NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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ファッションは大事

 敦視点

 

 有給?

 

 夏休み?

 

 なんだそれは?

 

 そんなものはない。

 

 よろめきながらキャラ班ブースにたどり着いた俺は、自分のデスクにそのまま突っ伏した。

 『フェアリーズストーリー3』が完成してから二週間が経った。マジでどうにかなるんじゃないかと覚悟したがなんとかなった。

 ところがどっこい、俺の仕事はそれで終わりでは無い。元々、俺の仕事は『フェアリーズストーリー3』だけじゃないのだ。まだ開発中の作品がまだ二つも残っている。

 どーせあの葉月のことだ。あと2~3ヶ月もしたら次の作品作るとか言い出すんだろう。

 この理屈でいくと、このループは永遠に終わらない。畜生、一番負担かかってんのはだれだと思ってんだ。

 

 「あ~あ、働きたくねぇ~」

 

 「なんか久しぶりですね。敦さんからその台詞聞くのって」

 

 「あ?」

 

 振り返ると、八神が呆れた顔で俺を見下ろしていた。

 

 「そうか? 結構言ってた気がするんだが」

 

 「言ってませんでしたよ。なんていうか、青葉が来てからですかね?」

 

 「なんだそりゃ」

 

 八神の言葉を鼻で笑いながら一蹴する。

 そういや、そろそろアイツの有給は終わる頃合いだっけか。

 ま、十分に羽を伸ばせたのならいいか。アイツを見てるのは色々面白かったしな。目に見えて何かができるようになっていく用を見るのは久しぶりに心が躍るものがあった。

 とはいえ、今の俺にそんなことを考えている暇は無い。

 

 「たく、暇なら話しかけんな。俺は忙しいんだよ」

 

 「他の作品のキャラデザでしたっけ?」

 

 「あぁそうだよ。葉月がここの仕事を持ってこなけりゃ、とっくに終わっていたはずのな」

 

 ぼやきながら、白紙の用紙とペンを手に取り、作業を始める。八神も察したようで、どこかへ行ってしまったようだ。

 どうせ八神の仕事は電話番くらいだろうから暇だろう。社内ならばどこにいてもいいはずだ。

 

 さてと、こういうのはさすがに手を抜くなんてできないから、本気出さねぇとな。

 今日は仕事をどうしても早く終わらせないといけない退っ引きならない事情があるのだ。会社に泊まっている場合ですら無いほど重要な。

 故に、集中モードに入った俺は、ペンを走らせるが、

 

 「うわ、誰かと思ったら青葉じゃん!」

 

 元々、コンディションの悪い状態で集中モードに入ったせいか、八神がちょっとはりあげた声で右手に持っていたペンの芯が砕けてしまった。

 

 「・・・・・・」

 

 とりあえず一息つく。やがて近づいてくる足音が二つ俺の後ろから聞こえてきた。

 

 「あ、敦さん、おはようございます」

 

 振り返ると、涼風が出社してきたようだった。だが、いつもと様子がおかしい。

 涼風の格好は、いつものスーツ姿とは違って、私服だった。

 青を基調としたチェック柄のジャンパースカート。同じ柄のベレー帽をかぶっているのと、この季節だということもあって、芸術の秋という言葉が、頭をよぎった。

 もっとも、季節を感じる生活なんて送っていないのだけれども。

 

 「おう・・・おめかしなんかして、随分と気合い入ってるじゃねぇか。なんか好いことあったのか?」

 

 「スーツがクリーニング中なんですよ・・・・・・」

 

 まるでそのツッコミはもういいというような顔で返してくる。

 おそらく八神にも同じこと言われたのだろう。

 

 ここ別に私服でいいのによくもまぁ、律儀に通勤できたな。

 もともとこの国の気候にあってないだろ。スーツって。

 

 「お前基本スーツだよな」

 

 「そりゃ、私だってちゃんとした社会人ですし」

 

 ・・・少なくとも、ここにいる連中はまともな社会人なのかと言われると、少しだけためらってしまうが、涼風にそこまでイジワルしても仕方が無いので腹の内に秘めた。

 

 「にしても、なかなか良いセンスなんじゃないのか?」

 

 「えっ!? そ・・・そうでしょうか?」

 

 素直な感想を述べてやると、涼風はどこか自信なさげだ。なんというか、自分で選んだ訳じゃ無いのに褒められてしまって気まずそうな感じだ。

 さては・・・・・・、

 

 「はは~ん、お前、さては親に選んでもらったな?」

 

 「な・・・なんでわかるんですか!?」

 

 ちょっと言い当ててやると、涼風は顔を赤くしながら目を丸くした。

 その顔を見ると、さっき腹の内に秘めた嗜虐心がよみがえってくるようだ。

 

 「お前、割と思ってること顔に出やすいからわかりやすいんだよ」

 

 「も~! からかわないでくださ~い! 敦さんのバカー!」

 

 ホント、コイツを見ていると退屈しないな。

 からかわれたのが気に触ったのか、俺に一発かまそうとグルグルと腕を回す涼風。小さな身体で行うソレは、頭を押さえつけているだけで空しくを空を切るのであった。

 

 「もう、宮本さん、青葉ちゃんをからかわないでください!」

 

 涼風の頭を掴みながら声をかけられた方向に向くと、遠山がいた。

 眉を八の字にし、涼風とくらべて少し淡い紫の瞳をとがらせている。本人の性格的にも、あまり涼風をからかうのを面白く思っていないのだろう。

 まぁ、佐藤にからかわれていることに関してはお前に原因があるわけだが。

 だが、共に働いていると彼女の見た目に変化があることぐらいには気がつく。随分と洒落た服装をしている。まぁ、当然か。

 

 「宮本さん、今日は出版社の方々が来るんですよ? そんな格好じゃ先方を怖がらせちゃいますよ」

 

 まるで八神に説教を垂れている時のような顔で俺をしかりつけてくる。無論、俺も社会人だ。こんなくたびれた上にお化けみたいな顔するわけない。先方に失礼の無いように手は打ってある。

 

 「あぁ、わかってるよ。準備してる。つーか、八神以外にもそんな顔すんのな」

 

 「っ!? べ、別にコウちゃんが特別なんて思ってないです!!」

 

 冗談半分で言った言葉に、わかりやすい反応で返してくれる。

 まさかそんなに顔を真っ赤にするとは。

 ……佐藤、こういうこと言うのは野暮だってのは百も承知だが、先輩のよしみとして言わせてもらう。

 もうこの際、別の相手探したほうがいいんじゃねえのか?

 健康的にも、精神的にも。

 俺は心配だよ。保険に入ることまで勧めたくなるほど。

 つっても、聞かないんだろうな。恋愛とは好きになった方が負けと聞くが、まさにその通りのようだ。

 それに、遠山本人が悲しむからというものある。彼女にとっては佐藤も共にフェアリーズストーリーを完成させた大切な同期。何も言わずに辞めたりなんてできないのだろう。もし遠山が佐藤のことをなんとも思わないのであれば、幾分かは救いがあった。だが、現実はそうじゃない。

 可哀想なヤツだとホント。

 とはいえ、俺の何度か佐藤に仕事を教えたこともある。愛弟子の一人に肩入れしたくなる気持ちも多少はあるのだ。

 

 「お前、佐藤に八神の愚痴話してるときも結構いい顔して――グハァ!!」

 

 突如背後からの衝撃に、俺の身体は吹っ飛ばされる。涼風のグルグルパンチでない。この紙のように軽く、それでいてパワー、スピード、精密動作性、すべてを兼ね揃えた一撃を繰り出せる人間を、俺はこの会社で一人しか知らない。

 

 「俺がなんですって? 敦さん?」

 

 「あ、佐藤君、おはよう」

 

 「あぁ、おはよう」

 

 「佐藤さん、おはようございますっ!」

 

 「……」

 

 「佐藤さん?」

 

 「あぁ、幼稚園児かと思ったら涼風か」

 

 「ガーン!!」

 

 この一連の流れも、イーグルジャンプではもはや当たり前の光景になりつつある。それだけ、涼風がこの会社に馴染んでいることのなによりの現れなのだろう。

 それよりもハリセンでぶん殴られたままの状態で放置するのは流石に勘弁して欲しいものだ。

 

 ●

 

 「ま、普通でしょ……」

 

 出社直後の一悶着後、遠山がコーデした格好に着替えた八神が俺たちの前に現れた。フェミニンな白いワンピースに、整えられた髪。本人は自分は似合っていないと思っているせいか随分としおらしくなっている。普段の男勝りが見る影も無い。

 

 「すごい!八神さんかわいいですよ!」

 

 「ほんと。コウちゃんかわいい!」

 

 「え、ウソ?」

 

 「かわいい!」

 

 「かわいい!」

 

 「~~~~!」

 

 と、八神LOVEの遠山だけで無く涼風まで大絶賛の出来映えのようだ。確かに、普通に可愛らしい女の子になっている。

 俺が口に出した色々問題になりそうだから黙っておくが。

 

 「つーかお前、自分の髪くらいちゃんと手入れしとけよ。痛んでたから整えるの大変だったんだぞ?」

 

 八神が出てきた会議室から遅れて姿を現す佐藤。

 口ではこう言っているが、涼風の髪をあの手この手といじり倒してきたコイツにとって、八神の髪に手を加えるには造作も無いのだろう。

 

 「ありがとう、佐藤君。おかげでコウちゃん、すっごく可愛くなったわ」

 

 「……」

 

 おぉ、佐藤よ。

 何故お前はそうやって恋敵に肩入れするようなことをするのだ。確か無印の時も髪型セットしてやっていなかったかお前。

 愛しの遠山きっての頼みだから、断れない気持ちもわからなくないが、その生気がなくなっていくようなオーラを出すのはやめろ。ただでさえこの2週間働きづめだった俺には堪えるのに。

 あ、また涼風が髪を弄られてる。これもいつもの光景か。

 

 「あーもう! 恥ずかしいからやめてよぉ! だから嫌だったのにぃ!」

 

 「何言ってんだ八神、俺たちはエンターテイナーだろうが。メディアに出る時ぐらい、シャンとしやがれ」

 

 「ふーん。じゃあ敦さん、お手本見せてくださいよーだ」

 

 この姿になっても生意気な中身は全く変わっていないようだ。というよりか、本人も半ば自棄になっているせいか、俺にまで矢面をむけてきやがったのだ。

 しかし、俺も腐ってもプロだ。よりユーザーを楽しませるため、より心地よくゲームをプレイしてもらうため、それくらいの荒行、なにするものぞ。

 

 「全く仕方が無いな。こい! 花男っ!」

 

 「はーい♥」

 

 「アンタも他人任せかーい!!」

 

 そして、ほんの十数分後のことだ。俺は花男をつれて会議室から涼風達が待っている廊下に出る。

 ゲーム展と同様、ふちのない眼鏡をかけて。

 

 「前回と比べて柔らかい感じにしてみたわ」

 

 「まぁ、こんな感じかな」

 

 「これで2回目ですけどすごい変化ですね」

 

 「私も何度見ても慣れないわ」

 

 眼鏡をかけたお陰で口調も変わり、普段の俺の姿とあまりに乖離しているせいか、毎回こんな反応になる。流石に慣れてくる。だが、恥ずべき事など何も無い。堂々としていればいいのだ。

 今の俺の格好は、ベージュのジャケットの下に黒地のシャツ。深緑色のパンツと茶色の革靴。

 普段来ているような皺でヨレヨレになったトレーナーやジーパンにサンダルとは違い、どれもピンッと張った新品そのもの。

 顔のむくみに目のクマは、花男のメイクの腕でなんとかしてもらい、髪型はゲーム展の時に切ってもらったばかりだから、軽くセットしてもらっただけ。

 八神のそれと比べると、華やかさこそ敵わないが、男の格好など要は清潔感さえあれば良いのだ。

 

 「それじゃ、私は満足したから帰るわ♥」

 

 好みの男を好きに着飾って満足したのか、花男は颯爽と帰って行った。残された一同は、まだ俺の変化について来られていないようだった。

 特に見慣れていない涼風は。

 

 「八神さんと言い、敦さんと言い、なんでこんなに印象変わるんでしょうね。なんか不公平です」

 

 「そんなことないさ。今日の青葉だって、十分可愛らしいじゃないか」

 

 「なっ!?」

 

 ●

 

 とはいえ、俺がいくら着飾ったところで、出版社の目当ては八神だろう。

 キャラクターデザインにキービジュアルまで手がけた八神はイーグルジャンプの広告塔そのものだ。それの記事にほとんどのページが割かれる。

 と、思っていた。

 

 「ま、まさか、俺までインタビューを受けることになるとは……」

 

 丸眼鏡にオカッパのカメラマンが話すには、どうやら俺の特集を入れるとの話だった。

 いいや、俺達と言った方が正しい。

 というのも、

 

 『今回の開発チームでわずか三人しかいない男性というのに逆に注目が集まったので、特集を組むことになったのです』

 

 とのことだった。

 葉月の依怙贔屓のしわ寄せが、こんなところにまで来ることになるとは予想だにしなかった。俺は普段しない眼鏡をかけて、口調をスイッチしてインタビューを受けることになった。

 想定していなかった仕事をしたせいもあってか、先方が引き上げた頃には、出社時と同様にデスクに突っ伏してしまった。

 というか、今日の仕事も全然進んでいない。今日は用事があるので手早く済ませなくては。

 

 「こんな姿、確かに記事には載せられませんね」

 

 「なんだ涼風、さっきの仕返しか?」

 

 突っ伏している俺の下にやってきた涼風にうなる様な声で対応する。どこか不機嫌そうだけど、申し訳ないが、カメラマン達に見せた振る舞いをお前にやっている余裕はないのだ。

 

 「いえ、イメージと実態ってこうも違うんだなと」

 

 「別にいいじゃねぇか。普段からこういう格好で仕事してますって一言も言ってないんだ。オシャレですねって言われても、今日は『少し』気合いを入れましたって言えば良いだけだし。ウソなんてついてねぇよ」

 

 「少しの定義とは……」

 

 大人の常套句に苦笑いを示す涼風。

 こうなる気持ちも分かる。ただ本当にウソはついていない。そんな事は一言も書いていないし、言っていない。ただ相手が勝手にそうあって欲しいと思い込んだだけに過ぎないのだから。

 

 「悪いが、あんまりお喋りに付き合ってる暇は無いんだ。ちょっと約束があってな」

 

 「珍しいですね」

 

 「あぁ、ホントにな」

 

 自分でも本当に珍しいと思う。

 元々、花男に服やら髪型やらを用意してもらったのは出版社への対応のためでは無い。いいや、それも充分にあるのだが、それを終わらせてた後にもう一仕事あるのだ。

 何分、火急の用件。

 もし遅れてしまえばどんな目に遭うか分かったもんじゃ無い。

 涼風を追い返した俺は、改めて仕事に向き合った。このインタビューの合間にキャラデザのイメージは固まった。あとはソレを紙にアウトプットするだけ。本気で掛かれば1時間とちょっとで済むだろう。それでも多少の遅刻は覚悟せねば。

 

 「よし、こんなもんだろ」

 

 なんとか1時間で終えることができた。やはりある程度頭の中で形を決めておけばあとは早い。それを差し引いたとしても、やはり約束の時間にはギリギリ。今から準備するとなると普通に間に合わない。

 これは、多少は大目玉を食らわなければならないかもしれんな。

 手早く支度を済ませた俺は、急いで会社を出る。元々体力に自信がないが、今回ばかりは走るしかあるまい。

 さて、ここまで来て俺の用事とやらがなんなのか気になってきた頃だろう。なんとなくわかるであろうが、俺はとある人物に会う約束をしていた。

 争点はそれが誰かという話だ。

 

 待ち合わせ場所が見えてくると、その人物はいた。俺はインタビューの時と同様に縁の無い眼鏡をかけて視界をクリアにする。そして瞬きを数回。少しボンヤリとした風景の輪郭が明瞭になっていく。

 こうなると、自分の中の浮き足だった感情が軒並み収まっていくのだ。

 

 そして、その人物は俺を視界に捉えた。

 

 「遅いですよ。敦さん」

 

 「ごめんよ。仕事が立て込んでてね。それで、話ってなんだい? ゆん(・・)

 

 フリルの多い、今日の八神を思わせるような衣装を身にまとっている彼女の名前は、飯島ゆん。

 俺が珍しく急いで仕事を終わらせたのは、彼女に会うためだったのだ。




おまけ

純:先輩、この前の特集の記事、出ましたよ。

敦:『開発を影で支えた職人達の技』ねぇ……。

佐藤:物は言い様っすね。

敦:だな。

一番面白いと思ったシーン

  • 敦さんと青葉の絡み
  • 敦さんとゆん先輩の絡み
  • 純君とひふみ先輩の絡み
  • 佐藤君とりんさんの絡み
  • ゆずっちとねねっちの絡み
  • ヨッシーと八神さんの絡み
  • ななみんとうみこの絡み
  • 佐藤君と花男さんの絡み
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