ずかしいようで、また目を反らしてしまう。
「に、荷物持ちますよ」
「あ、ありがと……」
滝本さんが手に持っている紙袋を受け取る。コスプレの衣装だと言うことは疑うまでも無い。僕の衣装はゲーム展のときにもらったものを用意した。滝本さんも、前回と同じでいいと言ってくれた。
一応スタジオで衣装やウィッグなどは貸し出されているらしいが、滝本さんのこだわりなのだろう。
手慣れた手つきで受け取ることができた僕は、滝本さんに手を差し出す。
「じゃあ、行きましょうか」
「……うん」
差し出された手に少し驚かれるけど、確かな返事と共に、僕の手を取ってくれた。柔らかくて温かい手に包まれる。その感触は僕の心臓をさらに高鳴った。改めて、僕はこの人と恋人なのだと。
ここまでは予定通り、あとはスタジオで撮影して、そこから二人でお昼ご飯。そこからは色んなところをウィンドウショッピングで見て回る。
初めてにしては完璧なデートプラン……になるはずだった。
「え? スタジオが用意できてない!?」
「もうしわけございません。他のお客様とのご予約が重複していたみたいでして」
手を繋いでスタジオまでたどり着いたとき、絶望は突然やってきた。
黒い髪をおかっぱにして、大きくて丸い縁無しのメガネの女性スタッフが言うには、すでにスタジオには他のお客さんがいるという。つまり、ダブルブッキング。
そ、そんな…せっかく予約して、トラブルに備えて段取りもしっかり考えたのに。
想定外のトラブルにより、平衡感覚がなくなり視界が揺れる。
だめだ、動揺するな。滝本さんが不安がる。
いや、もうこの時点でほぼ詰みなのだが、せっかくの初デートがこんな風に終わってしまっては滝本さんが可哀想だ。何か他に代案はないか?
と考えていると、奥の方でスタッフが話し合っていた。そして、
「あの、スタジオは使えないんですけど、ポートレートなら可能なのですが、いかがなさいますか?」
「ポートレート?」
オカッパのスタッフが話すには、それは屋外の施設や公園などを歩き回りながら撮影を行うというものだ。スタジオなどの撮影と違って、自然な背景から人物を際立たせるような写真を撮れるというものだ。僕はまるで勝手がわからないが、段取りや構図はスタッフの人が決めてくれるのでそこまで気負う必要はないらしい。
「えっと、滝本さんはどうですか?」
念のため、滝本さんの了解を得るため、彼女にも話してみる。僕にとってはこのままトボトボと来た道を帰ることだけはしたくなかった。
それも彼女は同じのようで、暗紅色のポニーテールをわずかに縦に揺らして見せた。
「じゃあ、それでお願いします」
と言ったものの、実際にやってみるとなるとかなり度胸のいるものだと言うことがわかった。
衣装に着替えた僕たちがスタッフの車にのせられてやってきたのは近くの公園。
東京近辺では有名な広くて自然に溢れた場所は、確かに写真撮影にはもってこいの場所だった。
ただ一点。
コスプレでそれを行うということを除いては。
「じゃあ、行きましょうか。滝本さん」
「う、うん」
オカッパの撮影スタッフに簡単に挨拶をしてポートレートを開始する。
大まかな流れは、二人で公園内を廻りながらよさそうなところで写真を撮る。
ただそれだけ。
とはいえ、恥ずかしくないといえば嘘じゃない。コスプレはこれがはじめてではないけれど、イベントの時とは勝手が違う。
何が違うかって、イベントの時のような非日常感がないということだ。
日常の中でコスプレをする感覚にまだ慣れていない。
「今日は前と違った衣装ですね」
「うん。前に、作って…おいた、の」
滝本さんの衣装はゲーム展の時の和服ではない。三つ編みにウェイトレスを彷彿される衣装。
これも件の文豪をイケメンにした漫画に出てくるキャラクターだ。
このキャラクターと僕が来ている衣装のキャラクターは境遇が同じという接点から作中でもよく関わっている。
それを自作するなんて、滝本さんすごいな。
「……ちょっと寒いですね」
「うん」
日が上っているとはいえ10月の公園に吹く秋風は、コスプレの衣装では十分寒かった。
滝本さんもそれは同じようだ。半袖の僕と違って袖は長袖だけど、生足だから余計に冷えるのだろう。
やっぱり他の案を探した方がよかったのかなと今さら後悔してしまう。
迷いながらも園内を散策しながら撮影を行う。
開けた池を背景にしたシーンや、ベンチに座ったシーン。その辺りはスタッフの裁量で決めつつ、事を進めた。
「……」
が、やっぱり寒い。僕はまだ我慢できるけど撮影の合間に見せる滝本さんの指先が少し震えていた。正直、それを目の当たりにした今この瞬間に寒気を覚えた。
これじゃ楽しめていないに決まっている。とはいえ、やると決めた以上、今更中断するのもできるはずがない。何か無いだろうか。何か、滝本さんを楽しませて、暖めてあげられる方法は……。
「次は、あの木陰に行きましょうか」
考えを巡らせている間に、眼鏡のスタッフは次のシーンを撮るようだ。指示された場所は広場の中に一本だけ立っている木の下。
木陰に入って撮影するようだ。
「滝本さん、こっち」
「純君っ…?」
僕は彼女の手を取って指示された木陰に向かう。その時、僕の脳内に変なことが閃いた。正直ばかげた考えだ。もしかしたらコスプレのせいで気でも触れたのかも知れない。ただ、今の僕にはそれしか思いつかなかった。
「嫌だったらすぐに言ってください」
「えっ?」
木陰に入った僕は、滝本さんの華奢な身体を抱きしめた。
「!?」
衣装越しからでも伝わる柔らかい感触が、僕の全身に伝わってくる。僕は彼女がバランスを崩してしまわないよう、木に背を預けて体勢を保つ。
「え、あ…純、君?」
「た、滝本さんが寒そうだったので」
僕が思いついた考えというのは、彼女を抱きしめて暖を取るという。本当になんでこんなことをしたのか自分でも分からなくなるようなことだった。
きっと、後で思い返して悶絶するに違いない。ただ、初めてのデートが、こんな冷たい形になるのだけは許せなかったのだ。
「い、嫌でしたか?」
「っ……そんな、こと、ない…よ? ただ、びっくり、しちゃって」
なにやら、外野が騒がしい。さっきからものすごい勢いでカメラのシャッターを切る音が聞こえるがその音は僕の意識を逸らすほどのものではなかった。それだけ、今腕の中にいる彼女のことしか感じる事ができなかったからだ。
「すみません、やっぱり寒いですよね?」
「……ううん。暖かい。すごく」
僕は滝本さんが疲れてしまわないように、ゆっくりと腰を下ろして彼女を膝の上に乗せる。
滝本さんの顔は、形容しがたいほどに真っ赤だった。でもその顔色は決して不快を思わせていない。ただ、僕の胸に自分を預けてくれた。
「こういうの、初めてだったから、すごく…うれしい」
「そう言ってくれるとうれしいです」
答えると同時にさらに抱きしめる。彼女の身体が壊れてしまわないように優しく、それでも確かに強く。二人の間に生じる温もりを噛みしめる。
なんだろう、心の中で、まだ足りないって気持ちが強くなってきた。そして、その感情を、我慢したくないっていう気持ちも同時にだ。
僕はまた滝本さんの手を握った。僕と彼女の体温が直接肌を通して伝わってくる。
今までは彼女との距離を意識しすぎて萎縮してしまったのかもしれない。嫌われるんじゃ無いかって、幻滅されるんじゃ無いかって。
触れあうのは、ちょっと怖いかもしれない。でも、それはこんなにも暖かいんだ。
●
「写真。すごいたくさんもらっちゃいましたね」
「…うん。どれも…すごく、綺麗」
そんなこんなで、当初の予定と随分とずれたデートプランになってしまったけれど、撮影を終えることができた僕たちは、あらかじめ見つけておいた喫茶店で休憩をしている。
もちろん、もう衣装は着替えた。今は撮った写真を何枚かテーブルに並べて成果を吟味する。滝本さんも満足してくれたようだ。
撮ったデータは後日、スタジオのサイトから送られてくるのだけれど、今回は向こう側の手違いがあったこともあり、特別に現像してくれたのだ。
「これ…もらっても、いい?」
滝本さんはその中で、一枚の写真を手に取った。それは、僕と滝本さんが木陰で抱き合ってたときの写真だ。お互いの手を握り合い、おでことおでこをくっつけている。
スタッフの技量もあるのだろうが、一番写りがいいこのシーンだけ取ってみると、本当に漫画でこんなシーンがあったかのように見えてしまう。
僕たちは完全に忘れていたけれど、ものすごい形相で撮っていたからな。
「もちろんいいですよ」
「…ありがと」
当然僕に断る理由はない。滝本さんが喜んでくれたのなら、これ以上望むものはない。
快諾する僕を見て、今日一番の笑顔を見せてくれる。
ここで、リョウさんの言葉を思い出す。体験の共有と思い出。一次はどうなるかと思ったけれど、こういうのも含めて思い出の一つにできるなら、トラブルというのも案外悪くないモノだ。
「……クチュン」
「……」
やっぱり、トラブルは無い方が良いな。
今度はもっと気をつけよう。
一番面白いと思ったシーン
-
敦さんと青葉の絡み
-
敦さんとゆん先輩の絡み
-
純君とひふみ先輩の絡み
-
佐藤君とりんさんの絡み
-
ゆずっちとねねっちの絡み
-
ヨッシーと八神さんの絡み
-
ななみんとうみこの絡み
-
佐藤君と花男さんの絡み