NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
柚貴視点
正月。
俺は機嫌が悪かった。
理由?
知るか。
そんなの別にいいだろ。
俺がイライラすることに理由なんて必要か?
「あのバカ」
三ヶ日が開けた朝、俺は単衣のままベッドに寝転がっている。
大学はまだ冬休み。あと数日は講義はやってない。
アパートの部屋は静寂に包まれていて、それがより苛立ちを加速させる。
3日ほどこの調子だ。
せっかく俺が渡したあれを使わず、何てんるんだか。
「ゆずっちー!」
……やっと。
…………やっとうるさいやつが来た。
声は窓から聞こえた。窓を開けると、すぐ下で桜がいた。
そして、
「あーそびーましょー!!」
などとほざいている。
「……」
ピシャリと窓を閉めた。
「ちょ!? ゆずっち!?なんで閉めるのよ! 開けてよぉおおお!!」
窓の外から騒がしい声が聞こえる。
が無視だ。
クリスマスの日以来、予定があるとか言いやがってしばらくうちに来なかったと思えばこれだ。ったく。あいつには本当に振り回されるな。
やがて声が止んだ。
しばらくすると今度はドタドタと、声とは違った騒がしい音が
聞こえてきた。玄関の前で止まる音もして、ガチャリと鍵が開く音がした。
「……おじゃましまぁす」
らしくもなく遠慮がちにそう言って入ってきた。
そのまま部屋に入り、ベッドで横になっている俺の方を見て目を丸くする。
「えっ?」
「なんだその反応」
「いやだって、いつもなら怒るじゃない」
「……知るか」
俺は寝返りをうって背中を向けた。
確かに機嫌は悪い。だが、俺はいつもキレたりはしないんだ。
「…で、今日はなんで来た?」
「それがね、あおっちと遊ぼうって思ってたんだけど、今日から仕事だって」
「……それで俺んところに来たのか」
つまり俺は代わりってことか。
やっぱりなんかムカついてきた。
「……ゆずっち、やっぱり怒ってる?」
桜はベッドの横まで来て、申し訳なさそうな声で言う。
それも無視だ。
「だって、しょうがないでしょ? 大晦日はずっと前からあおっち達と約束してたんだってさ」
「……」
「もう、そんなに拗ねなくてもいいじゃん」
「……拗ねてない」
嘘だけど。
ああイラつく。
別に桜が悪いわけじゃないし、あいつらにも用事があるだろうし、仕方ないことなのはわかっている。けど、どうしようもない感情が胸の中に渦巻いて、止まらない。
だけど、認めたら負けな気がした。
「……じゃあさー」
桜は言った。
「来年は2人で行こうよ。高尾山」
「……」
「ほら、私もまた行きたいしさ。そこで一緒に初日の出見ようよ」
「……」
「ね?」
俺は無言で起き上がる。そしてベットから降りた。
「…ゆずっち?」
ハンガーにかけられた革ジャンを手に取ると、そのまま羽織る。
そして玄関まで歩きだす。
「……飯」
「え?」
「飯、食いに行くぞ」
「…………うん!」
振り返らずに出て行く。後ろからは喜色の声が伝わって来た。
まったく、世話のかかるやつだ。
でも、不思議と嫌な気分ではなかった。
そのまま、後ろから聞こえる足音を感じながら適当にファミレスに入る。
個人経営の店はまだほとんど営業してないからだ。
注文を終えて、料理を待つ間、向かい合って座った桜が言う。
「そういえば、ゆずっち。名波さんどうだったの?」
桜はクリスマスの時に横槍を指してしまった名波の名前を出した。
「あぁそれか」
今思い返してもゾッとする。
あの仏教面で部屋に長時間居座られたのだ。
説教も小言もないただ無言で。
正直、あの日は生きた心地がしなかった。
「大丈夫だよ。謝ったんたから」
「うみこはどうだった?」
「……」
桜の顔色が青くなった。
何されたんだコイツ。
「……何があった?」
「……えっとね、……そのね……電話で呼び出されて……それから……ああっ……ああっ………………!!」
「もういい何も言うな」
聞かない方が良さそうだ。
俺が察したことを悟ったのか、桜は青い顔のまま話を変えた。
「あ、そういえばねっ。初日の出見に行った時に友達の友達と会ったんだ」
「…それは、幼なじみじゃないのか?」
いつも話しているあおっちという奴ではないらしい。
コイツの交友関係は謎が多い。
幼なじみとやらもそのうちの1人なんだろうか? 桜は首を横に振る。
「高校の時に美術部で知り合ったんだ」
「お前、美術部だったのか。あの絵で」
「もー! それは言わないでよー!!」
前にコイツの絵はゲーム製作の時に見たが落書きみたいなモノだった。
美術部に入って何してたんだコイツは。
「それでさ、その子、すっごく絵がうまくてね。フランスに留学してたんだ」
外国か。
想像もつかない世界だ。
そんなことを考えていると、店員が料理を持ってきた。
「その子ね、しばらくフランスにいたから日本語忘れてたんだー」
桜は話を続けながら、料理を頬張る。
俺は料理を口に運びつつ、会話を続ける。「フランス流の挨拶も凄かったよ」
「へぇ」
どんなものか気になった。
「ハグしながらキスするの」
「……」
「すっごくびっくりしちゃってさー」「……」
「もう、恥ずかしくて」
「……」
「ゆずっち?」
「……」
「ゆずっち、聞いてる?」
「……帰る」
「ちょっと!?」
俺は席を立って出口に向かう。
後ろから桜が追いかけてくる。
「待ってよゆずっち! まだデザート来てないんだけど!?」
「うるさい!」