史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第六回・裏:無敵の城砦

「――噴!!」

 

 呼気一つ。

 裂帛の気合いと共に、先に踏み出したのは――槍月さんだった。

 

「速いっ!!」

 

 殆ど見えない凄い速度の突撃で。何時の間にかホーク先生の前まで迫って行っている!

 先ほどまでの戦いでは、馬師父の方が、小柄な体を活かして激しく動き回っていた所を見れた。その時、槍月さんはドンと構えている様な印象があった……でも、速さをとっても一瞬見えた師父の動き並じゃないか!

 

 いや、でも。あれだけの鍛え上げられた肉体だ。それをフルに使って、今、床が少し震えているのが足から伝わって来る程に、強く踏み込んでいる――あれだけの速さになっても、全然不思議じゃない。

 先ほどまで、目の前のホーク先生にかなり威圧されて、委縮してるように見えていたというのに。

 

「誰よりも早く先手を取るなんて――」

「――いいえっ、パパも動いてる!」

「嘘ぉっ!?」

 

 あ、確かに師父居ない……じゃなくて、何処にいったんだ師父は!? ま、マズい、集中一回切らしちゃったから全然分からないぞコレ――

 

「「破ッ!!」」

「――ヌゥゥゥウアァァァア゛ア゛ア゛ァッ!!!」

 

 ば ぎ り !!

 

「――どわぁっ!?」

 

 物凄い音と、風圧。

 師父の行方を探す暇もなく、最初の師父達の激突の時と同じようなそれが不意打ち気味に此方に向けて飛んで来て……でも、何とかそれに惑わされる事もなく、何とかそれを捉える事が出来た。

 

 一歩、大きく踏み込んでから、真っすぐに突き出された槍月さんの拳が

 天井を蹴り飛ばした加速そのままに、上から振り下ろされていた師父の踵が。

 

 ホーク先生に向かっていって――そして。

 

「か、片手ずつで、抑えてるぅうっ!?」

 

 ……余りの出来事に、目を疑った。

 師父の踵は、掲げた掌で受け止めて。槍月さんの拳の側面には掌を当てて……反らしたのか! 何れにしろ、クリーンヒットしてない! 信じられない、あの化け物みたいな達人二人の攻撃を、それぞれ片手で凌いだのか!?

 というか、師父達は大きく動いて攻撃を叩き込んだのに、ホーク先生はまるで動いていない、だと!?

 

「はぁっ!!」

「オォッ!!」

「ガァッ!!」

 

 ああもう駄目だ凄い速さで見えなくなっちゃった……い、いやでも、待って。

 師父と槍月さんは、ずっと攻めてる……ように見える。ずっとホーク先生の周りを、入れ代わり立ち代わり位置を変えながら、色々と動きを変えて……

 うん、二人でホーク先生を、一方的に攻め立てている、と思う――なのに。

 

「や、破れない……!?」

 

 ホーク先生は……動かない。どれだけ攻撃しても、やっぱりあの巨体は一歩も下がらないし、前傾姿勢を崩してもいない。本当に石像みたいに、ドンと構えてる。あの全てを動かずして、防御してる、って事なのか!?

 

 でもあんなに一方的に殴られてるって言うのに……僕の目が可笑しいのか、余裕があるように見えるのは……ホークさんの方だ。

 達人、と言う話ではあった。でも、此方の二人も同じ達人なら、数が多い方が有利な筈じゃ……!?

 

「ど、どういう……!」

「師父は医者よ。基本的に患者に手は出さないわ」

 

 そんな僕の悲鳴に応えるように、連華さんが口を開いた。

 

「でもその分――師父は『守り』に全てを注いだ」

「ま、守りに全てを」

「師父は、その『守り』だけで達人級にまで上り詰めた。それは『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』って事なの――単純な守りの巧さなら、あの二人だって師父には到底及ばない……!」

 

 ……信じられない。

 美羽さんに、僕はマトモに攻撃を叩き込めたことがない。文字通り、しなやかな動きで避けられて、もし拳が入ったと思っても、クリーンヒットなんて許さない位に、硬い。そして――その美羽さんよりもはるか上の武術の位階にいるのが、師父だ。

 その上の段階なんて、本当に存在するのか。

 

「それだけじゃない。師父の強みはもう一つ、医療知識!」

「お、お医者さんとしての」

「そうよ……多くの人体を師父は見てきた。師父は人体の構造を、この世の誰よりも把握しているし、診方も、見方も、どっちも知ってる!」

 

 それは――何処をどう動かせば、何処にどう力が伝わるのか。武術にとってとても大切な体幹、ブレから、動き、骨がどのように動くのか……その全てが、ホーク先生には丸見え、という事であって。

 攻撃に一切の思考を割かない分を、骨格の動きや歪みの全てを解析するのに回し、相手の如何なる攻撃に対しても、対策と対応が瞬時に出来るのだという……!

 

「言っておくけど、世界中探したって、そんな事が出来るのは鷲師父だけよ。武術だけを鍛えてもああはならない……何千人……いえ、何万人もケガをした人を救って来た膨大な経験が、反射で活かせる域に達する程に積み上げて来たからこそ」

「ひ、ひぇえええ……」

「……今も、パパと伯父上は『診察』を受けてるようなものよ。二人の身体の全ては、師父に筒抜けなの」

 

 連華さんの語る言葉に、ゴクリ、と唾を飲み込んでしまう。

 あの二人だって敵わない程の守りの腕が凄い、と一瞬思った。

 だけど本当に凄いのはそこじゃない。連華さんだって言っていたじゃないか、世界中を旅し、人々を救い、医術を究めてきた。それは文字通り、多くの治験を、実地で得ながらの救世の旅だったろう。

 積み重ねてきたそれは、最早、医術でだけ活かせるものじゃない。反射で解析できるようになったその術は、武術にすら応用できるほどに……単純に強固である守りの腕を更に昇華出来てしまう程に……!

 

「た、達人……!」

 

 僕は今まで、梁山泊で達人と言うモノを多く見てきた。師匠方は皆、人知を遥か超えたようなとんでもない人達ばかりだった。

 でも、その人達とも、何かが根本的に違う。

師匠方よりも更に純粋に……更に鋭敏に。最早、狂気的なまでに、地道に積み重ねてきたものが、自然と身体を動かしている。師匠方が『尊敬』の念を覚える達人なら、ホーク先生は……自然と『畏怖』を抱いてしまう達人。

 

「……で、でも、一対一なら難しくても……二対一ですよ!?」

 

 前提が同じ。一対一なら、守ってるだけでも、勝てても不思議じゃない。

だけど、師父だって、槍月さんだって、何方も間違いなく、武の頂に立つほどの達人なんだ。決して、ホーク先生にも劣る事はない……その師父と槍月さんの二人がかりで挑んでいるというのに、どうして。

 

「二対一というのは有利、それは間違いない……二人が全力なら、師父を相手しても、圧し切れてたかもしれないけど……忘れたのケンイチ」

「――あっ!」

 

 そうだ。

 

「さっきまで、二人はお互いに()()()()()()()()()()()()……!」

 

 ……そうだった。二人は強い達人なんだ。

 でもその二人は先ほどまで、全力で拳を交わし合っていた。幾ら達人とて、無尽蔵に戦えるわけが無い。体力の限界ってものがちゃんと存在するのは、流石に僕だってわかる。

 自分と互角の強さを持つ強敵相手に、疲労せず戦うなんて、いくら師父だって出来るだろうか。槍月さんは、一切消耗せず戦えるか?

 そんなの、絶対無理だ。

 

「達人同士の戦いじゃ、僅かな体力の消耗の影響は大きい……ましてや二人は、お互いの手の内を知ってる強敵同士で激しい削り合いをしていた」

「その分、疲れも……」

「そういう事……それに場所も良くない」

「場所、ですか?」

 

 ……そう言えば、地形も状況も良くないって、さっき連華さんは言っていたっけ。状況は、二人の疲れだ。では、地形、というのは。

 その疑問に……連華さんは、後ろから前、今いる場所の天井をなぞる様にして指差して見せた

 

「えっと……廊下?」

「そう。ここは、多対一の利点を生かし切れない……」

 

 曰く。

 戦いにおいての多対一の最も大きな利点は……一人を二つ以上の方向から囲んで叩けることにあるとの事で。挟み撃ちっていうのが相手に圧倒的有利を取れる、と言うその理屈は僕にも分かる。

 そして……逆に言えば、数が相手よりも多くても、一方からしか攻められなければ、二人で戦える優位と言うのはたいぶ軽減されてしまう、という事でもある。

 

「……更に言うなら、ここは、開けた空間じゃない。後ろに回り込むにしても、どうしてもワンアクション必要になって来る――鷲師父を相手取るなら、その一瞬でも……」

「……致命的になっちゃう、って事ですか」

「えぇ。多方向からの攻撃を凌ぐ態勢だって十分整えられる……取り敢えず複数方向から叩けばいいってものじゃないわ。ただ闇雲に多方向に戦力を割くのは、戦力の逐次投入と同じ、愚行なの」

 

 そして、それは相手の防御が整い切った時に攻めても、同じこと――そう連華さんは言う。対応しきれない相手を、息を合わせて多方向から叩く。それが出来て初めて、多対一の有利を発揮しきれるんだという。

 左右に壁、天井もあって、スムーズに相手の背後や横を取れないこの場所では、その有利を押し付ける事も難しい、と。

 

「……そもそもだけど、考えて見なさい。師父は相手の攻撃を見て、精密に分析し対策が出来る。それ即ち、その攻撃に対して、有効に先手を打てるという事に他ならない」

「す、凄いですよね」

「その相手に、限られたルートを通って、背後を取ろうとする愚策……間違いなく、抜けようとすれば阻まれる。攻撃は出来なくても、相手の動きを阻害する事は出来るもの」

「あ、そうか! 動きがバレちゃうから!」

 

 回り込めたとしても、守られるし……そもそも、回り込む事が前提として困難。

 

 それ即ち――今のホーク先生は、文字通り、ビルの廊下に立ちはだかる巨大な城砦そのもの。回り道もなく、抜け穴もない。そんな堅牢な城砦に、ただ二人で真っ向勝負を挑まざるを得ないという、圧倒的不利!

 

「ふっ――!」

「ぬぅうあ!!」

 

――ド ォ ォ ン!!

 

 連華さんの言う所の場所と、疲労。二つの不利な点が合わさった結果、どうなるか。

 それを今……僕は、ありありと目の前で見せつけられた。思わず、あんぐりと口を開けてしまった。

 

「――抜けぬか!」

「何たる堅牢さかね……!」

 

 二人並んで一歩下がり……両足で、『ため』を作って飛び出した、師父と槍月さん。

 

 そのままの勢いで、轟音と共に、叩きつけられた、二人の拳は……分厚い門みたいに構えられた二つの掌に阻まれて。まるで目の前のホーク先生の身体を後退させる事が出来ていない。というか、全然、その場から動いている様にも見えない。

 達人級二人の同時攻撃っていう、ちょっとした人間兵器みたいな攻撃を、当然の様に真っ向から受け止めたのに。

 

「――気は済んだかな」

 

 寧ろ……苦しい顔をしているのは、師父達の方で。汗と共に、若干微妙な顔色は拭えない。若干、罪悪感も残っているのだろうか。

 そんな二人に比べて、ホーク先生は、涼しい顔をしているように……見える。あの、相変わらず据わり切った目が怖いので、内面的には凄い、こう焼け付きそうな感情を抱いているのかなー……って思ったりもするけど。

 兎も角、顔色一つ変えていない。

 

 ようやく理解出来た気がする。連華さんが、二人ですら突破できるか分からないと呟いたその訳が。師父達の状況は、半ば最悪に近い。大して、無敵。鉄壁。堅牢。守りの達人に地形すら味方する。

 

 普通だったら、絶対有利である状況ですら、僅かな要素二つで互角にまで持ち込んでしまう。こ、コレが達人同士の戦い……!

 

「凄いな……ホントに……!」

 

 ……ホント、この戦いが『お薬を飲んでいるかいないか』っていう凄い、気が抜ける理由で始められたモノである事を忘れそうなくらいに、物凄い戦いなんだ……!!

 




ホモ君の守りの腕は、超人級の下っ端、位の感じです。守りに関しては長老の方が一枚上手くらいでしょうか。
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