NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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でも幸せならOKです

 葉月視点

 

 あぁ、しんどい。

 私はふらふらと倒れそうになりながら出社してきた。

 開発が始まる前からこんなにしんどいことはフェアリーズストーリーの時以来だ。

 私の心中にあるのは、彼女。私がこのチームで一番可愛いと思っている女の子。そう、ひふみ君のことについてだ。

 彼女も、ついに私と同じ領域に足を踏み入れてしまったのだと思うと心が痛い。

 いや、その彼氏である増田君の評判は、はなちゃんから聞いている。

 きっと彼女を幸せにしてくれる人間だということは理解できる。

 ただ、なんだこの辛さは。

 なんというか横になりたい。

 今まで気に入っていたのアイドルや声優の結婚報道もそうだったが、そんなのとは非にならないほど堪える。

 でも幸せならOKです。

 なんて言葉、私には言えないよ。

 あぁ、あの純粋で無垢で、綺麗なひふみくんはもう彼の中にある虎に食べられてしまったのかと思うと悔しくてたまらない。

 そりゃ、恋する女の子の顔は一番可愛いに決まっている。

 現にひふみ君が彼に見せる顔は今までで一番輝いていた。

 クソー!

 絶対次の面談の時に洗いざらい吐かせてやるー!!

 

 「なぁりん」

 

 「?」

 

 と、無理矢理自分の心を燃やしてオフィスと歩いていると、話し声が聞こえた。

 それも、低い声。敦君とは違うこの声は佐藤君のものだ。

 相手は遠山君だろう。

 先日の旅行で何かあったし、一体何を話しているのやら。

 私はそっと聞き耳を立てる。

 やましいことはない。チームの人間関係を把握しておくのもディレクターである私の仕事だ。うん。

決して興味本位ではないのだ。……嘘だけどね。

 さて、何を話しているのかな?

 

 「お前、誕生日いつだ?」

 

 「……明日」

 

 「っ……っ……」

 

 遠山君の言葉に、力の無い咳で応える佐藤君。

 

 「どうかしたの?」

 

 「……いや」

 

 タ、タイミング悪!!

 

 この前佐藤君をクイズで煽ったはいいけれど、おい大丈夫なのかい佐藤君、明日だぞ!

 急に用意できるのか!?

 聞いたからにはなにかプレゼントしないと遠山君が可哀想だろ!

 というか、もっと早く聞けよ!!

 

 そのまま、仕事に戻った二人だが、遠山君は次の開発にむけたキャラコンペの準備があるようなので席を立った。

 背景班のブースにいるのは佐藤君一人だけ。

 もう見ていられない。

 私は声をかけた。

 

 「おい、佐藤君」

 

 「なんだ、葉月さんっすか」

 

 「明日、遠山君の誕生日だぞ」

 

 「さっき聞きましたよ」

 

 ふてぶてしく答える彼にいらつきを覚える。

 遠山君以外ではこういう態度を取れるんだから、本当に腹が立つ。

 しかし、今はそれを気にしている場合では無い。

 彼女のことが最優先だ。

 

 「今日は半休にするよう八神に話は通しておくよ。だから買いに行くんだ。プレゼント」

 

 「なんのつもりですか?」

 

 「いいから」

 

 「そんな気遣いはいりません」

 

 「なんでだい!」

 

 「買いに行きませんし」

 

 スルーする気かコイツ!

 私がいくら言っても聞く様子のない佐藤君。

 そして、その態度にだんだんイラついてきた私。

 なんだこいつ、いつもなら嫌味の一つでも言うくせに、なんで今回はこうまで頑ななんだよ!

 普段だったらここまで言わないけど、今はそういうことを言っている暇はないのだ。

 彼も意地になっているのか、私が何を言っても聞かなかった。

 

 「なんなんだい、彼は」

 

 諦めて一人デスクに戻ってきた私は愚痴のようにこぼした。すると、後ろから肩をポンっと叩かれた。

 

 「あら、しずくちゃん。どうしたの? せっかくの美人が台無しよ」

 

 「あぁ、はなちゃんかい。聞いてくれよ。佐藤君なんだがね」

 

 私は今朝の事をはなちゃんに話す。

 鼎立問題に関しては今は休戦だ。

 このままでは遠山君が悲しむに決まっている。

 なんとかならないものか。

 

 「彼、想像以上のヘタレだよ。ガッカリしたよ」

 

 「なるほどね。でも心配はいらないわ」

 

 「なんでそう言い切れるんだい?」

 

 「しずくちゃん。佐藤君のヘタレは、その想像を超えてるから」

 

 はなちゃんが自信ありげに言った。

 

 「どういうことだい?」

 

 「それは、明日のお楽しみに♥」

 

 ●

 

 次の日。

 遠山君の誕生日当日、私は出社した私は身を隠して背景班のブースの中をうかがう。

 そこにはもうすでに出社していた遠山君に、佐藤君が話しかけてようとしているところだった。

 手には、箱がある。

 まさか、それは!?

 

 「なあ、りん。これ、誕生日プレゼント」

 

 「あ、ありがとう。昨日の今日でごめんね」

 

 なぜだ?

 昨日は仕事していたし、プレゼントを買いに行く余裕なんてなかったはずだ。

 でもまぁ、ちゃんと用意していたのは評価しよう。

 あの態度も、買いに行かないのでは無く、買いに行く必要がないという意味だったのだな。

 

 「気にするな。あと、これも」

 「…2つもくれるの?」

 「いや、これも」

 そういうと、なんと3つ目のプレゼントまで渡しだした。いったいどこから出した?

 遠山君は少し驚きながらも嬉しそうだ。

 顔は見えないけど、きっと喜んでいることだろう。

 だがしかし、なぜだ?

 遠山君が喜ぶことは嬉しいのだが、ちょっと引っかかることがある。……なぜ、複数も渡すんだ?

 

 

 「これも」

 

 「え?」

 

 「これも」

 

 「えっと…?」

 

 「これも」

 

 「あ、あぁ…?」

 

 「これも」

 

 「……」

 

 明らかに遠山君が動揺している声が聞こえる。これは、やはりおかしい。

 何個買ってきたんだ?

 私は身を乗り出す。

 そこで見ると、本当に遠山君の席にはプレゼントが7つも置かれてあった。

 

 「どういうことだい?」

 

 「おかわりいただけたかしら?」

 

 横にいたはなちゃんに声をかけられる。

 

 彼は得意げだ。絶対にこうなるという確信があったような風貌だ。

 

 「はなちゃん、これは一体」

 

 「佐藤君はね、入社してから7年間、りんちゃんに片思いしてたの。そして、今年初めて、誕生日を聞いたの」

 

 「片思い7年…プレゼント7個……」

 

 7年の恋心を1年に凝縮させる男・佐藤弘樹。確かにそれなら納得いくかもしれない。

 しかも、今までずっと何もしなかったことを考えると、すごいとヘタレだと言える。

 しかし、問題はそこじゃない。

 

 「ってことは、つまり、7年間プレゼントは用意していたけど、渡せてなかったってことなのかい!?」

 

 「せいかーい♥」

 

 「……なんというヘタレだ」

 

 呆れて物も言えないよ。

 そんなんだから今まで八神に先を越されていったんだろうが!

 

 「でもそうか、7年間か、ちょっと応援したくなる気も出てきたね」

 

 「そうでしょう?」

 

 「でも同時に焦れったくてイライラしてきたよ……!」

 

 「そうでしょう……!」

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