NEW GAME! ~omnibus love stories~   作:黒ゴマアザラシ

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お茶会休憩

 ひふみ視点

 

 「はぁ……」

 

 もうすぐ昼休みが終わるなか、誰もいないキャラ班に戻ってきた私は思わず安堵のため息をついてしまう。

 この前のお休みの日、純君の大事な音楽プレーヤーを間違えて持って帰ってきちゃって、なんとか返そうとしても、違う部署に向かう勇気もない。

 あの日以来、純君とはSNSでも話してなかった。まさかあの人が純君だとは思わなかったし、それでいつも通りに話すのにも何故か抵抗がでてしまった。

 純君もいつもは気軽に絡んできてくれたのに、やっぱり避けられてるのかな? と思っていた。

 

 「……」

 

 だけど違った。

 少なくとも純君は私のことを嫌いにはなっていなかった。それに、昼休みが終わる前、純君に言われた言葉を思い出す。

 

 ──またお話しませんか?

 

 彼は笑顔で言ってくれた。

 まだ会って間もないはずなのに、そんな風に笑ってくれたこと、またいつもみたいに話そうって言われたことがすごくうれしかった。

 最初は、男の人と近くにいたり、話したりするのは気が休まらないって想像だけで思ってたけど、純君と一緒にいることはそんなことを思わなかった。

 

 だけど、私の胸は少しだけチクリと痛む。そんな感じがする。

 純君があそこまでしてくれたのに、私は彼に対して何もできていない。あの音楽プレーヤーも、敦さんのデスクに置くことしかできなくて、実際に話すときもなんども失敗したと思う。

 それに、私は彼に対して物凄く失礼なことをしてしまった。

 

 私は席について、スリープモードにしてたパソコンを起動させる。私は持ち込んでるオーディオにイヤホンのプラグを差し込んで、イヤホンを耳にあてがう。

 イヤホンから流れてきた曲は、アニソンでも、アーティストが歌っている曲でもない。

 

 これは全部、純君が作った曲。

 

 純君の音楽プレーヤーのファイルをコピーして、仕事場のオーディオと家用の音楽プレーヤーに入れてしまった。

 仕事用の曲やまだ未公開の曲。それらは全て、純君が作ったオリジナルの曲。

 彼が作った曲は、履歴を見ると7年前から作り始めたものらしい。ソレが何百曲もある。

 色々な楽器で、様々な音色が聞こえる。聞いていると心に響くというか、自分の中にある感情に彼の曲が共鳴する。そんなふしぎな魔法でもあるようだった。

 喜びや悲しみを表現したモノや神秘的な曲に、楽しくなる曲。

 どれも素晴らしい曲ばかりだ。

 

 同時に、一つ後ろめたいことができた。

 それは、純君が大切にしてたモノを勝手に持ち出してしまったことに対する後悔。

 

 ホントはダメだってわかってはいたけど、好奇心というか、このまま返したくなかったというか。

 とにかく、あそこまで真剣に悩んでいた彼にすごく失礼なことを、私はしてしまった。

 

 これって……ネコババじゃ、ないよね?

 

 ──純君の曲をもっと聞きたい。

 ──こんな事はしちゃダメだ。

 

 矛盾する二つの感情が渦巻くなか、私は作業を進めながら彼の作った曲を聴く。

 

 ●

 

 「?」

 

 しばらくモデリングの作業を続けていると、画面きり社内メッセのアイコンが出てきた。

 青葉ちゃんからだ。

 

キラキラ青葉 『ひふみ先輩 そろそろ休憩しませんか?』

 

 「あ……」

 

 振り返る。前に驚いてイヤホンのプラグが抜けて騒いでしまったから、一度音楽を止めるのも忘れずに。

 すると青葉ちゃんたちがテーブルを広げてティータイムの準備をしていた。そろそろ一休みの時間だ。どうやら、私は結構長い時間、集中してたらしい。

 振り返った私に気がついた青葉ちゃんは、苦笑いしている。

 

 「もーひふみ先輩。何度も話しかけたのにー」

 

 「ご……ごめんね、青葉ちゃん」

 

 「そない聴き入ってたんですか? さっき聴いてた曲」

 

 「え……もしかして結構前から声、かけてくれたの?」

 

 色々考え込んでたのもあったけど、純君の曲を聞きながらの作業は妙に捗っていたのもあったと思う。だから本当に聞き入ってた。

 

 「はい……さすがに触るのは驚かれるので」

 

 「……ごめん」

 

 私は頭を上げて皆にもう一度謝る。

 本当に申し訳ないことをしちゃった。青葉ちゃんは話しやすいし、私にも仲良くしてくれるいい子なのに。

 でも青葉ちゃんはそれに対して気にした素振りは見せない。

 

 「謝ることないですよ。それより、お茶飲みましょう」

 

 「うん……」

 

 青葉ちゃんに誘われるがまま、自分のイスを即席テーブルに持って行って、ゆんちゃんが淹れてくれたお茶を手に取る。

 テーブルには、お茶請けとしてお煎餅が並べられてた。前にこのお茶会をしたのは青葉ちゃんが入社したその日だったかな?

 そんな風に思い出していたら、青葉ちゃんは皆と話し始める。

 

 「皆さん、休日ってなにしてるんですか?」

 

 「内緒や」

 

 「え、即答?」

 

 入社してばかりの青葉ちゃんには、他のキャラ班の皆がどんな風に過ごしてるのか、やっぱり気になるのかな? でも、私はあんまり話したくない。あと、下手に話したら純君のことまで出てきてしまいそうだから。

 もしそうなったことを思うと恥ずかしくて明日から会社にこれなくなりそう。それに、純君にも迷惑かけてしまう。

 私はお煎餅をかじりながら、ただひたすらに聞き手に徹する。あ、このお煎餅おいしな。

 

 「なにか言えない理由でも~?」

 

 「内緒なもんは内緒やの!」

 

 「はじめ先輩は?」

 

 「私は……いや、やっぱり内緒にしとく」

 

 やっぱり皆、普段どんな風に過ごしてるのか知られたくないのかな? 私もそうだし。

 喉が乾いたのでお茶を飲む。

 

 「皆さんは、彼氏とデートとかしないのかなーって、思ったんですけどね」

 

 「っ……!」

 

 冗談みたいに言った青葉ちゃんこ言葉に、思わず純君のことを思い出してしまい、お茶を少しこぼしてしまう。

 

 「ひふみ先輩、大丈夫ですか?」

 

 私を見て青葉ちゃんは心配そうな顔でこっちをのぞき込んでくる。

 ダメ、私はそんなこと話せない。

 

 「大丈夫……ちょっと、お茶が熱くて……ちょっと」

 

 咄嗟にごまかしの言葉が出てきてよかった。これも、あのとき純君と話せたからなのかな。でも、こんな風に使うのは少し嫌な気がした。

 

 「か、彼氏なんかいるわけないじゃんっ」

 

 「うちはそもそもおらんよ」

 

 はじめちゃんは少し様子がおかしい。ゆんちゃんは全く動じてないけど。

 彼氏……恋人か。

 

 男の人と初めて仲良くなれたのは純君だけど、純君とはそういうのじゃ、ないよね。

 青葉ちゃんは前に彼氏の話題は話したので振ってはこない。助かる。あの時は宗次郎を彼氏と勘違いさせしちゃったけど。

 ふと、恋人とかそういうのが気になってしまい、思わず青葉ちゃんに聞いてしまう。

 

 「青葉ちゃんは……その、彼氏とか……できたら、うれしい?」

 

 「えぇ!? そ、それはまぁ」

 

 青葉ちゃんはさっきの悪戯めいた笑顔とは裏腹に、女の子らしく照れてる。すると、今度はゆんちゃんが何か企んでるような顔をして詰め寄ってきた。

 

 「え~? もしかして、ひふみ先輩。気になる男性でもおるんですか~」

 

 「っ……!」

 

 思わず胸の鼓動が速くなるのを感じる。どうしよう。今度はさっきみたいにうまくごまかす言葉が出てこない。なんて言えばいいのかわからない。

 それなのに青葉ちゃんとはじめちゃんまで、畳みかけるように寄ってくる。

 

 「き、気になる人ってどんな人なんですか!?」

 

 「へぇ~、ひふみ先輩も隅におけませんねぇ~」

 

 「っ……ち、違うよ。その……純君とはそんなんじゃ──」

 

 ──あ。

 

 「「「純君!?」」」

 

 

 やっちゃった。

 やってしまった。

 すぐに口を押さえるけどもう遅い。完全に声に出してしまった。なにかごまかそうとしていたら、勝手に『純君』という単語が出てしまった。

 

 皆はより一層詰め寄ってくる。とても興味津々だ。

 私はもはやそれどころではないのに。

 

 「な、名前呼びなんですか!?」

 

 「うちらの会社の子なんですか?」

 

 「一体どういった馴れ初めで」

 

 青葉ちゃん、ゆんちゃん、はじめちゃんの順番で一斉に質問してくる。

 ──待って。お願い。とにかく待って。

 言葉にできず頭が沸騰しそうになって顔をこ隠すことしかできなくなる。

 

 「~~っ!」

 

 どうしよう。明日から皆と一緒に働けない。

 恥ずかしさでもう頭の中が真っ白になって、何も考えられない。

 ──お願い、誰か助けて。

 

 敦さんは今、純君と同じサウンドチームにいるし。コウちゃんは絶対に助けてくれない。むしろ面白がってからかってくるはず。今はりんちゃんもいないし。

 

 「み、皆さん! ひふみ先輩が困ってるので一旦止めましょうっ」

 

 気を悪くしたのか、青葉ちゃんは冷静になって二人を止めに回ってくれた。よかった。

 でも一旦って言ったから話さないといけないの!?

 

 「そ、そやな。いくらなんでもこれは人が悪いわ」

 

 「ねーねー。もったいぶらないでくださいよー」

 

 はじめちゃんは意地悪な顔でまだ詰め寄ってくる

 

 「うぅ……」

 

 はじめちゃんはすごく意地悪だ。

 青葉ちゃんがなんとか、二人を席に戻して、落ち着いた目で私を見てくる。

 

 「……やっぱり話さないと……ダメ?」

 

 「い、嫌なら別にいいですよ」

 

 青葉ちゃん、優しい。意地悪な青葉ちゃんよりもやっぱり優しい青葉ちゃんの方が好き。

 

 「でも、男の人を名前で呼ぶのって彼氏くらいじゃないと」

 

 「え……、そうなの?」

 

 「そう言えば、ひふみ先輩って皆のことも基本的に名前やもんな」

 

 「う……うん。あ、敦さんだって……その、『敦さん』って呼んでるし」

 

 単に、『宮本』より、『敦』の方が呼びやすいから。

 でもゆんちゃんとはじめちゃんは思いっきり顔をしかめる。

 

 「「いや、それは違いますよ」」

 

 「なんでぇ!?」

 

 「は、はじめ先輩もゆん先輩も、流石にそれは──」

 

 「え? もしかして青葉ちゃんは敦さんのことそないな風に意識しとん?」

 

 「──そんなわけないですよっ! ただ……一応キャラ班で唯一の男の人ですし」

 

 今度は矛先が青葉ちゃんに向かっている。青葉ちゃんも何故か顔を赤くしてる。

 

 「まーね。青葉は敦さんには初仕事のときとか、アドバイスしてもらってたもんねー」

 

 「あっ、あれは少しうまくいかないところがあったので教えてもらっただけですよ!」

 

 はじめちゃんにからかわれてる青葉ちゃんは、怒った顔をしてお茶の入ったカップを片付けて持ち場に戻っていく。

 

 「はじめ先輩もゆん先輩も意地悪です!」

 

 拗ねてる青葉ちゃんを見て、はじめちゃんとゆんちゃん達も面白そうにしながら片付けをして持ち場に戻っていった。

 どうやら休憩は終わりみたい。

 私もカップを戻して、自分のデスクに向かい直る。

 すると、画面に社内メッセのアイコンが出てきた。

 

キラキラ青葉 『ひふみ先輩。さっきは騒いですみません』

 

 これを見て、少しほっとする。よかった。ものすごく恥ずかしかったけど、明日から来れなくなるほどじゃなくなった。青葉ちゃんはすごく優しい。

 

ひふみ☆ 『全然大丈夫だよ(≧∇≦)b それより、ありがとう!』

 

 私はすぐに青葉ちゃんにメッセを返信した。

 私はイヤホンを耳に当てながら心の中で自分と青葉ちゃんを応援する。

 

 ──お互い頑張ろうね。青葉ちゃん。

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