NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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今回は色々ヤバイです。


メイド服に囲まれて

敦視点

 

 「お、あんなところにいやがる」

 

 クリスマスが過ぎてまだそう日にちが経っていない今日この頃。

 俺は葉月に仕様について聞きたいことがあり、オフィスを散策していた。

 自分の席にはおらず、しばらく探しているとキャラ班のブースの中央で椅子に腰かけている後ろ姿を捉えた。

 コイツの徘徊癖はいつものことだが、マジで勘弁してほしい。

 好きなキャラが死ぬ展開を見たくないからって都内から逃げ出そうとしたときはぶち殺してやろうかと思ったほどだ。

 

 「おい、葉月、この仕様について聞きたいことがあるんだがーー」

 

 「も、萌え萌えキューン!」

 

 「……何してんだお前ら?」

 

 ブースに入った途端、目に入ったのはメイド服を見に纏っている涼風だった。

 手でハートマークを作り、真っ赤な顔でテーブルの上に置いてある茶に呪文を唱えている。

 

 「あっ……敦さん!?」

 

 涼風だけじゃない。飯島も篠田も何故かメイド服を着ている。その中心で、まるでお嬢様のごとく葉月はくつろいでいた。

 

 「やあ敦君。君もどうだい? 可愛いメイド達に囲まれると労働の疲れも消し飛ぶだろう」

 

 「いや仕事しろバカ」

 

 話を聞くと、忘年会兼納会の幹事について話し合っていたそうな。

 …それが一体全体どうしてこうなった。

 「そこで私はメイド喫茶がいいと提案したんだ」

 

 とドヤ顔で眼鏡を光らしながら語る葉月。

 いやだからって何で涼風達がメイド服着てるんだよ。

 そして何でお前がご奉仕されてるんだよ。

 もうツッコミどころ満載すぎて逆に何も言えねえよ……。

 

 「待ちたまえ敦君」

 

 ため息をつきながらブースに入ろうとすると葉月に止められた。

 そして何もない虚空を指差してこんなことを言い出した。

 

 「今そこには扉があるんだ。開けるまで入っちゃいけないよ」

 

 「……はぁ?」

 

 何を言ってるんだこいつは。

 意味がわからずとりあえず言われた通り待っていると、涼風が俺の前でドアノブを回す真似をする。

 …パントマイムかよ。

 

 「お、お帰りなさいませ。ご主人様っ。寂しかったにゃん」

 

 「…………お前、恥ずかしくないのか?」

 

 「…………すごく、恥ずかしいです」

 

 「だろうな……」

 

 顔を赤く染め上げ俯きながら言う涼風に苦笑いするしかなかった。きっとメイド服なのもそれを助長しているのだろう。

 こういうことに慣れていないであろうことはわかっていたがまさかここまでとは……。

 これはこれで需要はあると思うけどな。

 涼風のキャラ的に考えて。

 

 「ふむ、よく似合っているじゃないか。さすが私というべきか」

 

 「黙れクソメガネ」

 

 「今のは結構傷ついたよ敦君……」

 

 勝手に傷ついてろ。

 

 しかしまあなんだ、涼風の奴、随分とこの会社に馴染んだものだ。

 入社したての頃、社員証を忘れて締め出されたのが懐かしく感じる。

 

 「てかお前らもちゃんと断れよ。完全にセクハラじゃねぇか」

 

 「大丈夫だよ敦君。彼女達は嫌々やってもらっているわけじゃないしね」

 

 「どこを見て判断してんだよ」

 

 全く信じられん。

 これならまだ新人の女の子を無理矢理連れ込んでコスプレさせてるようなもんじゃんねぇか。

 

 「なるほど、つまりあれか。周りにこれだけ可愛い娘がいるから、敦君はあくまで紳士振るつもりなんだね? それもいいだろう」

 

 「最低限、人としての尊厳を保ちたいだけだよ」

 

 いやまぁ確かに、こういう仕事をしている手前、何が可愛くて何が綺麗で、何が人を惹きつけるかというのは理解できる。

 実際、涼風も飯島も篠田も普通に可愛い部類に入るだろう。

 だがそれとこれとは別問題だ。

 仕事中にこんなことしてたらダメだろ。

 

 「そうかい! ならば君の本性をここで曝け出してみようではないか!」

 

 「は?」

 

 突然、葉月のテンションが上がり始めた。

 俺はかつて共に同じベッドで寝たことすらあるからわかる。コイツがこうなったときは基本的に碌な事にならん。

 なんでこんな奴と付き合ってたんだ俺は……。

 眼鏡の奥から覗くギラギラとした目のまま、紙に何か書き殴っている。

 

 「さぁ、君たち、私が用意したこのメモの通り演じてみてくれ!」

 

 「は、はい」

 「うぅ……わかりました」

 

 「えぇ……」

 

 渡されたメモを見た涼風達の顔色が変わる。

 その様子から見て、ろくでもない内容なのは明らかだ。

 

 「よし、では始めてくれたまえ!」

 

 「で、でもぉ」

 

 「気にならないのかい? 敦君がどんな女性が好みなのか? どんな性癖の持ち主なのか!?」

 

 「言われてみれば……」

 

 「それは……ちょっとだけ」

 

 おいコラ待て。

 涼風、飯島。お前らなんで興味ありげなんだよ!?

 知りたくねぇだろ普通!

 俺を無視して盛り上がるんじゃない。

 

 「では早速始めてみたまえ」

 

 「…はい」

 

 「わ、わかりましたっ」

 

 「うぅ……恥ずかしいなぁ」

 

 まずは涼風が前に出て、両手を前で重ね、体を揺らしながら上目遣いでこちらを見てくる。

 

 「お帰りなさいませ、ご主人様ぁ。今日は何をして遊んでくれるんですかにゃ?」

 

 語尾ににゃんをつけているせいかいつもよりあざとさが際立つ。

 涼風は恥ずかしいのか顔が真っ赤に染まっていた。

 

 「……やっぱ恥ずかしいか?」

 

 「は、恥ずかしいですよっ」

 

 「そ、そうだろうな」

 

 「でも……」

 

 「?」

 

 涼風は少しモジモジしたあと、恥ずかしそうな表情を浮かべたまま口を開いた。

 

 「ご主人様に喜んでもらえるなら、頑張ります……にゃん」

 

 「っ…………」

 

 不覚にもドキッとしてしまった。

 少し抜けているが真面目な彼女が普段見せないようなしおらしい態度に思わず言葉を失ってしまう。

 

 「うん、いいじゃないか」

 

 ダメだ。

 少しでも反応したら葉月が調子づく気がする。ここは無視して次の展開を待つしかない。

 そして涼風に案内されるがまま椅子に座らされる。目の前のテーブルには一枚の紙。

 メイド喫茶でよく見るメニュー表みたいなものだった。……これ、どうやって用意してるんだよ。

 

 「んで、何か注文したらいいのか?」

 

 俺は至って冷静を装いながら葉月に聞く。

 すると彼女は眼鏡をクイッと上げてニヤリと笑った。

 なんかムカつく。

 頼めと言うことか。

 とは言ってもここは会社の中。出せるのは飲み物くらいだ。メニューも全てドリンクだし。

 

 「そうだな……じゃあ」

 

 適当に注文しようとすると飯島が声を上げた。

 

 「さ…サッサと注文しなさいよ!私だって暇じゃないんだからね!」

 

 「……?」

 

 何故か怒られた。というかこの状況で注文しろと言われても何をどうすればいいのかわからないのだが?

 とりあえず無難にコーヒーで良いか? しかし飯島はそれを見透かすように再び口を開く。

 

 「早くしなさいよ! グズね!……まったく、せっかく私が可愛がってあげようと思ったのに、そんな地味な格好で来るなんてほんっとありえないわ! もっと格好いい服着てきなさいよね!」

 

 「え、あの」

 

 「何? 文句でもあるの」

 

 「いや、特に……」

 

 ……これはあれか。

 ツンデレメイド的な感じなのか。

 確かに妙に板についているというか、似合っていると言えばそれまでなのだが、如何せん口調のせいで可愛さが微塵もない。むしろ怖いまであるぞコレ。

 

 「ほら、早く言いなさいよ! それとも言えない理由があるわけ!?」

 

 「い、いや……」

 

 「ふん、仕方ないわね。特別に私の方からオーダー聞いてあげるわ。感謝しなさい」

 

 「は、はぁ」

 

 いつも関西弁混じりの敬語を使う飯島だが、今は標準語でまくしたてられている。

 しかもツンデレの形式に倣って偉そうな態度だ。

 

 「それで、何か頼みたいものはないの? あるならさっさと教えなさい」

 

 「あー、じゃあ、コーヒーを一杯」

 

 「はぁ!? ふざけてるの!?」

 

 「は?」

 

 「貴方ねぇ、こんな可愛い女の子がわざわざ注文を聞いてあげようとしているのにコーヒーですって!? もう少しマシなものが出せないの!?」

 「えーっと…」

 

 なんだこの理不尽さは。

 というかお前が勝手にやってることだろうが。

 俺が悪いみたいに言うんじゃねぇか。

 何か鬼気迫るものがある。まるで今までの鬱憤を晴らすかのような勢いだ。

 

 「仕方ないわね、私が選んであげるわ。ありがたく思いなさい」

 

 そう言って飯島は俺の前に置かれたメニューを手に取った。

 

 「そうね……せっかくだから一番高いものでもいいかも。紅茶、一つに千円近くかけるって考えただけでゾッとするけど、今日は特別に許してあげる」

 

「……」

 

 「あら、黙っちゃった。もしかして怒ったかしら。でも私は悪くないわよ。あんたが素直に従わないからいけないんでしょ」

 

「……」

 

 「まあいいわ。ちょっと待ってなさい。今最高のものを頼むから」

 

 そう言って飯島は奥の方へと引っ込んでいった。

 

 「……」

 

 「どうだい? 敦君。うちの子は」

 

 葉月が楽しげに話しかけてくる。

 なんだその言い方。

 まるでこうなることをわかっていたような……。

 メモに書いてあることを演じてたにしては度が過ぎている気がする。

 まさか、全部演技だったってのか?

 俺は葉月の目を見た。

 すると彼女はまたニヤリと笑う。

 その表情を見て確信した。

 こいつ……わざとだな。

 最初からわかっていてあんな要求をしたのだ。

 俺は呆れてため息をついた。ドッと疲れた。

 

 「ん? どうかしたかい?」

 

 「いや、なんでもない」

 

 「ふむ……そうか。それよりもほら、飯島君が戻ってきたぞ? 早く受け取ってあげたまえよ」

 

 「はいはい、わかりましたよ」

 

 飯島が戻ってくると、トレーの上には二つのカップがあった。

 そしてそれをテーブルの上に置くと、飯島は自分の席に戻らず、そのまま俺の隣に座った。

 

 「な、なんで隣にくるんだよ」

 

 「別にいいでしょ。というか、注文した以上は責任持って飲みなさいよね。もし残したりするようであれば……わかるわよね?」

 

 ギロリとした目で睨まれる。

 おい、誰だよこれ。

 本当にあの飯島ゆんなのか? 全然イメージが違うぞ。

 これが本当の彼女だとしたら、普段どれだけ猫を被ってるんだ。

 

 「さあ、早く飲めばいいじゃない。それとも何、私が作った紅茶を飲むのが嫌だって言うの」

 

 「いや、そういうわけでは……」

 

 「ならさっさと飲む!」

 

 「はい」

 

 「よろしい」

 

 命令口調で言われるのにも慣れてきた。

 一体俺は何をしているんだろう。

 

 「美味いな……」

 

 出された紅茶を一口飲んで、思わず呟いた。

 正直驚いた。

 ただの市販の紅茶だが、香りがよくたっている。

 よく休憩時間に紅茶を淹れていることはある。

 

 「当然よ。誰が入れてると思てるの」

 

 「飯島」

 

 「あんたね! そこはさんくらいつけなさいよ! 失礼な男ね!」

 

 「はいはい……」

 

 もう俺は突っ込まないことにした。

 いちいち相手していたらキリがない。それにしても不思議な感覚だ。

 いつもと違う一面を見てしまったせいか、妙に緊張してしまう。

 チラリと横目で見ると、彼女はこちらをじっと見つめていた。

 目が合うと慌てて顔を背けるが、ちらりと見える頬は赤く染まっている。

 やはり飯島も演じるのは恥ずかしいようだ。

 

 「ご…ご主人様、私も構ってくれないと寂しい……にゃん」

 

 今度は涼風が隣に座ってきた。

 しかもメイド服のままだ。

 先ほどと同じように語尾に「にゃ」をつけてくる。

 顔は相変わらず真っ赤だ。

 

 「お、おう。悪いな」

 

 「ううん。気にしないで…にゃん。それより……えっと……その……頭撫でてほしい……にゃん」

 

 「え?」

 

 「駄目かにゃあ……? ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから……」

 潤んだ瞳で見上げてくる。

 これも演技だとわかっていてもその破壊力は抜群だった。

 俺は少し迷ったが、ゆっくりと手を伸ばして彼女の頭を優しく撫でた。

 サラリとした髪の感触が気持ち良い。

 すると彼女は目を細めて嬉しそうな表情を浮かべた。

 涼風のこんな表情を見るのは初めてかもしれない。

 ……確かに可愛い。

 

 「えへへ……嬉しい……にゃん」

 

 「ちょっと!いつまでやってんのよ!」

 

 「!?」

 

 いきなり後ろ襟首を引っ張られた。

 相手は聞くまでもない。

 飯島である。

 

 「な、何すんだ?」

 

 「それはこっちのセリフよ!  デレデレ鼻の下伸ばして! この変態!」

 

 「なんでだよ……」

 

 理不尽すぎる……。

 ていうかお前、自分の仕事忘れてるんじゃないだろうな? そんなことを思っていると、また背後から袖を引かれる。

 振り返ればまた涼風が不安げに見上げていた。

 「どうした?」と訊ねる前に、彼女が口を開いた。

 

 「ご主人様ぁ、よそ見してたらだめにゃん。私のこともちゃんと見るにゃん」

 

 上目遣いで甘えた声を出す。

 

 「……」

 

 その仕草を見て、思わず固まってしまう。

 これは反則だろう。

 

 「ねえ、何か言って欲しいにゃん。私じゃ不満なのかにゃん?」

 

 「いや、そういうわけでは……」

 

 「ちょっと! 私を無視するとはいい度胸じゃない!」

 

 「あ…いや、そういうわけじゃなくて……」

 

 「ふん、いいわ。私だって負けないんだから」

 

 そう言うと飯島は俺の腕に抱きついてきた。

 控えめだが柔らかいものが腕に押し当てられる。

 

 「お…おい」

 

 「あら、照れてるの? 意外と初心なのね」

 

 挑発的な笑み。

 まずいぞこれ。

 どんどんエスカレートしている気がする。

 

 「ゆんさんずるいにゃん。私も混ぜて欲しいにゃん」

 

 さらに反対側からもぎゅっと抱きしめられてしまった。

 もう逃げ場はない。

 正面では葉月が必死に笑いを堪えている。

 

 「くっ……」

 

 「ふふっ。敦君、君は最高だ」

 

 「うるせぇ」

 

 俺は精一杯強がって見せた。

 が、内心穏やかではない。

 

 「さあ、次は何をして欲しいのかしら? 私は何でもしてあげるわよ」

 

 「私も頑張るにゃん。何してほしいか教えて欲しいにゃん」

 

 両側から醸し出す甘い囁き。頭がくらりとする。

 理性が飛びそうだ。

 何か無いか。気を紛らわすことができるものモノ。

 俺は周囲を見渡す。

 したり顔の葉月と何故かお盆を持って突っ立っているだけの篠田。

 後は涼風達が普段仕事しているブースの中と変わらない。

 ……ん?

 俺はあることに気がついた。それは篠田だけ蚊帳の外にされていると言うことだ。

 ただお盆を持ってその場にいるだけ。

 ある意味不自然だ。

 

 「なぁ篠田、なんでお前は突っ立てるだけなんだ?」

 

 もはや話題を切り替えることができるならなんでもよかった俺は、篠田と葉月に声をかけた。

 

 「いや、なんか、葉月さんがお盆もって立ってるだけで良いって」

 

 「なんだそりゃ?」

 

 葉月の方に視線を向けると、得意げな顔で言った。

 

 「篠田君は黙っているだけで可愛いし、せっかくの胸もあるんだからそれを活用すべきと思っただけさ」

 

 「へ…?」

 

 平然と言われた意味不明な言葉に疑念の顔をする篠田。

 まあ無理もない。

 だがまぁ、葉月の言い分は的外れでは無い

 確かに篠田はスタイルが良い。

 身長は女性にしては高い165センチ程度。

 モデル体型というほどではないが、スレンダーな体つきをしている。

 出るところが出て引っ込むところが引っ込んでいる。

 そしてその胸元にはたわわなものを携えていた。

 当然話の流れ的に、その場にいる人間の視線がそこに集中した訳で……。

 

 「…………ふっ」

 

 その意味が分かった篠田は得意げな顔で目配せをしてくる。

 飯島に。

 「っ!」

 

 そして頬を摘ままれた。

 

 「痛っ!」

 

 「ふん! どこ見てるかなんてバレてるんだからね!」

 

 誤解だと言いたいが言える雰囲気ではなかった。

 確かに一瞬だけ目に止まってしまったが、凝視したわけじゃ無い。

 本当に一瞬だけだ。

 だがようやく話題が逸れた。

 ほんのわずかな綻びだが、この茶番を終わらすには十分すぎる。

 

 「お前ら、そろそろ目を覚ませ。ここは会社だからな」

 

 俺の言葉に二人はハッとした表情になる。

 

 「「っ!?」」

 

 同時に手を離すと、俺から離れる。

 すると飯島が真っ先に口を開いた。

 

 「す……すみませんっ!」

 

 どうやら自分が暴走していたことに今気づいたらしい。

 一方涼風はまだ状況が理解できていないようだった。

 だが徐々に冷静になってくると、自分の行動を理解して顔を真っ赤にした。

 そして勢いよく頭を下げる。

 

 「ごめんなさいっ」

 

 「いや、分かってくれたなら良い」

 

 ようやく収まってくれた。

 にしてはかなりの大惨事だが。

 

 「~~~~~~~っ!!」

 

 飯島に至っては今までの言動を思い出してかメイド服のまましゃがみこんでしまった。

 その姿を見た涼風が慌てて駆け寄る。

 なんとか落ち着かせようとしているようだ。

 

 「いやあ、なかなか良い物が見れたよ」

 

 「葉月、テメェなぁ」

 

 「いや、これは本心だよ。私もちょっとやりすぎたかなとは思うけどね」

 

 反省の色が全く覗えない葉月は、優雅にレモンティーを飲んでいる。

 こいつマジでいつかぶん殴ってやる。

 そう心に決めた時、葉月は次のターゲットに目を付けた。

 

 「ん? そこのお嬢さんもこっちに来ないかい?」

 

 それはずっと席に座って作業を進めていた滝本だった。

 というか、マジでいたのかお前。

 しゃべらないから全然気がつかなかった。それ以前によくこの状況で作業できたな。

 感心するのもつかの間、滝本はどうしたかというと……。

 

 「……」

 

 まるでゴミをみるような眼差しで葉月のことを見ていた。

 いや、実際そうなのだろう。

 こんなことに巻き込まれるなんてご免である。あと何故かその視線の標的に俺も混ざっているのは気のせいだろうか。

 そして興味が無いようにパソコンの方を向く。

 

 「ふふ ゾクゾクするねその目線」

 

 コイツは本当にどうしようも無いヤツだ。

 よくやるよ、俺は軽く凹んだというのに。

 

 「いやしかしだよひふみ君」

 

 だが、このバカはまだ食い下がったのである。

 

 「私は思うんだ」

 

 何を言い出すつもりだこの女は。

 もうこれ以上面倒ごとは勘弁してくれと思う俺。

 だがそんな願いは届かない。

 葉月は楽し気にこう言ったのだ。

 

 「もし自分の可愛い彼女が、可愛いメイド服を着て『ご主人様、ご奉仕しますにゃん』と言えば、彼氏はすっごく喜ぶんじゃないかな~って」

 

 コイツ……っ!

 何を言い出すかと思えば、言うに事欠いて増田のことをダシに使い始めやがった!

 自分の恋人の名前を引き合いに出されたのか、滝本の肩がピクッと揺れる。

 それを好機と見た葉月は演説のように続けた。

 

 「いや、絶対に喜ぶはずさ! なんせ自分の彼女なんだからね! 愛している彼女の可愛い姿を見て喜ばない男などいないと断言できる!」

 

 「………………」

 

 「だがあの奥手な増田君の事だ! きっと遠慮してそんなお願い言える訳が無い! そう、だからこそ君は勇気を出して人肌脱いであげるんだ!」

 

 「……」

 

 滝本からの返事は無い。

 だが、聞いていることだけは分かる。

 そして、それがどういう感情なのかも。

 おそらくこの場にいる全員、そして俺ですら分かっている。

 だが葉月の口撃は止まらなかった。

 それどころかさらにヒートアップしていく。

 

 「これは君にとっても悪い話じゃないだろう? 君は大好きな彼氏を喜ばせることができるんだ。そしてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、何枚か写真を撮らせてくれればいい。Win-Winの関係じゃないか!」

 

 なーにがWin-Winだ。

 お前が写真撮りたいだけじゃねぇか。

 何をどうすれば滝本の尊厳は守られるって言うんだ。

 

 「そして君に似合う特別な衣装がここに有る。これを着れば彼はすっごく喜んでくれるはずだ。だから安心して任せたまえ」

 

 そう言って、どこから紙袋を取り出し、震える滝本の後ろ姿ににじみ寄っていく。

 紙袋中には大量の布が入っているように見える。

 

 「さぁ、ひふみ君っ! 君の勇気を見せてみたまえっ!!」

 

 「……」

 

 ガサゴソと中身を取り出す。

 

 「えっ…えぇ!?」

 

 「うそっ……」

 

 「……っ!!」

 

 涼風達も息を飲む。

 中に入っていたのはメイド服だった。

 それもかなり露出の多いタイプの。

 だがそれだけではない。

 

 一番目を惹いたのは猫耳カチューシャだった。

 

 しかもスカート丈はかなり短く、胸元も大胆に開いているため、谷間がくっきりと見えるだろう。

 まさしく男が好きなものを詰め込んだような衣装だった。なぜこんなものがこの会社にあるのかは分からない。

だが、これで滝本がどんな反応をするのかは容易に想像がついた。

 

「さぁひふみ君! 今こそその一歩を踏み出す時ーー」

 「そぉい!!!!!!」

 

 パァン!! 小気味いい音がブース内に響き渡る。

 現れたのは、滝本の彼氏。

 増田純、その本人だ。

 手に握られているのはハリセン。

 葉月の脳天に振り下ろされていた。

 

 「葉月さん! 貴女は最低です!! 僕の名前を使ってこの人に何をさせようとしているんですか!?」

 

 増田が叫ぶ声は、葉月の耳には届かない。

 なぜなら葉月は床の上に伸びて死体になっているから。

 

 「……ふう、大丈夫ですか? ひ……滝本さん」

 

 安堵の息をこぼす増田は、周囲を見渡して愛しの滝本を守れたことを誇りに思っているようだ。だが肝心の滝本がこの場にいない。

 

 「あれ?」

 

 いつの間にか姿を消してしまっていた。

 音も無く消えたから、この場にいる人間も周囲を見渡す。

 

 「……純、君」

 

 だが、しばらくして滝本は現れた。

 それは増田にとって見慣れた顔で、いつも通りの彼女であった。

 だが、ひとつだけ違うところがあった。

 それは滝本の格好。先ほど葉月が取り出したメイド服。

 それを身に纏った滝本が立っていたのだ。

 短いスカートと露出した胸元を手で隠しながら、恥ずかしそうにしている。

 だが、滝本は何か覚悟を決めた様子でゆっくりと動き出した。

 

「ご…ご主人…様……ご奉仕……します……にゃん」

 

 今にも消えてしまいそうな声でそう言った。

 で、当の本人の感想はというと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……………………………グハッ」

 

 死体が2人に増えた。














おまけ

佐藤:…何してんだアイツら。まぁ、俺には関係ないか。

りん;あ、佐藤君(メイド服を着ている)

佐藤;………っ!? ッ! ッ!

りん:さ、佐藤君、大丈夫!?
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