NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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年の瀬の過ごし方

 純視点

 

 年の瀬。

 慌ただしい仕事納めや忘年会が落ち着いて、無事に年末年始の休暇に入った僕が、今どこにいるかと言うと……。

 

 「噂には聞いていましたけど、凄い人の数ですね。ゲーム展の比じゃない」

 

 「…コミケ…だからね」

 

 僕はひふみとあるイベント会場に来ていた。

 それも、コスプレをして。

 

 「ありがとうございます。衣装まで用意してくれて」

 

 「…ううん。私も…楽しみに…してたから」

 

 僕の衣装は件の文豪をイケメンにした漫画の主人公。

 だけどゲーム展の時とは違う。

 ファー付きの襟が高い黒コート。

 首には刺々しいチョーカー。

 これは主人公のIFの姿。

 主人公とそのライバルが所属する組織がもしアベコベだったらと言う物語の姿だ。

 

 「ひふみも、とても似合ってますよ」

 

 「っ…ありがと」

 

 対するひふみの衣装はというと。

 桜色の着物に白い羽織。

 これもゲーム展の時と同じキャラクターの衣装。

 そして僕と同じ、IFルートを辿ることになった姿となっている。

 やっぱりひふみは和服がとてもよく似合う。

ゲーム展のときといい、社員旅行の時といい、着物とは妙に縁がある。

 でもそれは、それだけひふみが綺麗な人だと言うことの裏返しでもあるんだけど。

 

 「じゃあ……行こうか……」

 

 「はい!」

 

 こうして僕達は歩き出す。

 

 「今日一日よろしくお願いします」

 

 「こちらこそ……」

 

 ────── 年末だけあって、会場内は大盛況。

 この寒空を吹き飛ばすほどの熱気に包まれている。 

 しかし流石はコミケ。

 コスプレイヤーも多く見受けられる。

 そんな中、僕らはどうしているかと言うと……

 

 「きゃあああああああっ!!」

 

 たくさんのカメラを持った人たちに囲まれていた。

 

 「凄い! 本物みたい!」

 

 「あの髪ウィッグじゃないの!?」

 

 「ヤバイ! 超カッコいいんですけどーっ!」

 

 …………まぁ予想通りと言えば予想通りの反応である。

 それにしても、随分と反応がいい。

 美人で似合っているひふみはまだしも、僕がこの格好をすると凄い反響が出る。

 それも、よく似てるとか、まるで本人みたいとか言われるのだ。

 ……嬉しいような、恥ずかしいような複雑な気分になる。

 そして、隣にいるひふみはと言うと……。

 

 「可愛いー!!」

 

 「こっち向いてー!」

 

 「ちょっと背が高いけど…成長した姿と思えばこれはこれでっ!!」

 

 と僕以上の人気ぶりを見せていた。

 ひふみもノリノリでリクエストに答えている。

 …あまりの迫力に気圧されそうになるけれど、この場所で撮影を初めてから一時間は経っている。

 その間休憩もしてない。

 そして年末年始の寒空だ。

 そろそろ止めないと。

 僕は鞄からブランケットとカイロを取り出して声を出した。

 

 「すみません、少しお休みしますっ!」

 

 「えぇ~もう終わり?」

 

 「もっと撮らせてよぉ」

 

 「すみませんっ、またお願いします。ひふみ、少し休みましょう」

 

 「……うん」

 

 僕らは近くのベンチに座って身体を休めることにした。

 

 「大丈夫ですか? 結構長かったですし」

 

 「……私は平気。純君こそ……疲れたんじゃ……ないの?」

 

 「いえ、僕はコートなので」

 

 幸いにも、僕の衣装は長袖で厚手の服。

 防寒着としては十分すぎる。

 ひふみの着物も羽織が付いているし、初デート時にしたポートレートに比べれば寒くないだろう。

 けれど、ひふみの唇の血色が悪くなっているのを僕は見逃さなかった。

 

 「はい、毛布です。内側にカイロも入れれば暖かいです」

 

 僕は持ってきたブランケットを広げてひふみにかける。

 内側にカイロも入れて。

 これならかなり暖かくなるだろう。

 前の反省を活かして予め準備して正解だった。

 衣装とか全てひふみが用意してくれてた。だから、こういう時くらい僕がしっかりしないと。

 

 「…ありがと。凄く…暖かい」

 

 そう言って微笑むひふみ。

 その笑顔を見て、僕まで嬉しくなってしまう。

 

 「……でも、純君も…冷えてる…でしょ? だから……」

 

 するとひふみはブランケットを広げて僕に近づいてくる。

 そしてそのまま僕の肩に頭を乗せた。

 

 「ちょっ、ひふみ!?」

 

 「こうすれば……二人とも……温かい…よ?」

 

 「それは、まぁ……確かに」

 

 身を寄せあい、一枚のブランケットを二人で使う。

 お互いの顔が近い。

 そして、触れ合いそうなほどに。

 お互いの体温がじんわりと伝わってくる。

 心までもが温かくなっていくようだった。……だけど、そんな幸せは長く続かないもので。

 

 パシャッ! カシャッカシャァ!!

 突然聞こえてきたシャッター音。

 そして周りがざわつき始める。

 何かと思って正面を見てみると、そこにはカメラを構えた多くの人たちが群がっていた。

 中にはスマホで動画撮影している人もいる始末。

 

 「やばっ!」

 

 「………………」

 

 「す、すぐ離れましょう!」

 

 「……ダメ」

 

 「へ?」

 

 「もう少し、このままが……いい」

 

 「えっと……」

 

 ひふみはさらに頭を預けるようにして密着する。

 恥ずかしい。

 凄く恥ずかしい。

 けれど、こんなところで騒ぐわけにはいかない。

 それにひふみが嫌がってないし、僕だって……。

 結局、僕達はしばらく動けず、周りの視線に耐えながら時間を過ごすことになった。

 

 ●

 

 ───コスプレ広場を後にした僕らは、いつもの私服に着替え後、帰路に着くことにした。

 ひふみはというと、ずっとご機嫌のまま。

 どうやら楽しんでくれたようだ。

 僕自身も今日は楽しかった。

 最初は周囲の視線やカメラの音が気になったけど、ひふみの顔を見ると、ひふみしか見えないし聞こえない。

不思議な感覚だった。

 

 「じゃあ、帰りましょうか」

 

 「…今日は、ありがと」

 

 「いえ、こちらこそ。それではよいお年を」

 

 「ん、来年もよろしくお願いします」

 

 お互いに挨拶をして別れようとするのだけど、ひふみの様子が変だ。

 

 「……」

 

 どこか落ち着きがない。

 何かあるのだろうかと怪訝な顔をしてしまうが、ひふみはゆっくりと口を開き、僕の名前を呼ぶ。

 

 「…純君」

 

 「はい?」

 

 「その……純君は、お正月、どうするの?……実家に……帰る?」

 

 「え? はい、特に…自宅にいるつもりですけど」

 

 何故そんなことを? とは思ったものの、特に気にせず答えることに。

 すると、ひふみは何だかもじもじとしていて言うべきかどうか迷っている様子。

 何だろう、この感じ。

 

 「えっと…ね、もし……良かったら、来ない?」

 

 「え? どこにですか?」

 

 「……うち」

 

 「はい?」

 

 今なんて言った? うちに……来る? え、どういうことですか、ひふみさん。

 

 「…だから、クリスマス…の時……みたいに、一緒に……過ごさないかなって」

 

 ……クリスマスの時と同じような誘い方だった。

 まるで同じセリフを言うように仕向けられたような気がした。

 だけど断る理由なんてない。

 僕の家に来てほしい気持ちもあるけれど、宗次郎君を家に置きっぱなしにはできない。だから、僕は迷わず答えた。

 

 「はい、喜んで」

 

 「……良かった」

 

 ホッとした表情を見せるひふみ。

 本当に嬉しいんだなと思う。

 

 「でも、どうして急に?」

 

 「……クリスマスの時は、出来合いばかり…だったでしょ? だから、おせちとか…作ってあげたい……なって」

 

 「それって…」

 

 思わず息を飲んでしまう。

 ひふみの手料理。

 それが食べられるかもしれないのだ。

 そう思うと胸が高鳴る。

 

 「それで、どうかな?」

 

 不安げな顔で聞いてくるひふみ。

 僕はすぐに返事をした。

 

 「はい、是非とも食べたいです!」

 

 「うん、分かった。頑張って作るから、楽しみにしてて」

 

 「僕も手伝います」

 

 そうして僕らはその足で買い物に出かけることになった。

 材料はもちろん、ひふみが持ちきれない分を運ぶために。

 こんなに心が踊る年の瀬はいつ以来だろう。

 きっと小学生の時ぐらいじゃないかと思ったりしながら、僕達は並んで歩くのであった。

 

 ●

 

 ──そして大晦日。

 時計の針はもうすぐ12時を迎えようとしていた。

 僕はひふみの家にいた。クリスマスの時と同じ部屋。

 テレビでは大晦日の特番がいよいよ大詰めのところ。

 炬燵に入ってひふみを待ってる。

 当然、宗次郎君にも挨拶をすませた。

 クリスマスの時以来、少しずつ仲良くなれて嬉しい。

 

 「純君」

 

 ひふみの声が聞こえると同時に玄関ドアの方を見る。

 両手に持っているお盆にはどんぶりが2つ。1つは僕の分かな? と思いつつ近づいてきた彼女の手にあるものを受け取る。

 そしてテーブルの上に置く。

 年越しそばだ。蕎麦の上には海老天やカマボコなんかが乗っていて、どれも彩り豊かで見ているだけで涎が口の中に溢れてくる。

 

 

 「おそばは、お店の…だけど…出汁とか…天ぷらとかは、手作り……だよ」

 

 「凄い……ですね」

 

 「おせちも…お雑煮も…楽しみに待っててね」

 

 笑顔で言うと、彼女は自分の席につく。

 僕も対面するように座った。

 二人で手を合わせていただきますと言うと早速箸を伸ばす。

 まずは蕎麦を一口。ズズと音を立てて食べると、口いっぱいに広がる香りと味。ああ、美味しい!

 続いて海老天を口に運ぶ。衣のサクッとした食感と共にプリップリの海老の身が出てくる。これもまた堪らないほどに美味しかった。

 

 「すごく美味しいです」

 

 「…ありがと」

 

 それだけ言って微笑むひふみ。

 僕もそれに釣られて笑みを浮かべてしまう。

 それからは他愛もない会話をしながら食事をしていた。

 テレビの話題が中心。

 今年は色々とあった。

 まさかひふみと恋人になって、こうして一緒に過ごすことになるとは思わなかった。

 今にして考えると、去年までの生活と比べると信じられない出来事だ。

 

 「……純君は、今年一年……どうだった?」

 

 「そうですね…今年は色々ありましたけど、やっぱり…ひふみと出逢えたことが一番大きかったかもしれません」

 

 「私も……同じ。……純君に出逢えて良かった」

 

 「あはは、それは僕も同じですよ」

 

 「じゃ、来年も……よろしくお願いします」

 

 「こちらこそ」

 

 そんなやり取りをして、僕達は笑い合った。

 そして…時計の針は進む。やがて、12時になった。

 僕たちはお互い、見合うようにして頭を下げる。

 

 「明けましておめでとうございます」

 

 「おめでとう…ございます」

 

 二人揃って新年の挨拶を交わすと、お互いに顔を見合わせてクスっと笑うのであった。

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