NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
「はぁ……」
昼休み、僕は先輩と一緒にやってきた中華料理店のテーブルに置かれている料理を見ながらため息をつく。
「どうした? 増田、食わないのか? 食って体力つけるのも仕事のうちだぞ?」
向の席に座っている先輩、宮本敦さんはチャーハンをほおばりながら訪ねてくる。
この人は仕事は出来るし、人当たりもいいのに、なぜか出世していない、どこか可哀想な人だ。
僕はサウンドチームで働いているが、彼は複数のチームに掛け持ちして所属している。
「いや、ちょっと作曲に行き詰まってて」
「そうか、確か今回のサウンドは外注無しでお前一人だもんな。そりゃキツいだろうよ」
「すみません。また色々手伝ってもらうかも」
「気にすんな。こっちは1つ2つ仕事が増えてもそんな変わんねぇよ。それよりお前、まだピアノは弾けねえの?」
お冷やを口にした後に、先輩尋ねてきた。その問いに少しだけ肩が少し震えてしまう。
「……はい。すみません」
「謝るなよ。別にピアノが全てじゃないだろう。それよかさっさと喰お……ヘクチッ! あ゙~、誰か俺の話してるな。飯島あたりか? どうせだらしがないとか言ってるんだろ」
「エスパーですかあなたは……」
●
昼休みの終わりが近づいて来たので、僕はサウンドチームの持ち場に戻るためにオフィスまで戻ってきた。
先輩は午前中、キャラ班にいる。先輩がこっちに来るのは、多分三時くらいかな。それまでにはある程度は進めないといけない。
発売は半年後、そろそろ本格的に忙しくなるから気合いを入れないと。
社員証をかざしてオフィスの扉を開ける──しかし、その前にオフィスの扉は開いた。
「あ……」
内側から誰か開けたのだろうか。
開かれたドアから女性社員が出てきて、僕は少し焦る。
でも女性は僕とすぐにすれ違い、そのままオフィスを後にしていく。昼休みがもうすぐ終わりそうなのは気になるけど。
ていうかさっき、すごくいい匂いしたな。どんなシャンプー使ってるんだろ。
「ん?」
ふと足元を見ると、布切れのようなものが落ちていた。よく見るとただのハンカチだ。ディフォルメされたハリネズミのイラストがプリントされてる。
さっきの人のものだろうか? 手にとって見るが、少なくとも男性が持つようなものではない。
「あ、あのっ……!」
「!?」
女性は肩をビクッと震える。
茶髪というか、黒い朱色のようなポニーテールと、それを留めている真っ赤なリボンを揺らしながら振り返ってくる。
「えっと……な、なんですか?」
「あ、いや……その……」
朧気な彼女の青い瞳と目が合い、思わず目を逸らして言葉を無くした。自分が何を言おうとしてたのか忘れてしまうほどに。
ダメだ。元々女の子と話した機会なんて子供の頃から無かったから、どうしても女性の目を見ると緊張する。。先輩なら割とすんなりやってのけるんだろうけど、僕には無理だ。
「あ……それ、私のハンカチ……」
僕はハッとした。そうだ。これを落としたから声をかけたのだ。それすら忘れてしまった自分が情けない。
「その……これ! 落としましたよ」
「あ……」
「それじゃ、僕はこれで……!」
「あっ……! ま──」
彼女にハンカチを渡して、僕は早足でオフィスに駆けていった。
ダメだ。絶対変な人だと思われた。
オフィスに戻ると、僕は自分のデスクに頭を抱える。事情があって僕は学生時代からずっと異性と関わったことがない。だから女性が多い子のこの会社では結構肩身が狭く、仕事初めてもう何年も経つのにまともな知り合いは片手で数えるほどしかいない。
「はぁ……」
ため息をつきながら、さっきの人のことを思い出す。
彼女はうちの会社でも少し有名だ。
滝本ひふみ。
物静かで喋らないけど、とても美人だからだ。
でも、物静かすぎて少し浮いている印象がある。
僕の場合、たまたま仕事でお世話になった先輩がよくしてくれたおかげで少しは周囲と打ち解けることができたけど、やっぱり女性だけはダメだった。
ああ、ダメだダメだ! いつまでもブルーになってたって仕方ない。
さっさとノルマを終わらせよう。
●
「先輩、お先に失礼します」
「おー、おつかれー」
今日の分を終えて、仕事をしてる先輩を後目に帰宅の準備をする。
時計は9時の針を刺していた。
今日は先輩が途中から来てくれたからそれなりに進んだ。この調子なら余程のことがないかぎり、マスターアップは問題ないだろう。
まあ、その余程のことが起き得る可能性が高いのがこの仕事ではあるのだけど。
僕の仕事はサウンドチームで行っている、『フェアリーズストーリー3』のBGMの作曲や効果音の作成が中心だ。先輩はこれから別の作品のモデリングと、昼頃に終えた『フェアリーズストーリー3』のモデリングの修正をやるはず。
ほんとすごいよあの人は。
駅の改札口をくぐり、帰宅の電車に乗り込んで一息つく。9時の電車だからか、思ったより人が少ない。
胸ポケットの中にあるスマホを取り出して、今流行りの匿名SNSのアプリを開く。
──今日はあの子はいるかな。
MASUDA 『こんばんは。ひふみん☆さん、いますか?』
と、そのアカウントにメッセージを打ち込むと、すぐに返ってきた。
ひふみん☆ 『はーい(^O^)/ さっき仕事がおわったところだよ』
MASUDA 『そうなんですか。こっちもさっき終わったばっかりで』
ひふみん☆ 『そうなんだ。お疲れ様ー(●´∀`●)』
この人は、このSNSで知り合って、なんでもゲーム関係の仕事をしてるというので仲良くなった。お互いどこの会社で何を作ってるかは守秘義務があるので知らないし教えてないけど、この人の飼ってるハリネズミの写真の投稿も可愛らしくていい。名前は宗次郎だったっけ?
たしか、昼休みの終わり頃のあの人も、ハリネズミのハンカチ持ってたな。
ひふみん☆ 『そういえばね、今日、うちの会社に新しい子が入ってきたの。最初は不安だったけど仲良くなれてよかった(っ´ω`c)』
MASUDA 『たしか、うちの会社にも一人来たんですよね。部署が違うので会ったことはないんですけど』
ひふみん☆ 『えへへ(●´∀`●) なんだか今日は同じことが起きるね』
MASUDA 『確かに』
ひふみん☆ 『あとね、今日同じ会社の人にハンカチ拾ってもらったんだでも、その人、慌ててどこかに行っちゃって……ちゃんとお礼したかったのに(´・_・`)』
なるほど。僕と同じ思いをした人は僕だけじゃなかったのか。世界は広いなぁ。
MASUDA 『きっと、緊張してたんじゃないですか? 僕もリアルで異性と話すのは苦手ですし』
ひふみん☆ 『そうかなぁ(。>A<。) 嫌われてないといいけど……』
MASUDA 『それで、話は変わるんですけど。ひふみん☆さん、この前話してたライブのこと、覚えてますか?』
それは、先日彼女?が話題に上げてくれたアーティストの話。アニソンを中心にメディア展開をしているその人はとても人気があってチケットの抽選倍率もとても高いのだ。
ひふみん☆ 『うん。初日と二日目のチケットが当たったよ( ´∀`)b』
MASUDA 『あ! 奇遇ですね。僕も両方当たったんです』
それにしても、今日はよくひふみん☆さんとダブるな。
「……」
ひふみん☆って女性なのかな? ネカマの可能性も否めないけど。
でも、人や異性と話すのが苦手だって言ってたな。もしかしたら、何か相談したり協力しあったり出来るかもしれない。
交友関係が会社の一部の人だけというのも精神衛生上よくない。ここは勇気を出して誘ってみよう。
MASUDA 『あの、ひふみん☆さん。もしよかったら、そのライブ、リアルで会ってみませんか?』
「……」
あれ? 返信が来ない。いつもなら五秒以内には返信が来るのに。
やっぱりダメだったか?ブロックされたらどうしよう。
だけど、その心配は杞憂だった。返信は三十秒もしたら来た。
ひふみん☆ 『うーん(-_- ) わかった。せっかく同じ日に同じ場所にいるのに勿体ないもんね。リアルだと人と話すのが苦手だから新人の子にもちゃんと話せるように練習したいから』
MASUDA 『そうなんですか。僕も人と話すのが苦手なんですよね。お互い頑張りましょう』
ひふみん☆ 『うん(≧∇≦)b』
MASUDA 『あ、そろそろ降りなきゃ、それじゃあまた明日、お休みなさい』
ひふみん☆ 『お休み(^_^)/~』
僕はSNSをログアウトしてスマホを胸ポケットにしまう。
イベントは4月の下旬だ。その前に、色々準備しておこう。
僕は電車を降りて一人暮らしの自宅へと歩いていった。
三人目の主人公
名前 増田純
誕生日 1月12日
星座 水瓶座
血液型 A型
年齢 25歳
最終学歴 専門学校卒業
身長 168㎝
体重 53キロ
好きなもの 酒(特に洋酒)、甲殻類
苦手なもの(苦手なもの) 女性、ピアノ
特技 作曲、絶対音感
役職 サウンドクリエーター
出身地 北海道