NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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めっちゃいい匂いするー!!

 純視点

 

 結局、来てしまった。

 まさか、社員旅行で地元に来ることになるとは思わなかった。だって、それこそもう二度と帰ってくることなんて無いと覚悟していたのにこんなにあっさりと・・・。

 

 複雑な気持ちで夜空を見上げる。

 僕が今いるのは温泉。しかも生憎露天風呂では無い。今は外が少し嵐になっていて、使えなくなっているのだ。とはいえ、源泉のお湯であることには変わりは無い。飛行機で来たとは言え移動だけでほぼ一日を使ってしまった僕たちはこうして湯船につかって疲れを癒やしてる。東京では秋だけど、この季節ではもう雪が降り気温だって東京の冬よりも寒い。

 でも、こうして肌を出していても温泉のお湯が暖めてくれて芯までほぐれていくようだ。

 

 「・・・」

 

 まぁ、これが現実世界ではなく、ラノベ系のアニメだったら、美少女の入浴シーンを見てしまったりするのだろうが――そんなテンプレ(こと)はない。

 

 「まさか、社員旅行に来てる男性社員が、俺と敦さんとお前だけどはなぁ」

 

 「そうですね」

 

 隣で湯船につかっていた佐藤さんが声をかけてくる。僕よりずっと背の高い佐藤さんは、腰を下ろしていても僕の頭2個分くらい高い。やっぱり背の高い人はいいな。普通にしててもスラッとしてて格好良く見えるしモテそうだ。道中に着ていた服も、それこそモデルみたいだった。

 あと髪型もなんかセンスがあるっていうか・・・どこの美容院になんて言って切ってもらってんだろう。

 

 「つーか、よく来られたよな。敦さん」

 

 「あー確かに」

 

 そう言われて、湯船の反対側に目をやると、

 

 「・・・・・・」

 

 湯船に完全に身をゆだね、いつもの目のクマで不気味に見える顔はお湯のタオルで覆われている先輩がいた。タオルから覗く顔からは、まるでそこから精魂が出て行っているように口を開けているのが見える。要するにだらけきっている。

 一応、『フェアリーズストーリー3』の開発チームの行事ということもあるかた、敦さんも来たわけだけど、この人、前日仕事がまだ溜まっているとかぼやいてたな。

 といっても、この旅行でしっかり休んだ方が進むと思うんだけど。

 

 「あの人寝てないよな?」

 

 「いや寝たら死にますよ」

 

 「湯船にタオルつけるのはマナー違反だろ?」

 

 「そっちの心配ですか!?」

 

 先輩の生死はどうでもいいんですか!?

 そりゃマナーは守らないといけないですけど。まぁ、あの人結構頑丈だしそう簡単に死んだりしないだろう。

 

 「あの、先輩、起きてますよね? ここで寝たら死にますよ」

 

 「あ~? 起きてるよ」

 

 先輩はタオルは取らずに口だけ動かして返事をする。ていうか起きてたんですね。声が完全に脱力しきってる。そりゃ普段からあんな働き方してたらそうなりますよ。呆れてるけど、言ったって多分無理だから言わないことにする。

 

 「んじゃ、そろそろあがるか」

 

 「そうですね。ほら、先輩、行きましょう」

 

 「あ? あぁ、すぐ行く」

 

  その後、僕らも温泉から上がって、部屋に戻る前に各々がしたいことをするためにバラバラになって分かれた。

 といっても、売店で何か買うくらいしかやることないんだけど。

 

 手持ち無沙汰になっていた僕はとりあえず旅館の中を散策する。

 とはいえ、僕はあんまり旅行を楽しめるような気分じゃ無い。

 それは旅行先が地元って事もあるけれど、祝賀会の時からずっと僕の聴覚を支配していたモノのせいだ。

 

 ――自惚れるな出来損ない。

 

 ――何も生み出せないお前に生きる価値など無い。

 

 また父の言葉が頭に浮かぶ。いや、これは実際に彼が言った言葉じゃ無い。きっとこれは僕の中に埋め込まれた呪いだ。僕自身が勝手に思い込んでいるだけでしかないのに、それが今も僕の心を蝕んでいる。

 怖いんだ。前に踏み出すことが。また誰かの期待を裏切ってしまう。そんな恐怖が僕の足をすくませていた。

 

 「あ、純君」

 

 僕を呼ぶ声が聞こえたと思った途端、廊下でバッタリと滝本さんと出くわしてしまった。僕は一瞬ドキッとしてしまう。しまった、こんなときに会ってしまうなんて。

 滝本さんには前にも僕が昔のことを思い出したときに心配をさせてしまったことがある。祝賀書きの時もそうだ。でもこれは僕の問題であって、彼女まで巻き込むわけにはいかない。

 

 「・・・た、滝本さんっ、奇遇ですね。キャラ班のみなさんは?」

 

 僕は咄嗟に平気な表情を装って笑みを作る。ただ、さっきまで父のトラウマに当てられていたせいで歪な笑みになっていることを実感する。

 

 「・・・さっきまで、青葉ちゃんたちとは、温泉に入ってたんだけど・・・飲み物、欲しくなっちゃって」

 

 なるほど、だから僕と同じ格好しているのか。

 滝本さんは、出発前の格好とは違って、僕が今着ているのと同じ浴衣だ。屋内とは言えこの北の大地の寒さがあるからその上に羽織り物をしている。

 そういえば、滝本さんの和服姿は前にも見たことあったな。あれはコスプレだったけど。やっぱり和服はとても似合う。大和撫子という言葉は、きっと彼女にふさわしいだろう。

 

 「そうだったんですか。僕もちょうど何か買いにいく途中だったんです」

 

 「そっか・・・なら、一緒にいてもいい?」

 

 「はい、もちろんです」

 

 目的が重なったこともあり、滝本さんと肩を並べて歩き始める。それにしても、さっきのはまずかったかもしれない。さっき、僕がどんな顔をしていたのか多分、滝本さんにはバレた。

 けど――

 

 「・・・」

 

 「・・・純君? どうか…した?」

 

 「い・・・いえ、大丈夫です」

 

 ・・・・・めっちゃ良い匂いする-!!

 

 隣で歩いているとわかるけど、甘く、透き通った匂いが鼻腔のなかに充満する。温泉につかりながらお酒を飲んでいたのか、ほんのり鼻につくアルコールの匂いも、香りとなっている。

 温泉に備え付けられていたシャンプーやボディソープは、男女とも同じのはずなのに、信じられない。

 まだ乾ききっていない髪の毛は、後ろで結んでいるのもあって、真っ白できめ細やかなうなじが覗いている。

 滝本さんの顔はちょっと火照っていて、妙に色っぽい。あと浴衣姿ということもあって薄着であるということも想像してしまう。

 ・・・これは、か・・・体に悪い!! 

 花男さんがあれだけ気色の悪いテンションで熱弁していたか今なら理解できる。ラノベのテンプレ展開なんかよりずっとドキドキしてしまう。

 頭がのなかがよからぬことで悶々としてくる。雑念や煩悩を無理矢理押しのけていると、また滝本さんから話しかけてきた。

 

 「・・・その、純君は、明日・・・どうするの?」

 

 「明日ですか?」

 

 「・・・うん。私は、さっき・・・青葉ちゃんとスキー、する約束したんだけど・・・その、純君はスキー、できる?」

 

 「はい。できますよ。っていうか、ここ地元なんですよ」

 

 今更隠すことでもないので打ち明ける。一応、僕のここで育っていたので体育の授業でスキーはいつもやっていたから慣れている。でも久しぶりだな。上京してからめっきり機会がなくなったから。

 

 「じゃ・・・じゃあ、純君も明日・・・どう、かな?」

 

 「でもいいんですか? 僕が来たら涼風さんの邪魔になるんじゃ」

 

 「あ・・・そっか、どうしよう」

 

 滝本さんがさっきから言っている涼風という人物を、僕は知っている。ゲーム展の時に先輩と一緒にいるところに出くわして、発売日にもみかけた子だ。

 最終的に彼女の友達みたいな人と一緒に佐藤さんに髪を弄られて泣き顔になっていたのが印象に残っている。

 もちろん、滝本さんの誘いは嬉しいけど、一応、彼氏の僕が一緒にいたら涼風さんも気を使わせてしまうんじゃ無いだろうか。

 

 「まだ時間はありますし、明日は涼風さんと一緒にいてあげてください」

 

 「・・・うん。ごめんね」

 

 ちょっと残念そうな顔をする滝本さんを見て、やっぱり一緒に行こうかなと後悔しちゃうけど、その前に気になることができた。

 

 「・・・」

 

 「あの、何か悩んでいたりします?」

 

 ちょっとだけ、滝本さんの顔がどこか別のことを考えているように見えてしまい、訪ねてしまった。ひふみは図星だったのか、目を丸くする。

 

 「・・・わかるの?」

 

 ちょうど、僕も悩んでいたからか、滝本さんも同じなんじゃ無いかと思ったけど予想通りでびっくりした。なにより、旅行が始まる前からずっと一人で考えているように見えたから心配になったんだ。

 ・・・いつもなら、言いたくないなら言わなくて大丈夫と言ってしまいそうだけど、彼氏なんだし聞いておいたほうがいいのかな。

 花男さんも、女の子の悩みは聞くだけ聞いた方が良い。あと、解決するのが目的じゃ無く、相手と悩みを共有して共感するのが嬉しいのって言ってたな。

 

 「僕でよかったら、話してみてください」

 

 「・・・・・・うん、わかった」

 

 滝本さんは最初はちょっと遠慮気味な顔をしてたけど、ゆっくりと彼女のペースで話し始めた。

 

 「あのね、青葉ちゃんのことなんだけど・・・いつもすごいなぁって、思っちゃうの」

 

 「どうしてですか?」

 

 すごいって言っても、何がすごいのかわからなかったので聞き返してみる。これも、花男さんに教わったことだ。適度に相づちや質問をして、相手が話しやすいようにしろって言っていた。

 

 「その、青葉ちゃんはね、私より後輩なのに・・・キャラ班のみんなと、笑顔でおしゃべりできるの・・・」

 

 確かに、前に見かけた時だって、ちゃんとチームの一員っていうか、その空間に入り込んでいた印象がある。それは、ひふみのいるキャラ班の人たちがみんないい人だってこともあるんだろうけど、ひふみの言うとおり、入社して半年でそれができるのってすごいな。

 

 「私は・・・いつも考え込んでばかりで・・・・・・青葉ちゃんより先輩なのに、ダメだなって。・・・青葉ちゃんみたいにできればキャラリーダーの話も、前向きに考えられたのに・・・」

 

 え? キャラリーダー?

 滝本さんが!?

 

 いきなり昇進の話になってびっくりしてしまうけど、ここで滝本さんの話を遮ったら元も子もないので黙っている。

 

 「私なんかより、青葉ちゃんがキャラリーダーになった方が・・・いいんじゃない、かなって・・・思っちゃって」

 

 滝本さんが不安がるのはわかる。僕も同じ悩みを抱えていた。

 でも、少なくともそれはちがう。滝本さんがリーダーに向いて無いだなんて間違ってる。

 

 「・・・滝本さんなら、きっと大丈夫だよ」

 

 思わずそう口にせずにはいられなかった。

 

 「そう・・・かな?」

 

 「だって、考え込んでるってことはみんなのことをどうすればいいかってちゃんと考えてるからだと思うよ。滝本さんのそういうところは、僕も励まされたことはあるから」

 

 そうだ。

 滝本さんはみんなのことをちゃんと考えてる。考えてるから迷うんだ。でもそれが間違いかと言われたらそうじゃないと思う。

 

 「人のことを考えられない人もいる。多分そういう人って、裏切られるのが怖いんだと思う」

 

 実際、僕もそんな節があったと実感する。上へ上へという上昇志向は視野を狭くする。昔の僕と今の僕でも、見えているものは後者のほうが多くなっている自信がある。

 そして何より――

 

 「――僕が滝本さんの部下なら、この人を裏切りたくないって思える。だから、自信を持って欲しい」

 

 自分を卑下しないで欲しい。滝本さんは、自分が思ってるよりもずっと素晴らしいひとなのだから。

 

 「・・・」

 

 と、自分が言わなきゃと思ったことを全部、滝本さんに伝えたと思った途端、僕は冷静になる。そして自分の失態に気づく。

 

 「す、すみません! 話を聞いてるだけだったのに余計なこと言って・・・」

 

 「う、ううん。大丈夫・・・だよ。ちょっと、恥ずかしかっただけ・・・だから」

 

 うん、確かに僕も恥ずかしい。

 なんだよ、この人を裏切りたくないって・・・なんのドラマの台詞だよ。

 恥ずかしさのあまりに、逃げ出してしまいたいとおもってしまいそうになるけど、どこかつきものが取れたひふみの顔を見て、安心した。

 

 「純君、ありがと・・・」

 

 あぁ、こうして彼女と話しているだけで、憂鬱な気持ちだったこの旅行も楽しいと思えそうだ。

 その後、滝本さんとは売店に向かう道中やその最中はずっと一緒にいた。帰りはひふみの部屋まで彼女を送ってから自分の部屋へと向かった。

 「……」

 

 だけどどうしてだろう。

 滝本さんはまだ浮かない顔をしていたような気がした。

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