NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
ひふみ視点
今日はクリスマスイブ。
街はイルミネーションで彩られ、会社の帰り道はどこも家族連れやカップルで賑わっていた。
昔の私なら、そんな幸せそうな人たちを見て、私はため息をついてた。
男の人といるのは気が休まらないと避けていたから、そんなことに一生縁なんてないと、思い込んでいた。
でも、今年は違う。
「…その、上がって」
「お、お邪魔します」
私は会社からずっと一緒に歩いていた純君を家に向かい入れた。
生まれて初めてできた恋人。
それが純君だ。
彼とここで過ごすことは、12月に入ってから決めていたこと。
どこかに出かけるのも考えたけど、前の社員旅行と同じになるからと言うことで、私が自分の部屋にしようと提案した。
あぁ、社員旅行のことを思い出すとまた顔が熱くなっちゃう。
彼としたはじめてした体験の光景がまた鮮明に脳裏に浮かんでくるからだ。
それから今日まで、ケーキの予約に、献立の相談、どんなお酒がいいか、色々話し合うだけでも楽しかった。
純君の好きな食べ物とか聞ける良い機会だったし。
「…どうぞ、座って」
「は、はい」
純君も女の子の部屋に入るのは初めてで緊張しているみたいで、買ってきた物を整理する動作がちょっとぎこちない。
二人でラブホテルにまで入ったのに、借りてきた猫みたいにしているのがちょっと可愛い。
きっと、今日もするんだろうな。
ネットだと性の六時間とか言われる時間。
それを、本当の意味で味わうと思うのだと、心臓の音がまた大きくなる。
でも、不思議といつもみたいに挙動不審にはならないんだ。
これは社員旅行時に純君を部屋に呼んだと似ている。この鼓動は、彼を好きだという証拠だと思うと愛おしく思えるから。
「じゃあ…準備、しよっか」
「僕も手伝います」
そう言って、私達はキッチンに向かう。
まずはケーキ屋さんで購入したケーキを冷蔵庫に入れて冷やしておく。
そして、料理の準備に取り掛かる。
と言ってもそこまで難しいことはできないんだけどね。
今日も仕事だったから、ほとんど出来合いのモノ。
それでも、少しだけ手が込んで見えるように盛り付ける工夫をしてみたりした。
テーブルにはサラダとチキンソテー。それにグラタンを盛り付けてある器を置く。
後は帰りに二人で寄ったスーパーのお惣菜コーナーで購入してきたポテトフライに唐揚げ等々。
でもやっぱり、純君には私の手料理を食べてもらいたかったな。
まだ恋人になる前のこと、私のコスプレ趣味がバレたときの口止め料としてお弁当を出したことがある。
その時の純君の美味しいと言う表情を思い出すと、今でも胸が温かくなる。
あの時の私は、彼と恋人になれるなんて想像すらしていなかったのに。
「ごめんね、せっかくのクリスマスなのに、出来合いばかりで」
「そんなこと言わないでください。凄く嬉しいです」
彼は笑顔を浮かべて言う。
その言葉が嘘じゃないことはよくわかる。
彼も、恋人と過ごすクリスマスは初めて。
その初めてが私であることがとても嬉しかった。
「じゃあ、これ開けますね」
純君は一本のワインボトルを取り出す。
それも、結構値が張る。
この日のために二人で相談して、お金を出しあって買ったモノ。
グラスに注ぐと、綺麗な赤色に染まっていく。
「それじゃあ……」
「はい、乾杯」
チンッ!っと軽い音を立ててグラス同士がぶつかり合う。
私たちは一口飲む。
実はお酒の味はよくわからないのだけど、この感覚が好きだから何度でも飲める。
それを愛しい人と楽しめるならひとしお。
「…おいしいですね」
「うん」
純君も満足してくれたようで良かった。
それから、私たちは目の前の料理をつまみながら談笑する。
「……ねぇ純君」
「なんですか?」
「ありがと」
「えっ?急にどうしたんですか?」
「んーん、ただ言いたくなって」
「……それは、こちらこそですよ」
「っ……」
「ありがとうございます。僕と一緒にいてくれて」
黄色い瞳が真っ直ぐ私を見据えて、笑顔を見せてくれた。
そう言われて、私は恥ずかしくなって顔を背ける。
ずるいなぁもう……。そんなこと言われたらますます好きになっちゃうじゃん。
その後は、二人とも無言で食べ続けた。
食事が終わると、私はケーキを切り分けるために包丁を手に取る。
本当は純君が切るつもりだったらしいけど、私がやりたいと言ったので譲ってくれた。
純君の分は普通のショートケーキにして、自分のはイチゴがたくさん乗っているやつにした。
切り分け終えると、純君の分の蝋燭に火をつけて、部屋の電気を消す。
「……ふぅ」
息を吹きかけると、蝋燭の炎は消える。
「……誕生日でもないのに、なんだか変な感じですね」
「そうだね」
そう言うと、暗闇の中でお互い面白くなって笑みがこぼれた。
電気をつけてからケーキを食べ始める。
「……おいしい」
「本当ですね」
「ねぇ…」
私はまた純君に声をかけた。
そして、フォークでケーキを掬い、それを彼の方へ向けた。
こう言う時、恋人同士がやること。
漫画やアニメでも使い古されているほどベタなこと。私もやったことなかったのだけど、今ならできる気がする。
「はい、あーん」
「……っ!?」
「…ほら、落ち、ちゃう…よ?」
「……あ、あむ!」
彼は戸惑いながらも口を開けた。
そしてそのまま、ケーキは彼の口に収まる。
「……どうかな?おいしい?」
「……はい」
真っ赤になりながら返事をする。
その姿に私まで顔が熱くなる。
今まで、こんなにドキドキしたことあったかな。
好きな人とすることって、ここまで違うんだ。
その後も、私たちはまるで付き合いたての恋人のように甘い時間を過ごした。
そしていよいよ、食事もケーキも終わった私たちは部屋で隣り合うように座っていた。
お互いに沈黙が続く。
気まずさはない。むしろ心地良いくらい。
純君は何を考えているのだろう。
もしかしたら、私と同じことを思っているのかもしれない。
この空気が、永遠に続けばいいのに。
ずっと、こうして二人でいたい。すると突然、純君は私の肩を抱き寄せてきた。
「あっ……」
私は小さく声を上げる。
鼓動が速くなっていくのを感じる。
心臓の音も純君に聞こえてるかもしれない。でもそれでいいかな。
そのまま純君は私を強く抱きしめてくる。
少し苦しい。
でも、それが気持ち良くもある。もっと強く抱いてほしい。
なんとなく、彼がしたいことがわかったから私は目を瞑る。
「……んっ……」
唇に触れる柔らかい感触。
何度も経験しているはずなのに未だに慣れない。
でも嫌じゃない。幸せだもの。
離れたくないと思いながらゆっくりと目を開けると、至近距離にある黄色い瞳と目が合った。
それだけでもドキッとする。
私は再び目を閉じた。
今度はもう少し長くキスをした。
数秒後、どちらともなく離れて見つめ合う。
「……好きです」
「うん、知ってる」
「愛してます」
「うん、私もだよ」
「絶対に離しません」
「うん、嬉しい」
「……っ」
「んっ……」
純君の顔が再び近づいてきて、私はそれを受け入れる。
もう何度目かもわからない口づけ。
きっと、これから先も数え切れないほどしていくのだろう。……あぁ、幸せ。
私は幸福に包まれていた。
このまま、時間が止まればいいのに。
そう思った。
その時だった。
ふと目を開いた私は、彼の後ろにあるケージに目が行ってしまった。
ケージの中では、ハリネズミの宗次郎がジト目で私を見つめていた。
…あ、宗次郎にエサあげるの忘れてた。幸せな時間は、いつだって唐突に終わりを告げる。
「あっ!」
「え?……わぁぁ!!」
私が慌てて離れたことでバランスを崩したのか、純君は後ろに倒れてしまった。
幸いにも頭を打つことはなかったけれど、背中を打ったようで痛そうにしている。「ごめん! 大丈夫!?」
「は、はい、なんとか……うぐぅ」
「本当にごめんなさい!!ちょっと待って、今すぐクッション持ってくるから!」
私は急いでソファにあったクッションを床に置いて、その上に彼を寝かせた。
「ご…ごめんね、すぐ…救急車、呼ぶから…」
「いやそこまではいらないですから」
「ダメ、打ったところ、見せて。……あ、ちょっと腫れてる」
「あの、本当大丈夫なので、とりあえず落ち着いてください」
「いいからっ…」
「いや、僕の方こそすみませんでした。いきなり抱きついたりしたせいで……」
「とりあえず冷やすねっ…」
私は冷蔵庫に行って氷を取り出し、タオルに包んで彼の元へ持って行った。
それを患部に当てると、「あ~っ」っと声が漏れる。
その様子を見ていて申し訳なくなると同時に、彼の可愛い声を聞いて胸がキュンとした。
「…ホントに、大丈夫?」
「…はい」
彼は起き上がって笑顔を見せる。
それを見てようやく安心できた。
良かった……。
もし彼に何かあったらと思うと、想像だってしたくない。
「それで、なにかあったんですか?」
「あ…その、宗次郎…に、エサ、あげるの…忘れてて…」
「ああ、そういうことだったんですね」
純君も納得して、ケージの方を見る。
宗次郎はまだ私たちのことを見ていた。
……あれ?
なんか怒ってる気がする。
「とりあえず、今は宗次郎君を優先してください。僕は後でいいので」
「そ、そうだよね」
私はキッチンに行き、宗次郎用の餌を持って来た。
そしてケージの前に置く。
すると、いつもなら喜んで食べるはずなのになぜか食べようとしない。
なんで……?
「……ねぇ、どうして今日はご飯を食べないのかな……」
私はケージの前にしゃがみ込んで聞くと、宗次郎はチラッとこちらを見た後プイッと顔を背けた。
やっぱり怒ってる。なんでだろう。
すると純君が横に来て、私と同じようにケージの前でしゃがむ。
「もしかしたら、僕たち二人の関係が変わったことに気付いているんじゃないですか?」
「えっ……じゃあまさか……ヤキモチ焼いてる……とか……?」
「多分?」
そうなの……!? 宗次郎すごい……! でも……そうなんだ……私と純君のことをちゃんと見てるんだ。
「ね、仲良くしよう」
私は宗次郎に向けて言った。
でも相変わらず知らんぷりする。
「…じゃあ僕があげてみていいですか?」
「大丈夫…かな? 宗次郎も、人見知り…だし」
「まぁ、一応やってみますよ」
純君は宗次郎の目の前にエサを入れた皿を置く。
すると宗次郎はそのエサを一口食べた。
やった、成功だ! 純君の言う通りだったみたい。
純君は嬉しそうに宗次郎の頭を撫でている。
宗次郎もそれを受け入れていた。
「よしよし、偉いぞ~」
そう言って今度は頬をすり寄せて可愛がっている。
あぁ、良かった。
でも宗次郎、私が触れるようになるまで1年かかったんだよ。
それをたった一日でこんな簡単に懐くなんて……。
「……」
なんだか複雑な気分。
今でも機嫌が悪いときは触らせてくれないのに…。
「ひふみ?」
「え、あ、うん。どうしたの?」
「いえ、どうかしましたか? 急に黙り込んだので」
「ううん、なんでも…ない」
私が首を横に振ると、純君は少し考える素振りを見せた。
そして――
「!?っ」
今度は私の頭をソッと撫でてきた。
突然のことで驚いてしまう。
「え、あ、あの……」
「えっと…その、もしかして撫でて欲しいのかなって思って……違いました……かね」
純君は恥ずかしいのか、だんだん声が小さくなっていく。
それがまた愛しく思えた。
「ううん、違わない……よ」
私はそのまま彼の手を受け入れる。
嬉しいけど、心臓がドキドキして止まらない。
きっと顔だって真っ赤になってるに違いない。
「あの……嫌じゃないですか?」
「全然……もっと…して、ほしい」
「そ、それなら良かったです……はい」
「ふふ」
その後私たちは、しばらく無言のまま一緒にいた。
その間、ずっと彼の手が頭に乗っていた。
宗次郎;俺は何を見せられているんだ?