史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第八回・裏:第六拳豪ハーミット、出陣

「……」

 

 片手に、手袋を嵌める。つい先日、楓が遊びに来た時は、見つからない様にと箪笥の奥へと隠していたそれを。

 今の俺の顔を見たら、間違いなく楓は怯えてしまうだろう事は容易に分かる。呼吸が荒い。顔の筋肉が強張る。

 

『――拳聖様からの命を疑うとはなぁハーミット……仕方ねえ。お前にも分かるように証拠ってもんを見せてやった方が良いか?』

 

 そう言って、アイツに見せられた通信端末。

 そこに開けられた、ヒビ一つない綺麗な丸い『穴』。

拳銃などで破壊したのでは絶対にああはならない、一切の無駄のない破壊の跡は――俺にとっては、ロキの言葉に真実味を増す大きな材料だった。

 あの時、橋の上で見せつけた、拳聖様の拳の絶技。指先一つで人の体に穴をあけて見せた時の、あの跡にそっくりだった。

 

 ……あの人が、白浜兼一個人を始末する為に、態々ロキに命令する様な質か、と言われればそうではないとは思う。

 だがしかし、あの女医の様に本性を隠している可能性もゼロではない。此方からはどう足掻いても『半々』にしか搾り切れない以上、予断は排して事に臨むべきだとは思う。

 

「……チッ!」

 

 フードを被る。

 

 ……白浜ほのか。

 アイツと俺の関係は短い。ちょっと世話したくらいで。楓と遊んでいた時間の方がずっと長かった。なんつーか、無理に家事手伝おうとして壺が割れて余計に散らかるとかしてたしなんなら被害の方がデカかった。

 

『へーお兄ちゃんと友達なの!』

『友達……って訳でもねぇよ』

『じゃあジャニーズ系、顔に見合わず良い奴なんだね! お兄ちゃん、そういう所を見る目はすっごいあるから!』

『顔に見合わずってのはどういう……おいやめろ、目元を触るな。もうちょい優しい表情してりゃ顔もきつくなくなる? やかましいコレは生まれつきだ!!』

 

 ……妙に人懐っこいのも、アレだ。正直、戸惑った。楓とも、ハルティニとも違う。子供らしい子供の相手をするのなんざ、初めてだった。

 

 ……アイツが攫われて、捕まる原因になったのは、ラグナレクと関わってる自分だ。

 戦う覚悟があるならいい。だが、ただ遊びに来ただけのガキを巻き込んで、それを放って置けるほど、残念ながら人としての心は捨てられちゃいない。

 何より。

 

「……楓の、友達だからな」

 

 頭を上げる。

 今日は来ていないが……きっと、ここに居たなら自分も探す、と先陣を切って動き出すだろう――健康になった、自分の体で、風を切って。

 あいつ等がまた『『つぼ壊しちゃった!』』と無邪気に慌て……いや師父じゃねぇんだから一々モノ壊してほしかないんだが。兎も角。

 

 兄貴として。

 アイツの代わりに、俺が先頭に立つ。やるべきは、妹を人質におびき出された白浜を抑えつつ、隙を見てロキの奴から妹を救い出す事。

 

「……とはいえ、呼び出された白浜の野郎が話を聞くとは限らねぇか……まぁいい、妹を助けて、熨斗付けて返して、んでそっから改めてやり合えば良い話だ――!」

「――助けるのは私の役割ですが」

 

 ぱしん、と掌に拳を当て――た所に飛んで来た少し呆れたような声に、思わずずっこけそうになった……いやまぁ、確かに。偉そうな事を言ってなんだが。今回の俺の役割は殆ど『囮』みたいなもんだ。

 あくまで大人しくロキの命令に従っているように見せて。その隙に裏から――ハルティニが救出を目指す。それが俺達が立てたプランだった。

 

『――俺が出向くか。多少刃物を突き立てられる程度なら何とでもなるが』

『いやアンタが出張ったら間違いなく全部台無しになるから勘弁してくれ』

『……』

『では先生――私が動きましょうか』

 

 ……俺達、というかハルティニの立てたプランか。

 ロキの野郎は、どうやったかは知らねぇが拳聖様からの勅命と、その証明の品まで態々こっちの目の前に持ち出して来た――その本気具合を侮る事は出来ない。

 だからって言って弟子の喧嘩に師匠を呼び出すなんざ論外レベル。

 

 そこで……腹立たしいが、俺が表立って暴れるのは『本気』でやる。ロキが自分の完全優位を確信し油断している所で。向こうの認識の外から、ハルティニが白浜の妹をこっそりと救い出す。

 呼び出しの場所は割れている。遮蔽物も多く、建物も老朽化が進んでいて侵入経路も多い。こういう場所なら自分は並の弟子クラスより上手くやれる――無表情ながら、むふーと何処かドヤ顔を滲ませてハルティニは言った。

 

「つっても、あんまり無茶をするんじゃねぇぞ。ロキだって、一応は俺より位が上の拳豪だ。それなりには強いだろう」

「後ろに先生がいるので、多少の無茶であれば心配いりません」

「……絶対的な回復役が後詰にいるってのも考えモノか?」

 

……今回の一件、双方に『本気』になる理由がある。最後には頭に血が上って、歯止めが利かなくなる可能性がある。だから先生は戦いを直接鎮めて貰うんじゃなくて。最後のストッパーをお願いする事になっていた。

少なくともこの人が近くにいるなら、『死人も重症者も出ない』。

 

「今回はガチの抗争だからな、流石に……とは言えねぇかアンタの前じゃ」

「いや、どんな規模の『喧嘩』だとしても治療を怠る理由にはならない。一時間は準備をかけるが……大丈夫かね。もう少し短くも出来るが」

「あー……いやなんでもいいかもう、頼む」

 

 ……喧嘩って言ってるのは無意識からか。

 この人が渡って来た鉄火場は、マフィア同士の抗争クラスが最低レベルで、そっからは物騒さも忙しさも苦しさも青天井と来ている。戦場のど真ん中での治療は、日常茶飯事クラスらしい。

 そりゃあ、ガキどもの血が流れたくらいなら何処まで行っても『喧嘩』だろうな。

 

 まぁそんな喧嘩にも一時間はじっくり準備をする辺り、ガチで規模とかでの差別はしてないらしいが……絶対一時間もいらないとは思う。先生がそんな準備するってなったらすわ世紀の大手術前か何かかって、少なくとも俺は覚悟を決める。

 ……いや、この『万全』の後詰を見れば、それ以上の事になるかとすら思うが。

 

 ちらり、と先生の方に視線を向ける。

 携帯で連絡を取りつつ、薬品等の確認を行っている。相手は……先生の助手役、ハルティニの親父さんの、メナング。今回のもう一人の『後詰』だ。

 

「――しかし、意外だったな。メナングのおっさんがあれだけあっさり頷くとは」

「……父様は、やさしいです。けど、戦士でもあります。私の戦う意思が本物なら、尊重してくれます。もし私が失敗しても……必ず、後始末はつけてくれる、と」

「そうかい」

 

 ハルティニは、自分の父親に大切にされている。コイツが動くという話になった時に先生が真っ先に連絡を取ったのがあのおっさんで……想像よりもあっさりと、許可が下りる事になった。

 

 その代わり、万が一の場合に備え、自分もサポートする準備だけはしておく、と。

 メナングという男は、世界最優と謡われるシラット使いで、そして――隠密、斥候、諜報に関しては文字通り世界トップクラスの達人だ。

 恐らく、あの人が本気を出せばロキのちゃちな作戦なんざ数分で瓦解するのは間違いないだろうが……

 

「……」

 

 さて、ここで一つ。状況の確認をして見る。

 

 後詰に世界最強クラスの達人が二人。その教えを直に受けた隠密特化の弟子クラスが救出に動く間、三人の弟子クラスが茶番……いや、それにも等しいだけで、一応は本気の喧嘩抗争をする事になる。

 

 ……もしどっちかがやらかして多少の惨事になろうが、全部丸く収まるのは目に見えてる万全も万全、つーか問題の規模に対してオーバーキルも良い所の陣容だ。

 

「……頭痛くなって来たな」

 

 取り敢えずロキの野郎は必ず一発ぶん殴る。

 白浜の妹を攫ってくれた事への落とし前、その序に今回の一件がもう、なんか殆ど授業参観みたいな様相になって来たコトへの苛立ちと気恥ずかしさも込めて。必ず。殴る。

 

 

 

 

 

 

「……マジでよォ……」

 

 倒れた墓石の上に腰を下ろしたまま、情けない声を最小限に抑えた。

 泣きっ面に蜂か。ただでさえため息吐きたいような所に、天気はまさかの雨だった。ちょっと前から雷雲が出てたのは見てたが……想像よりも早く、雨が降って来ていた。

 

フードに当たる雨粒が、弾けて飛んでいく――先生に『武術に使う衣装であれば耐水性は重視しておきたまえ。戦いの場所は基本選べないのが戦いというモノだ』と言われて、結構素材は拘ったが、それが功を奏した。

 ……医者なのに、その辺りに詳しいのはやはりあの人らしいというか。

 

 兎も角、少なくとも雨で身体がぐしょぐしょに濡れて……という影響は、最小限で済むだろう。ぬかるんだ地面も、まぁ戦いのスパイスと考えりゃあ悪くもない。

 

「……」

 

 後ろを確認する。視線が合って、にやりと此方を嗤ったロキが、ひらひらと手を振って来る。その傍らには奴の部下の女と……歯を剥き出しにしながら二人を威嚇しまくってる白浜の妹の姿が。犬かアイツは。

 

 ……んで、ここのどっかしらにハルティニが潜んでいるのは間違いなく。

 そしてここら辺の五百メートル圏内には、先生とメナングのおっさんが一緒になって待機しつつ、此方の様子を伺っている。

 電話越しの師父と一緒に。

 

『ちょっとした連絡の序に槍月に確認した所、その戦いぶりを報告するようにと言われたのでな。頑張りなさい、谷本君』

「マジの授業参観じゃねぇか……っ!!」

 

 比喩表現が完全にそれになっちまってる。最初の方はテンションちょっと落ちる位だったのが……それで地の底まで真っ逆さまだ。やる気が無いように見えないよう、できるだけ集中している様にロキには見せて、ギリギリの所で乗り切ったのだが。

 あぁ、どうしてこうなったのか――

 

 天を見上げ、途方にくれそうになる。

 

 ――ガッシャァアアン!!

 

 ……その時だった。

 

 耳に聞こえる、何かが壊れる音。廃教会の入り口の方だ。

 

「――そうか、君かっ……! ほのかは……?」

 

 焦りと……怒りの滲み出た声。鋭い視線を感じる。

 あぁ、漸く来たか――口の端が、勝手に笑みを浮かべる。腰を上げて、顔を上げる。壊れかけの鉄門を……恐らくは、掌底の一発で破壊して入って来た、学生服姿の男。後ろの少女とよく似た男が、視界に入った。

 此方を睨みつける姿には……学校でのそれとは桁の違う、空間を重く満たす様な、覇気と呼べるような迫力が満ち溢れてる。

 

 良い気迫だ。

 さっきから、こっちの気分が下がるような事ばかり。流石に、流石に……この勝負だけは……っ!

 

「……ハーミット」

「白浜兼一……良い顔してるじゃねぇか」

「……ほのかを攫ったのは君じゃないな!」

「待て待て待て早い早い早い」

 

 びしっと指を指されてハッキリと言われてしまった言葉に、頭の中は『???』で一杯になってしまう

 いや、実際攫ったのは俺じゃないが。この状況なら俺が犯人だと思って襲い掛かってくるのが、その、筋だろう。何で一発でバレてる。

 

「……ちょ、ちょっと待て。何が、なんでだ」

「だって……今のキミは、梁山泊の家計諸々で苦しいことになってた時、数キロ先のスーパーで激安セールが始まる情報を入手したメナングさんと、その事を知らされた美羽さんと同じ様な、そんな『苦境に希望を見出した様なささやかな笑顔』をしている……!」

 

「そんな風に笑える君が……ほのかを誘拐する訳が無い!!」

 

 ……もう何も構わず、天を仰ぐ。

 

 神よ。俺が一体、何をしたというんだ。

 




皆:谷本君苦労キャラになりそうやなぁ……

儂:じゃあ期待に応えるか!!!!
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