史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第六回・裏:とある禿げ頭の評価

「――知っているかい。最近、裏の死合い場で、そこそこ有名な男」

「んくっ……強いのか」

 

 どのように有名か、なのかはそもそも考えない。どうせ今の自分が興味があるのは、自分の武術をどうやって研鑽し、どう極めるかだけだ。隣の友人、魯 慈正も恐らくはその事を分かっている筈だ。

 久しぶりに会いに来て話す内容がこれなのは。我らながら……と思わないでもない気がするが。

 

「初めに聞くのがそこなのがキミらしいな、友よ。まぁ、確かにそうだ。腕を磨きに来た若武者たちを悉く仕留め、沈めているらしい」

「随分と跳ねっ帰りな選手だな。どんな武術を使う」

「……いや、それがだね。武術を使わないし、そもそも選手でも無い」

「何?」

 

 故に、この話の流れでその一言が出て来るのは、驚きも驚きだ。武術を使わない。そもそも死合い場の選手でもない。一体どういう事だ。

 

「彼は死合い場で、選手を治療する役割の、スタッフ、らしい」

 

 ……自分が鉄面皮なのは自覚している。弟にも、言われた事がある。無愛想と言われても全く反論するつもりも無い。というより武人が愛想を振りまいてどうするという話だ。

 だが、今そんな俺が……今……自分で言うのも何だが。非常に、癪だが。間違いなく奇天烈な顔をしているのは、分かる。一度、野生で見た猫がくしゃみをする瞬間の時の様なそんな顔を、今、俺はしている。

 

「……医療班?」

「うむ。医療班だ。それも新入りの」

「魯」

「なんだい」

「俺は冗談は嫌いだ」

「冗談を言っている顔に見えるかね」

 

 ……正直、俺よりも此奴が何かしら冗談を言うのが想像出来ん。故にこそ、コイツが冗談を言えばこれくらい荒唐無稽なものが飛んで来るのではないか、と一瞬だが考えたが。どうやらそんなことは無い、らしい。

 となると。全てが本当か。武術家を、悉く叩き伏せる、医療関係者。

 正直全く想像が出来ん。今まで様々な輩を殴り倒して来たが、そんな奇天烈な奴は聞いた事も無かった。

 

「……どうして医療班が悉く選手を沈める?」

「負けた選手を治療する時、目覚めた直後に取り乱し暴れる事があるだろう」

「あるな。案外と、そう言うときほど油断は出来んが」

「それの相手をするのが、その新入りだという話だ」

「……なるほど」

 

 聞いてみれば、案外と筋は通っていた。

 地下格闘場は、自分の足が付かない様に死者だけは出来るだけ出さない。だが、そこに来ているのは三度の飯より殴りあいが好きという輩ばかり。素直に治療を受けるという、常識的な振る舞いを出来るとは限らない。

 多少荒っぽくてもベッドに縛り付け、治療する必要も出て来る……かもしれない。

 特に理由も無く、何処からか湧いてきた、という事も無く。聞いている限りでも、確かに腕が良いという噂に信憑性が出る程度には。

 

「力ずくで取り押さえ、ベッドに沈める。本当なら、相当の腕をもってるだろうな」

「うむ。少し見てみたいと思わないか」

「……要するに、節介か。魯」

「何。キミは最近、張り合いのある相手が居ないとぼやいていたから」

「ふん、余計な気遣いを」

 

 しかし、気になる。そこら辺の武人崩れよりもよほど。

一応理由は分からないでもないが……それでも尚。

普通、するか。力づくで患者を制圧し、ベッドにぶち込むなどと。いやしないだろう。逃げて患者が落ち着くのを待つなり、薬で眠らせるか。それでいい筈。そもそも、何故他に助けを求めず、一人で抑え込むのか。

 

「場所はこの街だ。ここの地下格闘場で働いている。放浪ついでに寄ってみるのも良いだろう」

「すまない」

 

 そこに記されていたのは、中国の繁華街。そして……闇の色も、同時に濃い場所。それなりに歯ごたえのある奴もいる場所だ。その裏の裏のような場所で、そんな真似を。余計に気になって来た。戦ってみたい。一体、どんな相手なのか。

 

 

 

 それではるばる来てみたが。案外楽しめてしまってるな。コレは。

 

「よそ見しているでないわぁ!!」

「するかジジイ」

 

 正直。その医療スタッフを見る為だけに来るつもりだった。しかし、目の前で行われてる死合い場を見てると、我慢が利かなくなった。という事で、参加する事にした。ここの死合い場自体は、案外と初めてだったが、悪くない。

 目の前の奴も、それなりに強い。大柄な体にしっかりと筋肉を付けて、骨のあるパワータイプ……とはいえ。あくまで本命を見るまでの余興ではあるが。

 

「――っしゃあぁあああ! 死ねい馬 槍月! 双纏手ぅぅぅううううう!!」

「遅い」

 

――倒発鳥雷撃後脳!!

 

「ほぶぇぇああああああ!?」

「――次だ」

「ぐんぬぅううう……むねぇえええん……!!」

 

 取り敢えずさっきから十人程沈めてはいるが。ふと気が付く。別にここで選手を倒していっても、例の医療スタッフの姿を見る事は出来ない。

 倒した奴は基本的に担架に乗せられて運ばれていって、奥で治療を受ける。つまりそこを覗きに行かないとどうしようもないのだ。

 久しぶりの腕試しに高揚してしまって重要な事を忘れていた。どうするか。

 

「――そ、槍月様。そろそろ、あの……えっと……」

「なんだ、舞台から降りろ、か?」

「い、いえそのような!! ただですね……槍月様お一人がこうして暴れ続けていらっしゃると、その……お客様が……」

 

 ……ふむ。丁度良いか。

 そんな理由で降りるなど、本来はしない。出来るだけ暴れてやるつもりだった。だが今回ばかりは別だ。

 

「良いぞ」

「こ、此方の事情も把握して頂けると……へ?」

「構わんと言った。降りてやってもいい」

「ほ、本当ですかぁ!?」

「あぁ……ただし」

「え?」

「条件がある。それを吞め。呑んだら、俺もここから降りてやる」

 

 ――そうして、この死合い場の、関係者以外立ち入り禁止のエリアに入る許可を貰った。

 こういうのは、弟の方が得意ではあるが。猿真似ながら上手くいったらしい。まぁ、別にゴリ押して何とか出来ない訳でも無いが。武人でも何でもない奴を殴り飛ばしてもなんにもならん。

 

「――それで、医務室の新人に御用があると」

「そうだ。腕利きなのだろう」

「えぇ……医療の腕もそうなのですが、驚いた事に、腕っぷしも中々で。弱っているとはいえ、ここに参加するような奴らを悉くベッドに無理矢理押し返して……凄いもんです。紹介が有ったのも頷けます」

「紹介」

「珍しく、アメで場を開いてる知り合いから。アレもかつては良い武術家だったのですが、今は何かデカい組織に付く訳でも無く、一人でケチな賭場を開いて……」

「世間話はいい」

「あっ、はい」

 

 となると、外国人か。アメリカ人は体格に恵まれている、というが。

 

「さ、アレです」

「……」

 

 ――いる。

 一発で分かった。

 部屋の奥。ベッドの傍で……ベッドから出ようとする男――さっき俺が倒した奴だ――を、力ずくで動かさないように抑え込んでいる。その張り詰めた顔。そしてここからでも分かるこの荒々しい……動の気。確かに医療スタッフのレベルじゃない。

 

「この! 放せ! 槍月を、槍月の奴めを!」

「動くな。治療に集中できない」

「ふ、ふざけるな! なんだ、この馬鹿みたいな……放せと言うに!!」

 

 それが理解できているのか、どうか。いきなり飛ぶ拳。だが……禿げた男は、全く動じずそれを受け止めた。余裕をもって。殴られ慣れているのか、眉一つ動かして居ない。

 

「うっ」

「――良いか。動くな。治療を受けろ。必ず、その傷を治す。それとも……強制的に意識を断たれなければ、治療を受けられないか」

 

 流石にそこまでしっかりと抑え込まれては、その男も何も言えないのか。しぶしぶと拳を収めた。

 しかし、一見すれば禿げた男の方が体格的には負けて居るようにもみえるというのに、良く抑え込める……不思議なのは、そこ迄筋肉質には見えない事だ。無い、訳では無いのだろうが。それでも武術家の目から見れば、何方かといえば痩せている様にも見える。

 それが、体重差のある相手を。力で抑え込んでいる訳ではないのか。

 

「成程」

「良い腕でしょう。正直、格闘場で暴れて欲しいくらいの逸材で……」

「なら俺が相手をしてやろう」

「そうですかそうで……へっ!?」

「おい。そこのハゲ頭」

「……?」

 

 振りむいたその顔は、中々に凶悪な面構え。常人が、恐ろしいマフィアかゴロツキの面を想像すれば正にこうなるだろう。顔で強さが決まる訳でもないが。コレが此方に向かってくると考えると、中々に迫力もある。

 やる気も、出て来た。

 

「お前がそうだな。俺と戦え」

 




魯 慈正老師書くのめっちゃむずいんですけど(半ギレ)
もっと資料寄こせ(全ギレ)

でも頑張っちゃうビクンビクン。
割と気難しい槍月さんと付き合えてたのだから、殺人拳らしからぬ人格者だと設定して書きました(殺人拳に対する熱い風評被害)
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