史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第九回・裏:示すもの

「それで、明日にでも出発を?」

「うむ。準備は整ったでな――少々骨を折る様な大仕事の前、今日は英気を養う為という事でぷ~るでバカンスじゃ!」

「わー……ふんどしが大変に眩しいですな」

 

 ……まぁ、それだけではなく。白眉殿から送り込まれた『弟子』二人との戦いぶりを観察したいというのもあるのだろう、とは思う。

 

やって来たのは、ちょっとした規模の屋内水泳施設。最近購入したスイムスーツに身を包んだメナングは……今いる所の反対側にて戦い続けている梁山泊と……一応自分の教えも受けている心優しい一番弟子へと視線を向けた。

 

因みに傍らに堂々と仁王立ちしている隼人は染み一つ無しの真っ白なふんどし、その隣のしぐれも同じくふんどし姿だ。騒めきの視線を独り占めする二人は、非常に青少年にとっては(それぞれ別の意味で)目に毒であるようだった。死んでも指摘はしない。

 

それは投げ捨てて置いて……戦況は――兼一がやや有利、だろうか。

 

眼鏡をかけた短髪の少年、長い黒髪の少年――何方もかなり練り上げられている事は間違いない。ちょっとした犯罪グループ十数人相手でも、二人がかりなら多分圧勝できるレベルだろう。単純な『練度』ならハルティニといい勝負か。

 

『なんのっ――だっしゃぁああああああっ!!』

『なっ!?』

 

 が――兼一も梁山泊からの『魔改造』の第一段階を受けてしまった後であり。単純な練度の『量』で話をするならば、普通の雑誌と百科事典の差程に、積み上げた厚みが違ってくるというもの。

 

 足技を得意とする弟子の振り上げた足が、踏み付けるかのような動作の『足で』抑えられ、更に単純な脚力でそのまま技を押し返されてしまうという珍事。僅かに抱いた動揺を突かれた形とはいえ、やはりその『厚み』の差が出た形か。

 

「ううむ。最近はメナング君のお陰もあって、関節一つ動かすにも『ばね』というものがそれなりに出て来て……頑張っておるのう、兼ちゃんは」

「い、いや。そもそもは岬越寺殿、逆鬼殿、剣星殿やアパチャイ殿、香坂殿……梁山泊の豪傑の皆様が鍛えた基礎ありきですから……」

 

 ……その厚みの中でも、多分十数ページ分くらいしか自分は貢献できていない。それで成果を誇るような恥知らずな真似が訳がない、と。隼人にかけられた言葉に、メナングは顔を青くするばかりだ。

 

 そうしている間にも、兼一がもう一人に水中へと引きずり込まれ――そのまま水中でもお構いなしに刺客を蹴っ飛ばしたのが目に入ってくる。確かに水中でも大量の水の抵抗を跳ね除けるだけの足腰の『ばね』は、ここ最近目覚ましい成長を見せていると思う……

 

「……あ」

「どうしたのかね?」

「アレは駄目ですね……回収して来ます」

 

 と思っていたら、その頑張っている梁山泊弟子一号が……水面の揺らぎの奥で、水中へ戻っていくのが見えてしまった。恐らくは白眉の弟子の挑発に乗ってしまったか、と何処か懐かしい気持ちになりつつ――その水を『蹴っ飛ばし』二人の元へと駆け寄ってから。

 

「ぬぅんっ!!」

 

 ――瞬間、その奥へと『突き抜ける』イメージで、水面に拳を叩き込んだ。

 

そのまま内部で炸裂した『拳圧』が、沈む二人の周りの水を外へと向けて弾けさせる。

 こんな小細工をせずとも、隼人であればその足の一振りでモーセ染みた事も出来たのだろうな、等と考えながら、ほんの一瞬を狙って溺死しかねない二人を即座に回収して隼人の元へと戻って来た。

 

「お見事! 流石じゃのう」

「いえいえ」

「――応用したのは、逆鬼くんと、剣星の技じゃな?」

 

 ……更に、プールサイドに戻って来た時点で、その小細工も見抜かれるという。ちらりと遠くの二人へと視線をやれば――凄い面白そうな顔で此方を見つめながら、瞳をびっかびかさせる二人と目が合った。どうやら武人二人の探求心に火を点けてしまったらしい。

良い酒をお土産に部屋に伺えば見逃して貰えるだろうか。

 

「応用などと……ただの猿真似ですよ」

「ケンちゃんに見せていた『必殺技』の要訣を見事に使いこなしたのじゃ、猿真似とは言えんのう、メナング君」

「よ、要訣など! 表面をなぞり、その指先に付いたモノを攪拌した様な味付けも薄い代物で、実戦で使えるレベルではありませんし……」

 

 にかっと笑いかける隼人の目の前、思わず体を縮こまらせながら恥ずかしくて頬を掻く事しか出来ない。

 

 実際、こうした大道芸染みた真似以外には到底使えない上に、殺気による気の僅かな乱れで容易にブレて使えなくなってしまう。

例え、死の淵にあろうともその十全な威力を発揮するのに何の疑いも無いであろう元とした技の使い手二人と比べれば、月とスッポンは愚か、太陽と蛆レベルの大きな差があるだろう。

 

「それでも、当意即妙にて真似が出来るのは、君の積み重ねた努力の故じゃ。そこは誇らねばならんぞ」

「は、はい……」

「そう言えば先日の必殺技の披露会、ずっと片付けやらに駆け回って貰ってケンちゃんに技を披露する暇も無かったと聞く。どうじゃね、その努力の証を彼に示してみては?」

「こんな狡すっからい真似を兼一君に覚えさせられる訳ないでしょう!?」

 

 悪影響極まりない、と固辞の意を示しながらも……ふと思う。

 こういうやり方でないのなら。自分は彼に、どんな『必殺技』を示せるだろうと。

 

つい先日のアレも、多少は挑発に乗った部分もあるとはいえ……梁山泊の豪傑達は、最大限に彼の『参考』となるように技を見せていた様に思えた。その日々の一つ一つの暮らしや弟子とのやり取りの間でも、ちゃんと教えを授け続けるその姿勢には頭が下がるばかりだ。

 では……そんな梁山泊の達人達のように、自分が兼一に何かを示すとして。

何を彼に『見せる』か。

 

「……」

「――ほほほ」

 

 いつの間にか、彼の頭の中で、急速に組み上がっていく一つの『プラン』。

 

 ――静かに考え込むメナングを。隼人は、穏やかに微笑みながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「――という事でだ」

「ど、どういう事です……?」

 

 月夜の晩。

 

 連華が帰る事となったその直前――白眉の弟子二人を先に帰らせて(というか帰って貰わないと逆鱗飯店が物凄い事になりかねないという事で自ら全力で帰った)から、兼一と連華、そして……美羽。梁山泊の弟子三人をメナングは集めていた。

 

「いや、この前の必殺技の一件では、君に何もしてやれなかったからね」

「あ、その……アレは本当に僕が生意気を言っただけなのでお気になさらないで頂けるとありがたいデス……」

「……何の話?」

「まぁまぁ……」

 

 ……例の『挑発』の一件を知らない連華。その問いをやんわりと流そうとする美羽の隣で、兼一は自己嫌悪した様に肩を落としながらそう口にした。

 まだまだ若者らしい部分はあれど、流石に自分の師匠方に無礼を働いたという後悔は何処かにあったのだろう。そういう心構えがちゃんとあるのは喜ばしい。

 

 さて、そんな彼にとっては掘り返されたくない部分にあえて触れながら。メナングはくるりと目の前の相手に向き直る。

 

「――アパッ! メナングとしっかり手合わせ、初めてよ!」

「胸を借りる気持ちでいかせて貰います、アパチャイ――ケンイチ君、これから私は彼の拳を受ける事に専念する。しっかりと私の動きを見ている様に」

 

 同じ浅黒い肌。自分より一回り以上に屈強なその肉体。

隼人に相談した所、『であるならば、アパチャイが適任だろうの』と太鼓判を押された手合わせの相手――『裏ムエタイ界の死神』アパチャイ・ホパチャイ。

 多分だが……元から知り合いで合った豪傑メンバーを除けば……否、除かずともこの梁山泊でも一番仲が良い相手だと思う。

 

 というのも理由は単純で。接する回数が多いのだ。他よりも。

 

『――アパチャイ殿いけないっ!! そのままでは(兼一君が)危険だっ!!』

 

 偶然覗いた訓練の時――患者に接する勢いで、その豪拳を受け止めたのが交流の始まりだった。

 

 心優しいアパチャイ。他の武術と比べ、戦場の『武器』という異色の経歴を持っている故か、些かと癖の強いムエタイを、根気良く、しかもメナングが舌を巻く程に丁寧に、教え込んでいた――実は、何気に秋雨に次いで『指導者』としての尊敬していたのがアパチャイであった。

 

 が……蓋を開けてみれば。

 聖人の様な優しさ、誰にでも陽気に接する明るさ、そこから子供の兼一への対応、日本にまだ慣れていない部分を鑑みても、師匠として慕われる要素しかない彼は……ある意味最も大切な『手加減』という部分が大の苦手であったのだ。

 

『アパチャイ、初めての弟子……ケンイチにちゃんとムエタイ教えたいよ……』

『アパチャイ殿……』

 

 若い少年のように陽気ながら、強い責任感と真面目さを持ち合わせるアパチャイ。

 縁側にて、折角のおやつ(余裕が出来た梁山泊のささやかな贅沢)にも手を付けず。

 肩を落として口にした、そんな彼の師としての心からの苦悩。メナングはとても強く心打たれた――こんな『漢』を助けずして何が武人か。メナングは、彼の『手加減』の修行にも付き合う事となった。

 

『大丈夫です。アパチャイ殿……いや、アパチャイなら、きっとケンイチ君にムエタイをきちんと教えて上げられます』

『オォ! アパチャイ、メナングと一緒に頑張るよ~っ!!』

 

 互いに武人として、腕を磨く事にも繋がる、手加減の訓練――それを通して、アパチャイとメナングは友となり、今となってはメナングのやっている事の一部を、アパチャイが手伝ってくれるようにすらなった。

 

 難しい事は苦手でも、彼は愚直なまでの努力が出来る。それに、オセロを練習し続ければ、そのまま秋雨にも迫る程に物事を『吸い込む』力がある。

 今や簡単な計算部分を任せれば、機関車の如き勢いで全てを熟すのだから、メナングにとっては本当に大助かり。

 

「コォォォォオオオオオ…………ッ」

 

「あ、あれは……空手の息吹! 逆鬼師匠がやってた様な……!?」

「いえ、調子を整える為というよりは、アレは――」

 

――そんな実直な彼だからこそ、メナングは今回の一件を任せようと思えたのだ。

 




今更ながらこのシラット使い働きすぎか……?
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