NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
ゆん視点
「え? じゃあ、全部ダメ?」
「もったいないけれど、自由に書いてもらってる分、もっと遊んでほしいんだ」
キャラコンペ当日。
序盤から波乱の展開だった。
というもの絶対選ばれると思っていた八神さんがまさかのリテイクをもらってしまったからや。
理由はフェアリーズストーリーと世界が同じ。もっと世界を広げて欲しい。
とのことだった。
奇しくも、昨日敦さんが話していたことと一致する。
ユーザーが求めるモノ。
世界観のこと。
敦さんの言葉が頭に浮かぶ。
まるでこうなることを予期していたかのようだ。
それだけ八神さんに期待しているという裏返しなのだろう。
だけどある意味チャンスなのかも知れない。
もしかしたら、私の案が通ることだってあり得るんじゃ?
「じゃあ次、涼風君」
どうやら次は青葉ちゃん。
私が帰った後も描いていたんだろう。
でも青葉ちゃんも緊張しているみたい。
当然だ。だってチームの皆が見ている前でプレゼンしないといけない。
でも、その目には迷いが無い。きっと何か掴んだのかな?
「うん。結構面白いね」
「そ、そうですかっ」
葉月さんの反応はよさげだ。
表情も明るい。ウソやお世辞を言っているわけじゃないのはわかる。
これはもしかして……っ。
「でもインパクトが弱いね。もう少し意外性が欲しいな」
「うぅ…わかりました」
あぁ、それも敦さんに昨日言われていたことや。
結局、うまくいかんかったんや。
でもしょうがないよ。
一日でどうにかできるもんでもないし……。
「ん?」
葉月さんが青葉ちゃんが提出した紙を整理しようと持ち上げたとき、一枚の紙が落ちた。
彼女がそれを手に取ると、目の色が変わった。
それは感動や関心によるものではなく、驚きによるモノだった。
「涼風君? これは?」
「…?」
葉月さんが見せたそれは、クマの着ぐるみに包まれた女の子の絵だった。
というか、着ぐるみに飲み込まれている。
「わあああ! すみません! それ私の寝袋を元に描いたものでっ、ラクガキというか……でも面白いかなって」
それをみて慌てている青葉ちゃん。
青葉ちゃんも私みたいなことしてたんや。
きっと気分転換か思いつきで描いたんやろう。
でもあとで恥ずかしくなって、隠すつもりだったんだ。でもまさか、提出した紙にそれが混ざっていたなんて。
「なるほどね。確かに面白い。ていうかこれじゃあキャラが吸収されてるよね」
「ですよねははは」
確かに葉月さんの受けがいい。
というよりか、笑いという意味で受けている。
それ以外には少し滑ってすらいないかとすら思える。
「でも…うん、決めた。この方向で行こう」
「ですよね……うそ!?」
……え?
私の聞き間違いじゃないん!?
ということは…青葉ちゃんの案が通ったん!?
あの八神さんを抑えて!?
「もちろんこのままでは使えないから、次のコンペまでにブラッシュアップしてくれるかな?」
「は…はい!」
会議室がざわつく。
驚きと戸惑いの声。
その中でも青葉ちゃんの笑顔は輝いている。
「すごいやん青葉ちゃん」
「はい! まだ決まったわけではないですけれど、嬉しいです!」
と同時に落胆の気持ちも私にはあった。
青葉ちゃんの案が通るということは、私の案は通らないってこと。
せっかく描いたのに評価される間のなくきまってしもうた。
でも、これでよかったかもしれない。
だって、こんなに喜んでいる彼女の横顔を見てると、昨日のことを思い出して、胸が締め付けられるように痛くなるから。
「じゃあ次は飯島君だね」
「あ、はいっ」
私の番がきた。
とは言え、もう消化試合みたいなもんやし。
パパっとすまそう。
「ふむ、良いじゃないか。世界観もしっかりしているし、キャラも立っている」
「ありがとうございます」
「ただ、やっつけ仕事感が強いね。もっと細かく描いてほしかったな」
「は…はい。すみません」
あの絵を誤魔化すために描いただけやし。
少し期待したけどこんなもんか。
……あれ?
私、昨日あの絵ちゃんと片付けたっけ?
「ん?」
と、私の考えがまとまる前に、最後の一枚に目を通していた葉月さんは声をあげた。
「飯島君」
「はい?」
「…これは?」
葉月さんが私の方に向けた一枚の紙。
それには、昨日私が描いた敦さんをモデルにしたキャラの絵が描かれていた。
「……」
「……」
「……っ!?」
私は言葉を失った。
それと同時に顔の温度が一気に上がっていくのを感じる。
あかん。
これはあかん……っ!
なんで、どうしてここにこれが!
そんな…確かにちゃんと帰ったあと片付けて……ない!!
あの後タクシーで寝てしまった私は風呂に入ってそのままぐっすり寝てもうた!!
私の動揺とは裏腹に、葉月さんが続ける。
いつもの不敵な笑みで。
「へぇ、なかなかいい絵だね。こういうの描けるんだ」
「いえ……あの、それは……」
やばい。
絶対にバレてる。
そもそもテーマと全然違うし!
どうしよう。
恥ずかしい。
しかもここにその本人がおるのに!
穴があったら入りたい!
というか、もうこの場から逃げ出したい!
「うん、いいね。もっと見てみたい。他の衣装とか三面図も描いてほしいな」
「……え?」
その言葉に、今度は血の気が引いた。
彼女は一体何を言っているのか。
本当に意味がわからなかった。
なんで?
「ちょっと葉月さん」
あまりの無茶な采配に、隣にいた遠山さんも苦言を挺する。
当たり前や。だってそもそも青葉ちゃんの案で決まってる上に、この絵はテーマに沿ってない。
コンペ以前の問題やのに。
「いいじゃないか。こういうキャラを描ける娘は意外と少ないしね。お願いできるかな?」
「え……? あ……はい。わかりました」
「よし決まり。次のコンペの時に仕上げて持ってきてくれるかな?楽しみにしてるよ」
そうして、私の番は終わり、葉月さんは次の人が描いた絵に目を通しはじめた。
やがて全ての案が発表された。
結局、葉月さんのお眼鏡にかなったのは青葉ちゃんの案。
私の案も、通ったと思ってええんやろうか?
会議室からぞろぞろと人が出ていく。
それと一緒に私も自分の席に戻った。
机の上に突っ伏すようにうつ伏せになる。
終わった……。
あんなことを言われるとは思わなかった。最悪、怒られるくらいはあると思ってたけど、まさか採用されるなんて……。
しかも、よりにもよってあの絵が。
「ゆんさん、やりましたね」
「あ…うん、せやな」
声をかけてきた青葉ちゃんの方を見ることなく答える。
「すごく良かったですよ!」
「そっか、ありがと」
「はい!」
私は力なく笑いながら、それでもなんとか笑顔を作った。
こんな気持ちのまま彼女と話せるほど私の心は強くない。
「お互い、次のコンペも頑張りましょうっ」
と言い残して、彼女は自分の席に戻っていった。
「ふぅ~」
私は大きく息を吐いて、自分が描いた例の絵を広げる。
タバコを吹かした30代くらいの男性。
敦さんをモデルにしたキャラ。
葉月さんからは他の衣装と三面図を描けと言われたけれど、今は描ける余裕なんて無い。
「……」
でも、通るかもしれない。
私の絵が葉月さんの目に留まって、私のイラストが彼女の作品に使われる可能性がある。
そう考えるだけで胸が高鳴った。
正直、今回のコンペは落ちるのが目に見えてるからやるだけ無駄やと諦めていた。
でも、まだ可能性はある。
主役は青葉ちゃんかもしれないけれど、サブキャラやって大事や。
最初ははじめや青葉ちゃんのこと、カッコ悪いって思ってたけど、やれるだけのことをやろう。
さっきまで沈んでいた気分が一気に晴れ渡っていくのを感じた。
よし、やってやろうじゃないの!
私は広げたままの紙を手に取って気合を入れ直す。
さぁこれから忙しくなる。ますはこれを仕上げないと。
●
敦視点
しかしまぁ、なかなか面白いことになったな。
屋上で一服していた俺は、昼間のコンペのことを思い出していた。
「まさか、涼風が描いたあのラクガキが通るなんてな」
葉月らしいと言えばらしい。
あの思いつきはこういう時は吉と出るときがある。
大半は後ろから背中を刺されるわけだが。
「それと飯島の描いたヤツ、なんであんなの描いたんだ?」
確かに気分転換に好きなの描いてみろとは言ったが、それであれが出てくる理由が見当が付かん。
飯島はあぁいう男性は嫌いだというイメージが強いから。
どっちかというと、もっと爽やかな青年でも描くと思っていたのに。
「まぁ、それが通ったならいいか」
今回のコンペは精々、次の開発のコンペに期待ぐらいの線と高をくくっていた。
それが、この快挙。
俺が入れ知恵したとは言え、その二人が両方、八神を抑えるとは思わなんだ。
今回の開発、多少は楽しめそうだな。
「……」
いや、何考えてるんだ俺は。
俺にそんな大層なこと望む権利はないだろう。
旅行の前の葉月の面談を思い出す。
…葉月は涼風にアイツの話をした。
フェアリーズストーリーという名前の裏に葬られた彼女のことを。
涼風が綠と似ているだって?
やっとアイツの企みがわかった。
俺が涼風と同じタイミングでキャラ班と合流させたのも。
全部葉月の悪知恵だ。
ふざけるな。
葉月の野郎。
そんなくだらないことに何心血を注いでるんだ。
綠のことをなんだと思ってやがる。
涼風のことをなんだと思ってやがる。
綠は誰かが代わりになれるような存在じゃ無い。
涼風は誰かの代わりになるような存在じゃ無い。
「…」
思考がまとまらない。
イラつく。
葉月にも、自分にも。
どうしようもなく苛立つ。
吸っているタバコの味すら煩わしいと思えるほど。
吸い殻を地面に落として、踏み潰す。
この苛立ちを鎮めることを諦めた俺は、オフィスに戻ることにした。
仕事をしていた方がまだマシだ。俺は足早に階段を降りて行った。
―――
――
―
「さっき全否定されたんだよ? そうそう新しいの思いつくわけ無いじゃん!」
社員証でオフィスの扉を開けて、中に入った途端、耳に入ったのは怒鳴り声。
この男勝りの言い方と声は八神のモノだ。
なんかマズい雰囲気だな。今顔を出すのはよそう。
「…あ」
しばらくすると、八神が出てきた。
その瞳は震えていた。
きっと居心地が悪くなったから逃げてきたのだろう。
「……」
俺は特に何も言わない。
多分、俺が言いたいことは、コイツ自信が一番分かっているはずだ。
だから必要ない。
「っ……」
何も言わない俺に気を遣わせたのが気に触ったのか、すれ違うようにオフィスから出て行く。
大体察しは付く。
大方、コンペが通ってはしゃいでいる涼風に対して八神が怒鳴ったのだろう。
要は八つ当たりだ。
負けず嫌いの八神らしい。大人げないといえば仕方ないが。
俺はキャラ班のブースへと向かった。
「っ」
そして、ブース内の光景に息を飲んだ。
「ちょ…青葉ちゃん?」
遠目で見てもわかる。
涼風は泣いていた。
考えてみれば当たり前だ。
憧れの存在からあんな言葉を投げつけられたのだ。相当なショックに決まっている。
それを慰めようと、飯島がオロオロしている様子が見て取れる。
「大丈夫か? 何があった?」
「あ、あつ、し…さん」
涼風に問いかけると、泣き腫らした瞳でこちらを見てくる。
「落ち着け。ゆっくりでいい」
「ぅ…うぅ…ごめん…なさい、こんな、だいじな……ときに…」
このままじゃ説明もままならない。
彼女が泣き止むまで、少し待とう。
話はそれからだ。俺は飯島と涼風と隣り合うように席に座る。
「……すみません、お待たせしました」
しばらくして、落ち着いた涼風の様子を見計らい、話を聞くことになった。
「実はですね……」
事の経緯はこうだった。
先ほどのコンペの修正案を八神に相談しようとしたとき、妙な言い方をしてしまったらしい。
そこからあの怒鳴り声に繋がる訳か。
涼風も案が通って気持ちが高鳴っていたのもあるが、八神に対する憧れがあったのだろう。
八神なら、これくらい簡単にやってのけるという無慈悲な信頼を。
だからこそ、そんな無様な姿を見たくない。
そんな気持ちが溢れた結果だった。
「…なるほどな」
「…敦さん。私の夢ってこういうことなんですか? 憧れている人を…蹴落としてでもしないと、叶わないんですか?」
「……」
涼風は迷っている。
自分のやりたいこと。
仲間とやりたいこと。
この場所で成し遂げたいこと。
その狭間で揺れ動いているのだ。
「……涼風、その質問にだけ答えるなら、その通りだ」
「っ…」
俺の言葉を聞いて、また泣きそうになる涼風。
「ちょっと敦さん」
極端な言い方をする俺を止めようとする飯島に目配せして制止させる。
俺が言いたいことはそれだけじゃないからだ。
「この世の大抵のことには限りがある。場所も、時間も、金も、何もかも。それに対して、人の欲望は限りが無い。その全てを満たすことなんてできないよ」
これは昨日した授業の続きだ。
正直まだ早いと思っていたが、こうなった以上やるしか無い。
「お前がもし仮に、八神と共同で今の案を通すことができたとしても、それは所詮、その場しのぎだ。次は同じようにはできない」
「…じゃあ、じゃあっ……私は、どうすれば……っ」
涼風はすがるように聞いてくる。
遅かれ早かれ、この壁にはぶつかる。ならば、答えてやらねばならない。
彼女の夢を壊さないために。
俺は、おぼろげに揺れる紫色の瞳を真っ直ぐ見て言った。
「まず、お前が肝に銘じないといけないことが2つある。一つ目は、奪い合いを否定するなということだ」
俺は続ける。
「さっきも言ったが、世の中の大抵のことには限りがある。限りがある以上、奪い合いは避けられない。例えば、お前が1つの仕事をもらえれば、誰かがその仕事ができなくなる」
例を挙げればキリが無い。
それだけ、人の欲望は無限だからだ。
「奪うことを一切拒否したら、お前はなにも手に入れることはできなくなる」
でなきゃ自分の夢すら奪われることになる。
と俺は付け加えた。
「奪い合いを嫌悪して生きていくことなんてできない。仮に働かず、誰かに養ってもらったとしても、自分の食い扶持は誰かが奪い合いによって得た結果で生きている」
要するに、生きるということはそういうものだ。
何かを犠牲にしなければ、生きていけない。
それが資本主義の世界なのだ。
「奪い合いの結果で生きているのに、奪い合いを否定するような卑怯なヤツになるな」
涼風は何も言わない。
ただ、真剣に俺の話を聞いている。
涙も、もう流していなかった。
俺は、そのまま二つ目のことを話した。
「もう一つは、バランスを取れ。人は奪わずに生きていけない。だがな、強欲すぎたら人でなしだ」
俺達は、知ってか知らずかその狭間でいる。
奪い合いの中で、自信と他者との折り合いをつけながら、生きている。
それこそが、人間の本質だ。
「奪い合いの中で生きていくことを自覚して、そこをどうバランスを取るかが重要だ。このバランスが取れないヤツは、奪い合いを否定して逃げ出したり、結果のためになんでもする人でなしになる」
…不意に、俺の脳裏に二人の面影が浮かんだ。
思い出したくも無い奴らの顔。
一人はこの会社の一番高い椅子に座っている男。
もう一人は、ゲーム展で出くわしたクソ野郎。
だが、この話をする以上、奴らのことも話さねばなるまい。
「……なぁ涼風、奪い合いに飲み込まれた人間は、どうなると思う?」
「え……?」
唐突に聞かれたせいで、涼風はよくわからないようだった。
「心がずっと、奪い合いの中にいるんだ。そしてそういう奴らが一番恐れることがある。それは……」
「…奪われること、ですか?」
「そうだ」
俺は言った。
奴らは自身が奪ったモノによって、どれだけ自分が潤ってきたかを身をもって知っている。
だから、怖いんだ。
自分が奪われることが。
と。
「そうなるとな、奪われる前に奪おうとするんだ。そうなったら、俺はおしまいだと思っている。だって、自分と自分が奪って得たモノ以外、何も信じられなくなってしまうからな」
「……」
「そうならないように、常に考えて行動しろ。じゃないと、いつか大事なものを失うぞ」
「……はい」
「……ま、こんな感じかな」
と、俺は締め括る。
我ながら、柄でもないことを長々と話した気がする。
「……ありがとうございます、敦さん」
「ん?何がだ?」
「いえ、なんだかスッキリしました。私、頑張ります」
「おう」
俺が返事をすると、飯島が言った。
「……なんか、凄かったですね。あんなことまで言うとは思いませんでした」
「必要だから言っただけさ。こういうことは遅かれ早かれ起きるからな」
「……でも」
また涼風の顔が曇る。
「なんというか、敦さんの言ってたこと、正しいですけど、悲しいですよね」
「どうしてだ?」
「……奪う側と奪われる側に分かれている時点で、平等ではないっていうことなんですよね。結局、人は人と支え合って生きていかないといけないのに」
「確かにな。だけど、そんな綺麗事ばかりじゃ回らないんだよ。特にこの世界ではな」
俺は苦笑しながら答える。
「それに、俺達の仕事も、言っちまえば、他の会社の商品をプレイする時間を奪うわけだしな」
「……そうでした」
「だからこそ、自分達がモノを作っている間は、全力で楽しむべきだ。奪っているという意識は捨てろ。お前が楽しいと思えることで、誰かが楽しんでくれる。それを忘れるな」
「……はい!」
涼風はようやく、元気よく答えた。
「さて、ほんじゃやるか。涼風。わからないところがあるんだろ? 見せてみ?」
「あ、ありがとうございますっ」
涼風は笑顔で答礼した。
その顔にはもう涙の跡は無かった。
「あ、それと飯島、お前のも見せてくれ」
「え?」
と、突然言われて驚く飯島。
涼風も不思議そうな顔をしていた。
「お前も次のコンペであれ出すんだろ? なら世界観は合わせておいた方がいいし、その方が葉月の印象もいいだろ。ほれ、早くしろ」
「は、はい。お願いしますっ」
これで、一安心。
あとは八神だけだが、きっと大丈夫だ。
シンは見限ったが、俺と葉月はまだ捨てたもんじゃないと思っている。
それはこの一年間で証明して見せた。
というか、これは俺の願望だ。
アイツは俺達の…綠の夢を形にしてくれたんだ。
この程度で終わるような人間じゃ無い。
なぁ、綠、お前もそう思うだろ?