NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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月明かりに照らされて

 青葉視点

 

 3泊4日の社員旅行もいよいよ最後の夜になってきました。

 佐藤さんと出かけていたりんさんは帰ってきてからずっと上の空だったし、彼氏さんと観光に行ったひふみ先輩は何故かまだ帰って来てない。

 

 その状況に葉月さんは、

 

 『(`0言0́*)<ヴェアアアアアアアア!!』

 

 と、眼鏡を割りながら憤死してた。まるでどこかのモンスターの泣き声のような、はたまたモフモフや妹が大好きなお姉ちゃんの悲鳴のような声をあげながら。

 

 大部屋でひふみ先輩が持っていたモノを思い出すと、頭が空っぽになった。

 ひふみ先輩・・・大胆すぎです!!

 あ、あんな下着で観光に行っていたなんて!!

 一体彼氏さんと何をしているんですか!?

 

 先に帰ってきたりんさんはずっとぼんやりと大部屋で窓からの風景を眺めていた。

 佐藤さんも、何かしたの!?

 何をやらかしたの!?

 もしかして、私また何か八つ当たりされるの!?

 

 そんな感じで、三日目の夜を迎えた私達は旅館に戻って最後の食事や温泉を楽しんでから就寝していたところでしたが、

 

 「・・・・・・んんっ」

 

 私は目が覚めてしまいました。

 初日の時に見た、スキーでリフトに降りられない夢を見たときとは違って急に目が覚めたというか、眠くなかったというのかわからないけれど、なんだか目が冴えていた。

 辺りを見回せば、八神さんも眠っている。どうやら私だけ起きてしまったようだ。

 

 「・・・・・・」

 

 なんだろう。眠れる気がしないな。せっかくだし、ちょっとお手洗いついでに最後の散歩でもしようかな。

 皆を起こさないように布団から抜け出した私は、ちょっと冷えるので羽織り物を身につけてから部屋を後にした。

 夜の旅館というのは電気が消えているので暗くて、まるで幽霊が出てきそうな気分にもなる。こういうのって、ホラーゲームみたいな感じがしてちょっと怖いな。

 こう・・・夜のつぶれた旅館に入った主人公達がそこに住まう怪物に襲われる~とか、でも考えてるとちょっと楽しいかも。

 イーグルジャンプに入社して、ちょっと職業病?みたいに考えてしまう自分がいて嬉しく思えてしまう。

 

 なんだか深夜の散歩も楽しくなってきた私はついスキップしながら薄暗い廊下を歩いていると、やがて月明かりが照らす広いスペースに出た。

 ここはロビーだ。朝や昼間には何度も行き来したところではあるけれど時間が変るだけで違う印象を受ける。月明かりに照らされたロビーはどこか幻想的だった。

 そして、その風景の中に一人、人影を見つけた。

 

 敦さんだった。

 

 月明かりで照らされたロビーの椅子に腰掛けている彼の手には見慣れているタバコ。蜂蜜のような甘い香りがほのかに香る煙は、ロビーの空間へ溶けていく。

 月明かりに照らされて、不思議とそれは幻想的な雰囲気になっている。

 やがて、敦さんは私がいるということに気がついてこっちを向いた。

 

 「こ、こんばんわ・・・敦さん」

 

 敦さんと目が合って、ドキッとしてしまう。葉月さんから、綠さんの話を聞いてから今に至るまであまり口をきいていなかったのだ。

 なんとなく、打ち上げ中の敦さんはどこか怖い雰囲気があったし、近づきずらかったのだ。それでもいつかは向き合わなくちゃと思っいたけど、今このタイミングでばったり会ってしまうなんて。

 

 「・・・なんだ、涼風か」

 

 敦さんは灰皿でタバコの火をすり潰すと一息ついて月を眺めている。

 

 「座れよ。どうせ目が冴えてここまで来たクチだろ?」

 

 「・・・はい」

 

 私は敦さんの向かいの席に腰を下ろす。敦さんは、私に気を遣ってくれているのか、次のタバコに火をつけずにただ窓から照らされている月を見上げている。

 

 「葉月から、色々聞いたみたいだな」

 

 「・・・・・・」

 

 敦さんにしては珍しい穏やかな口調だけど、どこか言われようのない雰囲気を感じた私は、沈黙で肯定する。

 

 「ま、別に隠すつもりはなかったんだよ。お前が八神に憧れてるってのは聞いてたから、それが元々は違う誰かのモノだったなんて言うのは知らない方がいいって勝手に思ってただけだしな」

 

 「・・・綠さんは、結局どうなったんですか?」

 

 「なんだ? 葉月もそこまでは話さなかったのか。無理もないか」

 

 寂しそうにつぶやく敦さん。

 なんだか怖くなる。まるで、もう綠さんはこの世にいないような言い方だからだ。

 いや、おそらくは本当に――

 

 「お前が考えてることは合ってるよ」

 

 「っ!?」

 

 考えていることを先に当てられた私は息をのむ。それでも敦さんは変らず、不気味な穏やかさで続けた。

 

 「さすがに社長がどんな奴かは聞いてるだろうが、心配するな。今のヤツは無害だ。お前らに何かしようだなんて思ってすらいないよ」

 

 「・・・」

 

 「だから、お前があのクソ野郎におびえる心配なんざない。少なくとも、俺がいる間は」

 

 敦さんのその言い方は、まるで私達を庇護している。

 と上から目線にそう言われているように感じた。でも実際は事実だ。私達は思い返せば、この人にずっと助けられている。

 やっとわかった。この人の仕事が。

 皆が乗り越えられない困難の先に排除しながら、皆が成長しきれるように立ち回る。

 

 それが敦さんの仕事なんだ。

 

 「だから安心しろ。お前らの夢は、何があっても穢させない。五年前からそう決めたんだ」

 

 「それって・・・・・・」

 

 間違いない。『フェアリーズストーリー2』のときだ。八神さんがはじめてADになった時のこと。そして失敗して、私と同じくらいの新人を辞めさせてしまったこと。

 

 ・・・まさか、八神さんの失敗は、誰かに仕組まれていたことだったの?

 

 知りもしなかった真実が脳を揺らす。そのせいで、言葉を失った私は敦さんになんて言えば良いか分からなくなる。

 

 「さて、おしゃべりはこんくらいにして寝ようぜ。明日から帰ればすぐに仕事なんだからよ」

 

 呆然としている私を見て、不気味な雰囲気が抜けた敦さんはゆっくりと立ち上がると月明かりが届かない暗闇に消えていった。

 

 「・・・・・・」

 

 あぁ、結局、私は頑張るとか言いながら何もできてなかったんだな。それどころか、あんな風に一方的に守られていたんだ。

 自分の無力さを実感する。今までよりも強く。自分の実力が足りてない云々じゃなく、単にこの人には私の助けはいらないと言われたことが一番重くのしかかる。

 

 ――だけど、

 

 「・・・・・・負けるもんか」

 

 私は立ち上がる。

 

 あのとき、敦さんの言ってくれた言葉を私は忘れない。

 ソフィアちゃんを作ったときに褒めてくれたこと。そして、あのときに言ってくれた言葉を私は忘れていない。

 

 ――モノを作るということは、誰かの夢を作るということだ。

 

 もしも、もしもそれが本当なら、私は敦さんの夢を作ることができるだろうか。いいや、作ってみせる。だって私の夢を、漠然とした夢なんかじゃなく目標に変えてくれた。

 駆け上がるべき階段を上ろうと背中を押してくれたのはこの人なんだから

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