NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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それぞれのクリスマス ーねねとうみこの場合ー

 柚貴視点

 

 「あ、いないと思ったらこんなところにいたっ」

 

 暖房と雑音が響き渡る店内に、腰を下ろしていた俺は桜に声をかけられた。

 俺は何も言わず、目を細めて声をかけてきた方に顔を向ける。

 

 「も~、せっかくのクリスマスだから大学のみんなでカラオケ行こうって誘ってあげたのに」

 

 「俺は行きたいなんて言ってない」

 

 思えば、春にコイツを暴漢から助けてから、桜はそのことを大学の連中にまで言いふらしていたのだ。

 まるで武勇伝のように。

 そこから、また妙に絡まれることが増えた上に、行かないと桜が家に押しかけてくるのだ。だから今日だって無視してやろうと思っていたのだが、こうしてやかましいカラオケに来させられる羽目になってしまった。

 

 「ほらほらー! 戻ろうよ。ゆずっちが主役なんだよ!」

 

 そう言うなり、俺の腕を引っ張る桜。

 仕方なく立ち上がり、マイクを持ったまま騒いでいるメンバーのところに連れて行かれてしまう。

 そして――

 

 「はい、じゃあ今年一年お疲れ様ってことで、かんぱぁい!!」

 

 全員分のグラスがカチンッと音を鳴らして合わさった。

 桜の隣に座らされてしまい、逃げられない状況になってしまう。

 ……こうなったらさっさと終わらすしかないな。

 

 「ねぇ、ゆずっち歌わないの?」

 

 「ああ、別にいいだろ? 歌いたくないんだから」

 

 

 「えぇ~歌って欲しいんだけどぉ」

 

 「うるさい黙れ」

 

 「もう、つれないなぁ」

 

 頬を膨らませながら不満げにする桜を無視していると、隣に座っていたメンバーの一人が話しかけてきた。

 

 「でも塩川さんって、ホント美人ですよね」

 

 「そっかなぁ~ゆずっちはかわいい系だと思うけど……」

 

 「いやいや、カッコイイ方じゃないですか!?」

 

 「うぅん……」

 

 どう反応すれば良いのか分からずにいると、他のメンバーからも口々に褒め称える言葉が飛んでくる。

 

 「和服似合ってますよね」

 

 「何着てもサマになりそうだもんなぁ」

 

 「身体も細いし、羨ましいわ」

 

 こういうことはガキの頃から何度も言われてきたが……やはり慣れることは無い。

 普段ならすぐにその場を立ち去るのだが、今はそれができない。

 居心地の悪さを感じつつ、適当に相槌を打っておくことにした。

 それからしばらくして、メンバーが次々と曲を予約していき、その度に桜が立ち上がって歌うことになった。

 歌うのは、普段よく話すアニメやゲームの曲ばかり。特にこれと言って嫌いというわけではないが、特別好きなわけでもない。

 むしろ俺にとっては雑音以外の何ものでもない。……早く帰りたい。ただそれだけしか考えられなくなっていた。

 しかし、そんなことを思っていても時間は過ぎていき……結局最後まで付き合わされてしまった。

 メンバーは楽しかったと言い残して解散していく中、桜は俺のそばにトタトタと駆け寄ってきた。

 

 「あれぇ、もう帰っちゃうんですかのぉ?」

 

 人を煽るような声を出す無視して立ち上がると、革ジャンを羽織ってそのまま出口へと向かって歩き出した。すると桜は慌てた様子で追いかけてきて、腕を掴んでくる。

 

 「ちょっと待ってよ!」

 

 俺は振り返り、面倒くさそうな表情を浮かべると、ため息混じりに言った。

 

 「……まだ何か用があるのか?」

 

 「一緒に帰ろうよ」

 

 「断る。お前一人で帰れば良いだろ」

 

 「ヤダ。寒いし寂しいじゃん」

 

 「……はぁ」

 

 もう一度大きなため息をつくと、再び歩き始めた。

 桜は諦めずについてきて、今度は横に並ぶ。

 「やっぱり、あぁいうの苦手だった?」

 

 申し訳なさそうに謝ってくるが……本当に鬱陶しいヤツだなコイツは……。

 

 「なんの話だ? ただ単に俺は行きたくなかっただけだ」

 

 「もー嘘ばっかりぃ。本当は嬉しくて仕方ないくせにぃ」

「ふざけるな。誰が嬉しいなんて思うか。第一、そういう話は俺より他の連中にしろ。俺に絡んでる暇があったら他のやつに構ってやれ」

「むぅ……ゆずっち、なんか一にも増して機嫌悪くない?もしかして怒ってる?」

「…怒ってない」

そう、別に怒っているつもりはない。ただ少しだけイラついているだけだ。

理由はある。

それを言うのは癪だから言わないだけで……。

俺にも俺で考えがあったんだ。なのに勝手に他の連中まで呼びやがって。

これじゃあ予定が狂うだろうが。

「あっ! ゆずっち! 見てみて、雪降ってるよ!」

虫の居所が悪い俺を差し置いて、いつの間にか空を見上げていた桜は、興奮したように指差してくる。

俺も釣られて見上げると、確かに粉のような白いものがチラホラと降り始めていた。

この調子だと積もりそうだな。まぁ、どうでもいいか。

「ねぇ、今年の初雪だよ! すごい綺麗っ!!」

「…………」

だが、こんな桜を見ているとさっきのイライラが消えていくような気がするから不思議だ。

「ねぇ、すごいよ! 初雪だよ!?」

「……そうだな」

もう呆れてものも言えない。ため息が出る。

どうせこのまま帰ったところで気分は晴れないだろう。

……だから、俺は当初の目的を実行することにした。

「おい、桜」

「ん、何?」

「…………………これやる」

革ジャンのポケットからあるものをだして、桜の前に手を突き出す。

それは小さな紙袋。

桜はポカンとした表情を浮かべていたが、やがて意味を理解したのか、目を輝かせながら受け取った。

「え、これってもしかしてプレゼント!?」

「それ以外何に見えるんだよ……」

「開けていい?」

「好きにしろ」

許可を取るなり早速包装を解いていき、中身を確認する。

中に入っていたのは黒猫のキーホルダー。革ジャンを買いに行った時に見かけてついでに買ったモノ。

そう、ただのついでだ。

店員が要らない気を利かせて洒落たラッピングをしてきたが、特に他意はない。。

「わぁ〜可愛い〜」

桜はそのキーホルダーを大事そうに胸元で抱きしめる。

単純な奴。

こんな安物のキーホルダーでおおはしゃぎしやがって。

……本当に、コイツはバカだ。

「あ、そうだ」

桜は自分のコートの中から鍵を取り出す。そして、それにキーホルダーを取り付けた。

「これでよしっ」

それは、俺に断りもなく名波からもらったという俺の部屋の合鍵だ。

俺と桜が初めて会った時のことだ。

「ほら、これなら失くさないね」

これ見よがしにそれを見せつけてくる。

「お前はそれ付けてても失くしそうだけどな」

「失礼な! 私だってちゃんと管理できるもん!」

「へいへい、そうですか」

「うん、そうですとも。ふふん」

桜は自慢げに鼻を鳴らすと、満足気に微笑みを浮かべた。

 ……正直、クリスマスなんてものは好きではなかった。

 小さい頃は毎年のようにプレゼントを買ってもらい、ワクワクしていたものだが、成長するにつれて段々興味が薄れていった。

 だが、今は桜がいる。

 こうして毎日のように振り回されて、俺の日常はすっかり変わってしまったようだ。

 

 「あ、ゆずっち、もしかして笑ってる?」

 

 「……さあな」

 

 桜はじっとこちらを見ながらニヤリと笑みを浮かべている。……この表情は絶対に気付いている顔だ。

 まったく……変なところで勘が良いというか、察しの良いヤツめ。

 

 「……桜」

 

 「んー?」

 

 「その……メリークリスマス」

 

 恥ずかしさを堪えながらなんとか口にすると、桜は満面の笑顔になった。

 

 「うん! メリークリスマス!」

 

 今日はクリスマス。

 街は賑やかに彩られ、イルミネーションに照らし出されている。

 そんな華やかな光景を見ているだけで、心までも暖かくなっていく。

 俺たちは今年初めて会ったばかりだけど、来年のクリスマスもまた一緒にいるような気がした。

 

 「ん?」

 

 「あれは……」

 

 そうしてまた家路につこうとした時、俺達は見慣れた人物を見つけた。

 それも二人組。

 片方は特徴的な眼鏡に七三に分れた金髪の男。もう片方は日焼けした肌に鋭い目つきとをした濃い茶髪の女。

 俺達は二人の名前を知っていた。 

 

 「名波と…」

 

 「うみこさん?」

 

 二人は仲睦まじく手を繋いで歩いていた。

 名波は相変わらずの淡々とした口調で話しかけているが、うみこの方は頬を赤く染めていた。

 ……どういうことなのだろう。

 あの二人が付き合っているという話は聞いたことがない。

 というか、俺自身が名波について何も聞かなかったということもあるのだが…。

 しかし、思い当たる節はある。

 それはうみこが桜を捕まえたときの身のこなし。

 あれは名波と同じ動きだということを、今になって思い出した。

 

 「……」

 

 「……」

 

 互いに何も言わずに無言のまま見つめ合う。

 桜はジッと真剣な眼差しで何かを考え込んでいた。

 

 「……よし」

 

 やがて小さく呟いてから歩き始める。

 

 「おい桜」

 

 「大丈夫。任せてよ」

 

 何を任せればいいのか分からない。

 桜のことだ。また録でもないこと思い付いただけに違いない。

 だが、今の俺はそれを止めることが出来なかった。

 何故なら、俺も知りたかったからだ。

 あの名波に女がいることなんて初めて知ったし、それが知り合いなら尚更驚いた。

 

 「……はぁ」

 

 桜に続いて足を踏み出す。

 これから起こるであろうことを想像して、思わず溜息が漏れてしまう。

 …付き合ってやるか。

 俺は半ば諦め、桜と共に二人を尾行することにした。

 

 「……」

 

 「……」

 

 俺と桜は一定の距離を保ちつつ、二人の後をつけていく。

 手を繋ぐことなく、微妙な距離を保って歩く姿は何とも言えないものがあった。

 だが、不思議なことに通行人は誰も気にしていない様子。

 これが都会というものなのか。それともただ単に人が多いせいで気付かないのか。

 

 「……」

 

 「ねえゆずっち」

 

 「なんだ」

 

 「私達って通ってる人から見たらカップルに見えるかな?」

 

 「さあな」

 

 「ふぅん」

 

 桜はどこか不満げだった。

 自分で訊いてきた癖に、何を考えているのだろうか。

 だが、今はその思考が理解できなかったわけではない。

 むしろ、俺も同じことを考えていたくらいだ。

 

 「……」

 

 チラリと横を見る。

 桜は楽しげに微笑んでいた。

 それはまるで悪戯が成功した子供のような笑み。

 その表情を見た瞬間、胸の奥がドキリと高鳴ったような気がした。

 

 「ん? どしたの?」

 

 桜が小首を傾げる。

 俺は慌てて視線を前に戻し、なんでもないと誤魔化した。

 

 「そっか。じゃ、行こっ!」

 

 「お、おう」

 

 そのまま桜の後を追っていく。

 どうやら気づかれてはいないようだ。

 少しホッとすると同時に、妙に緊張してしまう。

 

 「……あっ、二人がどこか入っていくよ」

 

 「え?」

 

 桜の声に釣られて前を見ると、二人は高そうなレストランの中に消えていった。

 

 「ホテルとかには入らないんだね。意外かも」

 

 「そりゃいきなりおっ始めることないだろ」

 

 名波の性格は知っている。

 あの堅物のことだ。このレストランもスマートに予約して、さり気なく誘っているに違いない。

 そして、うみこの方もまんざらではない感じであった。

 

 「うーん、なんかムカつくね」

 

 「なんでだよ……」

 

 「だってさ、あんな風にエスコートされるのって羨ましいじゃん。あー、むかつく」

 

 「……」

 

 よく分からない理由で怒るヤツである。……しかしまあ、確かにちょっとイラっとするかもしれない。

 

 「ヨシッ! ちょっとなかで何してるか見に行こ!」

 

 「は!?︎ ちょ、待てって」

 

 言うが早いか、桜は俺の手を引いて店内へと突入していった。

 訳だが……。

 

 「えっ!? 予約でいっぱい!?」

 

 「申し訳ございません」

 

 扉を開けた途端、ウエイトレスのお姉さんによって丁重に追い返されてしまった。

 

 「そんなぁ〜」

 

 桜はがっくりと肩を落としている。

 まさかこんなことになるとは思わなかったらしい。

 当たり前だ。何せ今日はクリスマス。

 考えることは皆同じと言うことだ。

 

「はぁ〜。仕方ないかぁ」

 

 「もういいだろ? 帰ろうぜ」

 

 これ以上ここにいても意味がない。

 俺達はすごすごと引き返すことにした。

 

 「「あ」」

 

 が、店を出てすぐのこと、俺たちは見てしまった。

 窓際のテーブル席に座る二人の姿を。

 しかも、二人は今、俺でも見たことがあるほどのセオリー通りのことをしていた。

 俗にいう、『はい、あーん』の真っ最中。口を開けているのはうみこ。

 先日、桜にしてもらおうとしたのを俺に横取りされたそれを、名波とやろうとしていた。

 

 「…!?」

 

 そして不幸にも、不意に視線に気がついたうみこにバレてしまった。

 当然それは、名波にもバレたということで、二人の視線が俺たちを串刺しにした。

 

 「っ……」

 

 「……」

 

 名波の顔は普段の無表情のままだが、うみこの方は酷いことになっている。

 顔から火が出るのではないかと思うほどに赤面しており、目尻には涙が浮かんですらいた。

 

 「っ!」

 

 だが、すぐに我に帰ったのか、顔を逸らすと、フォークに刺さっていたものを無理やり口に入れて、飲み込むように食べ始めた。

 

 「……」

 

 名波は何も言わずにその様子を眺めているだけだが、その無表情が逆に今は怖い。

 

 「桜、行くぞっ」

 

 「えっ、ちょっ…ゆずっち!?」

 

 本能的な恐怖で居たたまれなくなった俺は、桜の手を掴んでその場から逃げ出した。

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