NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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私にできること

 佐藤視点

 

 社員旅行の最初の夜が明けて、日がもう空の頂点に上がっているころになっていた。社員旅行に来ている他のメンバーはスキーをするためにゲレンデに飛び出したり、各々がしたいことをしているところだろう。

 それで、俺は何をしているかというと――

 

 「りん、俺だ。入るぞ?」

 

 俺は旅館の部屋のドアをノックすると、しばらくしてドアが開かれた。ドアの向こうにいたのは遠山だった。

 

 「あ、佐藤君。どうかした? あら、それは?」

 

 遠山は俺の手元にあるものを見て目を丸くする。

 

 「八神が風邪で倒れたらしいからな」

 

 俺が盆の上にのせていたのは一人前程度の小さな土鍋だ。中には粥が入っている。

 八神の奴、今朝急に倒れ込んだと思ったら風邪をこじらせたらしい。そりゃ、こんな寒いところなんだから急な温度の変化に体が着いてこなかったんだろうか。日頃から身の回りのことを遠山に任せてるからこうなるんだ。

 

 「わざわざありがとう。これ、もしかして佐藤君が?」

 

 「旅館の人に事情を話したら台所貸してくれたんだよ」

 

 テレビの旅番組とかで、料理人がホテルのキッチンを貸してもらっていたことがあったから試しに頼んでみたらあっさりOKしてもらえた。

 

 「まぁ、そうだったの」

 

 「つか、お前、さっきまで八神の看病してたのか?」

 

 「うん、やっぱり心配だったから」

 

 俺はため息をつく。よくもまぁ、毎度毎度、あのバカの世話をしてられるなこのバカは。

 ・・・そのバカを好きになっているバカがこうしてなんで自分の恋敵のバカのためにこんなことしてんだろう。

 

 「ったく、朝から看病しててお前がうつったら世話ねぇだろ」

 

 「そうだけど・・・」

 

 「お前も少しは休んどけ、八神の看病は俺がするよ」

 

 「えぇ!? いいのよ佐藤君! 佐藤君だってせっかくの旅行なのに」

 

 「それはお前も同じだろ? 休めるときに休んどけ」

 

 「・・・・・・」

 

 遠山はどこかもどかしそうに俺を見ているが、やがて首を縦に振った。

 

 「そうね。せっかくだから佐藤君に任せるわ」

 

 そう言うと一度部屋に戻った遠山は、しばらくして戻ってきた。どうやら荷物をまとめてたらしい。

 

 「その、ありがと。佐藤君」

 

 「・・・」

 

 遠山が見せた笑顔に少し目をそらしつつも、俺は彼女と入れ違いに部屋に入っていった。

 

 「ゲッ・・・なんで佐藤が入って来んの?」

 

 部屋に入って待ち構えていたのは、俺ら男性社員達の部屋よりも数倍は広い部屋とその真ん中で布団にくるまった八神だった。八神は俺を見る度顔色を変えた。

 

 「お前が風邪で倒れたって言うからりんと変わって看病しに来たんだよ。ありがたく思え」

 

 「・・・別に頼んでないよ」

 

 冷静に考えれば、こうして風邪を引いた奴の看病をするのは二度目になるのか。あのときは八神が遠山を早退させようとしたとき俺に車を出させたんだっけ。

 八神は遠山と違い、弱っても気丈に振る舞っているのだが・・・まぁ、恋敵なんだしちょっとイラッとした。

 

 「お前がそうやって身の回りのこと全部りんに押しつけた結果だろうが、少しは反省しろ」

 

 「・・・・・・」

 

 「とりあえず粥でも食え。旅行の間ぐったりしてりんがお前に気を遣ってるの見るとうっとうしいからさっさと治せ」

 

 持ってきた盆を八神の布団のとなりに置く。それから、前に遠山の看病していたときのように粥を小皿によそおってそれを八神に差し出す。

 

 「・・・わかったよ。もう」

 

 不満げだが、起き上がって小皿を受け取る八神。今朝はあまり食欲が無かったから少なめにしておいたが、普通に食べている。食欲が沸かなくても、胃に何か入れておかないとそれこそこの三日間をつぶすことになる。

 それは遠山の三日間もつぶすことだということをわかってるのだろう。

 

 八神は驚くほど早く小皿の中の粥を食べきった。どうやらまだ足りないらしく、また小皿を受け取ってよそおってやる。

 

 「・・・佐藤って、料理上手いんだね」

 

 もう一度小皿を受け取った八神は、ボソリとそうつぶやいた。

 

 「別に、レシピ通り作ってるだけだ」

 

 「うっそだ。私が作っても全然上手くならないもん」

 

 「練習すりゃ誰でもできるようになる。絵もそんなもんだろ?」

 

 「そりゃそうだけどさ・・・」

 

 遠回しに、遠山の世話なしに自炊でもしてみろと言ってやるとすぐに弱気になった。まぁ、俺も一度コイツの家に行って遠山の飯を食ってんだよな。

 ったく、俺も俺でなにやってんだか。

 

 結局、八神は粥を全部食べ終えることはさすがにできなかったらしいが、電子レンジもあるので時間が経ったらまた食べればいい。

 風邪を引いた病人にしてはまだ元気な方だ。俺もコイツの頭を冷やしているタオルを新しいのに変えている最中に、また八神は言葉をこぼした。

 

 「アンタはさ、なんか私のこと嫌いみたいだけどさ」

 

 「?」

 

 耳を傾けると八神は独り言のように続けた。

 

 「私はアンタのこと嫌いじゃ無いよ。少なくとも、いつも真面目に頑張ってる人は皆好きだ」

 

 真面目・・・ねぇ、俺はそんなまっとうな理由で頑張っちゃいないのだが。

 

 「だから佐藤のことも結構好きだよ」

 

 「そりゃどうも」

 

 そういう言葉の意味が毎度毎度あやふやだよな。俺ら三人ってよ。

 英語ならLIKEとLOVEではっきり分かるってのに、難儀なもんだ。

 

 「りんの次にだけど」

 

 「・・・・・・まぁいいけどよ」

 

 俺はゆっくり立ち上がる。いくら看病って言っても四六時中いたらそれこそ八神が休まらないだろう。

 ・・・遠山なら話は別だろうが。ま、ついでにスポーツドリンクかなんか買っといてやるか。

 部屋を出るためにドアの前に立つとなんだか人の気配がした。

 

 ドアを開けるとそこには遠山が立っていた。

 

 「・・・何やってんだお前?」

 

 とりあえず寝ている八神を刺激しないために部屋を出てから遠山に話しかけると、返事をしてきた遠山はなんか機嫌がいい。つかお前、休んでろっていったのになんでこんなところでスタンバってるんだよ。

 

 「なんか二人とも良い雰囲気だから邪魔しちゃ悪いかなって」

 

 「なんだそりゃ?」

 

 前にも話しただろうが、俺は八神が好きとかそんなんじゃないんだよ。それはどうやら本人も分かっているようで、

 

 「いつも喧嘩ばっかりだけど、やっぱり私達って同期なんだなって思っただけ」

 

 と嬉しそうに微笑んでいる。

 

 「あ、そうだ佐藤君。この前誘ってくれたの。今夜でも大丈夫だよ」

 

 俺に気を遣ってか、遠山は前に話したことを振ってくれる。

 しかし、

 

 「いや明日にしよう。八神が心配だろ? 気を遣わなくて良いから」

 

 あえて俺は断った。

 これは、俺がヘタレたわけじゃない。れっきとした作戦だ。

 

 「え? そう? なら、そうするね」

 

 少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻ると彼女は俺と入れ違うように大部屋へ消えていった。

 それを確認してから俺は一息つく。

 

 「…ふぅ」

 

 そして、すぐにその場から立ち去った。スマホの画面を開くと、俺はある人物にメッセージを送った。

 

佐藤:八神の容態は良さそうだ。明日には体調は回復すると思う。

 

うみこ:了解です。

 

佐藤:遠山に誘われたが、指示通り断っておいた。

 

うみこ:良い判断です。

 

 うみこは続けてメッセージを送る。

 

うみこ;遠山さんの事です。風邪をひいた八神さんが心配で貴方に集中できない可能性があります。

 

 確かに、容易に想像できる。

 それでは意味が無い。

 少なくとも、俺にもっと魅力があればそんなことする必要ないのだが、無い物ねだりしても仕方が無い。

 

うみこ:決行は明日。1900に。八神さんは私が引きつけます。

 

 こういう時にも軍隊用語を忘れないのか。普通に午後7時とかでいいだろうに。

 まぁ、協力してくれるのだ。本人も乗り気な以上、水を差す必要も無いだろう。

 

うみこ:ご武運を。

 

 最後のメッセージに、珍しく心が燃える。

 ここまでハッキリと背中を押してくれる人間がいなかったからだ。

 花男さん、敦さん、葉月さん、飯島、涼風。

 今思うと碌な人間がいない。涼風は比較的まともなほうだったが。

 

 「さて……鬼が出るか蛇が出るか」

 

 明日、俺の史上最大の夜が始まろうとしていた。

 

 ●

 

 ひふみ視点

 

 「あの、ひふみ先輩、何か困ったことでもありますか?」

 

 「え?」

 

 今日一日、日が暮れそうになるまで青葉ちゃんとスキーをしていた私は、青葉ちゃんと温泉に浸かりながら寒いゲレンデで冷え切った体を温めていたときだった。

 青葉ちゃんは露天風呂の石畳の上に積もった雪で雪だるまを作って拷問?してたのをとなりでお酒を飲みながら見ていたところ青葉ちゃんがそんなことを切り出してきたのだ。

 

 「さっきの食事中も元気が無いように見えて、思い返してみると、空港の時から上の空だったりするのも何度かみかけましたし・・・」

 

 青葉ちゃんの言葉に反射的にドキッとしてしまう。なにより青葉ちゃんに心配をかけてたなんて思いもしなかった。

 私は葉月さんにこの前相談されたキャラリーダーのこと、そしてそれを相談した純君のことで、実は今日一日頭がいっぱいだったんだ。

 

 「もしかして、彼氏さんと昨日なにかありました? ま、まさか・・・今日私のスキーの練習に付き合ってくれたせいでケンカしたとか!?」

 

 「う・・・ううん。そんなんじゃ・・・ないよ。純君も、わかって・・・くれたから。・・・ただ――」

 

 ――ただ、昨日の純君のことが私はずっと気になっていたから。

 思えば昨日に始まったことじゃない。昨日見た純君の辛そうな顔を、私は見たことがある。

 たまに見せる怖い顔。

 あの純君の顔――自分には何の価値も無いって思っているような顔を見たとき私は純君が無理に隠そうとしている節が、それを私はただ励ますことしかできなかった。

 純君と付き合うようになってから、しばらくは純君があの顔をすることはなくなったから、大丈夫なんだと思ってたけど違った。

 でも、祝賀会以来、またその顔をするようになっていた。

 きっと純君は何か抱えてるんだ。それこそ私なんかよりもずっとつらいものを。

 それなのに昨日、キャラリーダーのことで、ただ自分に自信が無いだけの私にあんなことを言ってくれた。純君にはいつも助けてもらってばかりだ。

 

 私が彼にしてあげたことなんて何も無いんじゃないかと思ってしまうほど。

 その上、私はまだ純君の作った曲をネコババしちゃったことをまだ打ち明けられてない。

 

 純君は優しくて、勇気があって、思いやりがあって、自分より私なんかを気にかけてくれて、それに甘えてる自分が情けない。しかも、隠し事なんてするし・・・・・・。

 

 「ひふみ先輩っ。また上の空になってますよ!」

 

 「えっ!? ぁ、ご・・・ごめんね、青葉ちゃん」

 

 青葉ちゃんの言葉にハッとする。また青葉ちゃんに心配かけさせちゃった。

 うぅ・・・純君のこともそうだし、青葉ちゃんにまで、やっぱり自信なくしちゃうなぁ。

 

 「やっぱり、その、彼氏さん・・・純さんのことなんですよね?」

 

 訪ねてくる青葉ちゃんに対して、私は何も言わずにうなずくことしかできない。すると青葉ちゃんは言った。

 

 「その、私で良かったら話してください。なんていうかその――裸のつきあいですっ」

 

 突然の言葉に私は青葉ちゃんに聞き返してしまう。

 

 「えっと、それってどういう――」

 

 「すべてをさらけ出した裸のつきあいの最中なら、なんでも話せちゃうと思うんです!」

 

 「な、なんでも・・・」

 

 「はい、なんでもです!」

 

 「・・・・・・」

 

 なんだか、青葉ちゃんももうノリと勢いで話しているような気がする。その証拠に、勢いよくそう言ったけどすぐに自信のなさそうに眉毛を八の字に変えた。

 

 「すみません。こんなことしか考えつかなくて・・・・・・」

 

 でもその八の字もすぐに消えて、まっすぐな目で私を見てくれる。

 

 「でも、悩んでるひふみ先輩をみて、何もできないのは嫌だなって思っちゃったんです」

 

 「青葉ちゃん・・・」

 

 青葉ちゃんの目を見てると、思い切って、相談して見ようかなという気が少しずつだけど沸いてくる。

 もう私が悩んでることはバレちゃってるんだし、このまま黙ってても、青葉ちゃんに余計に心配させちゃうだけだもの。

 なにより、このまま言いたいことを言えない自分が純君に釣り合うわけがない。

 

 「ありがとう、青葉ちゃん」

 

 私は、青葉ちゃんにできる限りぜんぶ話すことにした。キャラリーダーこと、純君のことも。

 純君のことは全部話すのは恥ずかしかったけど、青葉ちゃんは最後まで聞いてくれた。

 自信がないことも、

 自分が皆の意見を聞いたり、自分の考えをちゃんと伝えたりできるか心配なこと、

 純君が悩んでることに私がなにもできていないこと、

 

 そしてなにより、私のせいで純君や皆にめいわくかけたくないから、何も言えなかったこと。

 

 それをつたなくても、自分の言葉にして青葉ちゃんに伝えた。

 

 「こんなこと相談されても、困るよね」

 

 全部話し終えたあと、黙って聞いてくれた青葉ちゃんに申し訳なくなってつい謝ってしまう。

 

 「ごめんね・・・」

 

 「あの、ひふみ先輩は、キャラリーダーのことや、純さんと恋人でいるのが嫌なわけじゃないんですよね?」

 

 「え、それは・・・・・・」

 

 改めて青葉ちゃんにそう尋ねられると一瞬迷うけど、違うってすぐに思えた。私は純君のことが好き。だけど、彼女として自信がないんだ。

 青葉ちゃんは私の気持ちを代弁してくれるように続けてくれる。

 

 「自信がないから迷ってるだけで、本当はやってみたいって、純さんのことだってもっと頼って欲しいって思ってるんじゃないですか?」

 

 ・・・そうかもしれない。私は純君にもっと頼って欲しい。それこそ、もっと甘えてほしい。頑張り屋の純君が少しでも自分に自信を持ってもらえるようになってほしい。

 だって私は知っている。彼が7年間、作ってきた曲の数々を。

 それが、何よりの証拠だ。

 音楽のことを全然知らない私にできることは少ないかも知れないけれど。

 彼を支えられるような私でありたい。

 

 「私、ソフィアちゃんを任されたとき、実はすっごく不安だったんです。八神さんの足を引っ張ったりしないかな、他の仕事もたくさんあるし大丈夫かなって」

 

 確かに、コウちゃんがいきなりキャラデザの仕事を渡したとき、青葉ちゃんすごく大変そうだったことを覚えてる。でも青葉ちゃんは楽しそうに続けた。

 

 「でも、やってみたらすごく楽しかったんです! 敦さんの受け売りなんですけどね、私はソフィアちゃんの命を作ったんだって。モノを作ることは、誰かの夢を作ると言うことだって。それってすごいことだと思いませんか?」

 

 青葉ちゃん、敦さんにそんなことを言われたんだ。でも、そんなことより、青葉ちゃんが必死になって私を励ましてくれてるってことが伝わってきてとても嬉しくなる。

 

 「うん、思うよ」

 

 「ですから――え、えっと・・・・・・あれ? 私何が言いたかったんだろ?」

 

 「私も・・・・・・前向きになってもいいってことだよね?」

 

 「そ、そうです! 私、ひふみ先輩がキャラリーダーをやってくれたら、すごく嬉しいですもん! それに、ひふみ先輩が好きな人とうまくやれていくなら、なおさらです!」

 

 「どう・・・・・・して?」

 

 青葉ちゃんは良い子だけど、そこまで言ってくれるのか、私なんかにここまでしてくれるのか聞かずにはいられなかった。

 

 「だって私、ひふみ先輩が作るモデル、大好きですから!」

 

 笑顔でそう、言ってくれた。そして――

 

 「それに、ひふみ先輩が純さんに見せた顔、今まで見たことなかったですもん。だからきっと、ひふみ先輩なら、純さんも信じてくれるはずです!」

 

 やっぱりすごいよ、青葉ちゃんは・・・・・・。すごく前向きで、力強くて・・・・・・、そんな風に言われると私もそうした方が良いんじゃないかって思えてきちゃう。

 私は青葉ちゃんに、改めてお礼を言った。

 

 「ありがとう、青葉ちゃん」

 

 すぐに答えを決めるなんて、私にはできないかもしれない。でも少しだけ考え方が変わった。

 そして、私が純君に何をするべきなのかも、分かった気がする。

 

 明日はもっと純君と話そう。せっかくの旅行なんだし、二人でどこか遊びに行こう。

 純君の辛いことは、一人で抱え込ませないように彼の話を聞いてあげよう。

 自分に価値がないなんて言わせない。

 そして、純君の支えになってあげられるように。

 私は音楽とか、サウンドとか、純君の仕事のこと全然分からないことがおおいけど、そんなモノがなくたって、純君と隣を歩いて行ける存在になりたい。

 だって、私は、純君の『彼女』なんだから。

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