史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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折角なので登場シーン凝って見ました♡


第五回・裏:お薬を飲みましょう

――ど ず ん

 

「うわっ……!?」

 

 ……突如として、ビルの全体が、ハッキリと、揺れた。たった一瞬だけ。

グラッと大きく足元が取られるような、地震みたいな揺れではなくて。逆鬼師匠が強めに巻き藁を突いてる時に感じるような、体の芯に響くような振動だった。

 それに、下からだろうか。上階まで響く、この音の大きさは……かなりの事が起きている気がする。

 

「爆発か何かか……!? はっ、まさか……!」

 

 そういえば、ここは中国マフィアの所有するビルだ。そして、僕たちはここへと殴り込んで、結構な人達を伸してしまった……も、もしかしたら。彼らはここが僕らによって制圧された、と思って、ここを放棄して、寧ろビル諸共、ここを破壊しよう、とか……!?

 それこそ映画とかで全然よくあるパターンじゃないか! 爆弾とかで、下の階から爆破して行って――!

 

「だとしたら……マズい! 連華さん!」

 

 ここで戦っていたら、全員巻き込まれてお陀仏……いや、師父と槍月さんはもしかしたら何とかなるかもしれないけど……でも連華さんと僕は普通に危ない。

 彼女の手を咄嗟に掴み、脱出しようと走り出そうとして、そこでふと気が付く。

 

 連華さんの表情が、完全に引きつってる。

 異変に気が付いた、って言うよりは……目の前に何か、それこそ獰猛な猛獣か何かが、突如として目の前に現れた、みたいな、そんな血の気の引き方までしてるんですけど……

 

「……連華さん? どうしたんですか?」

「……き、来た、来ちゃった……」

「え?」

「鷲師父が……しかも、完全に……怒ってるぅ……」

 

 逆立った左右の髪をぺたり、と耳の様に伏せながら、連華さんは、そう言う。

 来ちゃったって。鷲師父って……えっ? えっ? あのちょっと連華さん、何をおっしゃっているのでしょうか?

 

――ど ご ん

 

「え? 鷲師父、って……ドクター・ホーク?」

「そうよ! 聞こえるでしょ、こっちに向かって来てるじゃない!」

「うおお近いです連華さん」

 

 こっちにかぶりつく勢いで顔を近づけられると、こっちとしてもちょっと一歩下がらざるを得ないのだけど……連華さん目が、目が血走ってる。怖いです。

 

 えっと……というか、向かって来てる、って。

 さっきから僕の耳に聞こえているのは、ちゃんと建築基準法に則って建てられたはずの建造物が、何かに粉砕される音だけなんですけれども。

 いや、確かに二回目の音はさっきよりも上……ここら辺の近くで、鳴ったような気がしないでもないですけれども。あっはっはっ、そんなまさかぁ。

 

「いやいや連華さん、そんな。まるでこの轟音の原因が個人で、それがまるで猪のようにこっちへと突っ込んで来ている、みたいな言い方はね、誤解を生むから止しましょうよ~」

 

――ば ご ん !

 

「……止しましょうよぉ!?」

 

 いやこれ近づいて来てるなぁ!?

 もう今度は真下くらいから音が聞こえてるんですけど!? 振動も間違いなく大きくなってますけど!?

 

 いや、連華さんはドクター・ホークが来てるって言ってた! 言ってたけどそんなまさか、お医者様がこんな音立てながら、こっちに向けて突っ込んでくるっていうの!? どういう事!?

 

 ……いや、何も分からないけど。

滝みたいに凄い量の汗かいて、眉間に一杯皴を寄せてる連華さんの表情は、嘘ついている様には、見えない。全然。

 だとしたら。言っている事が真実なら。

 

「――ドクター・ホークって、一体……!?」

 

――どごん! ばきん! どごぉっ!

 

 ……ここまで近くで聞いてようやく分かる。

 ただ近づいて来てる訳じゃない。この音の主は、地上から真っすぐに、確実にこの階を目指して最短距離を突っ込んで来てる。なんていうか……音が大きいから分かりやすいんだ。何処にも寄らずにこの一点を、真っすぐに目指してるのが。

 多分、この破壊音は……その間にある障害を、全て文字通り『打ち砕いて』いるって事なんじゃないか、と……そ、そんな強引な真似、梁山泊の師匠方ですら、絶対にやらないんですけど!?

 

 頭の中の、仙人のような浮世離れした老医師の想像が、轟音が響く度に、薄れていってるのが分かる。そしてその代わり……今迫って来ているのは、そんな可愛らしい物じゃないのかもしれない、という嫌な予感が、頭をもたげていく。

 

「――いったい」

 

 壊される音がする度に、槍月の身体がびくん、と震える。

 師父の額から、大粒の汗が、ポタリと床に落ちる。

 頭を抱えて連華さんが『あぁ、もう収集つかなくなる……』って呻いている。

 

「何が、来るんだ……!?」

 

――ご ぎ ばごんっ!!!

 

 三人の醸し出す、目の前のとんでもなく渾沌としきった空間から、未だ破砕音の鳴り響く壁の向こうへと、もう一度目を向ける。

 

 もうその音は、耳にビリビリ来るぐらいに、かなりの轟音に変わって来ていて……多分だけど、槍月の立っている場所の……ちょっと後ろ辺りから、響いて来た気がする。ここに来るまで、あっと言う間だった。さっき、結構下から響いていたと思っていたのに――

 

――め ご

 

「おばぁっ!?」

「ちょっ!? 凄い顔でこっちに寄るなっ!」

 

 ……お、思わず物凄い仰け反ってしまった……! さっきとは真逆だ……いやでも誰だってこうなるよ! だ、だって……壁が、壁が……!

 

「大盛ご飯みたいに、盛り上がってるぅ!?」

 

 歪んでいる部分にひびは入っているけれど……結構綺麗な半球状に!

 鉄筋コンクリート製の壁が、まるで粘土みたいに歪んでしまっている。一体、どんな力の入れ方をしたら、壁がこんな風になるのだろうか。

 壊れて崩れてしまう、とか。砕け散って爆ぜる、とかなら……うん、まだ逆鬼師匠とかだったらやりそうだし、まだギリギリ分かる。分かるんだけど!

 

「……あぁ、コレはお怒りね、コレは……兄さん」

「やめろ。考えたくない。考えさせるな」

 

――べ が ん!!!!

 

「うわぁっ!?」

「きゃっ!?」

 

 そして、そのまま、ひび割れながらもギリギリで砕け散っていなかった壁は――限界を超えて、散弾みたいに弾け飛んでしまった。

 耳をつんざくような、とんでもない破砕音が響き渡り……そこで、先ほどまで響いていたとんでもない破壊音に、ようやく得心がいった。

 要するに、デコピンのタメとおんなじ原理なんだ。限界まで、壁が吹き飛ぶギリギリまで壁を変形させて、そのまま破壊してたから、蓄えられた力が一気に解き放たれて……こんな、鼓膜が震える様なとんでもない音をさせてたんだ。

 

 そして……そこに出来るのは、綺麗な穴。普通、重機でも使わないとこうはならないと思う位に、破壊の跡。恐るべきは、コレは……一人の人間が引き起こしているという事、らしい。

 

「――ソウゲツ」

 

 ……低い声が、聞こえてくる。

 弾け飛んだ穴の奥からだ。もうもうと立ち上る、塵の煙の中から……男の人の声だった。思ったよりも、若い。

 

 その声を聴いた直後だった。錆びついた機械みたいにぎこちない動きで、槍月が後ろに向けて、壁に開いた穴に向けて、振り返る。母親に怒られたみたいに、身をすくめて。

 

 来る。

 こんな事を引き起こした張本人が、出てこようとしている。

 

 ず し ん

 

「ひ」

 

 悲鳴が漏れた。

 

 出て来た――足だ。でもただの足じゃない。

 足が、太い。めっちゃ太い。手前で真っ青になってる槍月の身体も鍛え上げられてるけど、でもそれが比較対象になるかちょっと不安になるっていうか……彼以上になんていうか……ご、ゴツイ! そんなに太さ自体に差は無い筈なのに、二回りも太さに差がある様に見える、気がする!

 

「――」

「い、いや、待てホーク。話を聞け」

 

 が し り

 

 壊れた壁に、手が、手がかかってる。健康的な肌の色をしてる。こっちのサイズも当然のようにデカい。比較できるサイズがアパチャイさんとか長老とか、僕の知ってるデカい人達とかのレベルになって来る。僕の頭くらいなら軽く掌で鷲掴みにして、ぐるんぐるん振り回せそうだった。

 

「――ソウゲツ」

 

 先程よりも……酷く、深い、低温の……太い声がした。

 聞いているだけでもお腹の奥まで響くような、そんな、ズシンとする声。土煙に浮かぶ影がより濃く滲み出していって、ソレは――姿を現す。

 

「――ひぃっ」

「……」

「どうするね、これ……」

「……知らん」

 

 ……あし、とか。て、とか。そんなはなしじゃなかった。

 

 かたはばも、むないたも、ほんとうに、おおきい。そして……ものすごい、ほんとうにかたまりのような、きんにくが、ぜんしんを、くまなく、おおってる。

 きんにくだるまっていう、ひょうげんは、たぶん、このひとのために、あるんじゃないかな~なんて……はは、ははは。

 

「メェェディィィイスゥゥゥゥウウウウウウウウォォオオオオオオ!!!!」

 

 それは。

 あたまがつるぴかで、めとかめっちゃびかびかひかって、はをむきだしにして、くちからなんか、もわぁってでてきて……ろうかいっぱいにひびきわたるくらいにほえる、とんでもない、きょじんだった。

 




壁の盛り上がり具合は二分の一なら〇までよくある、壁破壊登場シーンを想像していただければ分かりやすいかと。

あれ? 悪役って誰だっけ……?
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