NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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今回は珍しい人の視点から


夜を越えて 前編

 花男視点

 

 「さ・と・う・く~ん、おはよ~♥」

 

 今日は待ちに待った日。

 私が見込んだあの子達が、北海道から帰ってくる日。

 きっと何かあったに違いない。

 さぁ、私が優しく受け止めてあげるから、その胸の内を明かして頂戴!

 

 「っ――!!」

 

 出社してきてから開口一番、私は佐藤君に殴られた。

 ハリセンで。その速さは、今までとの一線を画すほどのキレがあった。

 

 「な、なんでいきなり殴るの!? 差別? 差別なのね!? オカマ差別なのねぇ!!」

 

 「いえ、なんか、なんでも知ってるわ的なオーラにイラッときて」

 

 「ヒドいわ! 社員旅行を楽しんでる佐藤君達に代わって、頑張って働いていたのに!」

 

 「…すみません」

 

 「……」

 

 北海道から帰ってきて、何かあった予感がしたんだけど、殴ってくるなんて、私の思い過ごしなのかしら。

 チッ、相変わらずのヘタレね。

 うみこちゃんにも協力してもらったのに、なんて情けない。

 これから忙しくなるから、りんちゃんと会える機会が少なくなるって事、本当に分かっているのかしら。

 

 「あっ…」

 

 後ろから、声が聞こえた。

 振り返ると、ちょうど佐藤君の思い人であるりんちゃんが背景班のブースに入ってきたところだった。

 

 「さ、ささ、佐藤君、お、おはよう」

 

 「…おう」

 

 でもなんか様子が変だ。

 いつものりんちゃんじゃない。明らかに落ち着きが無い。

 というか、佐藤君を見た途端に急にもじもじし始めた。

 佐藤君を見てこんな反応をした彼女は今まで見たことが無い。

 

 「……」

 

 「……」

 

 私は二人を何度も見返す。

 これは…まさか…っ!

 

 「佐藤君! 何かあったの!? 何かしたの!? ねぇねぇ!!」

 

 「っ…」

 

 私が迫ると、また佐藤君はハリセンを構えた。放たれたれ一意撃は先ほどよりも速くて重い一撃だった。

 伸びている私を完全に無視して、佐藤君とりんちゃんは話を進めているところだった。

 

 「佐藤君…あの、あの…昨日は、ありがとう」

 

 「……」

 

 「え、えっと、奢ってもらったことのほうね」

 

 「おう」

 

 ああ、そういう事。

 二人で誘うところまではいったのね。

 さすが佐藤君、ここで割り勘なんて言い出したらどうしようかと思ったけど、そこは男気を見せたようね。

 でも、この言い方。妙ね。

 

 「それで…あの、奢ってもらったことじゃない方なんだけど」

 

 やっぱり、佐藤君。

 攻めたわね。何をしたかは大体想像つく。

 でも、これは私が言った通り、ちゃんと異性として認識させるところまで行ったという証拠に他ならない。

 佐藤君、やっとヘタレを卒業できたのね。

 

 「あ、あれは、どういう意味なの?」

 

 「自分で考えてくれ」

 

 …やっぱりまだヘタレなのね。

 ほら見なさい。りんちゃんも引いているじゃないの。

 

 「さ、佐藤君、私頑張って聞いたのに……」

 

 「俺はこの間で、頑張りが許容範囲を超えた……」

 

 そう言って、佐藤君はりんちゃんの顔を見ないようにしながら横を向いた。

 まぁ、仕方ないわよね。

 ここまで来るのにどれだけ時間がかかったと思っているのよ。でも、これは大きな進歩だ。

 小さいかも知れないけれど、確実にりんちゃん攻略に前進しているわ。

 現段階でも目標は果たしている。よかったわ。

 さて、次はもう一人の方ね。

 私が一番期待している子。

 彼がそろそろ出社してくる時間!

 オフィスの扉が開く音がした。

 私の直感が言っている。間違いなく純君だ。

 

 「!?」

 

 「あ、花男さん、おはようございます」

 

 「…おはよう、ござい…ます」

 

 私は、目の前の光景に息を飲んだ。

 オフィスに現れたのは純君とひふみちゃん。

 しかも、手を繋いでいる。

 

 「お、おはよう、純君。良い雰囲気じゃない」

 

 「え? あっ! これは、そのっ、ちょっとそこでばったり会って、その」

 

 「っ……」

 

 何か弁明しようとしているけれど全然その体をなしていない。

 現にその間もずっと手を握りっぱなしだ。完全にカップルのそれである。

 

 「ふーん、そうなの。へぇ~」

 

 「花男さん! 違うんです。これはその、成り行きと言いましょうかなんといいましょうか」

 

 私の直感が言っている。

 

 間違いない。

 彼はついにやった。やり遂げたのだ。ようやく彼は大きな壁を乗り越えたのだ。

 私は思わず感極まって泣きそうになった。

 

 「うん、大丈夫。分かってるから」

 

 「え、何がですか? 」

 

 「ううん、なんでもないの。それより、もう仕事始まるから、席に着いて頂戴」

 

 「……はい」

 

 「……」

 

 「……」

 

 仕事の話をすると、二人は名残惜しそうにお互いの顔を見合わせる。きっと離れたくないのだろう。

無言で見つめ合う二人。

 もうこの空間だけでも胸焼けしそうだ。

 なんていうか、アイスクリームに黒蜜をかけてマシュマロをトッピングしたお汁粉に、さらに和三盆糖を振りかけたような甘さ加減になっているような気がする。

 糖度が高い!

 

「…じゃあ、僕は行きますね。ひふ……滝本さん」

 

 「うん、また…ね」

 

 「はい」

 

 「……」

 

 「……」

 

 そして、最後にもう一度だけ手を繋ぐと、二人の姿は消えていった。

 ああ、本当に良かったわ。

 これで、今回の社員旅行はひとまず成功と言っていいでしょうね。

 今度から、毎日この調子なら少し心配だけど、今日一日くらいは目を瞑りましょう。

 

 ●

 

 

 りん視点

 

 「はぁ、自分で考えろって言われちゃった。分からないから勇気を出して聞いたのに」

 

 先日の社員旅行を思い出す。佐藤君と二人で飲みに行った時の帰りのことだ。

 私は佐藤君に抱きしめられた。

 あれが、どういう意味だったのか、私にはわからない。

 その後、佐藤君はタクシーを呼んでくれて私は一人で帰ったんだけど、その間、全然考えがまとまらない。

 

 「……」

 

 記憶の中にあるあの時の光景がまた浮かぶ。

 …佐藤君のギュッとする力、強かったな。

 タバコの臭いもしたし、やっぱりコウちゃんとは全然違う。

 男の人だもんね。

 それにしても、どうして私をあんな風に抱き寄せたんだろうか。

 いくら考えても答えは出てこない。

 結局、そのまま夜は更けていき、今日も寝不足のまま朝を迎えた。

 

 「おはようございます。おや、遠山さん?顔色悪いですけど、どうかしました?」

 

 「あ、うみこさん」

 

 悶々とした気持ちでオフィスの中を歩いていると、褐色の肌をした彼女とバッタリ会う。

 

 「…社員旅行の時から様子が変ですが、何かありましたか?」

 

 「っ!?」

 

 私は驚いて一歩後ずさってしまった。

 

 「やはりそうですか」

 

 「ど、どうしたんですか急に」

 

 「いえ、佐藤さんと何かあったのかなと思いまして」

 

 「っ!」

 

 的確に当てられて言葉に詰まる。そんな分かりやすい反応をしていたのだろうか私は。

 でも、うみこさんが知っていてもおかしくない。佐藤君と出かけていたという話は、他の子達も聞いていたはずだ。

 …誰に相談した方が良いのかな?

 こんなこと、コウちゃんには話せないし。

 

 「あ、あの実はですね……」

 

 それから私はうみこさんに悩みを打ち明けることにした。

 先日、佐藤君と二人で飲みに行ったこと。

 その帰りに、ギュッとされてしまったこと。

 それがずっと頭から離れないことなどだ。

 

 「なるほどそういうことですか」

 

 一通り聞き終わると彼女は納得したように小さく呟いた。

 

 「すみません。ご迷惑をおかけして」

 

 相談する相手を間違えてしまったかもしれないと思ったけれど、うみこさんの表情はいつもより柔らかいように見えた。

 

 「別に構いませんよ。しかし、遠山さんは面白いことを考えますね」

 

 「え? 」

 

 「普通はそこで勘違いしますよね。男女の関係に」

 

 「そ、そうですけど、私と佐藤君は友達で……っ」

 

 何でだろう。

 自分で口にしたはずの言葉なのに、それを耳にしたくなかった。

 そういう言葉で、当てはめたくなかった。

 佐藤君とは友達なのに。

 彼には、他に好きな人がいるはずなのに。

 

 「……」

 

 私が黙っていると、うみこさんはまっすぐな目で言った。

 

 「……私は、遠山さんがいま思っている気持ちを、ちゃんと本人に伝えるべきだと思います」

 

 それは、私の心の奥底にあるモヤモヤとした感情を言い当てたような言葉だった。

 まるで、今の自分の心境を見透かすような一言に、思わずドキッとする。

 

 「多分、それが一番大切なことです。貴女のためにも、佐藤さんのためにも」

 

 「わ、わかりました」

 

 「はい。では、頑張ってくださいね」

 

 それだけ言うと、彼女は立ち去って行った。

 

 「……頑張るって何をすれば良いんだろう」

 

 一人取り残されてポツリと呟く。

 わからない。

 わからないけど、とりあえず言われた通りにやってみよう。

 私の気持ち、今思った感情をちゃんと彼に伝えよう。

 だから、まずは行動あるのみ。

 

 「よし、まずは佐藤君と話そう」

 

 私は仕事モードへと意識を切り替えると、彼の席へと向かった。

 

 ●

 

 うみこ視点

 

 さて、遠山さんと佐藤さんの様子を見てみますか。

 先日の社員旅行、どうやら佐藤さんはかなり攻めたようだ。

 彼がヘタレさは承知していたのですが、抱きしめるまでいったのは可愛らしいというべきか、頑張ったと言うべきか。

 いずれにしても、後は遠山さんの反応のみ。

 ここは変に入れ知恵はせずに、ただストレートに今の気持ちを伝えるべきだとアドバイスしたのだけど。

 うまく行くでしょうか?

 と、背景班の様子を覗ける場所にたどり着き、佐藤さんを射程に捉える。

 彼は黙々とヘルプの作業をこなしていた。相変わらず真面目な人ですね。

 さぁ、これからが見物ですよ。

 私は静かに二人の動向を観察し始めた。

 すると、程なくして遠山さんが佐藤さんの元にやってきた。……ふむ、早速何かアクションを起こしましたか。

 彼女がどのような行動をするのか少し興味があったので、そのまま見守ることにする。

 

 「あの、佐藤君」

 

 「?」

 

 「こ、この前のことなんだけど、私、今の気持ち正直に言うね」

 

 「…おう」

 

 「……私、佐藤君と友達でいたくないかも!」

 

 いや言い方っ!!

 もっとオブラートに包んで言ってくださいよ!

 いつもの人当たりの良い貴女はどこに行ったんですか!?

 

 「っ……」

 

 あぁ、佐藤さんも顔色が悪くなってる。そりゃそうだ。いきなりそんなことを言われれば誰だってショックでしょう。

 

 「その、私も気持ちの整理がついていないし、佐藤君にも好きな人がいるのに迷惑かも知れないけれど、なんだか佐藤君と友達だと思うと、心がもやもやするっていうか、なんというか……」

 

 「……」

 

 「…佐藤君、話聞いてる?」

 

 「…絶交?」

 

 「佐藤君!?」

 

 ああもう滅茶苦茶じゃないですか。

 何故そこで『絶交』なんて言葉が出てくるんですかね。

 遠山さんも遠山さんで、それじゃあまるで私たちの関係が恋愛関係みたいに聞こえてしまうではないですか。

 ほら見て下さい。佐藤さんも固まってしまっている。

 

 「そ、そうじゃなくてね、逆って言うか、ぎゅっとされたのは嫌だったわけじゃなくて、うまく言葉も答えも出てこないんだけど、友達よりもその……」

 

 「…りん」

 

 佐藤さんが遠山さんの事を名前で呼ぶ。

 これから何か言うつもりなのだろう。

 頑張ってください!

 遠山さんの言い分なら勝算は充分にあります。

 貴方の思いをぶつけるのです!

 

 「佐藤君……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 二人の間に、静寂が訪れる。

 そして、佐藤さんが口を開いた。

 私は固唾を飲んで、その様子を見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………俺は胃が限界なので帰る」

 

 「佐藤くーん!」

 

 それだけ告げると、彼は逃げるように帰って行ってしまった。

 あぁ、これは先が思いやられますね。

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