NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
八神視点
「行くよ…りんちゃん」
「えぇ、ひふみちゃん」
「まずは…コウちゃんの……コ!」
「「せーの…………こここここここここここここここここここここここここここここここここっ!!」」
「はぁ…はぁ……次は、佐藤…君…の…………さ!」
「「せーの…………さささささささささささささささささささささささささささささささささっ!!」」
「……二人ともなにやってんの?」
給湯室で、りんとひふみんが二人で何かしている。
ここ最近、二人でずっと叫んでいるのだ。一体何をやっているのか気になって仕方ない。
それも必ず私や佐藤の名前が出てくるし……。
気になる以前に、二人に用があったから声を掛けたんだけど―――
二人はビクッとしてこちらを振り向く。
「…コウちゃん…その、これはね…」
「発声練習してたの。コウちゃんと…佐藤君の名前、うまく言えるように」
……何ソレ?
なんでそんなことする必要があるわけ?
しかもなんでピンポイントに私と佐藤?
意味がわからないよ。
二人が仲良くなってるのは嬉しいけど……。
「ごめんね。コウちゃん。青葉ちゃん達にうるさかったかしら?」
「ううん。青葉達は何も言ってないよ。ただ、他のチームから奇声が聞こえるって苦情が…」
「ほ…他の部屋まで聞こえていたのね」
「うぅ……ごめん」
そう言う二人の顔は真っ赤だ。
あれだけ叫んでいるのを聞かれたら普通は恥ずかしいよね……。
でも、それだけじゃない気がするんだよなぁ……。
だって――
前の食べたりんの肉じゃがのことを思い出す。
……あの味。
いつも食べている味とは違った…新しい可能性を秘めた味だった。
あれと、なにか関係しているのかな?
「まぁいいや。とりあえず二人とも仕事に戻ってよ」
「そ、そうね」
「うん……わかった」
とりあえず今はまだ就業時間だし仕事しないと…。
私は2人を連れてキャラ班のブースに戻ることにした。
「わー美味しそうですね」
「私、お金ないからこういうの食べられないんだよねー」
「はじめはまたオモチャ買うからやろ」
と、青葉達がお茶会をしていた。
ゆんがいつも用意しているテーブルには、紅茶とお菓子の他に雑誌が広げられている。
「あ、みんななに読んでんの?」
「あ、八神さん、これ見てください」
青葉に言われて、私も覗き込むようにして見ると、そこには『ステーキ特集』と書かれた記事が載っていた。
お値段も結構張るらしく、なかなか手が出せないみたいだ。
「シャトーブリアンか…確かに高いよね」
「へぇ、サトーブリアン……」
そうりんが口に瞬間、周囲の視線が彼女に集中した。
「あ……うぅ…」
遅れて気がついたのか、りんも口を押える。
「れ、練習の後遺症が……」
そんなりんにひんみんは苦笑いしていた。
……やっぱりなにか変だ。
今に始まった話じゃない。
りんは私と二人のとき、よく佐藤の話をしていた。
それもフェアリーズストーリー3が完成した辺り…いや、青葉が入社してきてからかな?
何かひどく落ち込んだり、上の空になったりしていた。それも全てに佐藤が絡んでいる。
佐藤の方もそうだ。
誕生日に7つもプレゼントを渡してきたりと、りんのことを意識している節がある。
まさか、二人は―――
私の脳裏にある可能性が浮かぶ。いや、それはまだない。
あるなら絶対に何か私の耳に入るはずだ。
それをしないということはそういう関係になっていないということ。
でも、りんが佐藤のためにナニカしようとしていることは、最近の変な行動から想像がついた。
……りんは、もしかして佐藤の事が好きなんじゃないだろうか?
と、脳裏に過った考えが離れない。
確かめないといけない。
りんも気持ちも、佐藤の真意も。
―――
――
―
それから仕事に戻った私は、二人の様子を観察することにした。
しばらくは何事もなく、お互いの仕事をしていた。
そこら辺は真面目な二人だ。特に問題は起きなかった。
だけど――
仕事を始めて2時間ほど経った頃だろうか?
動きがあった。
そろそろ休憩時間の頃合い。
佐藤がタバコを吸いに席を立つ。そのタイミングを見計らっていたかのように、りんが立ち上がった。
そして佐藤の後を追う。
私もそれを追いかけるようにして、二人に気付かれないように後を追った。
佐藤は屋上に出ると、すぐにりんが入る。
私は入り口に隠れて二人を見守る。
佐藤はスマホを操作しながら一服している。
私に背を向ける形なので表情までは見えないけど、りんの顔はよく見えた。
「…………」
最近よく見る落ち着かない様子。
佐藤に話しかけるタイミングを伺っているのだろうか? 私は息を殺して、その様子を見守る。
すると、りんが一歩前に出た。
「さ……しゃとう君っ」
「ん?」
りんがまた佐藤の名前を言えなくなっていた。
何回も練習しているのだろうけど、その成果は出ていないようだ。
「やだ…私ったらまだ間違えて…」
「大丈夫だ」
でも佐藤はそんなことを気にせず、りんの顔を見た。
怒っても呆れてもいない、慣れたような態度だった。
「噛んでもいいから続けろよ」
むしろりんが名前を言えないことに対して、嬉しそうな顔をする。
――ドキッとした。
いつも無愛想だった彼が、あんな顔するなんて……。
私が見たことのない優しい目だった。
まるでりんの事を好きみたいな……そんな感じ。
「……うん」
りんもそれに答えるよう笑顔で応える。
それはとても可愛い笑顔。
私が今まで一番近くで見ていた彼女の笑顔。
それを佐藤に向けていた。
「それでね、コウちゃん。私に気を遣って会社のゴミ捨てとかやってくれたの。でも、上手くいかなかったみたいで出社してきたときすごくびっくりしちゃったの。普段からちょっと気にしてくれたらあんなことにならなかったのに、ホント、困っちゃうんだから」
「そうか」
「やっぱり、佐藤君がコウちゃんの話を聞いてくれるとうれしいわ。コウちゃんのことは、佐藤君が一番話しやすいから」
「まぁ、俺でよければいつでも」
この時確信した。
りんは佐藤のことが好きなんだと。
でも、まだ確かめていないことがある。
それは佐藤の真意だ。
佐藤はりんをどうしたいのか?
それが分からない限り安心できない。
りんの事は好きだ。
一緒に居たいし、ずっと側にいてほしいと思っている。
だからこそ、聞かないといけない。
彼女が本当に幸せになるために。
「じゃあ、私、仕事に戻るわね」
りんはそう言って屋上から出る。
咄嗟に身を隠した私は、扉越しから聞こえる足音から、彼女は階段を下っていったと判断した。
そして、入れ違うように屋上に繰り出す。
そこには佐藤も仕事に戻ろうとしてタバコの始末をしているところだった。
「佐藤」
私は構わず佐藤の名前を呼んだ。
「?」
「アンタ、りんをどうしたいの?」
単刀直入に聞いた。
りんのことをどう思っているのか。
りんの事が好きなのか、それともただの職場の同期として見ているだけなのか?
それをハッキリさせる必要がある。
そうしないと、いけない気がした。
「自分のモノにして、休日に自宅に来てもらって……ご飯でも作ってもらうつもり!?」
「お前と一緒にすんな」
私の質問に、彼は即答した。
……確かに、これは私がいつもりんにしてもらってることだな。
なんか、墓穴を掘った気がしないでもないけれど、今は関係ない。佐藤が何を考えているのか、それを突き止めることのほうが大事なのだから。
「……りんはいつも私を支えてくれた。初めてキャラデザに抜擢されたときも、ADで落ち込んでた時も、ずっとそばにいてくれた」
「……」
「りんがいなかったら、私は今、こうしてこの会社で青葉達と働けていない」
「……」
「私にとって、りんはそういう存在だよ。アンタはりんにそれが……それ以上のことができるの?」
「……」
「それを示せないなら、私はりんを渡せない」
「……」
佐藤は何も言わない。
…もう、口にする必要すらないと悟った。
まっすぐ、私から目を離さず、見つめている。
それは覚悟を決めた男の眼差し。
りんに対する気持ちが本物であると証明しているようなもの。
私はそう受け取った。
「……しゃべりすぎた。今はその目を信じるよ」
私はそれだけ言うと、屋上を後にする。
これ以上話すことはない。
佐藤、見せてもらうよ。アンタに何が出来るのか。
●
佐藤視点
「……」
八神の背中を黙って見送ってしばらく経った後、仕事に戻ろうとした俺は、通路を歩いていた。
「さ・と・う・く~ん。見てたわよ~♥」
突然、通路の影から顔を出したのは花男さん。
どうやら、さっきの八神の会話、いや、きっとりんのところから見ていたのだろう。
いつにもまして上機嫌に身をくねらせながら近づいてくる。
「格好良かったわね~。コウちゃんとのにらみ合い。もう私ドキドキしちゃったわ♥」
相変わらずのハイテンションぶり。
だが、客人はかれだけではなかった。
「いやぁ、あんなピリピリした八神を見たのは久しぶりだよ。あれもまた可愛…じゃなかった。格好良かったねぇ」
葉月さんも眼鏡を光らせてこちらにやってきたのだ。
ただでさえ狭い通路が情報過多で窒息しそうになる。
「私、純君やひふみちゃんみたいな甘々も好きだけど、やっぱり恋はバチバチしないと燃えないわよね!」
「ありきたりではあるけれど、三角関係もまたラブコメの王道だからねぇ!」
俺はただ、先走る二人を無言で見ているだけだった。
「……」
「……」
「……あの、佐藤君? まさか、コウちゃんの眼力に気圧されて、うまいこと言葉が出なかったとかじゃないわよね?」
「……マサカ」
「「あ」」
「オレノメヲ、シンジテクレ……」
正直、普通にビビった。
あそこで八神が出てくるなんて思いもしなかったからだ。
俺の事を睨んでくるとは思っていたけど、あんな本気の目つきをするなんて……。
八神もりんとそれだけ長い付き合いだ。そのあたりは譲れないものがあるんだろうな。
「もう! 佐藤君、しっかりしたまえ! 正念場なんだよ! どうするつもりなんだい!? 八神にもバレてしまっているんだよ!?」
本来、八神とりんの関係を推し、俺にちょっかいをかけていた葉月さんですら慌てて俺の肩を揺らしている。
どうやら、もう後戻りできない状況らしい。
「…まぁ、八神がきっかけなのは癪ですけれど……」
俺も、覚悟を決めないといけないときがきたようだ。
「気合いは入りました。俺はもう腹をくくります」
「じゃあ佐藤君、いよいよなのね!?」
「はい。言います。それでダメだったら……おとなしく辞めます」
そうだ。今更なんだ。
覚悟なんてもうすでに決まっていただろう。
りんへの想いも、りんの幸せを願っていることも、全て事実だ。
ならば、後はそれを彼女に告げるだけ。
大丈夫だ。俺は、出来る。
俺はりんが好きだ。
ずっと一緒にいたいと想っている。
それを八神に納得させられなくてどうして叶えられようか。
「……辞めることになったら、葉月さんには申し訳ないです。せっかくリーダーに抜擢してくれたのに…今回の新作は、最後までやりきりますので」
「今から情けないことを言うんじゃ無い。私達のことは気にしないでぶつかってくるんだ。7年間、好きだったのだろう?」
「……そうっすね。アンタらはもっと苦労したほうがいいっすよね?」
((本人の前でもこれくらい雄弁だったらいいのに……))
●
りん視点
「……佐藤君が、辞める?」
自分の席に戻ってきた私は、そう呟いてしまった。
佐藤君にコウちゃんの話をした後、会議の準備に奔走していた私は、ついさっき通路で佐藤君が話していたことを耳にしてしまった。
――おとなしく辞めます。
葉月さんと花男さんの前で確かにそう言い切った。
……佐藤君が、会社を辞める?
前、失恋したら辞めるとは話していたけど……佐藤君、失恋したの?
開発が終わるまでと言っていたからまだ先だと思っていた。
だって、さっき話した時だって変なところなんて無かった。
いつも通りだったのに……。
だから余計に状況を受け入れられない。全然理解できない。
なんでそんな急に!?
︎いや、でも、もしかしたら私が知らないだけで前から何かあったのかも……。
尚更相談してくれれば、力になれたかもしれないのに。
あぁでも、佐藤君は自分が勝手に頑張るから気にしなくていいって言ってたし…でも……。
「りんちゃん? どうか、したの?」
隣のブースにいるはずのひふみちゃんが心配そうな表情をして話しかけてきた。
どうやら私は相当深刻な顔をしていたらしい。
きっと、私が佐藤君に話をしに行こうとしたのを気付いてくれて、気にかけてくれていたんだ。
「ひ、ひふみちゃん。さっき…佐藤君が会社辞めるって聞いちゃって……」
「え!?」
「私どうしたら……」
「お…落ち着いて!」
動揺する私の肩に手を置いて、優しく声をかけてくれる。
そのおかげか少しだけ落ち着くことができた。
「ごめんなさい取り乱して」
「ううん大丈夫。とりあえず…佐藤君と話そ?」
「でも…なんて話せばいいか…」
そもそも何を聞けば良いのかわからない。
それに聞いてしまったら今までの関係が崩れてしまいそうで怖い。
佐藤君は大切な人だ。
彼とずっと一緒にいられると信じて疑っていなかったほど。
だから、こんな形で関係が壊れてしまうなんて想像すらしていなかった。
「りんちゃんは…自分の気持ちを……正直に佐藤君に伝えてあげて」
「そ…それって?」
ひふみちゃんが話している意味がわからなかった。
自分の気持ちを伝えると言われてもピンと来ない。
でも、真剣な顔つきをしている彼女を見ると冗談ではなさそうだ。
「あ…あの、ひふみちゃん? さっきから何してるの?」
「背中! 押し! てる! の!」
いつの間にか私の後ろに回り込んだ彼女は私の両肩を掴むとそのままぐっと押され、そのままズルズルと
オフィスの中を進んでいる。
そしてそのまま会議室までたどりついた。
一体どういうことなのか全くわからなかった。
わかることはただ一つ。
今からひふみちゃんにとんでもない勢いで背中を押されているということだけだった。
「ここで待ってて……」
席に座らされた後、ひふみちゃんにそう言われてしまった。
ひふみちゃんはきっと、佐藤君を呼びに言っているんだと思う。
駆け足で出て行ってから10分ほど経った頃だろうか。
佐藤君がやってきた。
「…よう、なんか知らんが滝本が背中を押してきたんだが」
会議室に入るなり、彼はキョロキョロしながら中に入ってきた。
普段ならまず声をかけてこない彼女に話しかけられたせいか、少し落ち着きが無い。
私も同じだ。
来るとは思っていたけれど、こんな形で佐藤君と話すなんて思っていなかった。
だから、心の準備が出来ていないまま彼の方を向いてしまう。
…なんか、こんなこと、前にもあったような。
「…確か、前もあったよな。俺とお前が気まずくなったとき、こうやって滝本に招集されるの」
……やっぱり同じことを考えていたみたいだ。
「佐藤君が私の後ろにいる幽霊が好きって行った時よね」
「それは忘れてくれ」
懐かしむように言う彼に、思わず笑ってしまった。
緊張していた空気が緩んでいくのを感じる。
良かった。
もう大丈夫。
私は、この人とならどんな壁だって乗り越えていける気がする。
そう思えることが嬉しかった。
佐藤君の方は、まだ不安そうな顔をしていたけど、ゆっくりと呼吸を整えて声を出す。
「…あの時お前に、『男の子の中では佐藤君が一番好き』と言われたな」
「あ…うん」
確かに、あの時は気が動転していたこともあったけど思い返すと少し恥ずかしい。
改めて言われると尚更……。
でも、あれは本当のことだから否定はできないしするつもりもない。
すると佐藤君は俯きながら話を続ける。
「……今も昔も、お前の中での一番は、八神なのかも知れないが」
「佐藤君?」
「りん、聞いてくれ」
…違和感に気付く。
なんか、私が佐藤君に自分の気持ちを正直に伝えるつもりだったのに、伝えられている?
そんな風に感じた。
それに、佐藤君の雰囲気がいつもと違う。
まるで、何か覚悟を決めたかのような……。
その雰囲気に飲まれて何も言えず、黙って耳を傾けるしかなかった。
佐藤君は一度大きく深呼吸をした後で口を開いた。
「あの幽霊話以来、色々…お前を意味不明な言動で困らせたが……」
「意味不明な言動?」
「あぁ……その、社員旅行の件とか、誕生日に…7つもプレゼントを渡したりだとか……」
佐藤君は、私と過ごしてきた思い出を振り返るように一つ一つ話していく。
その度に、心臓が跳ね上がるくらい鼓動が激しくなっていく。
どうしようもなく、胸の奥がくすぐったい。
まさか、これって……。
「むしろなんで気付かないんだお前って感じだが……」
「えっ!?」
急に佐藤君の顔色が暗くなる。
私もしかして怒られてる!?
どうしよう! 全然身に覚えがない!!
私が困惑している中、彼は更に続ける。
これは、ひふみちゃんが言っていたことと同じ……? じゃ……本当に……私の気持ちを正直に……伝えるってこと……? 佐藤君は、意を決した表情で顔を上げた。
「要するに……その…俺は…りんのことが……」
たどたどしい口調でゆっくりと、でも確かな声色で言葉を紡いでいる。
私は固唾を呑んで次の言葉を待った。
「す………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………