史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第六回・裏:それはかつての少年の視線に似て

「「「……」」」

 

 ……先ほどから、まるで動きがない。

 先程、二人の渾身の一撃をも、ホーク先生が弾き返した後。何方も、全く動こうとしなくなってしまった。とはいえ、師父達が僕みたいに『これ無理なんじゃないかなぁ』なんて弱気になるとは思えないので……多分、考えがあるんだとは、思う。

 ホーク先生はと言えば、相変わらず最初に位置取った所から動いてすらいない。距離を詰めてくるかとも思ったけど、それすらしない。

 

 連華さん曰く、三人は今、『長考』に入っているのだという。

 

「なんか……囲碁とか、将棋みたいですね」

「ある一定のラインを越えた達人同士の戦いは、こういう状況になりやすいの。相手の動きを読み取れるからこそ……ね」

「えっ、ホーク先生だけじゃなくて、師父達も読めるんですか、相手の動きが」

「えぇ。相手の動きを読んで、その動きを考慮に入れて動くのは達人の基本よ。もっともパパ達程の達人ですら、鷲師父の『読み』の精度や早さには劣るけど」

 

 どうやってあの守りを突破するか。一手一手、攻めの手を思考し。

 どのようにすれば、最も効率よく守れるかを思考して、守りを構築する。

 武術と言うのは、極まればこんな次元になるのだと、何処か感動すら覚えてしまうが、しかしながら……どうにも、一歩踏み込んで見れない自分がいる。

 

 今、僕はどういう態度を取るのが正しいんだろう。だってホーク先生は一切間違ってる事は言ってないし、だからと言ってここで槍月さんを連れていかれたら全てがなんか、ぐだぐだになるのも分かるし。素直にどっちにも肩入れが難しい。

 

「……師父達を応援すればいいんですかね」

「いいえ。黙って見てるのが正解よ」

「そうですか。帰るとかは無しですか?」

「ダメよ。黙って道連れになっておきなさい」

「はぁい……」

 

 僕も連華さんも全然関係なくなっちゃってるんだけどなぁ……完全にご当人達の問題になってるんだけどなぁ……まぁ、達人同士の戦闘を見られるだけでも、十分機会に恵まれてるって言えば、そうなんだろうけど。

 

「……」

 

 ……でも、こうして見ていると、確かに勉強にはなるのは間違いない。一瞬見えた師父の動きにも『あ、アレが理想の型なんだな』と思う所が結構あったりもして……

 そして……勉強になるからこそ、疑問になって来る部分が出てくる。

 

『良いかいケンイチ君。武術と言うのは、攻防それぞれをきちんと修めるのが基本中の基本だ。私の柔術は勿論として、空手、中国拳法にムエタイ、あらゆる武術に於いて、何方に偏重して鍛えるという事はあっても、何方かだけを究めればいいという事は決して無い』

 

 故にこそ受け身の特訓は一生欠かさない! 守りの要だからだ! とか岬越寺師匠に言われて、投げられる訓練をアホ程しているのである。因みにあれだけ見事に投げられてもちゃんと受け身を取れば痛くないのが不思議でならない。

 

 ……まぁ、それは兎も角。

 岬越寺師匠曰く、えっと……なんだっけ……兎も角、何かの『陰と陽』みたく、必ず武術は攻と防が揃ってこそ、らしい。どんな達人も、当然ながら攻防どっちも極めないと成れない……との事。

 

『分かりやすく、こうしてグラフにして見ようか』

『……何時の間にそんな黒板を』

『はっはっはっ。黒板は意外と自作が出来るものだよ。という事で、コレを見たまえ。攻撃と防御、何方も持ち合わせる人と、攻撃しか出来ない人、それを単純に棒グラフで表している――何方が長いかは、分かりやすいだろう』

 

 そうして書き上げられた赤と青のグラフ、そして赤一色のグラフには……大きすぎる違いがあった。攻撃を示す赤の長さは同じだけど、防御分の青い部分がないので、凡そダブルスコア程の大差がついていた。

 本来はここまで単純ではない、と岬越寺師匠は最初に前置きをして。でも本当に単純化すると、片方だけを鍛えた人と、何方もちゃんと修めた人には、これだけの大きな差が出来てしまうのだと、師匠はミニ講義を締めくくっていた。

 

『それこそ……片方だけで『達人』、その更に上澄みを目指そうとするならば、その究め方は最低でも、その『達人の上澄み』のさらに上を目指さないといけないだろうね。ただ武術を究めようとするよりも……更に難行と言えるだろう』

 

 あくまで想像でしかないけれど、と岬越寺師匠は言っていたけど。

 そのとんでもない『難行』を成し遂げた……と、思われる人が、目の前に立っている。あの岬越寺師匠をもってして、『難行』と言わしめた事を。

 

「……何をどうやったら、そんなになるんだろう」

「何がよ」

「あ、いえ、此方の話なんですけど……」

 

 ……今なら、何方も動いてない。師父達もホーク先生も。幾らまだまだひよっこの僕でも、全く動いていない物を見る位はできる。というか、コレが出来なかったら色々とダメだろう。

 という事で、じっと見てみる。

 いや動いていないものを見てどうするんだよ! と言う話なんだけど……でも、何もしない様に見えて、こう、何かしてるんじゃないかというか……

 

「――」

「ひえっ」

 

 目があった。

 

「うっ……!」

「……ふむ」

 

 でも、ほんの一瞬だけ。直ぐにホーク先生の視線は、目の前の二人に戻された。

 

 アレだけとんでもない登場をした人だ。視線が合っただけで、身体がすくんでしまいそうになる……かと思いきや。そうでもなかった。

 正直な感想を言えば。

凄い、フラットな眼だった。いや、寧ろ。とても穏やかな眼の輝きを、している様な気すらした。さっきのとんでもない迫力の人とは、とても思えない。

 

本当に、町の頼れる理知的なお医者さんのような……そう、それこそ、診察されている時に、喉の奥をじっと観察されている時の様な表情をしている。

 ……ずっしりと構えて動かない姿勢に、変な言い方だけど、その表情はよく似合っているというか。自然と言うか。

 

 だから。

 

「……あれ?」

 

 ゆらりと、ホーク先生の指先が動き出した事に、違和感を覚えた。

 伸びた指先が、自分の周りの空間を、ゆらりと流れるようにして……動いていく。

 まるで舞踊のように、とても綺麗な動きだと思う。機械のように、精密な動きのようにも見えた。

 

 ……気のせいか。

 そうして僅かに動くホーク先生の指先が、さっきからこう……ある一定のラインを、超えていないように見える、気がする。直線じゃない。丸い曲線……内側から、水晶玉を撫でている様な、そんな風に綺麗な曲線のラインを。

 

 適当に動いている、ようには見えない。

 そう思ったら……自然と、視線でその指先を追いかけていた。

 

 ゆっくりのように見えて、その軌道は、空間に確かな形を描いている。

 なんだろう。ガラス玉みたいに、透き通っていて……欠けの無い……満月みたいに丸い感じの……うんうん、そうそう、あんな感じに、ホークさんの周りをくるりと囲んでるバリアみたいな、こんな感じ……に……?

 

「……(ゴシゴシゴシ)」

 

 思わず目を擦った。消えた。

 何だろう……幻だったのだろうか。でも……なんだか。幻にしては、明確に見えた、気がする。ホーク先生の周りを取り囲む……あの、球体は。

 

「――綺麗な()()()

「え?」

「でも、なんで急に……?」

 

 隣の連華さんのつぶやきが、妙に耳に残った。思わず、と言った様子で漏れた、そんな言い方だった。制空圏。聞きなれない言葉だったけど、でもそれが、今の奇妙な現象を表しているのは、僕にも分かった。

 

「制空圏……?」

 

 もう一度、見ようと思ったけど、もうホーク先生は、両手の動きを止めていて、再び全く動かず、二人の動きを見ているように見える。あの奇妙な空間を見ることは、出来なくなっていた。

 

「……見えたの?」

「えっ?」

「さっきの」

「えっと……なんか、バリアみたいなの、なら」

「……ケンイチに見えるように、分かりやすくやってくれた、ってコト? それにしたってなんで……?」

 

 それは、サッパリと分からないんだけど……そう思っていると。

 また、ホーク先生と視線が合う。今度は、自然と見つめ返していた。観察するように、覗き込む様に……先ほどのが、そんな感じなら。今の視線は、どこか……優しさすら感じる位に、穏やかな瞳だった。

 

 ……昔。そうだ。注射を怖がってた僕を見ているお医者様の、優しい視線は……あんな感じだった気がする。

 どうしてそんな瞳で僕を見ているかは分からないけど。

 でも、どうしてだろうか。ホーク先生に『見守られている』気がした。

 

「……らしくないな」

「……さてな」

 

 首をかしげる僕とは対照的に。

 槍月さんは、ホーク先生を見て――初めて、楽しそうに笑ってから。じり、と距離を一歩、詰めた。

 




なんでホモ君が急に演武を見せてくれたか、皆も考えてみよう!

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