史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第七回・裏:強襲、黒虎白龍門会 前編

「――ッチ、唯の数頼み……だと思って居たが」

 

 黒虎白龍門会。

 中国の武術を統べる二大組織の一つ。名前だけは聞いた事があったが、こうして面と向かって殴り合うのは初めての事だったと思う。凶暴さは、多分中華でも随一の奴ら。一度はやり合ってみたい、と思わなかった訳ではないが。

ただ、今まで不思議に思う位、やり合う機会が無かった。が、今まで出会ってこなかった分、俺はすべてここで使っているのだろう。

 

「骨のある奴を、寄こしたじゃないか……ふぅ」

「荒らす賭場を間違えたね。馬 槍月」

「何、お前如きわざわざ殺す必要も無い。ある程度痛めつけてやるだけだ。とはいえ、そのある程度が貴様の想像の範囲であるかとなれば、話が違うが」

「さぁ、覚悟を決めて挑んで来るがいい。武人としてな」

 

 ――俺も、それなりに武を磨いてきた、という自負があったが。世の中という奴は俺の想像を遥かに超えて広いらしい。

 俺と同程度の腕が数えて三人。しかも、それなりに武術を習って居るだろう連中がまるで鼠のようにいる。流石に黒虎白龍門会。この程度の実力者など、掃いて捨てるほどいる、といった所か。流石にコレを一人で叩き潰せる……と思いあがる程、俺も馬鹿ではない。だからといって負けを認める程素直ではないが。

 

「おい、それはもしかして、脅しのつもりか?」

「いいや、事実を口にしたんだけども?」

「そうか。それなら良かった。そんな脅しにもならんセリフを言われても、冷めるだけだ」

「――減らず口が好きだねぇ」

 

 飛びかかって来る兵隊が二人。先ず先んじた刀使いの方を掌底で払い除け、一歩遅れて踏み込んできた槍使いを蹴り飛ばし、向こうに弾き返す。弾丸兼盾にした男の影に隠れ、狙いは三人の腕利きの一人に定める。

 全員叩き潰すのも悪くはないが、流石にまだるっこしい。取り敢えず、頭を仕留めてからそれでも逃げず残った奴を倒せばいい。

 

「――ッ!?」

「やられるのはお前だ」

 

――迎門鉄臂!!

 

 直撃。流石に完全に不意を突いた一発。反応すら出来ず鼻柱、及びみぞおちに綺麗に入った。意識も飛んだだろう。が、他の二人はそれに一瞬だけ……も反応せず、冷静にこっちへ踏み込もうとしている。流石に良い動きだ。此方も、大人しく一歩下がる事にする。

 

「ちっ」

「油断しているから……しかし、想像を超えた良い動きだね。二人でかかろうか」

「了解した、其方に合わせるから好きにやれ」

「では……ヌゥウウウウウン!!」

 

 左右に居た一人、最も背の大きな男がさらに此方を追いかけて、跳んだ。跳んだ、というよりは……勢いに乗せて、体重を乗せた拳を繰り出して来た。跳躍からの殴りなんぞ隙がデカいと思われるだろうが。こうして下がっている相手との距離を詰める様に使う分には、回り込むのも間に合わん、有効に使える。

 仕方ない。更に一歩下がって、様子を……いや。

 

「其方にも意識を向けねばならんか……!!」

「その通りだ」

 

 もう一人。小柄な方が、既に真横に回り込んでいた。一歩、下がりつつ、頭を低くし相手の足元を抜ける。迂闊に後方にでも大きく避けようものなら、確実に行方を……

 

「まぁ、そっちに意識を向けた所で、だがな」

「本命は其方だ」

「――なにっ!?」

 

 ガシリと何かに掴まれる感覚。兵隊の一人が、既にもう片方の脇を固め、俺の足に組み付いていた。やられた。制空圏を展開する、その前に掴まった。

不意を突いて、兵隊に指示を出す暇など与えたつもりは無かった。それが。この二人、相当訓練されている――ッ!!

 

「――そこだ」

「ヌゥッ!?」

 

 初撃。伸びてきた蹴りは顔面狙いが見え見えだった故に何とか腕で捌けた。もし足から掬い上げに行かれたとすれば、命まで持っていかれた可能性は十分にある……だからこそ、次に繋げさせれば、間違いなく袋叩きに合うだけだろう。

 

「させんッ!」

「何っ……足をっ!?」

 

 ならば、この攻撃を逆に自分の反撃の手段に転じる。突き出された足を掴み、取りつかれ地面に貼り付けになった足を、軸として利用し、思い切りぶん投げてやる。技術もへったくれも無い力技だが、それが今は必要だ。

 さっきの要領で、今度は兵隊共の方へ。飛んで来た上官に兵隊共がまごついているその間に、拘束している男に肘を構える。

 

「放せっ!!」

「がっ……?!」

 

 顔面の中心。潰れる感触を確認し、即座に自分がさっきまで下がっていた方へと……顔を向けた時には、既に拳が目の前まで迫って来ていた。

 恐らく、あと一瞬遅ければ、首を傾けるのが間に合わなかった。

 

「――避けッ!?」

「ヌゥォオ!!」

「しま」

 

 そして振り切ったそこに合わせる、シンプルな崩拳。脇はがら空き。直撃――と思ったその瞬間に、くの字に折れ曲がったのは自分だった。一瞬、ちらとだが見えたのは、わき腹にめり込んだつま先。

 吹っ飛んで、店の奥、テーブルと椅子を巻き込んで倒れ込んで。何が起こったかを推測する。恐らく、兵隊共の動きじゃ間に合わない。となればぶん投げた奴が即座に立て直して此方の動きを強引に寸断しに来たのだろう。

 

「助かったよ」

「油断するな。相手もそれなりに名の通っている武術家だぞ」

「マスタークラスが基準となっているからね……さて」

「あぁ。ここからは一瞬の隙も与えん――「死ねぃっ!」」

 

 揃う声。そこからすっ飛んでくる両者はしかしながら、その動きは全く違う。片や振り下ろす鉄槌。片や抜き手、しかも諸手。上を埋め、左右への逃げ場を無くした……といった所か。それで自分を詰み切った……と思い込んでいるのであれば。甘い。

 

「舐めるな」

 

――鉄山疾歩靠!!

 

「「なにぃっ!?」」

 

 姿勢は低く、この状況、下手に避けようとするくらいならば。多少の傷を覚悟で、真正面から突破した方が、被害も抑えられるというものだ!

 背中で閉じようとしていた両抜き手をこじ開け、そのまま奥の体を吹っ飛ばす。一歩でも遅れて居たら、袋叩きにされていただろうが、取り敢えず。この一瞬は生き延びた。

 

「ご……ッ……」

「次だ」

 

 フッ飛ばした男は見ず、俺の上を飛び越え、後ろに着地した男に視線を向ける。

 

「さぁ、来い」

「舐めた真似を。一対一なら勝てると……思いあがられたものだなぁ!!」

 

 烈火の如き気合から突き出される拳は、威力よりも速さや鋭さを重視したものか。迂闊に対応しようとすれば、言って此方が遅れかねない。連続して繰り出される拳を、先ずは受け主体で耐える事を選択する。

 が、正直な話。防御は弟ほど上手くは無い。正直、何処までも受けきれるかといえば、話は違う。

 

「ふっ、やはりな。キミの剛拳、やはり脅威ではあるが。その分守りは攻めに劣る!! 我が拳は翻子拳!! この拳の速さに先んじられては……どうにもならないだろう!!」

「数を、撃てばいいというものではないが」

「ハハッ! 減らず口を! 僕の拳は止まらない、キミを徹底的にペシャンコにするまではねぇ!!」

「――ッ!!」

 

 今でも、イマイチ受けきれず、何発かは良いのを貰っているのだ。ジリ貧になる前に打開する手段は……一瞬。一瞬この拳の雨霰に耐えて、そこから一撃で仕留める。それしかない。幸い、喰らい続けなければ、致命傷となる事も無いだろう。

 

「――」

 

 それよりも。マズいのは後ろの男。

 先ほど思い切りフッ飛ばしてやったが、手応えが無かった。今の所、体勢を崩してはいるが、体勢を立て直されれば……此方に集中しきっている背中から刺され、今度は此方が袋叩きにされるだろう。

 先ほどから、ギリギリのところで、凌いでいるだけ。凌げている間に、腕利きを何とかあと一人、倒して……!!

 

「良く抵抗する」

「しない武術家など居るか」

「全くもってそうだね。でも君の抵抗は、無意味に終わりそうだよ」

「なんだと……!?」

「――先ほどは良くもやってくれたな」

 

 真横。一瞬その声に頭が真っ白になった所で……側頭部に強烈な衝撃が走り、思わずして崩れた体に無数の拳がめり込み、そのまま床にたたきつけられた。

 

「ぐっ……」

「遅かったね」

「……正直、かなり効いている。立っているのもやっとだ」

「そう。であればそう時間はかけてられないか。じゃあ今度こそ……ペシャンコかな?」

「あぁ。仕留めよう」

 

 ――最初に倒した男が、立ち上がっている。どうやら時間をかけ過ぎた様だ。最初の奇襲で倒せるとは思って居ない。昏倒して時間を稼ぐ一手。こうなる前に一人は……何とかしておきたかったのだが。未熟故か。

 とはいえ、まだ七割程、体は動く。諦めるほどではないが……厳しい状況なのは間違いないだろう。さて……

 

「おい、奥の奴を起こしておけ」

「承知しました!」

「その間に……仕留めよう。我ら、黒虎白龍門会にたてついた愚か者を、な」

 

 近づいてくる。二人がかりか。もう油断は無い、とでも言いたげなその動き。

 さて、どうやってこの状況、覆すべきか……そう思って居た、時だった。

 

「――店主、消毒用のアルコールを再度仕入れたいのだが。今日は少々怪我人が多く……ん?」

「あ」

 

 ……何故、このタイミングで来たのか。よりにもよって。神の悪戯か、それとも悪魔の見せた善意か? あの禿げた医療スタッフが、酒場の入り口に立って。目が、合った。

 反応は顕著。目は大きく見開かれ、その直後には、一歩足を踏み出していた。

 

「要治療患者数名を確認。そこを退いてくれ。彼を治療する」

 




あの人っていつから始末屋してたんだろうか。
それに自分なりに答えを出した回でもある。

後妙手時代位ってどの技が使えてどの技が使えないのか分からないゾ……(ケンイチ情弱ホモ)

追記:一部表現を変えました。
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