史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第十回・裏:強襲、バーサーカー! 其之一

「あ゛~……食った食ったぁ……っ!」

 

 武田と歩きながら。思いっきり伸び。

別に何処か凝ってるって訳でもないが、ひんやりした空気の中でやるのは、これで中々気持ちがいいのだ。

 

「いやー、凄かったね宇喜田。ジークも目を輝かせて『エクセレントッ……!』って言ってたよ」

「お前らもさぁ、もっと食えよ。キサラにも言ったが、身体を作るのは食事だぜ」

「そもそも君は僕達より容量が大きいじゃないか。その辺りの差を考えてくれよ」

 

 ……まぁ、否定はしない。

キサラと喋る前に取っていたのと同じ位の飯を、もう一回食べ尽くしてから俺の立食パーティは終わった訳だが。それだけ食えるってのは、俺の体格もあっての事ではある。

とはいえ、コイツも全然食べられると思うが――なんて思いながら。ポケットに『幻の左』を突っ込んで、こっちの顔を覗き込む武田に目をやる。

 

その腕の古傷をしっかり治す為にも、きちんとした食事で栄養を取り、休息してその栄養を行き渡らせる……その大切さは、耳にタコが出来る位に説かれたってのは此奴から聞いている。

やっぱりすげぇお医者様ってのは同じような結論に辿り着くんだな、と。ちょっと感動すら覚えた。

 

「しかし、ジーク。変わった奴だったけど、結構話の分かる奴だったな」

「止したまえよ、彼を変人の様に言うのは。不死身の音楽家、なんて不気味な呼ばれ方してたのが嘘だと思う位に。実に陽気で常識的な紳士だよ彼は」

「いや変人ではあるだろ」

 

 まぁ、そこは一旦置いておいて。

 新白連合とキサラ隊の親睦を深める為の会合……終わってみれば、最高に充実した時間だった。最近入って来たジークと改めて話せたし。キサラの所の副長、たしか白鳥だったか。アイツや、キサラ本人との手合わせの約束も出来た。

 

……態々場を手配した新島の思惑通りになったってのがちょっと引っかかるが。

まぁそれ位な些末な事だろう。寧ろ俺は、要望通りのメニューを手配して貰った、お礼を言わなくちゃいけない側だし。

 

「そういや、思ったよりも静かだったな。新島の奴」

「んー、気になって聞いてみたら『部下たちの交流を眺めながらの晩酌ってのもオツなもんなのさ――総督として、余裕を持たねぇとな?』だって」

「うわ、言ってる所想像つくなー……」

 

 ……となると。話の流れで猫好きだってのが分かったキサラに、こっそり携帯に保存していた猫の写真を見せてた辺りも、か。うーん、大分気恥ずかしい。

 今からして思えば、折角の会合って事で、無駄に伸びて来た髪を再び狩り込んで、ビシッとキメたのもバレていた――俺が会場に入って来た時に、一瞬だけにやりと笑ってたのはそう言う事か。おのれ悪魔。無駄に上品な身の振り方を覚えやがって。

 

「ったく、人の交流を肴にしてんじゃねーっての」

「交流と言えば……前から気になってたんだけど」

 

 ため息ついたところで。武田の言葉に振り返る。

 

「んだよ」

「君……もしかしてキサラに気があったりするのか~い?」

「いやなんだよいきなり」

「だって、彼女と話してた時の君、物凄いイイ顔してたよ。遠めでも分かる位。ジークも実に充実した顔をしてる、って言ってた」

 

 そう言われ。空を見上げて、ぽりぽりと頬を掻く。

 成程。そう見えていたか。

 

「――否定はしねぇ。可愛いなって思うし」

「お、やっぱりそうなのか」

「でも今は……恋愛よりも、自分がどれだけ武術の腕を磨けるか、そっちの方が気になっちまってな。話題も、専らそっちばっかりだった。ったく、我が事ながら色気ねぇな」

 

 向こうからすれば下手したら退屈だったかも知れなかったのが、寧ろキサラの方から乗って来てくれたのは有難かった。途中で愛猫の話題に逸れていたのは……まぁ御愛嬌という事で。いいじゃんか、猫……兎も角。

 

俺のその言葉を聞いた武田は、ケラケラと笑ってみせた。。

 

「いいじゃない、そういうのもさ。僕は嫌いじゃないぜ」

「そうか?」

「そうだとも。僕がラグナレクを抜けたのだって、不良から戻る為だった――一人のボクサーに、ね?」

 

 そう言われ、ふと思い出す。そういえば、そんな事も言っていたか、と。

 武田と共に脱退リンチに挑み、白浜に助けられ。そして、これからどうしようかと思ってた所で、新島の奴のチームに引き込まれて……なんというか。色々とこみあげて来た重いと共に、思わず空を見上げ。呟いてしまった。

 

「今更だが……この数か月波乱万丈すぎねぇかな、俺たち……?」

「イヤー、本当に今更じゃな~い?」

 

 

 

「――ならもう少し増やしてみるか、波乱」

 

 

 

 

「宇喜田ぁっ!!」

 

 ――瞬間。

 

いきなり身体を引っ張られて。バランスを崩す。なんとか倒れずには済んだが……いきなり何をするのか、と。やった張本人に問いかけようとして――しかし、それよりも先に目の前に降り立ったその人影に気が付いた。

分かりやすい金髪。赤いジャケット。そしてエンブレム入りの特徴的な黒い手袋、記されたその番号は……『Ⅱ』。

 

ラグナレクが八拳豪、その上位三人――『スリーカード』と呼ばれる、とんでもない強さの奴ら。その№Ⅱ。

 

「良いグラサンだ」

「……バーサーカーっ!!」

「言っとくが……ワザとだぜ、外したの」

 

 膝を突いた状態からゆっくりと体を起こし……その手の中で、バキりとグラサンをへし折って見せた。こっちから、良く見える様に。

 視線が合う。このグラサンみたくしてやるとでも言いたげなその面に、背筋が冷たくなるのを感じていた――出来る。此奴なら、俺たち纏めて。

 

 ちらりと横の武田に視線を向ける。

 既にファイティングポーズを取ってる、コイツに助けられなかったら……多分、何も気づかずにやられていただろう。そりゃあ、多少は頑丈になったにせよ、不意打ちでやられちまったらどうしようもねぇ。

 こういう所で実感する……コイツが『持ってる』って事。

 

「それはそれは……随分とサービスしてくれるじゃな~い?」

「そっちの方が『面白ぇ』からな」

 

 ……んで。バーサーカーの方も俺の事はもう眼中になし。ポケットに手を突っ込んだままで、やりがいのある獲物に狙いを定めてると来てる。本能的にか、それとも普通に見る目があるだけなのか。

全く、猛獣染みた目をしやがって。

 

「その余裕、どこまで続くかな?」

「フン……そう焦んなよ」

 

 ――確証がある。どっちから狙ってくるのか。

 

此奴は、お楽しみを最後にとって置くタイプだろう。

ついでに言えば、つまらない邪魔されるのも苛立つ質と見た。

先生から、診察の間に色々と話を聞かせて貰った甲斐もあったってもんか。流石はお医者様、人間観察の話一つとっても実に参考になってくる。

 

 低く、腰を落とす。武田が拳を握り直す。

バーサーカーが、とんとんと爪先を地面に繰り返し当てて。靴の具合を整える。

 

「先ずは――」

 

 ――目を見開いた。

 

「邪魔な方からだ」

 

 気が付いたら、居た。

 

 殆どノーモーション。気が付いたら、間合いに入られていた。

武田も、反応が間に合っていない。でも視線だけは――自分の横を抜けていく、バーサーカーの事を追っている。文字通りの一足飛び。

 そのまま……スニーカーの靴底が、此方に向けて、伸びて来る。真っすぐに。最短距離で。迅い。避けられない――奥歯を噛みしめた。

 

「うき――」

 

——ズドッ!!

 

「がっ……!?」

 

 直撃。

 

 鉄棒でぶん殴られたみたいな衝撃。

重たい音。視界が歪む。意識が揺らぐ。

 芯まで響く様な……こんな、重たい蹴り。初めて食らったかもしれない。唯の喧嘩キックで、これだ。笑えねぇ。成程、天才っていうのはこういう事を言うらしい。

此方を見る目が、随分と冷めてやがるのも、納得か……悲しい位の実力差。

 

「さっさと潰れて――」

 

 ……けどまぁ。

 

 これで倒せなかったのが運の尽き。

 バーサーカーが、目を見開く。

 

「もう……引き戻せねぇっ……!」

 

 お陰でこっちは――ばっちり、捉えられた。

 

 先生に教えて貰った。力をストレートに伝えたこの一瞬。伸び切った脚は、人体の構造上……戻せねぇ。この一瞬だけは、どんな天才でも、覆せねぇ。自らの足を……犠牲にする、以外は。んな事は出来ねぇだろ。流石に。先生みたいな、化け物じゃねぇんだから。

 

 ほぼ、静止した的だ。サルでも狙える。

 低くして、レスラーみたく『ゆるく』伸ばしていた。どのあたりに足が来るか、アタリを付けた。バッチリだった。

 お陰で。両手じゃない。両腕で、抜けられない様にホールド出来た――バーサーカーの片足を。下手な抵抗じゃ、外れない様に。

 

「ぁ……な――あ゛っ……!?」

 

 もう逃がさねぇ。

 

 どんな天才だろうが……地に足付けてない状態で、万全の柔道家相手に抵抗できると思うな。重心崩すのは、こっちの十八番なんだ。

 

 ずっしりと両足に踏ん張り利かせて、バーサーカーの身体を少し押し込む。

 向こうは片足でどうこうは出来ない。反応も遅い。倒せると思っていたか。

残念ながら、こちとら天才じゃないから、その油断は見逃してやれねぇ。無理に持ち上げるんじゃない。後ろに崩して、その勢いのまま……一気に『倒す』。

 

後ろに流れる重心。そこに勢いをつける様に。奴の足を、思いっきり上へと吹っ飛ばす積りで――!

 

「く・ち・きぃ……」

「ぬぉおおおおっ……!?」

「倒しぃっ!!!」

 

 ――叩きつける!!

 

「ごっ――」

 

 がつん、と。良い音が、こっちの耳にはっきり聞こえて来た。

 

「あ゛……がぁっ……!?」

 

 顔を上げれば。アスファルトの上で、のたうつバーサーカーの姿。

 どうやら受け身ミスったらしい。マズい、下手すりゃ、そのまま半身不随とかになりかねないぞ、路上で受け身しくじった朽木倒しとか……いや、一応は手足に力も入ってる様に見えるし単純に『クソ痛い』だけか。

 

 だったら、まぁ立ち上がってくるか……こっちも、『痛いだけ』で、一応はまだまだ戦えるし。鈍くて重たい痛みの残る鳩尾を、擦りながら姿勢を立て直す。

 

「う、宇喜田っ! 大丈夫なのかい?!」

「っあ゛~……クソ、痛ぇけどな。まだまだやれる」

 

 心配そうな武田の視線に、笑顔で返す。今のを十何発も受けられるかって言えば、正直微妙ではあるが……まぁ、何発か位ならいけるだろ。身体の調子的に。

 

「……て……め゛ぇっ……!」

「って、向こうも立ってくるのか!? 冗談だろ、クリーンヒットだろう今のは!?」

「そりゃあ……来るだろ、目が死んでねぇからな」

 

 思った通り。バーサーカーも、背中を擦りながらゆっくりと立ち上がってくる。

此方を睨みつける、血走った眼。明らかにブチ切れてる。気持ちはわかる。アスファルトで受け身取り損ねの朽木倒しとか、俺も想像もしたくねぇ。でもまぁ、同じ位のダメージは貰ってるのでおあいこって事にしておきたい。

……つーか、さっきまでの素早い動きよりも、あのゆらぁっ……て感じの動きのが不気味だし。血走った眼も合わさって余計に『狂戦士』っぽいな。こえぇ。

 

「やってくれたな……カタツムリが、無駄に、足を引っ張りやがってっ……!」

 

 まだよろめいてはいるが……油断したところを突いたパニックダウンだからで、実際は致命的って程ではないだろう。となると――

 

「……武田」

「なんだい?」

「確か新島は、新白の本部に行ったんだよな」

「あぁ……おい、宇喜田。まさかとは思うけど」

 

 残念だが、そのまさかである。

 

「――新島に連絡入れろ。時間は稼いでやる」

「正気かい!?」

 

 ……まぁ、正直な話をすればあの悪魔に助けを求めるっていうのが色々と後が怖い。だがしかし現状、新白の頭を張ってるアイツが一番頼りになるのは間違いない

 とはいえ、武田が言ってるのはそう言う事だけじゃないだろうが。

 

「いやっ、色々言いたいことはあるけど……そもそも相手は『あの』バーサーカーなんだぞ!? 二人がかりでもやれるかどうか――」

「まぁ、そうだろうな。でもまぁ……やらねぇっての『だけ』は無しだからな」

 

 ――武田の表情が歪む。

 

 スリーカードの一角。ラグナレク時代は、雲の上の存在だった相手だ。今だって、その実力が埋まったかっていやぁ、正直微妙な所だと思う。だからまぁ、情けない話だが『時間稼ぎ』が精いっぱいってのは自覚して言ってる。

 長い付き合いだけに、直ぐに伝わったようでありがたい。

 

「……美味しい所をもっていってくれるじゃないか」

「はっ、悪いな。指咥えて見てろ」

 

 ……此方を見ながら、武田が笑う。

 にやりと歪んだそのこめかみを、汗が一筋が流れていく。こっちの額も、きっとたっぷりの脂汗塗れになってるだろう――そのザマをあまり見られたくなくて、言い捨てる様にして、振り返る。

 

「――話し合いは終わったか?」

「あぁ、十分だ。選手交代は無し。引き続きテメェの相手は、俺だ」

「そりゃあ良かった……さっきのお返しを『しこたま』ぶち込んでやらねぇと収まりが付かねぇもんでな……!」

 

 狂戦士の額に青筋が立つ。いかり肩に筋肉が脈動し――ばきり、と。此方を威圧するかのように指先が鳴った。

 

 広げられた掌が……ぐぐっと、握られる。捻り潰してやる、とでも言いたげなハンドサイン。思わず苦笑しか出来ない。とんでもないレベルで殺意マシマシだ。マジで、宇喜田孝造、最後の日とかになりかねない。

 

 ……ま、だからってここで退いたら、男じゃねぇ、か。

 




やっぱ宇喜田君の色々を覆すならこっからでしょ!
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