史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得 作:秋の自由研究
「――要治療患者数名を確認。そこを退いてくれ。彼を治療する」
「「「……」」」
呆然としていた三人。だが、正直こっちも目が丸くなっている。なんで此奴がここに居る。そもそも治療とは……この状況で。どういう思考回路をしていたら、そう言う発言が出て来るというのか。教えて欲しいくらいだ。
「……どうする?」
「仕方ない。そっちは任せるぞ。俺は此奴を始末する」
「――! オイ待て、ソイツは関係……」
「見た時点で始末の対象だ。死ね」
そう言って即座に一歩踏み込む翻子拳の男。完全に不意を突かれただろう。奴にとって、これはただケンカに割り込んだ、位の感覚なのだろうが……違う。此奴らはそう言った事に躊躇いの無い危険な輩。
思考の隙を突かれては、どんな実力者も――
「――要治療患者は、未だ居たか」
「……は?」
それどころじゃなかった。受けた。真っ向から。
先ず顔面、というか額に一発受けて……しかし、その時点で微動だにしない。逆に度肝を抜かれたのは此方だ。驚きもせず、逃げもせず、顔面に拳を当然のように受け入れ。そして、なんて事も無いように払い除けた。若干、額から血が漏れていた。
「其方の二人も治療しなくてはならない。今すぐ戦闘をやめて……」
「――舐めるな。素人が」
「む」
気合を入れ直した翻子拳使いは、すぐさま攻撃を再開する。今度の拳は当たる前に払い除けられたが、構わず乱打。しかしそれらの拳も、どれ一つ掠らず、空を切る。相手の手に払われ、受け止められ、そして時には躱され。
「……素人か? 貴様」
「私は医療スタッフだ」
「戯言を!!」
――それは制空圏、というわけではない。
自分に対して、ただ繰り出される拳に一々反応しているだけだ。無意識で打ち落としているというよりは、一々意識して迎撃している。そんな物を制空圏なんぞと呼べば、それこそ武術家に対する侮辱になるだろう。
しかし、それでも当たらない。悉く迎撃され、払われ、あるいは防がれる。
まるで目の前の男の動きが、手に取るように分かっている様でもあった。
「――何故だっ!? 何故当たらん!?」
「ふぅ……」
「ずえぇあっ!」
苛立ったのか、翻子拳の男が裂帛の気合と共に拳を顔面に向かって繰り出し……瞬間、信じられない物を見た。
拳を突き出した男の方が、地面に尻もちをついてひっくり返っていたのだ。まるで、足でも滑らせたかのように。何が起こったのか、分からないと言った様な顔だ。俺も……分からない、早業、という訳でもない。
「――では失礼する」
「え、え、は? あ?」
その横を、悠々と抜ける医療スタッフ。この鉄火場の中で、一番と堂々とした態度、そのままに俺の前にしゃがみ込み、目を合わせてくる。周りは何人も殺気立った男ばかり。店の中は荒れ放題というそんな状況下だというのに。
「立てるか」
「あ、あぁ……」
「近場の医療施設は……地下闘技場の医務室がやはり一番近いか。そこまで付き添う。其方の二人も治療を――」
「やかましい!! 急に割って入って来て、無事で帰れると思うな!!」
だがその悠長さを咎める様に帰ってくるのは、小柄な男の猿臂。斧にも幻視するほどの勢いで振り下ろされた……パシン、という音がしたその直後、ハゲ頭はその男の後ろ側に、振り下ろした張本人は地面に手をついて四つ這いになって。
――今度はしっかり見て居たから、理解できた。
「要治療患者が動くのは宜しくないのだが」
「な、なにをした!? 貴様!?」
「君の動きは、ケガで明らかに鈍っている。患部に応急処置をするから今は動くな。処置を施したら、最寄りの医療機関に付き添う。それまで」
今、あの禿げ頭は猿臂を……肩で受けていた。そして、その受けたその一瞬、思い切り振り下ろした肘に体重が乗っている一瞬に合わせ、蹴りで脛を叩き、そのまま倒れ込むのと入れ替わる様に後ろに回り込んで見せた。
アイツは、殴られるその直前、何処に一撃を叩き込めば、容易くひっくり返せるかを理解して対処していたのだ。恐らくはさっき倒された翻子拳の男も、同じようひっくり返されたのだろう。
戦う、武術の類ではない。相手の攻撃を受け、捌きつつ、たった一瞬を突いて相手を地面に倒す。その倒す先が普段は恐らくベッドなのだろう。暴れる患者をあっと言う間に制圧する技術の結晶がアレだ。
「くっ!? この男……!!」
「暴れず、大人しく治療を受けてくれ。ケガが悪化すれば」
「――背後がガラ空きだっ!」
そのメカニズムは分からずとも、喰らった本人が、脅威だと十分理解しているのだろう、翻子拳の男も背後からなりふり構わず襲い掛かってくる……が、流石にそれを見過ごす程、甘くは無い。
「っな!?」
「ふん。今はコイツと協力して此奴らを潰すしか、道は無いか?」
飛んで来た拳を、同じく拳で打ち落とす。流石に制空圏を築く事が出来れば、そんな怒り任せの拳など、通しはしない。
流石に三対一では分が悪い。諦める積りも無かったが、だからといって無駄死にも全くもって御免被る。となれば……気に入らんが、ここでコイツと「潰す? 何の話だ」……すぅうううう……ふぅううううう。
「……おい。この状況が分からない訳でも――」
「協力するのであれば、直ぐにでも戦闘をやめて、私について来てくれ。口の傷は悪化すれば口内炎にも繋がってくる」
マジか。
あ、いや……いかん。心が乱れた。本気か、コイツは。この状況下、本当にこっちの傷の心配しかしてないのか。俺の傷を心配する前に、自分が重傷を負うだとか、全く考えている様に見えない。目の前の敵に対して、危険だと警戒していない。
武人ではない、という魯の言葉は本当だ。
ならば。
「――分かった。言い方を変えよう。そっちの患者を、さっさと治療を受けるように説得しろ。その邪魔をするこっちは、俺が引き受ける」
「……協力する、というのは、そう言う意味か」
「あぁ」
「――であれば、君が此方の二人を担当してくれ。病人を興奮している相手にあてる訳にはいかない。そちらの人物の相手は、私がする」
――そう言って、ハゲはそのまま一歩前に出て。その先で拳を構える男に対し、ゆっくりと口を開いた。
「という事だ。其方の三人は要治療患者。邪魔をしないでくれ」
「ふ……ふざけるのも大概にしてもらおうか!! お前たち、二人と一緒に槍月を始末しろ!! 此奴は僕がやる!!」
「はっ、はい!!」
叫んで飛び出す翻子拳使い。
その拳から逃れるように一歩、下がって相手から逃れるハゲ。相手の攻撃を避けつつ下がって言っている辺り……どうやらマトモに戦わず、この場から引き離す積りらしい。それなら、此方としても都合がいい。
どうせ、こっちもそんな説得なんざ出来る訳がない。
「くくっ……こっちは俺達二人と雑兵で引き受けろってか。頭に血が上っているのか」
「構わん。初めから目標はこっちだ。手柄を譲ってもらった、と考えよう」
「二人でそれなりに苦戦していたというのに、勝てると思って居るのか?」
「「当然」」
合わせて構える猿臂使い。そして、最初に倒した男は……恐らくは、酔拳当たりか。異様に構えが低く、柔軟な足腰をしている。
「お前こそ、我ら二人を相手に戦えると思って居るのか」
「お前こそ、我らを相手に苦戦していたと言うに」
だが。どんな相手だろうが関係ない。
「はっ、勘違いをするな」
「何……?」
「手負いが二人と雑魚ばかり。実力も、あの翻子拳がずば抜けていた。奴が抜けたなら覆しようもある」
今は……全力で。目の前の二人を叩きのめせることを喜びつつ、一つ暴れさせてもらうとしよう。さぁて……!!
「驕ったな、馬 槍月」
「その驕りの代償は命だ。高くついたな」
「精々吠えていろ……本物の剛拳、というものを見せてやる」
「ええい、アイツ、何処まで逃げた」
別に。感謝を伝えようと思った、とかではない。
アレが勝手に乱入して来たのだから感謝もクソも無い。が。先ほど、ほんの一部を見たからこそ。あの禿げがどんな戦い方をするのかは、気にならないと言えば嘘になる。だからこそ探している訳なのだが。
「――こっ、このぉおおおおお!!!」
漸く見つけたその先。月明りの下の草むらで、ハゲに向けて放たれた拳は空を切る。
翻子拳使いの拳は鈍っていない。寧ろ、鋭さを増しているようにも見える。制空圏を攻撃に活かすだけの実力もある。あの三人の中で、一番強かったのはあの男だ。だが、それを、あの禿げは受け、時には捌き、叩き潰している。
――翻子連打!!
「シャァァアアアッ!!」
「――ふっ」
「ってぇえんなぁっ!?」
お得意の連打も、最初に掴まれてしまっては意味も無く、そのまま地面に転がされるだけだ。しかし、本当に面白い様に相手が転ぶ。相手にとっては、たまらない話だろうが。
「ぐ……余裕を見せてくれるじゃないか」
「余裕はない。全力で相手をしている」
「ッ減らず口をぉ!!」
吠えて、更に地面を蹴る……その一瞬、先んじて、ハゲの方が前に出た。
驚いたのもつかの間、重心が前に乗り切るその一瞬を制され、胸板に掌底を貰いそのまましりもちをつかされた。立ち上がろうとしたが、遅い。もう既に額の中心辺りに右掌が突き出され、その動きを制している。
「……ぐぅっ!?」
「どうする。まだ続けるか」
「――」
「どうする」
……場の勝者は明らかだ。翻子拳の男は、顔を真っ赤に染めて横に転がると、闇夜へと駆けて消えて行った。
「――患者は」
「あぁ、俺が説得するよりも前に、周りの奴らが連れて帰った」
「治療機関に連れて行ったのか」
「そりゃあ放置していかなかったのだから治療もするだろう」
――正直に言えば、どうかは分からん。あの黒虎白龍門会の奴らだ。失敗した刺客を始末するくらいはするだろう。だが、それを話せばこの男はあの二人を追いかけて、本部に乗り込みかねん勢いだ。
俺と戦う前に潰されては、困る。
「そうか。であれば心配は無用……と信じたいが」
「言っておくが、何処へ行ったかは知らんぞ」
「そうか」
「――おい」
流石に行方も分からぬ相手を探しようは無いのか。そう言って踵を返すハゲの背中に。一つ声をかけた。その戦う機会は、早ければ早い程、良いというものと、思ったからだ。
「なんだ」
「今からでもいい、俺と――戦え」
「いいや。やるならば、休憩時間に来い。その間であれば、構わん」
……結局。
にべも無いとはこの事、とでも表現できるようなその一言に完全に機を失され、俺は暫し闇の中に立ち尽くしてから。やけ気味に店で酒を煽ったのだった。
同格、又はちょっと格下、怪我人相手にはこんな感じ。
格上相手は、まぁメスガキちゃんの時の様な感じ。
因みにホモ君も槍月さんもこの時点ではまだ妙手クラスです。
あとご理解いただけるでしょうが、作者はバトル描写が下手です(半ギレ) もっと上手になりたいです(半泣き) こんなバトル描写でも楽しんでいただけるなら、頑張って書いていきたいと思って居ます。