NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
青葉視点
佐藤さんがりんさんに告白して、なんと付き合うことになりました!
7年間という片思いが、ついに実ったのです!
一時はどうなるかと思いましたけど、佐藤さん、すごいです!
それから、翌日。
いつも通り出社すると、キャラ班のブースは色めきだっていました。
何故そうなっているかというと、理由はもちろん……。
「りんさん、おはようございます」
「おはよう青葉ちゃん」
ブースでは幸せそうな顔をしているりんさんに挨拶する。
りんさんは顔を真っ赤にして照れている。
とても上機嫌だ。
なんか、りんさんの周りに花が見えるのは私が昨日残業して寝不足だからなのかはわからないけれど、とにかく喜ばしいことに変わりは無い。
「よかったですね。佐藤さんのこと」
「えぇ」
りんさんの笑顔は今まで見たことがないくらい輝いていた。
というか、また花が増えている気がするんですけど気のせいですよね?
「佐藤君の好きな人の事でずっと悩んでいたんだけど、その好きな人が……わ、わたっ…私だったなんて……」
いや気のせいじゃ無い。
なんか増えてるし。
それもすさまじい勢いで。
最初は小さな花だったのに、今は大きな花がたくさん溢れている。
「私…私……うれしくてもう………」
「りんさん! 埋まります! 花で埋まります!!」
この人、喜びすぎて身体から花を咲かせる能力でも手に入れたんだろうか。
それともやっぱり幻覚かなぁ……。
そんな事を考えているうちにも、りんさんの花畑化は進行していく。
このままだとキャラ班どころかフロア中が埋め尽くされるんじゃないかと思うほど。
もちろんその後仕事にならないので他の方に止めていただきなんとか事なきを得たわけだけど、それにしてもあそこまで喜ぶりんさんを見たのは初めてかもしれない。
よっぽど嬉しかったんだろうなぁ。
だけど、一番嬉しいのは佐藤さんのはずだ。
何せ7年もの長い間、ずっと想い続けてきた相手なんだから。
それで、その佐藤さんはというと…まだ来てない。
どこにも見当たらない。
まだ空間に残っている花を掻い潜りながら、佐藤さんを探していると先に見つけたのは花男さんでした。
「あら涼風さん。おはよう」
「おはようございます。佐藤さん、まだ来てないですね」
「そうなの。連絡したら意地でも来るって言ってたけれど…来れないんじゃないかしら? 胃痛で」
「やりきりましたからね」
思わず苦笑いになる。
無理やり体を引きずって出社する姿が目に浮かぶようだ。
それだけ覚悟と勇気を持って告白してくれたということだろう。
本当によかった。
これで佐藤さんも会社を辞めなくて済むだろうし、これからも一緒に仕事をすることができる。
それに、きっと私への八つ当たりも無くなるだろう。
良いことずくめだ。
……ただ1つを除いて。
「……それにしても、八神さんは無反応ですね」
花男さんと別れた後、隣のブースの様子を見て一人呟いた。
そう、八神さんのことだ。
彼女もりんさんとの付き合いは長い。それこそ、入社してからずっと一緒だったと言っていい程に。
昨日見せたあの顔の他に、目立った反応をしていない。
今も、自分の席で私達が作ったモデリングのチェックをしているみたいだし……。
さすがに昨日の今日だから、多少なりとも何か思うところがあるはずなのに。
それが全く見えないのだ。
まるで、最初から何も無かったかのように。
「りんさんに恋人が出来たのに、喜ぶとか、むしろ反対するとかあってもいいと思うんですけど……」
普通なら嫉妬したり落ち込んだりしておかしくはない。
「あ、青葉ちゃん。おはよ」
「ひふみ先輩、おはようございます」
八神さんを観察していると、ひふみ先輩も出社してきた。
相変わらず眠そうだ。
いつもの事なので気にしないけれど。
それよりも、八神さんのことを聞いてみよう。
八神さんとりんさんとは、両方とも付き合いが長い。
だから、こういう微妙な変化に気がつきやすいかも。
「あの、ひふみ先輩。八神さん、どうですかね? 昨日のこともありますし……」
「そうだね……でも、私は、りんちゃんの方が…心配」
「え?」
ひふみ先輩の視線を追うようにりんさんを見る。
そこには相変わらず幸せオーラ全開のりんさんがいた。
「あんな感じで…仕事、できるのかな?」
確かにあの調子では仕事になりませんよね。
最近も佐藤さんのことで変になって、色んなところがあっち向いてほいしていたような気がするから、ひふみ先輩の言い分には賛同できた。
それも心配だ。
恋にかまけてさぼるなんてこと、あのりんさんがと思いたくないけれど、今までの変な行動の数々がそれを信じさせてくれない。
果たしてりんさんはというと――
「午前中の会議の資料はこれで完璧ね。午後からは取引先の人と会う予定だから、その資料も作らないと。それと、α版の仕様について大和さんと話を合わせておかないと」
……完全に杞憂だった。
仕事に支障が出るどころか、いつも以上にテキパキと今日の仕事の段取りを立てていることだ。
ひふみ先輩は呆れた顔で肩をすくめる。
私も同じ気持ちだ。
昨日あれだけ取り乱していたのに、どうしてこんなに切り替えが早いのだろうか。
佐藤さんと恋人になれたことがそれほど嬉しかったのかな。
それはそれで喜ばしいことだけど、ちょっと釈然としない。
私が女々しいだけなのかなぁ。
考えがまとまらないうちに、りんさんは仕事モードのまま八神さんに声をかけていた。
「コウちゃん。来週の会議用のファイル出来上がったから見てもらえるかしら?」
「あ……うん」
やっぱり八神さんも様子がおかしい。
なんというか、いつもの覇気が無い。
完全に生返事で、上の空といった感じだ。
まぁ、昨日まであんなことがあったんだから無理もないかな。
と、考えていると、八神さんが不意に声を出す。
「…りん」
「何? 何か不備があった?」
「ううん……大丈夫だよ。ありがとう」
「そう? なら良かったわ」
「……」
「……」
会話がすぐに終わってしまうと、八神さんはそのまま黙ってしまった。
りんさんも、そんな八神さんの様子を見て不思議に思う表情になる。
「コウちゃん?」
「……あのさ……りん」
「どうしたの?」
八神さんは意を決した様子で、ゆっくりと口を開いた。
そして、次の瞬間とんでもないことを言った。
「……もう、私の世話焼かなくていいから」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
いや、意味自体は分かるんだけど、理解できない。
でもそれは、ある意味で一番恐れていたことだった。
八神さんとりんさんの関係は、ずっと変わらないと思っていた。
けれど、りんさんは佐藤さんの想いを受け入れた。
それはつまり、この三角関係の終結を意味する。
それ以上に、八神さんの口から、まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
りんさんも予想外だったようで、目を丸くしている。
「どういうこと?」
「そのままの意味だよ」
「だから、それが分からないって言ってるの!」
「いいから!」
「……」
あまりに突然過ぎる出来事に戸惑っている間に、八神さんの声が大きくなる。
同時に空気が変わる。
不穏な雰囲気が流れ出す。
りんさんの周りにある花も徐々に減っていくのが見えた。
まだ納得がいかないと、目で訴えているのがわかる。
いきなりこんなこと言われて、納得しろというのが無理な話だ。
八神さんも、きっとそれを理解している。いや、八神さんだから、分かっているはずだ。
……胸騒ぎがした。
ふと、八神さんがこれから何を言おうとしているのか……。
なんとなく、わかってしまったから。
「…………鬱陶しいのよ。いつもいつも、母親みたいに文句言って」
「っ!?︎」
りんさんの顔色がみるみると変わっていく。
唇が震えだす。
瞳孔が大きく開く。
息遣いが荒くなる。
「正直、迷惑」
りんさんの目尻には涙が溜まっていた。
今にも泣きそうな顔をしてた。
でも、それでも必死に耐えているように見えた。
私は見てられないくらいいたたまれない気持ちになった。
でも、八神さんは止まらない。
突き放すように、
トドメを刺すように、
最後の言葉を放つ。
「りんはもう……いらない」