NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
純視点
「先輩……僕、どうしたらいいんでしょう」
「お~う」
今日の仕事を終えて、久しぶりに帰るという先輩と一緒に僕は今居酒屋にいる。
僕は先輩の同期の人が経営してる居酒屋のテーブル席で頭を抱えている。
昨日の休日のライブの時に仕事の曲も入ってるウォークマンを無くしてしまった。
まだ未公開の曲ばかりだというのに、もしも一般人の人に聞かれたら──
「販売中止……下手すればクビ!?」
「あ~かもな~」
会場は県外だから来週取りに行って間に合うかどうかもわからない。
ライブで一緒にいた滝本さんに聞けば何かわかるかもしれないけど、僕は女性ばかりの班に行く勇気なんかない。滝本さんとは最近SNSでも話してない。やっぱりたまたま同じ会社にいたこともあるせいか、SNSでもなんて言えばいいかわからなくなってきてる。
ていうか──
「なんで先輩そんなにどうでもよさそうなんですか!?」
僕はテーブルを思いっ切り叩く。
今回の『フェアリーズストーリー3』は、かなり期待されている。なのに、こんなミスしたら取り返しなんてつかない。
それに、あの中には僕が7年前から作曲してきた全ての曲が入っている。
なのにこの人は、そんな大変な状況なのにも関わらず、どうでもよさそうな顔でウイスキーをチビチビ飲んでいる。
「あの、先輩! 僕の話を──」
「あのさ、増田」
突然口を開いた先輩は、ポケットから何かを取り出し、テーブルに置く。
それは白いウォークマン。
あれ? これなんだか僕のに似てないか?
いや、僕のだ。間違いない。
試しに電源を入れてファイルを見てみると、僕のだと確信する。
この曲は間違いなく僕のだ。
「先輩、これ……どこで?」
「いやな。なんか今日、キャラ班の俺のデスクの上に置かれてた」
「えー!?」
本気で驚いた。
一体千葉県にあるはずの物が、なぜ東京の、しかも先輩のデスクの上に?
確かにあの時、持ってきていたはずだけど。
「な、なんでそれもっと早く言ってくれないんですか!?」
「なんか言い出しずらくてな」
「あぁ~。助かった~。戻ってこなかったらどうしようかと」
僕は思わず安堵のため息が出てしまう。
良かった。本当に良かった。
「あ、でももしかしたら社外の人に聞かれてる可能性も──」
「それはないだろ」
先輩は、僕の懸念をすぐさま否定した。
僕は思わず先輩に質問してしまう。
「なんでですか?」
「うちの会社は、社員しか入れない仕組みになってるんだぜ? なのにお前のソレが社内の俺のデスクの上にあるってことは、それは間違いなくうちの社員だ」
「それって、誰かが届けてくれたって訳ですか?」
「おまえに渡さず、俺のところに置くっていう回りくどい手口には理解しかねるがな」
「なんだい? 探偵ごっこでもしてるの? いい歳して」
横から声が聞こえて、音のしたほうを見ると、エプロンをした茶髪の男性が立っていた。
「探偵ごっこじゃねぇよリョウ」
「あはは、そうか」
「あ、こんばんは、リョウさん」
「うん、こんばんは。久しぶりだね。純君」
先輩がリョウと呼んだ彼は、この店のオーナー坂倉亮太さん。僕も先輩の影響で、リョウさんと呼んでいる。
リョウさんと先輩は実はイーグルジャンプの同期だったらしい。
僕たちはたまにこの店で飲む。しかも貸切で。
「てかリョウ。お前、店はもう閉めたのか?」
「うん。掛札はかけといたからもう客は来ないよ」
「ほんじゃ、ウイスキーお代わり。あといつもの麻婆豆腐くれ。とびきり辛いヤツ」
不敵な笑みを見せるリョウさんに、先輩はグラスを渡して注文した。
麻婆豆腐って……。どこの神父だよ。
「OK。純君は?」
「……そうですね。いつものワインとそれに合う料理って何かあります?」
「そうだね。今日は初鰹が来たからそれにしろうか。君の好きなのによく合うよ」
「じゃあそれで」
僕もいつも飲んでいる銘柄のワインを頼む。
初鰹か、タタキにしてみようかな。
「初鰹って、旬は5月から6月じゃなかったか?」
「土佐だとその辺りが一番美味しいんだけど、初鰹って3月からでも太平洋に戻ってくるんだ」
「ほ~」
関心してる先輩を見てから、リョウさんは厨房に戻っていった。しばらくすると、調理している音が聞こえてくる。
それにしても、ここはいい雰囲気のお店だと思う。普通の居酒屋よりも種類が多し料理も美味しい。
その上、リョウさんの料理も評判だから、日が昇っているときは、普通にレストランとしても営業してるらしい。
「で、さっきの続きなんだが。コイツを俺のデスクに置いたのは間違いなくうちの社員だ」
先輩はポケットからタバコを出して、火をつけながらさっきの話に戻った。
タバコを吸い始めて、肺にたまった煙を口から出す。口を端のところから狭く出しているので煙が僕に当たることはない。
「そうなりますか」
「そんで、お前がこれを無くした時に一番近くにいた奴が、犯人かもな」
「犯人って……」
この人地味に推理するの楽しんでないか?
だとしても、無くした時に近くにいた人と言われてもなぁ。
──ん?
「滝本さん?」
「はぁ? ソレってうちのキャラ班の?」
思い出した。
確か滝本さんに一度渡したはずだ。なら、彼女が置いてくれたのか?
あの人、多分サウンドチームのところまで来れなさそうだし。
イベントの時も、先輩の名前は出したからもしかしたら。
と頭を働かせていると先輩は唐突に切り出してきた。
「え? ちょっと待って、お前と滝本ってデキてんの?」
「そ、そんなわけないでしょ!!」
あまりに突然切り出されたものだったので、大袈裟に反応してしまう。
不意に顔が熱くなるのを感じる。
「た、滝本さんとはこの間の休みの日にたまたま会って……それで」
「ウォークマン渡したって訳?」
吸い殻を灰皿に落としていた先輩は余計な過程はすっ飛ばして、結果だけ尋ねてきた。
「……はい」
納得はできたけど、情けない。
僕が持たせたはずなのに、すっかり忘れてしまった。滝本さんにも迷惑かけただろうに。
「まあ、滝本の性格なら、わざわざ俺のデスクに置くのも納得だな」
「先輩は滝本さんのこと知ってるんですか?」
「何回か仕事したことあるからな。なるほどなるほど、お前と滝本ねー」
「何がなるほどなんですか?」
「いや、滝本って童貞に好かれそうだなって前から思っててな」
「滝本さんに謝ってください!!」
本気で怒鳴ってしまった。
他人の店なのに。
正気に戻ったときには、リョウさんが複雑な顔をしながら料理と酒を運んできた。
「もーちょっと声小さくしてくれるとうれしいな」
「あ、すみません……」
「敦も、あんまりからかうなよ。それにしても、純君にも気になる女の子ができたわけか」
「いやだからそういうのではなくて──」
「よしっ! せっかくだからお祝いしよう。今日は奢りでいいよ」
「おぉ、気前がいいな」
「ちなみに敦持ちね」
「おいっ!!」
ずっこけている先輩を見て僕は─
ザマァと、心の底から僕は思った。
リョウさんは麻婆豆腐とウイスキーのお代わり、そしてワインと……あれ? タタキでも刺身でもないぞ?
何やらサラダのような物を僕の前に置いてくれた。
「リョウさん、これは?」
「タタキや刺身はありきたりだったからね。カルパッチョ風にしてみた」
「へー。美味しそうですね。それじゃいただきます」
「……いただきます」
僕につられ気味に、先輩も手を合わせてから麻婆豆腐に手を付け始めた。
先輩、そーゆうのはちゃんとしたほうがいいですよ。
と、内心呆れながらサラダを口に入れる。
やっぱりリョウさんが作った料理はおいしい。
さっぱりとした初鰹と、シャキシャキとした香味野菜がアクセントになっていい。
確かにお店やっていけるわけだ。
「はい。二人ともおまたせ」
リョウさんはウイスキーとワインをグラスに入れて、それぞれのテーブルに置いてくれる。そして、リョウさんも自分の酒とグラスを持って席につく。
僕は軽くグラスを揺らしてから香りを立たせてから一口つける。
「いずれにしても、純君はその滝本さんにお礼言った方がいいと思うよ。できれば直接ね」
「え? でも、避けられないでしょうか? 正直不安なんです」
SNSでも完全に音信不通。
基本的こちらから話しかけてたとは言え、今回は声をかけずらい。
「そうかな? きっとその子も同じ言考えてると思うよ」
「そうだといいのですが……」
俯いて考え込んでしまう。
不安しかない。
逆に会いに行って引かれたりしないだろうか。
そんなことばかり考えてしまう。
「そんなんだからいつまで経っても童貞なんだよ」
「童貞言わないでくださいっ!」
●
「どうしよう……」
昼休み。
僕は会社の一階にあるカフェテリアに来ていた。
昨日の夜、先輩とリョウさんに背中を押されて来たのはいいけど、肝心の滝本さんはいないし、カフェテリアは女性しかいない。
ヤバい。帰りたい。
「……っ!」
カフェテリアのアウェイ感に押されて、通路に戻ってしまう。
そして人気のないところで一息つく。そこには大きな窓があって、自分の顔が映るほどクリアだ。
落ち着け。あそこには滝本さんはいない。僕があそこにいる理由はない。
となると、やっぱりキャラ班のところか?
でも、先輩の話からして、キャラ班は女性しかいないと聞く。
突然男の人が来たら驚かれるだろうし、滝本さんに迷惑をかけるわけには──
「あ、純君……」
「?!」
後ろから、あの時と同じ控えめな声がする。
反射的に振り返ってると、そこには暗紅色のポニーテールをした女性。
滝本ひふみさんが立っていた。
「っ……!」
あまりに急に動いたせいか、滝本さんも驚いている。
しまった。
「あ……すみません、驚かせて」
つい目を逸らしながらの謝罪になってしまう。これじゃ誠意が伝わらないのはわかってるけど、なかなか彼女の目を見れない。
「だ……大丈夫、だよ。ごめんね。後ろから話しかけて」
「いえ……こちらこそ」
「……」
「……」
なにやってるんだ!
あの時はちゃんと話せただろう!
それなのに言葉が出てこない。
くそ──落ち着け、僕は滝本さんに会いに来たのはウォークマンのことを聞くため。
もし滝本さんが先輩に届けてくれたならそのお礼をするために来たんだ。
目的を忘れちゃだめだ。
「あの……滝も──」
「おんやぁ~? 何やら面白い絵面だねぇ」
「「!?」」
僕と滝本さんの間には、メガネをかけた女性がレンズをキラリと光らせていた。
ウェーブがかった髪、両手で太った猫を抱いている彼女の名前は──
「は、葉月さん……」
この人は『フェアリーズストーリー3』のディレクター。職場に飼い猫のもずくをつれてきてる変わった人。先輩もなにやら目の敵にしてる。
「ん~? もしかして二人でこんなところにいるってことは何やら特別なことでも」
「そ、そんなんじゃ……」
咄嗟に滝本さんの方を見ると、滝本さんもポニーテールをぶんぶんと揺らしている。
それを見て葉月さんは徐にスマホを取り出すと慌ててる滝本さんの写真を撮った。
「!?」
「あとついでに」
今度は大きめに撮ったのか、フラッシュが僕まで来た。まさか──
「ちょっ!」
この人! 何で僕まで撮るんだ。
しかもさっきの、まさか僕と滝本さんの写真撮らなかったか!?
それって結構マズい誤解を招くことになるんじゃ。
「安心したまえ、別に言いふらしたりしないさ。社内恋愛は禁止してないけど、ほどほどにね」
といって、葉月さんは光のように現れて影のように消えていった。
いや! 何も解決してない!
写真撮られたままだ。
「え……あ……!」
どうすればいいんだ?
葉月さんは言いふらしたりしないといってたけど、先輩に相談しようか。
でも葉月さんのことを話したくはないし。
「あの……純君……!」
「あ……っ! すみません」
先ほどの出来事があまりにも衝撃的だったので、滝本さんのことを忘れてしまった。
すぐに滝本さんと向かいあうけど、また言葉を失ってしまう。
「……」
「……」
ダメだ。このままじゃ昼休みが終わる。
イベントのときはちゃんと話せた。なら大丈夫、なはず……。
勇気を出せ。いつまでもこのままでいたくないから僕はここにいるんだろう。
「……滝本さん」
「何……かな?」
大丈夫。目的は忘れてない。
あとは口に出すだけ。
「この前はお疲れ様です。その……もしかして僕の忘れ物、先輩……敦さんに届けてくれませんでした?」
言えた。
とりあえず、最低限の質問はできた!
内心安堵する。
あとは滝本さんの返事を待つだけ……。
「……やっぱり、純君の……だったんだ。あれ」
「そうでしたか。ありがとうございます。大切なものだったので」
たどたどしい言葉ではあったが、彼女がそれを届けてくれたことや、ちゃんと話せたことでより安堵が深まる。
安堵故か、さっきよりもすんなり言葉が出た。
表情も、不思議と緩んでいるのを感じる。
「……その、ごめんね……勝手に持って帰っちゃって」
「あ、謝ることないですよ。僕はお礼が言いたかっただけですし」
「でも……ちゃんと、渡すことできなくて……それで、敦さんのデスクに置くしかなくて……」
滝本さんは申しわけなさそうにしながら俯く。
それでもいい。ちゃんと僕のところに帰ってきたわけだし。
それに滝本さんが持ってたなら情報漏洩の可能性もないわけだし。
「そんなに気負わなくてもいいですよ。僕だって、同じようなものですし」
僕も、滝本さんと初めて会ったとき、彼女の落とした物をちゃんとした形で渡せなかった。
あんな風に振る舞ってしまったのに、滝本さんは僕を嫌ったりせずちゃんと話してくれる。
だから、そんな風に落ち込まれるのは、少し嫌だった。
「……なんだか似てるね、私たち……」
「……!」
あの時のことと、今のことを重ねて、懐かしんだような笑みを、滝本さんは見せてくれた。
心臓の鼓動が急にギアを上げたのを感じた。
初めて見た。
イベントの時みたいに、『何か』を通してではなく、直接、僕の前で笑顔を見せてくれた。
あまりにも魅力的だったそれに、僕は直視することができずにまた目を逸らしてしまう。丁度目を逸らした向きに大きな窓ガラスがあった。
滝本さんは僕が目を逸らしたのが気になったのか笑顔のまま窓ガラスの方を向く。
「?……!?」
滝本さんは自分が笑顔になったことに気づいてなかったのか、目を丸くして慌てて顔を隠してしまった。
「た、滝本さんっ!?」
「わ……忘れて」
「お金!?」
滝本さんはおずおずと千円札を取り出しながらお願いしてくる。
そこまでするの!?
「そ、そこまでしなくても……」
ていうか多分お金もらっても忘れられる自信ない。
少なくとも、それくらいには女性的で魅力があった。
「いや……だって、こんな顔……」
「そんなことないですよっ。 その……綺麗でしたし……」
女性を口説くような言葉を言うのは、少なくとも僕には難度が高すぎたので最後の最後でたどたどしくなってしまう。
「~っ!」
滝本さんは言葉にできないような悶絶を見せながら顔をより真っ赤にしている。
ちょっと待って。
これ僕には刺激強すぎるんだけど!
ていうか、変なこと言ったせいでこうなっちゃってるんだから謝らないと!
「あ、すみま──」
「おかしく……ない、かな?」
「へ?」
僕が謝る前に滝本さんは上目づかいで尋ねてきた。いつものたどたどしい声がより一層不安定になっている。
慌ててたけど、何故か冷静になった。驚き故か、逆に僕の脳がショートしたのか、そのどちらかなのかはわからないけど、少なくともおかしくないわけがなかった。
「……はい。素敵です」
「……じゃあ」
滝本さんは顔を上げてもう一度笑顔を作ってくれる。だけどさっきのとは違いまるで油のさしていないロボットのようにぎこちない。
「…………………………………………うぅ~」
「いや、できつつありましたよっ!」
「無理ぃ~」
滝唸りながら千円札で顔を隠してしまった滝本さんに僕は必死でフォローした。
だけど滝本さんは首をぶんぶんと横に揺らす。一緒にポニーテールとリボンを揺れる。
「あ……!」
腕時計を見るともうすぐ昼休みが終わる。
そろそろ持ち場に戻らないといけない。でもその前に、僕は滝本さんに話しかけた。
「滝本さんっ」
「は、はいぃ!?」
滝本さんはビクッと肩を震わして僕の目を見る。まだ落ち着けてないみたいだ。だけど僕は言った。
「あの……改めて僕の忘れ物届けてくれてありがとうございます。そのよかったら──」
僕はできる限り笑って見せた。ぎこちない笑顔かもしれない。下手すればドン引きされるかもしれない。
だけど、それでも笑って言った。
「またお話しませんか?」
また前みたいにSNSで気軽に話したい。リアルでも、イベントの時や、今みたいにちゃんと話したい。
そんな思いで僕は言った。
「……いいの?」
「はい。音楽の話しかできないと思いますけど」
「つまらなく……ないよ。私も……また純君とお話……したい」
滝本さんは笑ってくれた。
さっきみたいにぎこちない笑顔でも、最初に見せた懐かしむような笑顔でもない。本当に澄んだ笑顔で。
「ありがとうございます。それじゃ、今日はこれで」
「うん……バイバイ」
そうやって、僕は滝本さんと話し終えた。
色々やらかしたことはあったけど、目的のことは伝えれたし、何より滝本さんの笑顔を見れたことが、すごく嬉しかった。
僕はサウンドチームの部屋に入る。そこには、先輩が自分のデスクで作業をしていた。
「おー増田。どうした? そんなにニヤケて。はっきり言ってキモいぞ?」
「そぉい!!」
僕は先輩にドロップキックをお見舞いした。
オリキャラ
名前 坂倉亮太
年齢 32歳
身長 178㎝
体重 60㎏
好きなもの 料理(作ること)
嫌いなもの クレーマー
前回の話、敦さんが話してた、かつての四人目の同僚。
多分今作品のオリキャラの中でトップクラスのイケメンかも。