NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
青葉視点
「も~朝からなんだか疲れちゃったよ~」
年末年始のお休みが終わり、仕事はじめの朝のこと。
ねねっちは呑気に遊びに誘おうと騒いでたけど、こっちはもう仕事なのに。
あぁ、学生はいいなぁ。
「なーにだらけてんだよ。休みボケか~?」
「あ! あけましておめでとうございます」
オフィスに入った途端、書類を持った八神さんと鉢合う。もう仕事モードになってるこの人を見ていると、私も気持ちを切り替えないとって思う。
気持ちを切り替えないと……っ!
「あけおめ。もう、そんな顔、敦さんに見せないでよ? 今にピリピリしてるから」
「え?」
急に敦さんの名前が出てきてドキッとする。
ここで敦さんの名前が出るとは思ってなかったからだ。
この前の幹事のこともあるし、顔を合わせずらい。今思い返しても顔が熱くなる。なんであんなことしちゃんだんだろう。
……そして、敦さんは何をしているかというと。
「あ……あれは?」
「大晦日も正月も普通に働いていた人だ。面構えが違う」
そこには、死んだ魚のような目で作業をしている敦がいた。
敦さん……!!
確か、もうすぐマスターアップの作品があると言っていた。
敦さんのその瞳に生気がないように見えるのは私の気のせいですよね!?︎
ねぇ、そうだと言ってください!!︎
だって、敦さんの顔色が悪いように見えなくもないんだもん!
ただでさえ、キャラデザのことで助けてもらっているのに……。
「……またメイド服来てご奉仕したら元気出してくれますかね?」
「むしろ逆効果じゃない?」
でも、今の私はそれくらいしかできない気がするんです……。
だから、やるだけやってみようかなと思ったり思わなかったり……。
「それより、昼前にプロトタイプ版に向けての会議するから青葉も資料用意しといて」
「は、はい!」
そう言って八神さんは自分の席に戻っていった。それでようやく意識がはっきりとした。
そうだ。そんなことよりもやるべきことがある。
社員旅行の前に言ってた佐藤さんの言葉を思い出す。
それが正しいなら、私は少しでも頑張らないと行けないんだ。
敦さんとの約束を果たすためには、まず私が早く一人前になること。
そして、敦さんに認めてもらう。それがやっと見つけた私のやるべきことなんだ。
「…よし! 私も気合いを入れなきゃ!」
●
そしてやってきたお昼休み。
自分の席に戻ってきた私はようやく一息つく。今日はお弁当を買おうと思っていたんだけれど、ひふみ先輩が用意してくれたおせちを皆で食べることになり、他のメンバーの人達と過ごしていたのだ。
それにしても、コンペに受かってから会議に出るのは始めてじゃないけれど、やっぱりたくさんの人の前で話をするのはまだ慣れない。
りんさんはいつもそれやっていると思うと改めて感心してしまう。
そして、その彼女は今どうしているかと言うと……
「もう聞いて佐藤君。コウちゃんったらひふみちゃんの肉じゃが勝手に食べてしかも私より美味しいって言うの。こっちがいつも好みの味付けにしているっていうのに酷いと思わない?」
「そうだな」
新年早々、いつもの調子で八神さんの愚痴を佐藤さんに話していた。それはさっきのひふみ先輩が作った料理の話。
ひふみ先輩の料理を八神さんがつまみ食いした。
こういう時、八神さんの無神経さには頭を痛める。
主に佐藤さんが。
なぜなら、こうしてりんさんが愚痴を話す口実なってしまうから。そして、巡り巡って私が八つ当たりされることに……。
「このお正月だって初詣に行きたかったのに、混むから嫌だの一点張りだし、本当で困っちゃうわ」
「…そうか」
……でも、そんな状況も少しずつ変化がある。
社員旅行以来、りんさんが話す表情と佐藤さんの聞く表情に微妙な差がある。
りんさんの声が少し浮ついているような。
どこか緊張しているような。
佐藤さんの表情が少しだけ柔らかいような。
どこか安心しているような。
ほんの小さな違いかもしれない。でも、確かに二人の間に何かが生まれている。
そんな予感がした。
「それでね、コウちゃんが──コウちゃんで──コウちゃんを──コウちゃんは──」
「……」
……なんだろう。
あんまり変わってない気がする。
私はまた別の方向を見る。
そこはブースの入り口。ひふみ先輩が席に戻ってくる最中だった。
それも、彼氏さんをつれて。
「あ、滝本さん。お弁当、ありがとうございます。とても美味しかったです」
「…うん。よかった」
この2人もある意味ではいつも通り。
でも、社内で付き合っていることを隠さないようになった。
多分、これが一番大きな変化だと思う。
まぁ、もうほとんどバレバレなんだけど。
2人が会社の中で話しているところを見かけるようになったし、一緒にいる時間が増えたように思える。
特にひふみ先輩は、メッセ以外で話す機会が多くなった。社員旅行の時に話してくれた時のこと以来、目に見えて積極的だ。
今日だって、私達におせち作って持ってきてくれたし……。
ひふみ先輩も佐藤さんも、上手くいってくれると良いな。私は密かに願っていた。
それからしばらくして、お昼休み終了のチャイムが鳴る。
「……そろそろ仕事に戻りましょうか」
「うん……またね」
「はい」
そう言って、2人はそれぞれの席に戻っていった。
それを見ていると、私は不意に敦さんのことを思い出してしまった。
……敦さん、どうしてるかなって。
今日までずっと休まず働いていてる。私も何度か助けてもらってばかりで足を引っ張ってばかり。
でも、約束したんだもん。
今度は私が頑張らないといけないんだ。
「よし、私もやることやらないと!」
気持ちを切り替えるように、私は声を出して自分に言い聞かせた。
そして、午後の仕事が始まる。
――――それからしばらく、少し外の空気を吸いたくなった私は屋上に出る。
屋上には、敦さんがいた。
「敦さん」
「お、涼風か」
彼の手にあるタバコが冬の風にさらされていた。
敦さんの顔色は、午前中と比べて良くなっていた。
私はそのことにほっとする。
良かった、元気になってくれたんだ。
「あけましておめでとうございます」
「おう、おめでと。今年もよろしくな」
「はい!」
私は笑顔で答える。
そして、隣に立つ。
私は敦さんと話したかった。
初日の出のこと。ねねっちとほたるんのこと。
これはキャラ班の皆さんよりもこの人に聞いて欲しかった。
「へぇ、桜の他にもそんな子がいるのか」
「はい。すごく絵が上手いんです」
「俺も見てみたいな。その子の絵」
「きっとびっくりしますよ」
「そりゃ楽しみだな」
他愛も無い会話。
数日ぶりに会う敦さんとの会話はそれだけでも十分すぎるほど楽しかった。
「あの、敦さん」
でも、私は話を切り出す。
私には今、一番聞きたいことがあったから。
「ん?」
それはこの屋上で約束したこと。
まだ果たせたかなんて言えないけれど、どうしても知りたかった。
「敦さんは、今の仕事、楽しいですか?」
「……」
一瞬、敦さんの目が見開く。
その意味は、答えを聞かなくてもわかった。
「俺は……」
「いいです!」
言い終わる前に声を出した。
「言わなくて大丈夫です。……わかってますから」
そう、最初から全部知っていた。
今の私じゃなにも足りない。なにも届いてない。
それだけ知れただけで十分だったから。
だから、私も言うことにした。
「……すみません。こんなこと言って」
「……」
「でも、ありがとうございました。……それを聞いて安心しました」
「えっ……」
「私、今年ももっと頑張ります!」
「あっ、おい!……行っちゃった」
それ以上、何も言えなかった。
これ以上ここにいたら、私の決心が揺らいでしまう。
それに、自分のことで精一杯なのに、彼にまで迷惑をかけたくなかった。
今はただ、前に進むことしかできない。
それが例え茨の道だったとしても。