NEW GAME! ~omnibus love stories~ 作:黒ゴマアザラシ
青葉視点
「佐藤君、昨日のドライブすごく楽しかったわ。ありがとう」
「そうか」
「また誘ってね」
あぁ…よかったな、二人とも。
色んな事があったけど無事恋人同士になれて。
出社してきた私はブースの影に隠れて佐藤さんとりんさんが仲睦まじく話しているところを観察していた。
会話の内容から、デートもうまくいってるみたいだし、喜ばしい限り。
今もりんさんの周囲には花がたくさん咲いているように見える。
佐藤さんとりんさんが晴れて恋人同士として付き合うことなり、八神さんもそれをちゃんとした意味で祝福してくれた。だからイーグルジャンプを巡っていた因縁の三角関係は完全な終結を意味している。
何が一番嬉しいって、開放されたのは佐藤さんだけじゃ無くて私も同じなんだ。
これでもう佐藤さんにいじわるされずに済むんだから!
「じゃあ、俺、そろそろ作業にもどるよ」
「うん、頑張ってね!」
どうやら二人はこれから仕事に戻るらしい。
りんさんはニコニコ笑顔で手を振っているし、佐藤さんは無表情だけど少し嬉しそう。
あ…佐藤さんがこっちきた。
のぞき見されてたって思われるかもしれないけど、二人の関係は恥ずかしがるようなものじゃないし、きっと大丈夫。
「佐藤さん、おはようございます」
「おぅ、涼風か」
いつも通りの挨拶した私の頭を佐藤さんは掴んだ。
「…………え?」
一瞬だった。
瞬きほどの時間しかなかったのに、私が今朝30分もかけて整えた髪型が変えられていた。
ツインテールにしていたはずなのに、今はへんてこな雲みたいな髪形になっている。
「佐藤さん!? どうして!?」
「何がだ?」
悪びれも無く言う佐藤さんに声を上げてしまう。
「佐藤さんはもうりんさんと付き合えたんですから、私にもういじわるする理由なんてないでしょ!?」
「…確かに、お前をからかう理由なんてないな」
だが、と佐藤さんは続けた。
「それはそれ。これはこれだ」
「もー!!」
佐藤さんは余計に髪を乱してくる。
抵抗したくても速すぎて見えないし、腕力では勝てないし……。
結局10分ほど弄ばれてしまった私は、肩を落としながら自分の席に戻った。
「…佐藤さんめ! りんさんと付き合えたのになんであんなことするかなー!」
せっかくセットした髪の毛はボサボサにされてしまった。
恋人ができたのだから少しは大人になってほしいというか、せめて彼女以外の女の子にも優しくしてほしい!
「あ…青葉ちゃん」
そんな風に荒れている私の耳に入ってきた声。
りんさんの声だ。
振り向くとそこにはやはり、りんさんが立っていた。
そうだ。
りんさんにお願いしよう。
大切な恋人からお願いされれば佐藤さんも態度を改めてくれるに違いない。
私は期待を込めて言った。
「あの、りんさ―――」
「…………」
改めてりんさんを見たとき、私は言葉を詰まらせた。
だって、さっきまで花で溢れていたりんさんのオーラが消え失せてるんだもん。
代わりにそこにあったのはどんより曇った暗い雰囲気。
しゅーんと落ち込んでいる
ような、何かを気に病んでいるような、そんな感じ。
「り、りんさん? どうかしました?」
「え? あぁ、なんでも無いよ」
そう言って笑うりんさんの顔はやっぱり元気が無い。
でも原因はわからない。
一体どうしたんだろう。
「青葉ちゃんもお仕事頑張ってね」
「はい……」
りんさんはそれだけ言い残して行ってしまった。
……気になる。でも聞けなかった。
だけど仕事には集中しないと。
だって私のキャラデザが遅れるということは、キャラ班の皆に迷惑をかけるということなのだから。
「よし…」
気を引きしめた私はデスクに向かい合ってペンを握った。
そしてーー
「出来た」
かなり納得いく出来になったと思う。
これならきっと八神さんも満足してくれるはずだ。
すぐに見てもらおう。
席を立った私は隣のブースへと急ぐ。八神さんも忙しい身だから早く捕まえないと。
…でも、私の急ぐ足をある声が止めた。
「佐藤君」
りんさんだった。
今朝と同じように佐藤さんに話しかけているみたい。
でもブースの壁越しでもわかるくらい、その声色からは覇気がなかった。
「青葉ちゃんに……………………ないで……」
「…わかった」
よく聞こえなかったけど、私の名前だけは聞き取れた。
私のこと?
なんだろう…?
さっきのりんさん様子や言い回しから、考えを巡らせる。りんさんは佐藤さんに何を伝えようとしたのか。
そして一つの答えに行き着いた。
りんさんはきっと、こう言ったんだ。
『佐藤君、青葉ちゃんに話しかけないで』…と。
それってつまり……私、りんさんに焼きもち焼かれてる!?
そんなつもりなんてなかったのに!!
ど……どうしよう!
今が就業時間なのも忘れた私はその場でオロオロとして、それからしばらくその場に立ち尽くしてしまった。
でも、なんとなく腑に落ちてしまうところもある。
だってそうだ。
恋人が他の異性に構っているところなんて見たくないよね。
佐藤さんの髪の毛いじりもその最たる例だ。
髪を触るなんて、それこそ恋人同士くらいでないと触られなくないもん。
佐藤さんの気持ちも、りんさんの気持ちも知ってたのに、私が気を付けないといけないことなのに……。
もっとちゃんとしないと…。
せっかく二人が両思いになれたのに、私のせいで二人の仲が悪くなるなんて嫌だもん。
「…ちょっと席に戻ろう」
もう八神さんに今日の仕事を見てもらうどころじゃなくなってしまった。
こんな状態で提出しても絶対にダメ出しされるだけだと思う。
踵を返してキャラ班のブースに戻ることにした。
「あ……」
その時、狭いブースの通路にばったりと出くわしてしまった。
「お、涼風か。八神なら席にいるぞ?」
そう、佐藤さんに。
今は一人みたいだ。りんさんはきっと会議の準備とかで忙しくしているはずだ。
だけど……
「あ……いえ……いいです」
「そうか」
「……」
「……どうした?」
「い……いえ」
今までだったら軽く世間話をしたり、いじめられたりする。
でももうそんなことしちゃいけない。
二人の幸せは、なにより優先しなければいけないのだから。
「よ…用もないのに、話すことなんてないじゃないですか……」
「……」
「……失礼します」
と、短い拒絶の言葉をあとに私は彼の横を通り過ぎる。
親しかったはずの佐藤さんに冷たい態度を取るのは心が痛む。
最後までうつ向いていたせいで佐藤さんの顔も満足に見えなかった。
「……」
でもこれで良いんだ。
私なんかが関わってたら、また二人は喧嘩しちゃうかもしれないんだから。
●
「…そんなことがあったんだ」
「はい」
席に戻った私は、さっきのことをひふみ先輩に話すことにした。
別に言いふらすとかそういう訳じゃない。
ただ自分の中でちゃんと整理したかった。同じ恋人がいるひふみ先輩の意見も聞きたいのも理由の内に入っているけど、一番欲しかったのは納得だった。
「ひふみ先輩も、もし私が彼氏さんと仲良くしてたら嫌ですもんね」
「え? そ…それは…まぁ……」
目を泳がせるひふみ先輩を見て確信する。
やっぱりそうだ。
考えてみれば当たり前のこと。
今まで通りの関係が続くなんてあり得ない。
身近な人に恋人ができればなおのこと。
ひふみ先輩の彼氏さんとはあまり接点がなかったし、ひふみ先輩と付き合ってる人がどんな人か気になるくらいの興味くらいでそこまで積極的関わろうという気にはならなかった。
それだってひふみ先輩と彼氏さんの邪魔をしたくないって無意識に避けていた。
きっと、それだけデリケートなことだから。
「すみません。こんなこと聞かせてしまって……」
我ながら失礼な例えかたをしてしまったと思う。
でも言わずにはいられなかったのだ。
するとひふみ先輩はいつものように微笑んで言った。
「ううん。大丈夫だよ」
「……ありがとうございます」
……本当に優しい人だ。
「でも……こうやって皆さん、少しずつ変わっていって…前みたいにいられなくなるのかなって思うと寂しくなってしまって……」
「青葉ちゃん……」
「ひふみ先輩までそんな悲しい顔しないでください。ちょっと寂しいだけなんです……」
そう。
これでいい。私はちゃんと理解できたんだから。
別に今生の別れになるわけじゃない。少しずつ正しい距離感を掴んでいけばいいだけなのだから。
「いや、その……青葉ちゃん…これ」
「?」
ひふみ先輩はしんみりとした空気を破るのが申し訳ないのか、遠慮気味にあるものを見せてきた。
それは手鏡。
女の子の必需品であるそれを、ひふみ先輩は自分の方に向ける。
そしてそこに映っていた私の姿は……
「ほああああぁあ!!!?」
脳天に大きなハートが出来ていた。
何で作られているかは決まっている。
私の髪の毛だ。
しかも丁寧にリボンまであつられてあった。
こんなことが出来る人を私は一人しか知らない!!
「ようやく気がついたか」
「!?」
背後から声をかけられた。
振り向くとそこには腕を組んだ佐藤さんがいる。
しかもどや顔で!!
「佐藤さん! いつの間に!?」
「…涼風、俺とすれ違ったら最後だと思え」
「すれ違ったって……あの時!?」
佐藤さんの横を通りすぎた時を思い出す。
あの時しかない。
うつ向いていたから気がつかなかった。
いやそれよりも、私歩いてたし、すれ違ったのも一瞬だった。
それでこの髪型にしてくるなんて、一体どういうスピードと精密動作性なんですか!!
「んもー!!」
ていうか私にこんなことしていいんですか!?
りんさんにお願いされてたはずなのに!
もしまたこんなところりんさんに見つかったらまた落ち込んじゃいますよ!
「あ…青葉ちゃん」
「!?」
噂をすれば影。
振り返れると当然、りんさんがいた。
しまった…!
このままじゃまた誤解されちゃう!
「り…りんさん、これは違うんです…」
「かわいい!」
「!?」
え? あれ、おかしいな。何か思ってた反応と違う。
前に私が髪を弄られたときは凄く落ち込んでいたのにどうして…?
「えっと……どういうことですか?」
「どういうことって?」
なんか話が噛み合ってないような……。
ひふみ先輩も不思議そうな顔をしている。
どうも様子が変だ。
「あ、あの……私、さっきりんさんと佐藤さんが話してるところ聞いちゃって…」
盗み聞きするつもりはなかったと遅れて付け加えた私は先程の会話の内容を二人に伝えることにした。
「『青葉ちゃんに……………ないで』って………」
「あぁっ、そういうことね」
と、りんさんは納得したように言う。
え? 今のでわかったの? 私にはさっぱりわからないんだけど。
ひふみ先輩も似たような感じで、首を傾げている。
「私、佐藤君にお願いしたの。『青葉ちゃんにあんまり変な髪型させないで』って」
ってことはつまり……焼きもちじゃなかった!?
と言うことはもしかして、今までのってただ私が早とちりしてただけ!?
「その髪型は可愛いから……って、青葉ちゃん? どうかしたの?」
「い……いえ」
は…恥ずかしい。勝手に勘違いしていた自分が情けない。
穴があったら入りたい。
でも、そっか。
りんさんも佐藤さんもいつも通りだった。
なんにも変わってない…。
それが何より嬉しかった。
本当によかっ……。
「よし……」
気がつくとまた佐藤さんが私の頭を弄っていた。
ハートの上に小さなハート。
それと花飾りまで追加されている。
しかもリボン付き。
私は思わず叫んだ。
「だからなんでこういうことをするんですかあああっ!!」
「うるせぇな。お前が喜ぶと思ってやってんだろ」
もうやだこの人!
「私は喜ばないです!!」
「なんでだよ」
「もー!!」
私達のやり取りを見てりんさんはクスリと笑っていた。ひふみ先輩はいつものように苦笑いしてる。きっとこれからもこの関係は変わらないだろう。
だって、私達は仲間なんだから。
それがちょっとだけ嬉しかった。
「佐藤さんはもう少し大人になってくださーい!!」