NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
青葉視点
秋です。
私がゲーム会社 イーグルジャンプに入社してもう半年がたちました!
冬にはまだ遠いけど、早朝となると冷たい空気が風に乗って地肌に突き刺さる。普段なら布団の中でギリギリまで寝込んでいたくなるけど、今日は、今日だけは違うのだ。
今日は待ちに待った日。
そう、今日は『フェアリーズストーリー3』の発売日なのです。そして今日は、キャラ班のみんなと約束して発売日のお店の様子を見に行こうと約束したのですが、
「ちょっと早く来すぎちゃったかな・・・」
今日が楽しみ過ぎてあまり眠れなかったせいか、私は早く目を覚ましてしまい、八神さんと約束した待ち合わせ場所に一人待ちぼうけていました。
「・・・」
ちなみに、敦さんは来ない予定らしいです。敦さんの仕事は『フェアリーズストーリー3』だけじゃないようなので、こうして並ぶ時間もないみたいで、ちょっと寂しい気もします。そりゃ、この前からかわれたのはちょっと気に障ったけど・・・・・・。
ゲーム展のことといい、やっぱり、ゲームをずっと作っているとそういう感覚になるのかなと少し不安になる。
ねねっちと喧嘩したときの敦さんの顔や、話したくないと言われた緑という人のこと。いろんなことがぐちゃぐちゃになって頭がおかしくなりそうだ。
いやダメだダメだ!
私は約束したじゃ無いか。敦さんも、自分の仕事を誇らしいって思えるように頑張るって。八神さんから教わったことを忘れたくない。それに、やっぱり私は、たとえ半年間でも一緒に働いてきた人たちとみんなで頑張って生きたいんだ。
落ち込んでいた気持ちをなんとか持ち直して自分を奮い立たせると、どこから車のエンジン音が聞こえた。それがしたであろう方向に振り返ると一台の車が道路の脇の駐車できるスペースに留まっていた。
そして車のドアが開くと、
「おーい、青葉ー」
コートに身を包んだ八神さんが私に手を振りながら顔を出してきた。
私は八神さんがいる車に駆け寄る。八神さんって運転できたのかな?
いやでも、八神さんが乗っていたのは後部座席のほうだし、誰が運転してるんだろう。
でもすぐその疑問は解けてしまった。
「おはよ、青葉ちゃん」
「よう涼風か、さっさと乗れ。店までつれてってやる」
助手席にはりんさんが、運転席には、佐藤さんが座っていた。
「みなさん、おはようございますっ」
佐藤さんの車の後部座席のドアを開けると、そこには八神さんとゆんさんも乗っていた。
「青葉ちゃん、おはよ」
「ゆん先輩、おはようございますっ」
「行きしなに偶然おうて乗せてもろたんよ」
「そうだったんですね」
手短に挨拶を済ませると、八神さんの隣の座席に座ってシートベルトを締めると、それを確認した佐藤さんは車を発進させた。車内はさっきまで走っていたから暖房が効いて暖かい。
けど、佐藤さんが普段タバコを吸っているせいか、ちょっとタバコ臭かったりする。今は吸ってないけど、車の中は密室だから香りが残るんだと思う。
でも、敦さんのタバコの臭いとちょっと違うな。
敦さんのタバコは、蜂蜜のような甘い香りでどっしりとかまったりといった感じだけど、佐藤さんのはほんのりというか甘い香りであることに違いは無いんだけど、敦さんと比べて、軽い印象を受ける。
「佐藤の車って結構くさいよね」
「悪かったな」
八神さんも、気にしているようだ。うちの会社は屋上以外禁煙だし、やっぱり気になりますよね。でも――
「あら、そうかしら? 私、佐藤君の車の匂い、結構好きよ」
りんさんは八神さんとは違った感想だった。
「っ・・・・・・」
隣でそれを聞いた佐藤さんの様子は、ちょっと変だったりするけど・・・。
「え~、もしかしてりんまでタバコ吸う気? やめときなって~」
「別にそういうわけじゃないのだけど、ちょっと安心する気がするのよね」
「・・・」
りんさん・・・それ、自分が何言ってるのかわかってるんですか!?
しかも佐藤さんの隣でそんなこと言うなんて、普通の男性なら勘違いしちゃうじゃ無いですか!!
「あ、でも佐藤君。あまり吸い過ぎちゃダメよ? タバコは健康に悪いって言うし、仕事も大変なのはわかるけど、適度にね」
「あ・・・あぁ、気をつける」
りんさん。
おそらく貴方が一番、佐藤さんの健康を害している気がするのですがそれは・・・・・・。
佐藤さんの顔色が悪くなっているのが後ろからでもわかる私にできることは、佐藤さんから八つ当たりされないように祈るだけだった。
そんな調子の悪い佐藤さんが運転する車は、事故でも起こるんじゃ無いかと違う心配事まで思い浮かんだけど、なんとか『フェアリーズストーリー3』が発売されるお店のちょっと近くの駐車場に留めることができた。
「すごい! 少し行列ができていますよ」
やってきたゲームショップの入り口には、まだ早朝で、開店もしていないのに人だかりが列を組んでお店のスタッフに指示された方角に続いている。
ざっと数えても、百人は並んでいそうな数だ。
「あれ? はじめさんとひふみ先輩は先に来ているはずなのにいないですね」
お店の周辺を見回しても、二人の姿はどこにもない。私達は佐藤さんの車で来たから先に着いちゃったのかな?
「いやあそこや・・・」
「並んでる!?」
ゆんさんが指さした方向を見ると、防寒着に身を包んだはじめさんとひふみ先輩が、お店の前の行列に並んでいた。しかも割と前の方に。
それに、ひふみ先輩の隣には誰かいる。
ちょっと灰色がかった白髪に、二人と同じで防寒着に身を包んでいるその人の手はひふみ先輩の手とつながっている。
その人には見覚えがあった。この人は私達と同じイーグルジャンプで、サウンドチームで働いている増田純さん。そしてこの人はひふみ先輩の彼氏さんでもある。
ゲーム展のときに知り合ったけど、まさかひふみ先輩に彼氏ができたなんてびっくりした。
でもいくら彼氏と一緒でも、あんなふうに行列に並んでるときとかは手持ちぶさたにならないのでしょうか?
ひふみ先輩だって、あまりしゃべるのは得意じゃないはずですし、彼氏さんもあまり女性に慣れていないって聞いているからちょっと心配になったりしてる。
「「・・・」」
あ、ひふみ先輩と彼氏さん同士の目があった。すると、ひふみ先輩はちょっと恥ずかしそうだけど今まで見せたことも無いような幸せそうな笑みを浮かべている。彼氏さんも右に同じだ。
なんて言うか二人のいる空間だけ別の世界と言うか、いわゆる、二人だけの世界みたいになってる。
・・・不思議とその前で並んでいるはじめさんがちょっと気まずそうな顔をしているような気がするのは、多分気のせいじゃ無いと思う。
「うわ~、相変わらずラブラブだね~」
「ひふみちゃん、幸せそう」
「はじめ・・・なんであの二人と一緒に並んだんや・・・」
その後、結局私達も特典がほしくなって、ソフトは持っているのに並んじゃったけど、その途中で買いに来てくれた人の顔が間近で見ることができたからちょっとうれしかった。
ちゃんと買うこともできたし、はじめさんやひふみ先輩のところに合流したのだけれど・・・・・・、
「ゆん~。買うなら一緒に並んでよ~」
出会い頭、はじめさんはもう色々おなかいっぱいの様子でゆんさんに泣きついてきた。
「いや・・・うちもさすがにあの空間には行きとうないわ」
「うっぷ・・・ラブコメの波動に酔った」
はじめさんは、なぜか二つもある特典入りの紙袋を持ちながら二日酔いしたお父さんみたいなリアクションを取る。
た、確かに、ひふみ先輩と彼氏さんの間に入るのって結構辛そう。
すると、今度は八神さんが、
「ひふみんも隅におけないなぁ~。並んでる間もず~っとイチャイチャしてたし、羨ましいぞ~っ」
「・・・っ、い・・・イチャイチャなんて・・・して、ない・・・よ? ただ・・・その、寒いから・・・手・・・握ってた・・・だけ」
「そっそうですよ。別にた、滝本さんとたまたま目が合ったりしただけでそれで・・・」
ひふみ先輩も彼氏さんも、顔を真っ赤にしながら必死に弁明しているけど、それをみた八神さんは今度は呆れてしまった。
「だからそれをイチャイチャしてるって言うんだってば・・・」
「「えぇっ!?」」
その反応だと、ひふみ先輩に取って彼氏さんとイチャイチャするってどういうことなんだろう。やっぱり恋人同士になると手を繋いだりするのだけでも普通のことなのかな。
お、大人ってすごい・・・。
「ったくお前ら、何やってんだ?」
「あ、佐藤さん」
後ろから聞こえる低い声。ひふみ先輩の彼氏さんのような少し高い少年のような声とは対称的に、大人らしい声は間違いない。
私達が並んでいる間、車を留めていたはずの佐藤さんだった。彼も手に紙袋を抱えている。それも三つも。
「あおっち~」
そして、佐藤さんの脇でねねっちも紙袋を両手に抱えていた。
ねねっちが持っていたのは私達が買っていたフェアリーズストーリー3のソフトや特典が入ったものだ。でも佐藤さんのは違う。それは、紙袋にプリントされたロゴでわかった。
真ん中に波打つ海と女性のようなイラストが描かれているそれは、私がよく知ってるカフェチェーンのそれだとすぐにわかった。
「あ、それって、もしかして」
「並んでると冷えるからな。色々買ってきた」
「ありがとうございますっ」
佐藤さんは持ってきた紙袋から色んな種類の温かい飲みものを一つずつ取り出すと、私達に配ってくれた。
「遠山はコーヒーでよかったか?」
「ありがとう、佐藤君。あ、でもお金」
「別にいいよ。ソフト買ってるんだから。ほら、八神は甘いヤツ」
「お、サンキュー。こういう時に気が利くよね~佐藤は」
佐藤さん、八神さんの好みを熟知しているような気がする。そりゃあ、毎日りんさんに八神さんの愚痴聞かされてるもんなぁ。
きっと、八神さんのこと色々知ってしまってるんだろうなと、余計な勘ぐりをしてしまうのも、この会社に入ってからは当たり前になってしまった。
寒くなり始めた早朝の秋空の下で、甘いココアを楽しんでいると、コーヒーを口にしていたりんさんが一息ついて話し出した。
「…なんだか懐かしいね」
「そうか?」
「ほら、佐藤君。初めての時も車出してくれたでしょ? それで、私とコウちゃんが並んでる間にこうして飲み物買って来てくれたなって」
「そうだったか?」
「うん」
佐藤さんも、りんさんと同じ懐かしそうな顔をしている。
そうか、7年間だもんね。片思いしているの。私がキャラクターデザイナーになりたいと思った時間よりも長く、りんさんのことを好きになってしまっているんだ。
こういう時、私はすごく迷う。
りんさんは八神さんのことが好き。
佐藤さんはりんさんのことが好き。
私は、どっちを応援すればいいんだろう。
と。
最初は、佐藤さんを応援したい気持ちもあった。でも、いつかりんさんはどちらかを選ばなくちゃいけない。そうなると、もう、この3人はバラバラになっちゃうのかな?
……そしていつかゲーム展の時に見た、敦さんと新一さんのように、大きな溝が、できちゃうのかな?
「まさか闇落ちしてラスボスになるなんて思ってもなかったけど」
「そうそう、意外だったよね」
「だから最後の一騎打ちもすごーく」
そんな私とは裏腹に、ねねっちとはじめ先輩は仲良くフェアリーズストーリー3の感想を言い合っていた。制作中でシナリオは熟知しているから、こうして語り合っているのだけど……ん?
「ちょ、ちょっとねねっち?」
ねねっちの発言が、完璧なネタバレになってしまっていることを、少し遅れて気付いた。というか、なんだか周囲が騒がしい。
ざわざわと噂するようにこちらの様子をチラチラと伺っている。
「やばい、帰ろう!」
流石にいつまでのこの場所にいるのはマズい気がする。居たたまれなくなったのは八神さん達も同じで、すぐにここから離れようと促した。
それにつられて私達の歩き出す。
「どうしよう。怒られるかもしれない。怒られるかもしれない。最悪クビ……」
「だ、大丈夫だって!」
さっきまでノスタルジーに浸っていたりんさんも血相を抱えている。佐藤さんの件で結構思い込みの激しい性格もあいまってか、いつもの優しい声がすごく震えている。
「青葉ちゃん…これ…」
今度は、彼氏さんと一緒に歩いていたはずのひふみ先輩がスマホをもって声をかけてきた。見せられた画面を見ると、ネットではフェアリーズストーリー3のラスボスの名前で持ちきりになっている。
「もう広まってるー!?」
うそでしょ!?
今日発売日だよ!?
もしかして、本当にさっきの会話のせいでこんなことになったの!?
だったら、本当にとんでもないことしゃったんじゃないの!?
「八神さん、これ」
「?」
慌てて八神さんとりんさんにもそれを見せる。
「はやいよ!」
やっぱり八神さんにもこれは想定外の反響だったみたい。りんさんに至っては声を上げられずに絶句してしまっている。
「ちゃ…ちゃいますよ!きっとフラゲしてもうクリアした人が書きこんでるんですよ!」
「なるほどそれだ!そういうことにしておこう…」
「もう~!折角の発売日が~!」
そういうことにできるんですかそれは!?
でも、他に都合の良い言い訳なんて思いつかないよ。私も半分パニックになっているけど、それよりもりんさんがひどい。
ドンドン血相が悪くなっている。
「あぁ、コウちゃんごめん。また胃が痛くなってきた」
「遠山、胃薬あるけど使うか?」
そんなりんさんに気を遣ってか、佐藤さんは胃薬を取り出して渡す。
今、どこからそれ出したの?
「あ、ありがとう。あぁでも、頭も痛くなってきて」
「頭痛薬」
「さ、佐藤君っ…ありがとうっ!」
佐藤さん、やっぱり自分用に常備してるんだ。
「あ、あとこれ水」
佐藤さん!!
一番面白いと思ったシーン
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敦さんと青葉の絡み
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敦さんとゆん先輩の絡み
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純君とひふみ先輩の絡み
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佐藤君とりんさんの絡み
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ゆずっちとねねっちの絡み
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ヨッシーと八神さんの絡み
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ななみんとうみこの絡み
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佐藤君と花男さんの絡み