史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第十回・裏:王権『神奪』説

「松田、ジークに連絡は!?」

「付きました! 近くで待機してくれるそうです!」

「大変結構! 次の仕事に取り掛かり給え!」

「了解っす……総督も、ご無事で!」

 

 そうして松田と別れ、先を急ぐ。背中に背負った『旗を下ろせ』とは言わなかった。寧ろ今回の作戦では『アレ』が重要になってくるのだから。

武田からの連絡によれば、この先で戦っているとの事――二人が持ちこたえているかは正直分からないが。何方に転んでも、バーサーカーを『潰す』だけの作戦は持ってきた。

 

「野郎――やってくれた分は、バッチリと仕返しさせて貰うぜ……!」

 

 諸々準備してたお陰で着替える暇も無く、一張羅がパーになるのはほぼ確定した訳なのだが……それでも、随分と上等な真似をしてくれた礼をしなけりゃならん。手は抜くなんざ到底無理だ。

 

 ――部下は突然の奇襲でほぼ全滅。同盟相手も纏めて、だ。

 

 親睦を深める為と態々準備した機会に、ここまで舐められた真似をされて。頭に来ない奴はいないだろう。この新島春男、別に情に流される様な選択肢を踏む様な情弱の輩ではないが、かといってやられっぱなしを受け入れる程寛容ではない。

 否、新白連合総督として……ここでは、寛容であってはいけないのだ。

 

「あそこか――ん゛っ!?」

 

 そうして、漸く指定された路地へと辿り着き――しかし、上から見えたその景色に目を見開く。

 

「宇喜田……それと、バーサーカー!?」

 

 一番に目に入ったのは、路上に倒れた二つの人影。一つは、襲撃を受けたであろう宇喜田。それは一旦置いておくとして……もう一方は、予想外。

 襲撃をした側――新白連合とキサラ隊を単独で壊滅に追い込んだ、無敵の喧嘩屋、バーサーカーが、うつ伏せになって倒れている。

 

 二人して倒れ込んだその光景から、最も高い可能性を考えるなら、だ。

 

「へ、へへへっ……男見せたじゃねぇか、宇喜田……!!」

 

 おおよそ勝ち目の薄い激突ながら。新白連合の猛者が、デカい金星を挙げた――思わず足から力が抜けそうになってしまった。

 まさかこっちが援軍を寄越す前に決着がつくとは。評価を大きく上方修正する必要があるだろうか、なんて。となれば……作戦の内、一つをどこか別の所に向ける必要も出て来るかな……等と。

 

 そう思って、顔を上げて。

 

「――っ!? 武田に……目の前のアイツは……!?」

 

 そこで、信じられない物を見た。

 少し離れた所で、武田が片膝を突いている。その目の前に居るのは――バーサーカー以上に最悪の相手――ラグナレクを、自らの『力』で統べる総大将が、眼鏡の奥の酷く冷徹な目で、敵を見下ろしている。

 

「馬鹿な、オーディンまで……!?」

 

 第一拳豪『オーディン』。あのバーサーカーを、自らの力で従えさせていたと専らの噂の、無敵の喧嘩屋よりも更に底の見えない怪物。

 正直、集めていた情報から、アレが直接動くのはもっと後だと思っていたのだが……目の前の現実は、自らの想定を遥かに超えて、今が最悪の状況にある事を新島に教えてくれていた。ぎり、と歯を食いしばる。

 

「クソッ……仕方ねぇ!」

 

 単独行動が主なバーサーカー用に立てていた作戦だったのだが、予定変更。このまま武田までやられる訳にはいかない――急いで走り出す。

 先ずは、相手が此方の口車に乗ってくれるかどうか。正直、あの第一拳豪相手に、上手く行くかも微妙な所ではあるが。

 

 しかし……間に合うか。

 はた目から見れば、構えとも思えない位に緩く伸ばされたその掌底が、何時武田を射ち貫くかも分からない。今から叫んだとて『こちらを叩ける距離』でなければ目の前の敵を優先するのは明確――

 

「流石はヴァルキリーの元部下だ……てっきり最初の一撃で沈むとばかり思っていたけれど、まさか『三回も』耐えられるとは思っていなかった」

 

 オーディンの口元が、吊り上がる。

 冷たい感覚が背筋を伝っていく。

 

「――敬意を表して。せめて本気の一撃で、終わらせてあげよう。」

 

 突き出された掌底が、武田に迫る。アレが直撃したらマズい――そんな直感が警報となって頭に鳴り響くが、どうしても、あと一歩間に合わない。

 思わず、目を閉じる。誰に対して分からない、そんな申し訳なさが頭の何処かを過る。

 

「待ってたよ――くらえ『幻の左カウンター』ッ!!!」

 

 ――その瞬間。

 

 太刀の一撃の如き鋭い拳が、閃いた。

 

「あっ……!?」

 

 繰り出す掌底に被せる様に放たれたのは……ボクシングでも『最短最速』の拳、ストレート。一方的に蹂躙する側だったはずのオーディンが、目を見開く。

 アレは、当たる。そう思わせるだけの、恐ろしいまでの鋭さの拳は。

 

「――とぉ、危ない危ない……っ」

 

 ほんの僅かに、その頬を掠めるだけに留めた。

 寒気のするような早業――その拳に更に合わせる様に、もう片方の掌底が軌道を僅かにずらして見せたのだ。いや、正確に言うのなら……恐らく、武田の拳が素早かったから、それ以上にずらすことが出来なかったのだろう。

 

 オーディンの頬には。まるでナイフで作ったのかと言わんばかりの一筋の『切り傷』が刻まれていた。

 

「バーサーカー相手に、投げの宇喜多がやった事の再現かい? 全く、肉を切らせて骨を断つなんて、普通流行らないだろうに」

「……宇喜田の、投げだったら……ワンチャン、あったかもねぇ……!」

「とはいえ、君もただの敗者では終わらない腕を見せた。誇ると良い」

 

 そして――最初っから受ける覚悟を決めていたのだろう。

 

 武田の額へと、オーディンの放った掌底は綺麗に撃ち込まれて。ぐらり、と。そのままオーディンの前に崩れ落ちてしまう……しかし、だ。

口元が吊り上がるのが分かる。自分の悪魔的直観が告げている。

武田一基――この男、最悪の事態になるのだけは自分の手で切り抜けやがった。

 

 想定外の幸運。軍師としては微妙に困る類だが、此方は参謀でありながら『王』でもあるのだ。棚ぼた的な幸運はとてもとても美味しいものです。感謝してむしゃむしゃとしましょうというのが持論である。

 そして。

 

「――ケーッケッケッケッケーッ!!」

 

 その、僅かな一瞬。

自らに味方した天運と、自らの手に入れた手駒の充実っぷりとで抑えきれない興奮と共に上げた哄笑と共に。がしゃん、と。勢いに任せて金網を駆け上がり――そのまま、下の路面へと派手に着地した。

 

「っ!?」

「……よぅ」

 

 ……足は非常に痛いし、痺れたが。

それはちょっとした『間』という事で誤魔化し、あくまで余裕、といった面のまま顔を上げ。そしてついに……向かい合う。規模の違いがあるとはいえ自分と同じ『立場』にあるもの――『白のキング』と。

ちらりと横目で確認すれば。武田は、ダメージこそ負っているが、近くのコンクリの斜面に背を預け、荒い息を吐きながらも意識を保っていた。

 

「お……おそい、じゃな~い……」

「悪ぃな。準備に時間がかかった――後は、俺様に任せとけ」

「ったく、こういう時ばっかり……総督、らしい……」

 

 ……一瞬、オーディンから見えない様に手元の端末を操作したのも確認できた。

 何の為かは知らないが、必要な行動と判断する。となればやる事は変わらない。いや寧ろ――自分がこうして向き合って目の前の奴の目を引き付けている分、他の手駒の行動が活きるってものである。

 

「――こうして、実際に顔を合わせるのは……精々君たちが無様に壊滅する時くらいだと思っていたのだけれど。いやいや、中々どうして。厄介なものだ」

「お前がどんな風にこっちを見ていたかは知らねーがな。オレ様は『この景色』を常に想定していた。それがテメーとオレ様との『違い』だぜオーディン」

 

 そして、ポケットの端末の振動も確認。松井からの作戦開始の合図。

 そうなると、援軍の到着まではまだもうちょっとかかるか。もう少し、時間を稼ぐ必要があるが……それに関しても手抜かり無し。そろそろ目の前で悠長に手袋を直している男にも状況が理解できるようになるだろう。

 

 ――準備完了、と言わんばかり。その目がギラリと光った。

 

 此方に向けて、一歩踏み出す姿勢を取った……そこで動きが止まる。オーディンの視線は、印象的な白スーツの胸ポケット辺りへ向かっていた。

 

「……」

「あぁ、オレ様の事は気にせず取れよ――情報は、あればあるほどオトクだぜ?」

 

 そう促してやれば……僅かな逡巡の後、オーディンは懐の端末を手に取った。

 

「……なんだ。今、私は忙しいんだが」

 

『た、大変ですッ! 今まで潰したチームの、残党がっ――ぎゃあっ……!?』

 

「――何!?」

 

 通話口から漏れ聞こえたその声に、確信した――我が策、此処に成れり。

 

「……貴様、ここに来るまで何をしていた」

「べっつにぃ~? ちょいと『お友達』に連絡をば~?」

 

 向こうも、何が起きているかは凡そ見当が付いてるだろう。バキリ、と手の中の端末を握りつぶしながら、オーディンは此方を睨み据える。

 

「ほう、随分と沢山の友達がいたものだな。新白連合総督殿」

「お前らが叩き潰した分だけ、わんさかとなぁ……ラグナレク第一拳豪サマ?」

 

 ……八拳豪を失い、間違いなくラグナレクは弱体化した。にも関わらず……今まで、此奴らが叩き潰して来た連中からの逆襲、報復というのものがまるで見られないのは。

 やはり目の前のコイツと、バーサーカー、そしてもう一人――『フレイヤ』と呼ばれる第三拳豪の、ラグナレクのトップスリーの圧倒的な『強さ』が、他のチームにも知れ渡っていたからだろう事は間違いない。

 

 では……『その一角が崩れた』となれば、どうだ?

 いや、『実際』そうなってるとは思ってなかったが……ここまでの八拳豪の次々の敗退は他の不良共の耳にも多少は入っているはず。となれば、今このタイミングこそ、流言飛語が一番『効く』タイミングだ。

 

「――スリーカードは三枚揃ってこそだ。ワンペアじゃあ格落ちも良い所だぜ」

「全く、その様だ。驚いたよ。此方の攻勢に対し、更なる『攻勢』で打って出るとは」

「俺様は総督、チームのトップ……即ち『王』だ。それが直々に動くときは必勝じゃねぇと――間違ってもちょっとは誤魔化しの効く『神様』とは違ってな?」

 

 ……ゾロゾロと聞こえて来る足音。

 

 オーディンの視線が、此方から外れて、自分達の周囲へと向かう。此方は見ずとも分かる。とはいえ……想像をはるかに超えて、目の前の男のチームは恨みを買っていたと見えるが。いや、スリー・オブ・カード時代の恨みもあったのか?

 まぁどうでもいい。此方の頭数が増える分には。

 

「――総督、お待たせしました!」

 

 ……路地を取り囲む群衆は、どいつもこいつも、どっかしらを怪我してたり、青あざを作ってたりと、正しく敗残兵っていうのが似合う面構え。ゴツそうなのから、スポーツ選手崩れっぽいのまで。実に個性豊か。

 そんな千差万別の個性的な野郎共の共通点は――オーディンへの殺意と、ラグナレクにボコられた事への不満。

 

そんな中から進み出たのは――ここまで集団を案内して来たであろう松井。此方の背後に並んだ松井は……その手に携えた『旗』を、改めて大きくはためかせた。

 

 ……両手を、徐に大きく広げる。

 荒鷲がその翼を広げる様に。または、悪魔が自らの名を高らかに叫ぶ時の様に。敗残兵共の軍集団に、指揮官じみたアオリで『叫べ』と、広げた両の手先を、軽く羽ばたかせてやれば――!

 

「うぉぉぉおおおおおおっ!! し~んぱ~くッ!!!」

 

『『『ウオォォォォォオオオオッ!!!』』』

 

 松井の号令と共に――『暴』の集団がリベンジの唸りを上げる。

 周りに集まった男共からもよく見える様にな。ちょっとしたデモンストレーション。しかし……勢いづいた男っていうのは、こういうシチュエーションには弱いもんだ。

 

「これがオレ様の『ROT(ラグナレク・お礼参り・ツアー)』作戦だ――!」

 

 ……宣言すると同時に一歩下がって、端末でジークにメールを入れる。『武田と宇喜田を回収――』とまで打ち込んだ所で、ちらりとバーサーカーを確認してから、その回収するネームにもう一つ追加する。

 

 人死にが出るってのは……まぁ、正直当事者の自分にとってはマイナスイメージにしかならない。何よりも、多分だが今は『行方不明』のアイツが戻って来た時、マジで怒りを買いかねない。という事で。

 

「くはっ――あーっはっはっはっはっはっはっ!!」

 

 送信を押した所で。

 

 男共の熱気を切り裂く様に。何処か陽気にも聞こえる高笑いが聞こえて来た。

 

 ……オーディンに視線を向ける。

 周りの熱狂を、たった一人でかき消して見せた男は。その紫紺の瞳の中に、確かな『怒り』の焔を燃え盛らせたままで、この無数の不良共の中で……此方だけを見ていた。

 ぞくり、と。悪寒が背筋を抜ける。マズい、こりゃあ虎の尾を踏んだ、という確信。そしてその直後、何を今更という自嘲が脳裏を抜ける。

 

 僅かな震えを噛み潰す様に――口元に獰猛を象った笑みを浮かべて見せる。

 

「さぁ、神々の黄昏と洒落込もうぜ、オーディン!」

「良いだろう、かかってこい。兼一との『リターンマッチ』も控えている身だからね――肩慣らしと行こうじゃないか!」

 

 ――ラグナレク対新白連合。

 

 その最終決戦の幕が、切って落とされた。

 




※:主人公側は総督です。
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