史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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断章:お医者無双

 ――決着はついた。

 

 まっすぐ伸ばされた白浜の拳が。ハーミットの野郎の胴にしっかりと突き立ってる。こっちからでも、ドズン、って重い音が聞こえてくるような、真っ直ぐな拳だ。

 目の前の二人は、白浜の一発が決まってからどっちも動きやしねぇ――が、別に無理に確認しなくても分かる。

 

「――ぐぶぉえっ……!」

 

 白浜の勝ちだ――っておい!? 

 

「ハーミットの奴、血ぃ吐いて倒れたぞ!?」

「宇喜多、そっちは任せる! ハニー、ケンイチ君を!」

「りょ、了解しましたわ!」

 

 目の前で崩れ落ちるハーミットを受け止める。口元からは派手な吐血。確かにかなり重たい拳だったんだろうが……にしたって……つーか、この血の色、ヤベェぞ。確かコレは先生曰く『ダメな血の色』じゃないのか!?

 あのパンチ、どんな威力だったんだ――と思って振り返ったが、しかしそのパンチを放った張本人も、武田の手の中で意識を飛ばしてる。全部ちゃんと受けてた様に見えたがそれでもこれだけのダメージを……!?

 

「お、おいおい、二人ともやべーんじゃねぇか……おえ……オレ様もやべぇな……教会の力が……強まって来やがる……」

「新島! 携帯あるか! 貸してくれ!」

 

 咄嗟にポケットを確認したが……やっぱり携帯は忘れて来てた。急いできたからしゃーねーか。となれば。

 

 教会に入ってから調子が悪いからと背中に背負ってる、新島に声をかけた。

 ハーミットの奴は、間違いなく内臓までダメージがいってる。白浜もどれだけボロボロなのか分からねぇが……間違いなく、二人ともかなりの重症だ。先生じゃなきゃ、ヤベーかもしれねぇ。

 

「きゅ、救急車か……っ!」

「ちげぇ! いい医者の先生知ってるからそこに連絡を――」

「――いや、連絡は必要ない!」

 

 ――どどずんっ!

 

「「おわっ!?」」

 

 ……そう思った所で。上から降って来た二つの影に、めっちゃ仰け反ってしまう。受け取ろうとした所で手を離してしまった携帯を慌てて受け止め……それから、目の前に視線を向けて――

 

「ずぉぉぉおおおおおっ!? なんじゃっ!?」

 

 思わず仰け反った。濃い。目の前の景色が濃すぎる。

 バチバチに決まった和服と、素肌にライダージャケットにジーンズの攻めたファッション。対照的なファッションながら、何方のおっさんも味が濃い事は変わりない。和服と同じくらいにバッチリ決まった髭とこっちを射抜くような静かな眼光、ガッチガチの筋肉に顔に走った横一文字の大きな傷……とんこつなんざ比べ物にならねーぞオイ……!

 

 ……いや待て。和服の方は、なんか見覚えが……先生に会う前に、どっかの病院とかで会った……気がしないでも……?

 

「あ……アンタら……確か……ケンイチの師匠方……」

「なにぃっ!?」

「――秋雨さん! 逆鬼さん! ケンイチさんたちが!」

 

 ……あっ、思い出した。武田と一緒に担ぎ込まれた時の髭先生だ。最近はもっと濃い先生に掛かってるからか忘れてた。そういや、あそこって白浜の通ってる道場だっけか。という事はもう片方のTHE・無頼漢みてぇな奴も白浜の師匠かぁ。

 なんつーか……白浜が素の麵みたいな素朴な奴だからか、本当につけ麺のつけ汁みたいな感じがするな、白浜の師匠。あんなんがいっぱいいるのかね、アイツの道場って。

 

 しかし、その白浜の師匠がなんでこんな所に。っていうか、なんで上から降って来てるんだ。偶然……な訳ないだろうけど。

 

「あぁ。しっかり見てたぞ、なかなかいい勝負だったぜ、二人とも」

「うむ。些か激し過ぎたようではあるがね……フードの彼もケンイチ君も、『後で』纏めて診療所へ運ばねばならないか」

「……というかお二人とも、何時から!?」

「「最初っから」」

 

 ……いやいやいやいや!?

 えっ、見てたら、その、取り敢えずいい所で止めるとか……い、いや待て。今はそこじゃねぇ!

 

「ひ、髭のおっさん。連絡が必要ねぇって言ったって、ここから病院も近いんだよ! 信頼できる先生だしよ――」

「――いや、連絡をしなくていいと言ったのは、その張本人が『もう来る』からだよ。柔道家くん」

「へっ?」

 

 ――ドッズゥン!!!

 

「「おぎゃああああああっ!?」」

 

 ……今度は新島と一緒に悲鳴上げちまった。もう来るって言ったタイミングドンピシャ過ぎて。なんだ、今度は!?

 

 目の前で上がる土煙の中から――大きな掌が、壁でも突き破る様にして伸びてくる。ひえっと鳴くみたいな悲鳴が背中ら上がったが……しかし、俺はその手に刻まれた傷の跡に、見覚えがあったから、恐怖より、純粋な驚きが勝ってしまって。

 

「――先生!?」

 

 土煙の中から現れたのは、連絡しようとしていた頼れる禿げ頭のお医者様――ホーク先生だった。何時もの白衣姿、片手にお医者様が往診で使うような、黒い立体形のバッグを手にして。

 

「――ウキタ君。谷本君をそちらの簡易寝床の上へ。他の患者もだ! そこである程度処置をしてから岬越寺診療所に搬送する!」

「あ、へっ?」

 

 どうしてここに居るのかとか……色々と聞く前に、先生は一歩身を引くようにして自分の背後を指し示す。驚く事に――そこには何時の間にか、簡易なテントと敷布団っぽい真っ白ピカピカの寝床が『三つ』設置してある。その隣で褐色のおっさんが、汚れを払う様にして両手を打ちあわせているのが見えた。

 何時もの静かな感じとは違う、腹の底にビリビリ来るような厳しい声に、質問する事もせず、素直に谷本を担ぎ上げて、寝床の上に寝転がらせる。

 

「え、っと」

「――それと君もだ。ウキタ君。即座に横になりたまえ」

「えっ? ああいや俺は別に平気で――」

「電流によるやけどと打撲、腕の筋肉に僅かな痙攣も見られる――随分と無茶をしたようだね。直ぐに処置だ。今すぐに。其方の少年は此方で請け負う」

「アッハイ」

 

 あっ、なんかスタンロッド受け止めてたのもバレてる。言ってないし見られても居ない筈なんだが……と思いつつ取り敢えず大人しくテントに向かう事にする。

 テントの横のおっさんが、右端の寝床へ誘導してくれたので、取り敢えずそこへ腰を下ろす。濡れた地面の上でも不思議とこの寝床は身体を優しく受け止めてくれて。途端にどっと出てくる疲れでため息を吐いた所で、改めて先生を見る。

 

 木陰に避難させた風林寺と武田になんか湯気の出てる温かい飲み物を渡し、背中の新島と、白浜の妹を革ジャンのおっさんに渡して二、三言葉を交わしてから――革ジャンのおっさんの方が頭を下げてから、何処へと『跳んで』行くのを見送ってる。

 

 ……まぁ突っ込みどころは他にも色々ある、が。

 どうして自分の体調を一目見ただけで把握できたんだろう、と言う疑問がある。疲れてるなーっていうのは、まぁバレても仕方ないけど。軽度の火傷と打撲に関しては、普通に立ってただけで、分かる要素ゼロだと思うんだが。

 

「――一目見ただけでバレたのが不思議かい?」

「え?」

 

 そんな風に首を傾げてた所で、話しかけてきたのは褐色のオッサンだった。というかよく見れば、民族衣装って言えば良いのか。独特な衣装に身を包んでて裸足という。このオッサンも大分濃いな……それは今は良いか。

 

「……そうっすね。透視でもしたんじゃないかってくらいバレバレで」

「透視、というか……まぁ似たようなモノではあるか。兎も角、先生の前で怪我を隠すのは『不可能』だと思った方が良いよ。あの人に掛かれば、『体の中の電気』や『骨肉の立てる音』から不調を見抜く位は難しくもない」

 

 ……成程。

 

 良く分からんが、呆れたような目で先生を見るオッサンの言葉には妙な『説得力』がある。これからは、先生の前で不調を隠す、みたいな事は絶対にしない方が良さそうだ。

 バレた後が怖すぎる相手に、絶対にバレる様な愚行をする程、俺だってバカじゃない。

 

「……さぁて、張り切って助手として仕事をするか。今日は、『すごいもの』が見れそうだ……!」

 

 ため息を一つ入れて、改めて先生の方へ視線を――向けた所で。褐色のおっさんがゴキリと首を鳴らしたのが聞こえた。

 なんだ? と疑問に思うのもつかの間で。その理由を……俺は『心』で理解する事と相成った。

 

「――Dr・ホーク。準備は宜しいか」

「――応。何時でも」

 

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 

 

「うおぉぉぉお」

 

 ――二人の男が、此方に向けて静かに歩いてくる。

 

 髭の先生と、ホーク先生。二人のお医者様が、ただ歩いている。ただそれだけだってのに、圧が、圧がすげぇ……! なんか、あの辺りだけ空間が歪んで見えるのは気のせいなんだろうか。ホントに医者かあの二人。

っていうか眼が! 二人の眼がゴリゴリに光ってる! サーチライト並みに目の奥から光が溢れだしてる!! こええ!? 怖えよ先生方!?

 

「う゛……せ、先生……手加減……手加減を……」

「師匠っ……じぇ、じぇろにも……じぇろにもぉぉぉ……」

 

 その姿から何かを感じ取ったのか。隣のベッドの上の二人も、なんか呻き始めた。呻いてる、って言うか……蠢いてるって言うか、苦しんでる……?

 っていうか白浜は……まぁ、あの髭の方が師匠みたいだから兎も角として、ハーミットの方はなんでそんなビビってるんだ!?

 

「なぁに、二人とも、そう怯えずとも直ぐに済むとも――」

「――全身全霊を尽くし、治療を開始する」

 

 

 

 

 

 

「――弟子の具合? あぁ、きっちりと槍月に報告はしたが……キミがそのような事を気にするとは、珍しいな。弟子を取ったから気持ちは分かるようになった? そうか」

「それで、だ。その谷本君が見せられたその『端末』……やはり君の仕業で間違いないのだな。あぁ、うん。飼っている子犬に手を噛まれた、か」

「――先ほどの少年を治療するのか、だと? 君が手を出すのであれば、十全にな。そのつもりで『断り』の連絡だ……そんなに怒らなくても良いと思うのだが」

 

「あぁ、それともう一つ……頼み事がある。君なら恐らく調べられる筈だが。『闇』についての事だ。詳しい調査をして欲しい訳ではない。ただ、知り合いに少し確認してもらうだけでも良いんだ――とある『都市伝説』について」

 




今回の更新はここまでとなります。

次回の更新でラグナレク編終わらせられたらいいなぁ……するかどうかも未定ですけどね……

追記:スイマセン更新もう一話分残ってました!!! 許してくださいなんでもしますから!!!
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