史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得 作:秋の自由研究
――端末のロック画面。
表示されたアイコンには……『ロキ』の名前。こういう時も本名を使わない辺りは流石に用心深い。いや、そもそもの話、こんな話を本名ではやらないか――自分の所属しているチームに『反乱』を起こそうとする為のメールに。
「新白と、ラグナレクがいよいよ全面対決かぁ」
一つ。ため息を吐いた。
アイツがラグナレクから独立して作り上げようとしている新チーム。そこに、好待遇で迎え入れてやる、という誘いも、これで何度目だっけか、覚えてない。ずーっと考えてるけど……結局答えが出なかった。
「……オッケーって言った方が絶対に得なんだけどなぁ」
でも、どうしても頷けない。自分でも『オッケー』って返事しようとしても、指先が動いてくれない――なんでか、気分がノらない。
「なんでだろ」
昔だったら、間違いなく乗ってたろうに。なんか変だ最近。
もやもやとする感じがうざったくて。端末を机の上に投げ捨ててから、ソファに身体を投げ出して、寝っ転がる……そこら辺のたまり場のそれより、ずっとフカフカで、寝心地も良い。最近のお気に入りの昼寝ポイント。
……ししょーの別荘。ここに連れてこられてから、なんかずっとこんな事考えてる気がする。いや、別にししょーにやれって言われた訳じゃないけど。
「……あ゛~ッ……んなんだよぉ、これぇ!!」
ムカつく、イラつく、め~っちゃカリカリする! じっとしてられるかってんだ!
「だぁぁぁああああっ!! もぉぉおおおおおっ!!」
「――五月蠅ァいわよォ、タイチィ?」
「はいっしゅししょーすみません!!」
いえ即座にじっと土下座しますすみません……あ、手ぇバタバタさせてたからなんか痺れた……くそぅ、なんか余計に疲れさせられた気がする。
向こうの部屋から出て来たししょー。取り敢えず土下座ったまま顔は上げない。だってししょーってば風呂上がり絶対に『全裸』だし。いや、この人が恥ずかしがるとか絶対しないんだけど……前に見たときは『そっちの世話もォ……して貰おうかしらァ?』とかくすくす笑ってたんで全力で見ない事に決めた。
……その時の師匠のお身体が脳裏に焼き付いたせいで、並のグラビアじゃ興奮どころか、ページが鼻紙にしか見えない身体にされたのでもう殆どテロだと思う。
「んもォ……終わり掛けのォ、ゴキブリじゃァないんだからァ……あんまりィ、バタバタしないでねェ?」
「す、すみませんす……あ、ワイン取ってきますね」
「おねがァい……あ、オレンジジュースゥ、開けてもイイわよォ?」
「あざっす!」
という事で、ししょーのおっぱいとかの一切を視界に居れないように、伏したまま這いずり回ってキッチンへ。ここでもう何週間も生活しているのだ。見なくても大体の場所は把握できるようになった。
……這いまわる姿がマジのゴキブリなのは、置いといて欲しい。お願い。
「えっと……確か、ししょーが今日飲むっていってたのは……これだっけ。ワイナリーだっけ、あそこで保存するとか、凝り性だよなー……お、んでもってこれこれ! ビンにはいったお高いオレンジジュース!」
という事で、御遣いを終えて、二本のビンを抱えてリビングへと戻れば。ししょーは高そうな……バスローブ? ガウン? 兎も角、ゆったりした服をちゃんと着てた。これで一安心かと思いきやその胸元から大抵特大のおまんじゅうの谷間が覗いてるので注意。
油断して凝視したら揶揄われる隙になる。その日はず~っと『おさるさん♪』って呼ばれる事になる。実際された。
「えっと、ししょー? 持ってきましたけどー……?」
『――Hi!How have you been? Uh……』
……まぁそれは置いておくとして、だ。
声をかけても返事は無し。向こうを覗いてみれば、一人掛けのソファの方で、ししょーがなんかを話してるのが聞こえた。
何を話してるのは……英語が分かる訳もないので、さっぱりと分からない。でも楽しそうなのはなんとなく分かった。多分だけど、友達とか……じゃないな、多分『ボーイフレンド』だろうか。世界の色んな所に居るっていうし。
『肌を重ねる――それだけがァ、大人の関係じゃァないのよォ? その辺りもォ、これから仕込んでェ……ア・ゲ・ルゥ♪』
とか言っていた。詳しくは知らない。ただ経験は豊富らしい。
まぁ兎も角、そう言う人なんだろう。会話に割り込むのは自殺行為確定なので、大人しく机で待ってる事にする。勝手に飲み始めてると、途端に機嫌悪くなるんだよなぁししょーってば……『師匠と呑むのもォ、弟子の仕事よォ?』だって。
という事で。大人しく待っていると……
『No worries♪ Thanks, bye!』
五分としない内にししょーは通話を終えて。その場で軽く伸びとかしてた。
「誰だったんすか?」
「んゥー? 仕事仲間ァ……仲介を、頼まれたってェ」
「へー、どんなお仕事すか?」
「前金で……大体百万ドルぅ」
「そうなんすか~……百万ドルゥ!?」
でもそんなリラックスタイムみたいな様子じゃダメなお言葉が飛び出して来た。
ひゃ、百万ドルって……日本との貨幣の価格差から考えたら……あわわわ、一生遊んで暮らせるくらいの金額じゃないか!?
「そ、そりゃあなんとも、デカい仕事っすね」
「受けてないわよォ?」
「あ、そうなんすか。それじゃあ……いやなんでぇ!?」
思わず迫真の二度見。
えっと……えっ、師匠がこの世に粉砕できない物なんて存在しないから実力的に受けないっていう選択肢は先ず絶無だし。金額的に言えば法外な馬鹿の値段だし……えっ、本当にどうして受けなかったの……?
……えっと、他に可能性があるとしたら……ししょーの性格的に考えると、あー、そうだなぁ~……?
「あの……その、お仲間さんの態度が悪かったから、とか……?」
「貴方がァ、私のことォ、どう見てるかよォく分かったわァ」
「しまった墓穴掘った!!」
「愚かねェ……今月はァお小遣い抜き(応相談)よォ」
「うわぁあああっ……!」
明日の生存が絶望的になった。だって夕飯以外は基本自腹なんだもんボク……若い頃から金の管理覚えさせるからって……ちくしょう、ししょーの修行に飯抜きで耐えられる訳ないじゃないですかっ!!
頭抱えて漫画みたくゴロンゴロン。もういい加減床の上でのたうち回るのも慣れましたよえぇ。この人と付き合ってたらこんな事ばっかりでぇす……折角のジャケット埃塗れになるけど。後で綺麗にしとこ。
あー、そうなるとクリーニング代も掛かるか……小遣い抜きなのキッツいなホント。
「……じゃあなんで受けなかったんすかぁ……?」
せめて、その辺りは知りたかった。もう破滅は確定したので。
そう聞いてみると、ししょーは……くすり、と笑ってから。こっちを見つめて来る。
「ねェタイチぃ?」
「な、なんすか?」
「自分の価値ってェ、誰が決めると思うのォ?」
……いきなりそんな事を言われても。
とはいえ、まぁこういう訊き方して来るって事は『一旦自分で考えろ』って事だと思うし。間違ってる、合っている、その辺りは一旦頭から排除する。必死こいて頭を捻る時間である。
んでもって。えっと、自分の価値だったっけか。ボクの場合で考えてみると……いや一人しか居ないなぁふっつーに。
「……ししょー?」
「……ぷふっ♪ アハハ!」
スゲェ笑われた。
「そう言う事じゃないんだけどォ……良いわァ、可愛い答えだったしィ? 取り敢えずはァ、及第点ってことにィ、しといてあげるゥ♪」
「あ、あざます」
……こうやって楽しそーに笑ってるときは、子供みたいに無邪気で可愛いのに大人の色気むんむんで、めっちゃ美人なんだよなぁ。素直に見惚れちまう。
ししょーは、それから……笑ってる間、口元に当てていた指を、不意に自分の胸元へと向けて見せた。
「正解はねェ――自分、よ」
「自分、すか」
「そォ……さっき受けなかったのもォ、それが理由ゥ」
ソファから立ち上がって。そのままししょーは、別荘の窓際に立った。
んでもって……こうして立ってる時のししょーは、クソカッコいい。ぴんと背筋が綺麗に伸びてて――ブレがない、って言えば良いのだろうか。切れ長の眼が、ギラギラして見える。オトナって感じが、凄い。
その瞳が、こっちを捉えた。
「――『百万出す。だから依頼を受けろ』……だ、そうよォ?」
「な、何がスか?」
「仲介を頼んで来た相手のォ、言い分。要するにィ、私にはァ『その程度の価値』しかないって言われてる様なもんよねェ?」
――瞬間。
ししょーの足先が閃く。
その直ぐ後に、木材の壁に刻まれたのは……ふんぞり返った、偉そうな人の形。
「金に換えられるもんじゃァ無い――金で雇う事は許してもォ……私の価値を勝手に決めるのはァ、私に対するゥ、最大限の侮辱としてェ……『撃滅』する」
――その首が、一瞬で削り取られた。
「ひっ……!?」
「なめられたモノよねェ――まるで『兵器』と同じ扱いよォ。金を出せばァ、どうとでもなる……とかァ、思われてるなんてェ」
そこで、ししょーの目に、物凄い……炎が灯っているのに気が付いた。怒ってる。ししょーが物凄いブチ切れてる。分かった。さっき壁に刻んだのは、多分その、依頼して来たっている人だ。んで、その後のは、今からそいつが『どうなるか』の暗喩だ。
「良ィかしらァ、タイチぃ? 自分の価値はァ、自分だけが決められるのよォ?」
――ししょーが振り返って、此方の眼を覗き込んで来る。
「相手が、例えどれだけ好条件をチラつかせて来てもォ……もしも、そこに『此方の価値をそうと定める』とかいう舐めた意思が見えたならァ、それは向こうが『相手の価値を定める上位にいる』っていう傲慢の表れなのォ――」
「踏み潰しなさい。自らを飼い慣らそうという愚者は」
ゾクっとする――あぁ、この人はいつもそうだ。舐められたら、必ず『殺す』。今までもそれを変えた事は無かった。クライアントだろうが、権力者だろうが、それがどれだけ難しい事だとしても……ししょーは、絶対に実行して来た。
今日も、多分そうだ。これからワインを飲んで、一息ついて――そしたら、百万ドルだって出して来るような権力者を、自分の手で始末しに行く。
「人の意志はァ、己以外の何物にも左右されちゃいけない、神聖なものなのよォ?」
自分の人生という『
「自分がァ、誰に手を貸すのかァ。どれだけの理があれば動くのかァ。どう動くのが、自分にとってェ、『最高』なのかァ……それを決めるのはァ、自分なのォ」
誰に左右される事も無い。行動する基準はただ一つ、自分の意志で。
ホント……カッケェ。マジで。例え、この世が全部敵に回ったって……この人は『気に入らないから』ってんで、迷わず全世界を敵に回すんだろうな。
ししょーを『ししょー』って思えるのは、こういう所だ。
強くて、綺麗で、ブレなくて、そして……死ぬ程カッケェ。
「自らの決定をォ、己の都合で歪めようとしてくる事はァ、自身に対する、最大級の『侮辱』よォ――撃鉄を上げなさい。その愚か者の心臓に代償を刻むために」
ししょーの瞳に、真っすぐに射貫かれる。
宝石みたいにキラキラした、その光に魅入られそうだった。
「――ぼ、ボクは」
「良い、タイチぃ? ワンちゃんになっちゃ、ダメよォ?」
今のボクの――憧れの人に。つん、と額を突かれた。
最初は、この人に連れ回されて、目を回すだけだったけど。
服だって、靴だって……結局、小遣いから、自分で買って……選ぶのは、ししょーにやって貰ったけど。どうしてって、恰好からでも、少し位はって――
ふと、そこで頭に過る。
例えば、ロキからの誘いに乗って――神聖ラグナレク、とかいう所の幹部になったとして、だ。その時の俺って……ししょーみたく、カッコイイ、のかな。
アイツの『下』に付いて。
「……」
……もやもやしていたものが。少しずつ、形を得ていくような気が、していた。
因みにこんな感じでメスガキちゃんはもう数十人は『殺って』ます
という事で、今回の投稿はここまでとなります。
最後に、茶丼様、みりん30様、田端様、ビシオ様、カカオチョコ様、ナヰ様、電子の妖精になりたい様、五穀米兎様、なっつん様、ぱのらま様、笠間様、野良酒様、Agateram replica様、アカギ様、Qon様、Othuyeg様、Ruin様、Skazka Priskazka様。
誤字報告、誠にありがとうございました!!!