史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第六回・裏:お開きにします!

「「――っ!」」

 

 息を呑んだ。

 

 あの膠着した空気の中で……槍月さんが踏み出した、それ即ち、決戦に入る準備が出来たって事だ。ホーク先生の守りを打ち破る算段が付いたってことだ。

 一方の師父は……動かない。でも、僅かだけど、槍月さんと目配せをしたようにも見える。流石に兄弟、言葉に出さずとも通じ合っているのだろうか。

 

 しかし……一人で行くのか!?

 先ほどの戦いぶりを見ていてわかるのだが、あのホーク先生の防御を崩すのは、二人でも出来なかったというのに……たった一人で!?

 

「ど、どうやって戦う心算なんでしょうか……!?」

「分かんないわよ! 師父の守りを抜くなんて、それこそ――」

 

 連華さんもそれは分かっているようで……二人して、一歩一歩、距離を詰めていく槍月師父を見ている。此方の不安など関係ない、と言わんばかりに。その足取りはとてもゆったりとしたものだった。

 

「――ホーク」

「……」

「本当に、キサマは相変わらずだ。昔から俺と同じ、アウトローで……そして、俺と同じ頑固者でもある。本当に、お前以上の頑固者は、俺ぐらいのモノだろうな、と確信出来てしまう程にな。先程の事で、よくわかった……」

 

 そのまま……一歩一歩、酷く穏やかな足取りで、彼は距離を詰めていく。

 不思議なのは。槍月さんは、最早構えすら取っていないという事だ。最早、諦めて投降するんじゃないかっていう位に、無防備に。

 それを、ホーク先生は、黙って見つめている。動かない。

 

 ただ歩いているように見えて……しかしその間には何か、二人にしか見えない光景が広がっているのだろうか。ゴクリ、と連華さんと二人して息を殺して、縮まっていく二人の距離を、ジーっと見ている。

 

「……伯父上にとっては、最早必殺の間合いに入ってる……筈だけど」

「まだアクションは……起こしませんね」

 

 未だ構えを解かずにその様子を、静かに見つめるホーク先生。

 先ほど打ち合っていた、その距離へと再び歩み寄る槍月さん。そして……

 

 既に、二人の距離は、立ち話でもするんじゃないかってそんな所まで縮まり切った。もう既に、その場で拳と拳が激しい鎬を削っても……なんら、不思議じゃないレベルだ。

 

「――故に、貴様の事は、貴様以上に良く知っている」

「あぁ、それは良く知っているとも」

「そして……武術家……否、戦う者として、最も致命的な、短所もな」

 

 ……その言葉に。連華さんと、思わず目を合わせてしまう。

 

「……あるんですか、短所」

「ある訳ないじゃない! 師父の守りに一切の曇りも、一切の欠けだって無いわ。さっきあれだけ二人の攻撃を凌いでたのを、見てなかったの!?」

「見てましたよ!? じゃあないじゃないですか!!」

 

 あんな無敵要塞に弱点なんかある訳ないだろぉ!! いい加減にしてください!

 ……と言いたい所なんだけれども。でも……槍月さんの表情は、とても無理してそう言っている様にはまるで見えない。そして、何よりも――

 

「あぁ、そうだろうな――君が、俺の弱点を知らない訳がない」

 

 目の前の、盤石の筈の守りの使い手が、それを、肯定している。うっすらと、微笑みすら浮かべながら……ゆっくりと、両手を門のように、構えた。

 今まで、ただ、前傾姿勢のようにも見えた彼が、初めて……両掌を、門のように、槍月さんの間に立てて、構えたのだ。

 

「貴様は正に無敵の城砦。守りに徹するならば、生中な腕では貴様の守りを打ち砕くことは適わん。貴様を砕くのであれば……無敵超人……そして伝説に名高い二天閻羅王程の腕が居るだろう……真っ向から、打ち砕くのであれば、だが」

「伝説? 煌臥之介殿ならば、二年ほど前に人間ドックを受けに来たが」

「………………貴様ならば、まぁ無いとは言えんのがアレか。まぁそれは良い」

 

 ……なんか、槍月さんと連華さんと師父が物凄い、チベスナみたいな顔をしているけど僕には何も分からないからスルーしよう! その方が良い気がする!

 

 という事で……真っ向からは、とは言っても、何か卑怯な手を打って崩すとかではないだろう、多分。アレだけの圧倒的な守りを、どんな邪道な方法を使っても崩せる気は、到底僕にはしない。何よりも。

 

 あの目の前に立つ、何処か少し不器用そうな武術家が、そんな卑劣な真似をするとも思えないのだ。であれば……やっぱり、さっき言ってた、弱点?

 でも、弱点なんてあるんだろうか。卑劣な手を使っても崩せない、そう思うのと同じくらいには、それが存在する、という事も信じがたいのだ。

 

「故に、だ――全てを捨てて、貴様のそこを、突く。構わんな?」

「あぁ。君ならば……まぁ、そう悪い事にはならないだろうよ」

 

 ……だけど。

 槍月さんは、ゆっくりと腰を落として……再び、拳を構えて見せる。

 ある。その確信が、確かに彼にはあるのだ。故に、目の前に立っている。そして……それに対して、ホーク先生も、初めて構えらしいものを見せている。

 想像もつかないが、確かにあると確信させる……二人の間の、緊張感!

 

「「――」」

 

 二人は、一切視線を逸らさない。ベキリ、と拳を鳴らし、槍月さんが……腰だめに、ゆっくりと拳を構えた。使うのは、拳のようだ。

 まるで、巨大な弓を引き絞るように、じりじりと、酷く緩慢に、拳が引かれていく。ああしている間にも、一切の隙を槍月さんは見せていないのだろう。

 

 ……とんでもない大技が来る。そんな、漠然とした確信がある。目を見開いて、少しずつ近づく、戦闘再開の瞬間を、待っている。連華さんの呼吸が、少し細くなってきているのが、分かる。

 そのまま、拳は、ゆっくりと、後ろまで引き絞られて――

 

「――先生」

 

 しゅたり、と。

 ホーク先生の後ろに、誰かが降り立って……膝をついて、首を垂れた。

 

 一瞬。全員の動きが止まる――さっきまでとは違って、僕も、その声に反応出来た。というのも……その声は、聞き覚えのある声だったからだ。

 

「――メナング、どうした」

「一旦、矛をお納めください先生。急患です」

「ふむ……そうか」

 

 その声が発したただ一言で……ホーク先生が構えを解いた。

 驚いてしまう。二重の意味で。あんまりにもあっさりと闘争の空気を散らしたホーク先生にもそうだけど。ホーク先生の後ろにいるのは、僕の見覚えのある人だったから。

 

「メナングさん!?」

 

 褐色の肌に、特徴的な民族衣装。最近、梁山泊の居候として(多分、一部の住人よりもお金とか家事とか色々役立ってるけど)一緒に暮らしている、プンチャック・シラットの達人である……メナングさんだった。

 そのまま、ホーク先生と、何事かを話している。知り合いだったのか、あの二人は。

 

「――間に合ってくれたかね」

「た、助かった……」

 

 ――その姿に、拳を下ろし、帽子に手を当てて溜息をもらす師父、後ろで座り込む、と言うかへたり込む様に崩れる連華さん。二人とも、漸く緊張した面持ちを緩めているのが見て取れる。連華さんが呼んだ切り札と言うのは、メナングさんの事らしかった。

 

「先生って……?」

「メナングさんは、鷲師父のお弟子さん……と言うか、助手なのよ。あの人と一番長い付き合いで、あの人の扱いを一番心得てる。この状況を打開してくれるとしたら、あの人以外に居ない」

「そ、そうなんですか!?」

 

 意外な事実だった。

 ちらりと二人の方向を見つめる。白い白衣に身を包んだ屈強なドクターと、民族衣装を纏うシラットの達人の二人は、しかし、そう言われてみると……全く関わり無さそうに見えるけど……

 

「――既に機器は揃えてあります」

「患者のデータは」

「先方から既に」

「そうか。分かった。なら一旦当人と話して、方針を決めるべきか」

「場所は此方です。一応、最寄りの新幹線等の交通機関のリサーチは終わっていますが」

「いや……相手が相手だ。秘匿性を重視したい。今回は徒歩でいく。ハルティニにも手伝いを頼みたいのだが、大丈夫かな」

「大丈夫だと思います」

 

 ……凄い。長い間付き合ってるってだけ有って、スムーズに話をしてる。とても……似合う。助手としての立場が。慣れてるって感じのする所作だ。

 既に、二人が話している姿を見て、槍月さんも構えを解いている。一旦、事は落ち着いた、という事だろうか。

 

 ふと、此方に気が付いたのか、緩く笑ってひらひらと手を振ってくれるメナングさん。うん、あの梁山泊の頼れる何でも屋さんを見ていると、もう大丈夫なんだな、っていう根拠のない安心感が湧いてくる。

 

「――それと、槍月殿。貴方には付いてきていただきます」

「「なにぃっ!?」」

「「嘘ォっ!?」」

 

 安心感が一発で吹き飛んだ。

 

「あ、あのメナングどん……兄さんを、連れていかれると困るんだけどね……?」

「無理ですよ。先生が一旦こうなったら曲がると思うんですか。私がここに来たのは、あくまで双方の被害を最小限に減らす為です。双方の和解の手段を探る為ではないです。それに……此度の一件、原因は槍月殿かと存じていますので」

 

 メールで確認しました、とジト目で睨まれて、師父は目を逸らす事しか出来なかった。

 

 ……とはいえ。

 実際そうなのだ。連れていかれると困るって言うのはこっちの事情であって……あくまで問題は槍月さんの薬の飲み忘れにある。

 そりゃあ、向こうが妥協する意味もない、と言えばないだろう。

 

「とはいえ、事情はお察しいたします。ので、コレを」

 

 師父もそれを分かっているのだろう。諦めたように頭を振って……そんな師父に、メナングさんは懐から取り出した、黒い小さな機械を手渡した。

 

「……携帯?」

「はい。飛ばしになっているので、終わったら即時処分を。信頼できる業者は改めて梁山泊でご説明しますので……話したい事があるなら、今日から三日以内で、此方をお使いになって下さい」

「え゛っ」

 

 そこから流れるようにとんでもない発言。

 飛ばしの携帯って、結構悪い事に使われる印象があるんですけれども……あの……そんなものをお渡しになられるので?

 いや、確かに二人で内密な話をするのであれば、そういう携帯を使うのは手立ての一つだとは思うんだけど……

 

 連華さんを見る。連華さんは、軽く肩をすくめて見せた。

 

「メナングさんは、基本的に鷲師父のサポートをやってる人だから、ああいう事も慣れてるのよ。それこそ、どんな依頼だってあの人は受けちゃうから」

「……あ゛―……」

 

 まぁ、要するに……僕とかが考えちゃいけないような、怖い人とかからの依頼も受けてるって事なんだろう。さっきの依頼とかも、もしかしたらそうなのかなぁ。秘匿性とか言ってたし。お医者様がわざわざ秘匿性って言うのも可笑しいもんなぁ。本当に誰でも助けるんだなぁ、あのマッチョなお医者様って……あははは……はは……

 

 ……兎も角。

 取り敢えず、闘争の空気は終わらせた。師父と槍月さんが話す機会も問題なし。という事で、師父がここで粘る理由が消えたわけで……えっと、つまり。

 

「……」

「流石に私と先生の二人を相手に、この場から逃げ切れると思う程……間が抜けている訳ではありませんよね、槍月殿」

 

 僅かに肩を落とし、顔に深い影を張り付けた槍月さんを、最早誰も庇う事も出来なくなってしまった訳で……

 

 ぐぐっ、と。巨体の禿げ頭が、槍月さんを下から覗き込んでいる。目がガン開きになってる。とてもとてもコワイ。

 何時の間にか、槍月さんの後ろに回り込んだメナングさんが、腕を組んで、何時ものにこやかな様子とは違って、凄い冷ややかな目で槍月さんを見てる。コワイ。

 

 二人に挟まれて、最早逃げ場もなく……廊下に、ひときわ大きなため息が、響き渡った。

 




コレが『最優』の仕事って奴だ。

追記:タイトルが銀魂みたくなってました。申し訳ありません。修正しました。
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