NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
佐藤視点
そろそろ昼飯か。
他のチームの手伝いくらいしかやることのない俺たち背景班は、昼飯時になると俺以外のメンバーはこぞってどこかへ行く。ま、元々背景班は俺以外に男がいないから孤立するのは当たり前なのだが。
いつも通り自分で作った弁当を片手にカフェテリアへ向かう。
・・・そういや、今日は午後から面談か。
イーグルジャンプには、作品が一つ完成すれば、ディレクターとの面談を行うようにしている。開発の感想とか、今後の昇進についてとか、そういうのは今時どこでもあるものなのかはわからないが、この時期になると一部の時間だけ戦争になるんだよな。
敦さんと葉月さんが喧嘩するのだ。あの二人、もうとっくに別れてるはずなのによくあそこまで派手に喧嘩できるよな。
この前の開発だって――
――てめぇまた仕様書弄りやがってよ! しかもこの前徹夜で修正したところじゃねぇかふざけんな!!
――仕方ないだろう! そうでもしないと面白くならないんだよ!!
――それを面白くするのがてめぇの仕事だろうが! 怠けてんじゃねぇよ!
――それこそクリエイターの仕事だろう!? 妥協して作った作品がなぜユーザーに評価されるんだ!!
――ぐるるるるる!
――がるるるるる!
あのときは殴り合いに発展してお互いの顔面に見事なクロスカウンターが決まったんだよな。
ま、俺には関係ねぇか。なんやかんやああ言いながらもちゃんと作品は作ってるんだし。
それよりも、俺は今日話し合うであろう背景班リーダーの話についてだ。あの思いつきでなんでもやる葉月さんのことだからもしかしたら降ろされる可能性もあるのだが、それも含めてこれから話し合えば良いこと――
「――もずくちゃ~ん。もふもふさせてぇ~」
・・・今、向こうの廊下の奥で何か聞こえたような。いや、確実に耳に入った。この母性的な声は間違いない。
俺はそっと、壁の陰に隠れて様子をうかがう。
廊下の先には、予想通り、遠山がいた。なぜかしゃがんでいるようにも見えるが彼女が抱いているもの、それは葉月さんが会社に連れ込んできているデブ猫、もずくだった。
もずくは抵抗こそしないが、ちょっと嫌そうな鳴き声をあげている。
「うぅ~午前中の葉月さんと宮本さんの板挟みにあった私をなぐさめてぇ~」
どうやら、遠山は午前中から面談のようだったらしい。しかも敦さんと葉月さんか。そりゃあ疲れるだろう。プロデューサーも大変なんだな。
つーか、遠山ってあんなふうになるんだ。八神の前でも見せたことないのに。
・・・なんでそう考えるんだよ俺は。
「はぁ・・・暖かい。なんかね、宮本さんと葉月さん、いつもの喧嘩じゃ無くて大変だったの。なぜか青葉ちゃんの名前が出てきた途端ね、宮本さんが豹変して葉月さんに怒鳴りかかったの」
なんだそれは?
思わず遠山がもずくに話す言葉に耳を傾けてしまう。そりゃ確かに、敦さんと涼風が一緒にいることはよく見かけたが、一体何があったんだ?
そもそも、敦さんが、なんでったって涼風のことで葉月さんに怒鳴るようなことがあるんだ?
「葉月さんが言う・・・綠? って人が、なぜか青葉ちゃんに似てるっていったんだけど、誰なのかしら? そんな人、会社で今まであったこともないけど」
・・・どうやら、俺にもよくわからんことのようだ。
聞いてもさっぱりわからん。葉月さんも敦さんも、長いこと会社にいるのは確かだがよくわからんことが多いんだよな。
ていうか、なんで敦さんはあんな働き方して生きてられるんだろうか。
「葉月さんには、コウちゃんや他の子達にはなるべく話さないようにって言われたし、なんなんだろホント」
まぁ、盗み聞きってのも趣味が悪いし、ここはひとまず自分のデスクで食うか。遠山だって昼休みくらいはもずくにくらい甘えてもいいだろう。
足を来た方向に向けようとしたとき、廊下の奥からもずくのあまえるような鳴き声が聞こえた。
「ん~? そんなに甘えた声で、どうしたのかにゃん? 遊びたいにゃ~。それじゃあ何して遊ぼうにゃん」
そう思った矢先、とんでもない台詞が耳に飛び込んできて我を失いそうになる。音を出して気づかれてしましそうになり、心臓が止まりそうになったが・・・。
止めてくれ遠山。お前のその声で猫語は俺に効く。止めてくれ。
とにかく、こんなところにいられるか。俺は戻る。そう・・・したかった。
俺の服の中にしまってあるスマホから発せられた音が廊下に響き渡る。
「!?」
しまっ・・・携帯の音消しとくの忘れてた!
「え・・・さ、佐藤君?」
さすがにその音に気づいてしまった遠山は、恐る恐るこっちに振り向いてくる。その様子は、まるで後ろに鏡の前に幽霊が現れたかのような形相だ。
「と・・・とうや――いや、りん・・・こ、これは・・・色々と」
自分でもどう弁明すればいいかわからなくなり、結局何も言えなくなってしまった。
「その・・・どこまで見てたの?」
遠山の声は震えていて、それがより一層俺の焦りをかき立てて正常な判断能力を鈍らせていく。
「いや・・・その、さっき通りかかっただけで」
「さっき!?」
「あっ・・・しまっ・・・」
そうだった。さっきと言えば、それこそ遠山が猫語でもずくとじゃれていたところじゃないか。完全に失言した。もうこれ以上誤魔化せきれない。
遠山は抱いていたもずくなど、とうに投げ捨てそのまま耳まで真っ赤にしたままうずくまってしまう。
「ん~~~~~~~っ!」
そこから、半刻ほどたったあとのこと。
うずくまった彼女はようやく落ち着いて話を聞いてくれる状況にまで回復してくれた。なお、その時間で俺の昼休みが消し飛んだ訳だが。
昼食を早めに済ませ、開発後の面談に向けて打ち合わせ室へ向かっている。そこは会議室と比べると小さく、簡単な仕切りしかない場所だが、少ない人数で話し合うのにはちょうど良い場所だ。
「ごめんね、佐藤君。あんなところ見せて」
「いや、別に」
「お昼ご飯も急いでもらったし、面談の時間、ずらしてもらえるよう葉月さんに相談しておいた方がいい?」
「気にするな」
「そう? なら、それで良いのだけれど」
実際、彼女もさっきまで敦さんと葉月さんの板挟みにあっていたのだ。これ以上気を遣わせるわけにはいかない。本人は気丈に振る舞っているが、人と関わる機会は今後も増えている。それだけ今回のようなことは発生しうる。
彼女の下で働くのなら、少しでも負担を減らしてやりたい。祝賀会の時は動揺したけれど、プロデューサーになる彼女の背中はちゃんと押してあげたい。
「あ、それと、ちゃんと名前で呼んでくれたね」
「まぁ。一応はな」
「でも最初は間違えてた」
「……すまん」
「気にしないで。でも、これから呼び慣れてくれたら嬉しい」
そうはにかむ遠山とともに、打ち合わせ室に差し掛かる刹那、俺は不意にあることを思い出したので、彼女に報告することにした。
「そうだ、りん」
「なに? 佐藤君」
「給湯室のコーヒーなんだが、減ってたからもう注文して……」
俺は、打ち合わせ室にいる存在が視界に入った途端、さきほどまで盛り上がっていた空気が一気に冷めたのを感じた。というか、これは俺個人が勝手に思ったことだ。
なぜなら、今打ち合わせ室にたむろしていたのは葉月さんと花男さんだったからだ。
二人は俺と遠山を見ている。片方は口をあんぐりと開けて、もう片方は面白そうなおもちゃを見つけた子供のような目をしている。
「ところで遠山さん。今日は天気が良いですね」
「さ、佐藤君。何か変よ。ほら、りんって呼んで」
「いえいえ、遠山さん」
「佐藤君! 何かあったの!? ねぇねぇ!?」
「と、遠山君! 何で佐藤君に呼び捨てなんて許しているんだい!」
あぁ、やっぱり聞かれていた。
祝賀会の時に話していたから彼らが知るよしも無いのだが、それにしたって少しくらい穏やかして欲しいものだ。
大慌てで席を立った葉月さんに迫られて、遠山も少し動揺している。彼女からしたら意味がわからんは無しだが、二人にとってはこの上なく面白いことなのだ。
「え? 葉月さん。佐藤君は」
「八神の気持ちはどうしたんだい!? こんな柄の悪そうな男に呼び捨てを許して良いはずが無いだろう!」
「アンタひでぇな」
うん。この人多分俺をリーダーにする気ねぇな。
本当なら俺らなんてとっとと外してハーレム状態にしたいはずなのだろうが、チームが回らないから手放せないだけなのだ。
と、俺が言っても自惚れに聞こえるだけか。
「葉月さん。佐藤君のこと悪く言わないでください。確かに佐藤君は、ヤンキーっぽくて変わった髪型だけど」
「…髪型のことは、言ってなくね?」
「佐藤君は同期で、私の友達なんですっ!」
「……」
「大切な『友達』なんです!!」
先日の祝賀会同様、無垢な遠山の言葉が俺の頭に突き刺さる。比喩では無い。物理的に。
それはまるで鋭利なナイフが俺の脳髄に直接突き刺さったように。
友達。
俺達は同期で友達。
そう、友達、ともだち、トモダチ、トモダチ。
「ねぇ佐藤君。私達、友達よね?」
「……」
「嫌なの!?」
「イヤジャナイデス…オレタチ…トモダチデスヨネ」
「ならどうして敬語なの!?」
あぁ、リーダーになれれば遠山と一緒に働ける機会もあると思って受けた話だけど失念していた。彼女がそばにいるということはこう言ったことを、受け入れないと言うことなのだから。
「一応、遠山君が話していたとおり、君を次の背景班のリーダーにしたいのは本当だ。君の意思にもよるがね」
「はぁ」
その後、また一悶着会ったものの、こうして打ち合わせ室のテーブルを囲んで面談を進めることができている。件のことも、葉月さんの思いつきでご破算になる事もなかった。
「それで、君はどうしたいんだい?」
「受けます。俺も自分の実力を試してみたいです」
「あぁよかった。引き受けてくれてっ」
背景班のリーダーになることを喜んだのは、俺では無く、遠山だった。それはまるで、自分のことのように。
それも本当に嬉しそうに笑っている。どこか、彼女の周りに花でも咲いているようだった。
「また3人で仕事ができるのね」
「…そうだな」
彼女の笑みに不思議と不思議と口角があがる。人から見れば無表情に見えるかも知れないが、これでも結構表情豊かに生きている自信がある。主にマイナス方面についてだが。
「……」
だが、相変わらず葉月さんだけは浮かない顔をしていた。
●
面談も一段落付いた俺は、またタバコを吸いたくなったから屋上までやってきた。タバコに火を付けて煙を吸う。
まさか次から背景班のリーダーか。前回は遠山の隣でサポートに徹していたとはいえ、勝手はわかる。問題は、他のメンバーが話を聞いてくれるかだが。
「ちょっといいかい?」
「葉月さん?」
と、初めての大役に多少不安に駆られていたところに先ほどまで浮かない顔をしていた主が屋上に現れた。
「単刀直入に聞くが、君は遠山君の事が好きなんだよね?」
「……」
今それを聞くのか。
と、呆れ半分、動揺半分。
葉月さんなら知っていても可笑しくないが、それについて俺に直接何かしてくることなど今までなかったゆえ、身構えてしまう。
「あくまで黙秘するつもりか。まぁいいだろう。私も今日のために用意したものある」
というと、懐からプリントを数枚取り出した。何をするつもりなのかと、沈黙で訪ねると、葉月さんはいつもの変なテンションになり高らかに宣言した。
「遠山君ウルトラクイーズッ!」
「クイズ?」
「遠山君のことが好きなら、彼女のことをよく知っておかないといけないだろう? それをクイズで試すんだ。さぁ、君の遠山君への愛を見せてみたまえ!!」
こういう変なことを思いついて実行するのは葉月さんの十八番。
きっと敦さんもこの調子に何年も付き合わされたのだろう。そりゃ別れたくなるわ。
「じゃあまずは小手調べ。遠山君の誕生日は?」
「知らん」
「…遠山君の好きな食べ物は?」
「知らん」
「血液型」
「知らん」
「遠山君の足のサイズ」
「知らん」
「好きなアパレルブランド」
「知らん」
「出身地!」
「知らん」
「好きなテレビ番組!」
「知らん」
―――
――
―
「っ!!」
全ての問題を言い終えた途端、葉月さんは持っていたプリントをその場に叩きつけた。屋上だったそこは、風もそこそこ吹いており、プリント達は煽られて空を舞って街に消えていく。
「君! 元々知らないのは仕方ないとして! 少しは本人に聞けよ!!」
「……」
返す言葉も無い。
自分がそれを聞く度胸もなく、ただ遠山の話を聞いていただけなのだから。
それこそ、好みなんて聞いてしまえば気があるとバレてしまいかねない。だから、7年間ずっと言えなかったのだ。
「全く、これじゃあせっかく用意したこれも意味がないじゃないか」
「なんすっかそれ?」
葉月さんはまた懐からプリントを取り出した。ソレも数枚。さっきの個人情報満載の内容のクイズと動揺の枚数をだ。
「遠山君クイズを解いたときに出そうと思っていた、八神クイズだ。遠山君といえば、八神だからな」
まぁ、敵を知り己を知れば百戦危うからずという言葉もあるが、それを答えたこところで何かあるのだろうか。
もうこの下りもうんざりしてきたし、そろそろ仕事に戻りたいのだが。葉月さんは気だるげに読み上げるのだ。
「1問目が八神の誕生日」
「8月2日」
「っ!? け、血液型」
「A」
「得意なこと」
「どこでも寝れる」
「苦手なことっ」
「人混みや騒音の激しいところ」
「…休日の過ごし方っ」
「家でだらだらしている」
「好きな食べ物はっ?」
「遠山の作る料理」
「初任給の使い道!」
「遠山と二人で日帰りの温泉旅行」
「……君、まさか八神の事が……!?」
「違う」
青ざめている葉月さんに喰い気味で否定する。正直、変な風評被害は承っていない。勘弁して欲しい。
「じゃあどうしてそこまで知ってるんだ」
「遠山から、八神の愚痴聞いて覚えちまっただけっすよ」
7年間。飽きもせず俺に八神の愚痴を話すのだ。それもほぼ毎日。そうすると、大体八神が何しているのかがわかってしまうのだ。
うん、今考えるとヤバいなこれ。ただのストーカーじゃねぇか。
というか、八神のプライバシーってもんがあったもんじゃねぇ。
「全く、しょうがないヤツだな君は。どうせアレだろ? 遠山君にフラれるのが怖くて何もできなかったんだろう。このヘタレめ」
「あ?」
ため息をつく葉月さんの言葉に俺の琴線が触れた。何というか、本能的というか、本来の自分というべきか、どこかに繋がっている俺のオリジンのようなものが、この人にだけは絶対にそれを言われたくないという確固たる反骨心をもたらした。
「別にフラれるなんて怖くねぇよ」
「!?」
そうだ。怖いのはそんなことじゃない。俺が一番恐れていること。
それは、
――男の子の中なら、佐藤君が一番好きっ!
――あら、そうかしら? 私、佐藤君の車の匂い、結構好きよ?
――私は佐藤君のこと、弘樹君って呼ぶっ。
こんなことを平然と話してみせる、
「一番怖いのは本人だろうが!」
「それはそれでどうなんだい!? 君がその気なら私にだって考えがある。私に逆らうと怖いぞー! 怖いんだぞー! それでも好きと言えるのか? というか好きなのかっ!?」
「……好きですが、何か?」
「……」
まるで子供のようにまくし立てた彼女だが、ただ一言、そう言って見せると黙り込んだ。
そうだ、これが俺の気持ちだ。他に何がある?
怖かろうがなんだろうが、惚れてしまったのだ。
例え創造主が俺の存在を否定しようが、人類最強が襲ってこようが知ったことか。
一呼吸置いて、俺は最後の啖呵を切る。
「…もう知らん。干すなり、クビにするなり、やってみろっつーの!」
ここまではっきりと言われると思っていなかったのか、葉月さんは手を握りしめ歯軋りをする。
「……っ、わ、私は、お前が嫌いだーー!!!!」
「アンタの気持ちはどうでもいい」
屋上を飛び出した葉月さんの背中を見送ったあと、疲れた俺はもう一本タバコに火をつける。
「……ふう」
煙を吐き出し、また吸い込む。思い返すと、結構ヤバイことを口走ったかもしれない。
勢いであぁ言ってしまったけど、自棄になった葉月さんが遠山と八神にバラすかも。
まあどうでもいいか。今さら葉月さん気を使う必要なんてないし。
…若干スッキリしたし。
そろそろ俺も、腹を括ったほうが良いのかもな。
タバコの火を消して、俺も屋上を出る。不意に、足元に柔らかい感触を感じた。
「んなぁ~」
「なんだもずくか。葉月さん、置いていきやがったな」
俺は彼女のデブ猫を抱えてオフィスへと歩み始めた。
●
りん視点
「なんの会話だったんだろう」
私は屋上からオフィスに戻る道中、一人そう呟いた。
数分前、まだ全体の面談が終わっていないのにいなくなってしまった葉月さんを探して屋上まで向かった私は、佐藤君と葉月さんが話しているところを目撃した。思わずドアの後ろに隠れた私は二人の会話を盗み聞きしてしまったのだ。
その時、佐藤君はこう言った。
――好きですが、何か?
と、それが何の会話だったのか、文脈が滅茶苦茶でわからない。普通に考えれば、佐藤君が葉月さんに告白してたみたいだったけど今まで二人が話しているの見たこと無かったし。っていうか、佐藤君には他に好きな人がいるはずだし…でも、あれ?
「りん」
「……」
「りーんっ」
「!? こ、コウちゃん!?」
突然声をかけられて肩が跳ね上がる。振り返るとコウちゃんが立っていた。
「そろそろ私の面談の時間でしょ? 葉月さんのとこ行かなくていいの?」
「あっ、そうね。ごめんねっ。すぐに行くからっ」
そうだった。もうすぐコウちゃんとの面談だった。これじゃ葉月さんを探しに行った私の方が遅刻してしまう。せっかく皆時間を割いてくれたのに。ちゃんとしないと。
「じゃあ、私、行くねっ」
「う、うん」
私は打ち合わせ室に向かって走り出す。葉月さんも先に行って待っているはずだ。次の開発からチーム全体を引っ張らなきゃいけない。なのに私、なにやってるんだろ。
●
佐藤視点
「青葉、最近のりんの様子、また変なんだけど何か知らない?」
「なにかありました?」
葉月さんとの面談が終わってから二日たったある日のこと、今やっているヘルプの仕事も一段落付いた俺がカフェテリアで休憩をしていると八神と涼風が話しているところを見かけた。それも、遠山の話だ。
八神も、そういうところはしっかり気にかけているだろう。俺も、なんとなく変だと思っていた。
「すみません。私もよくわからなくて」
とはいえ、涼風は俺がいるのに気付いているのか適当にはぐらかしている。俺も彼女に口止めしている。律儀な性格の涼風のことだ。変に漏らすことも無いだろう。
「私もさ、りんが元気になるためにあらゆる手を尽くしたんだけどだめだった」
「あらゆる手?」
「そりゃあもう、甘い物を食べさしたり、辛い物を食べさせたり、しょっぱい物を食べさせたり……もう、手の施しようが無い」
「食べ物ばっかりじゃ無いですか!」
…やっぱり本当に気にしているのかわからなくなってきたな。
ん?
そうしていると、遠山も入ってきた。今朝からずっと落ち着かない様子で。
正直、近くでそんな風にしていられると気になって仕方が無い。少なくとも、何か聞いておいた方が良いだろう。
「なぁりん」
「!?」
「お前、定期的におかしくなるよな」
そもそも、彼女の様子が変になるのは最近に至ってはよくあることだ。桜が俺の気持ちを漏らしたりした時とか、サーバールームの時とか。
元々思い込みの激しい性格なのは知っていたが、最近は特に顕著だ。
「えっ、ぁ…なんでもないのっ。私、佐藤君のことで悩んでるわけじゃ」
俺が揺さぶりを入れれば何かボロを出すと思ったら、俺の名前が出てきやがった。
「あの、ホントに、ごめんねっ!」
俺から逃げるようにカフェテリアを後にする遠山の後ろ姿を見送る。
これは……。
「佐藤!」
俺が考えをまとめる前に、突然、八神が俺のテーブルにまで迫ってきた。それもすごい剣幕だ。今にも気圧されそうになるほどの。
「アンタ、りんに何かしたの?」
「別に何もしてねぇよ」
「ウソつかないで! りんがあんな風になるなんて絶対普通じゃ無い」
ソレについては同感だ。八神にとっても彼女が大切なのは本当なのだろう。まぁ、心当たりもあるしな。
「佐藤、アンタまさか」
「…なんだよ?」
「りんのパンツ見たんでしょ!」
「濡れ衣にもほどがある」