史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第七回・裏:強襲、黒虎白龍門会 後編

「――要治療患者数名を確認。そこを退いてくれ。彼を治療する」

「「「……」」」

 

 呆然としていた三人。だが、正直こっちも目が丸くなっている。なんで此奴がここに居る。そもそも治療とは……この状況で。どういう思考回路をしていたら、そう言う発言が出て来るというのか。教えて欲しいくらいだ。

 

「……どうする?」

「仕方ない。そっちは任せるぞ。俺は此奴を始末する」

「――! オイ待て、ソイツは関係……」

「見た時点で始末の対象だ。死ね」

 

 そう言って即座に一歩踏み込む翻子拳の男。完全に不意を突かれただろう。奴にとって、これはただケンカに割り込んだ、位の感覚なのだろうが……違う。此奴らはそう言った事に躊躇いの無い危険な輩。

 思考の隙を突かれては、どんな実力者も――

 

「――要治療患者は、未だ居たか」

「……は?」

 

 それどころじゃなかった。受けた。真っ向から。

 先ず顔面、というか額に一発受けて……しかし、その時点で微動だにしない。逆に度肝を抜かれたのは此方だ。驚きもせず、逃げもせず、顔面に拳を当然のように受け入れ。そして、なんて事も無いように払い除けた。若干、額から血が漏れていた。

 

「其方の二人も治療しなくてはならない。今すぐ戦闘をやめて……」

「――舐めるな。素人が」

「む」

 

 気合を入れ直した翻子拳使いは、すぐさま攻撃を再開する。今度の拳は当たる前に払い除けられたが、構わず乱打。しかしそれらの拳も、どれ一つ掠らず、空を切る。相手の手に払われ、受け止められ、そして時には躱され。

 

「……素人か? 貴様」

「私は医療スタッフだ」

「戯言を!!」

 

 ――それは制空圏、というわけではない。

 自分に対して、ただ繰り出される拳に一々反応しているだけだ。無意識で打ち落としているというよりは、一々意識して迎撃している。そんな物を制空圏なんぞと呼べば、それこそ武術家に対する侮辱になるだろう。

 しかし、それでも当たらない。悉く迎撃され、払われ、あるいは防がれる。

 まるで目の前の男の動きが、手に取るように分かっている様でもあった。

 

「――何故だっ!? 何故当たらん!?」

「ふぅ……」

「ずえぇあっ!」

 

 苛立ったのか、翻子拳の男が裂帛の気合と共に拳を顔面に向かって繰り出し……瞬間、信じられない物を見た。

 拳を突き出した男の方が、地面に尻もちをついてひっくり返っていたのだ。まるで、足でも滑らせたかのように。何が起こったのか、分からないと言った様な顔だ。俺も……分からない、早業、という訳でもない。

 

「――では失礼する」

「え、え、は? あ?」

 

 その横を、悠々と抜ける医療スタッフ。この鉄火場の中で、一番と堂々とした態度、そのままに俺の前にしゃがみ込み、目を合わせてくる。周りは何人も殺気立った男ばかり。店の中は荒れ放題というそんな状況下だというのに。

 

「立てるか」

「あ、あぁ……」

「近場の医療施設は……地下闘技場の医務室がやはり一番近いか。そこまで付き添う。其方の二人も治療を――」

「やかましい!! 急に割って入って来て、無事で帰れると思うな!!」

 

 だがその悠長さを咎める様に帰ってくるのは、小柄な男の猿臂。斧にも幻視するほどの勢いで振り下ろされた……パシン、という音がしたその直後、ハゲ頭はその男の後ろ側に、振り下ろした張本人は地面に手をついて四つ這いになって。

 ――今度はしっかり見て居たから、理解できた。

 

「要治療患者が動くのは宜しくないのだが」

「な、なにをした!? 貴様!?」

「君の動きは、ケガで明らかに鈍っている。患部に応急処置をするから今は動くな。処置を施したら、最寄りの医療機関に付き添う。それまで」

 

 今、あの禿げ頭は猿臂を……肩で受けていた。そして、その受けたその一瞬、思い切り振り下ろした肘に体重が乗っている一瞬に合わせ、蹴りで脛を叩き、そのまま倒れ込むのと入れ替わる様に後ろに回り込んで見せた。

 アイツは、殴られるその直前、何処に一撃を叩き込めば、容易くひっくり返せるかを理解して対処していたのだ。恐らくはさっき倒された翻子拳の男も、同じようひっくり返されたのだろう。

 

 戦う、武術の類ではない。相手の攻撃を受け、捌きつつ、たった一瞬を突いて相手を地面に倒す。その倒す先が普段は恐らくベッドなのだろう。暴れる患者をあっと言う間に制圧する技術の結晶がアレだ。

 

「くっ!? この男……!!」

「暴れず、大人しく治療を受けてくれ。ケガが悪化すれば」

「――背後がガラ空きだっ!」

 

 そのメカニズムは分からずとも、喰らった本人が、脅威だと十分理解しているのだろう、翻子拳の男も背後からなりふり構わず襲い掛かってくる……が、流石にそれを見過ごす程、甘くは無い。

 

「っな!?」

「ふん。今はコイツと協力して此奴らを潰すしか、道は無いか?」

 

 飛んで来た拳を、同じく拳で打ち落とす。流石に制空圏を築く事が出来れば、そんな怒り任せの拳など、通しはしない。

 流石に三対一では分が悪い。諦める積りも無かったが、だからといって無駄死にも全くもって御免被る。となれば……気に入らんが、ここでコイツと「潰す? 何の話だ」……すぅうううう……ふぅううううう。

 

「……おい。この状況が分からない訳でも――」

「協力するのであれば、直ぐにでも戦闘をやめて、私について来てくれ。口の傷は悪化すれば口内炎にも繋がってくる」

 

 マジか。

 あ、いや……いかん。心が乱れた。本気か、コイツは。この状況下、本当にこっちの傷の心配しかしてないのか。俺の傷を心配する前に、自分が重傷を負うだとか、全く考えている様に見えない。目の前の敵に対して、危険だと警戒していない。

 武人ではない、という魯の言葉は本当だ。

 ならば。

 

「――分かった。言い方を変えよう。そっちの患者を、さっさと治療を受けるように説得しろ。その邪魔をするこっちは、俺が引き受ける」

「……協力する、というのは、そう言う意味か」

「あぁ」

「――であれば、君が此方の二人を担当してくれ。病人を興奮している相手にあてる訳にはいかない。そちらの人物の相手は、私がする」

 

 ――そう言って、ハゲはそのまま一歩前に出て。その先で拳を構える男に対し、ゆっくりと口を開いた。

 

「という事だ。其方の三人は要治療患者。邪魔をしないでくれ」

「ふ……ふざけるのも大概にしてもらおうか!! お前たち、二人と一緒に槍月を始末しろ!! 此奴は僕がやる!!」

「はっ、はい!!」

 

 叫んで飛び出す翻子拳使い。

 その拳から逃れるように一歩、下がって相手から逃れるハゲ。相手の攻撃を避けつつ下がって言っている辺り……どうやらマトモに戦わず、この場から引き離す積りらしい。それなら、此方としても都合がいい。

 どうせ、こっちもそんな説得なんざ出来る訳がない。

 

「くくっ……こっちは俺達二人と雑兵で引き受けろってか。頭に血が上っているのか」

「構わん。初めから目標はこっちだ。手柄を譲ってもらった、と考えよう」

「二人でそれなりに苦戦していたというのに、勝てると思って居るのか?」

「「当然」」

 

 合わせて構える猿臂使い。そして、最初に倒した男は……恐らくは、酔拳当たりか。異様に構えが低く、柔軟な足腰をしている。

 

「お前こそ、我ら二人を相手に戦えると思って居るのか」

「お前こそ、我らを相手に苦戦していたと言うに」

 

 だが。どんな相手だろうが関係ない。

 

「はっ、勘違いをするな」

「何……?」

「手負いが二人と雑魚ばかり。実力も、あの翻子拳がずば抜けていた。奴が抜けたなら覆しようもある」

 

 今は……全力で。目の前の二人を叩きのめせることを喜びつつ、一つ暴れさせてもらうとしよう。さぁて……!!

 

「驕ったな、馬 槍月」

「その驕りの代償は命だ。高くついたな」

「精々吠えていろ……本物の剛拳、というものを見せてやる」

 

 

 

「ええい、アイツ、何処まで逃げた」

 

 別に。感謝を伝えようと思った、とかではない。

 アレが勝手に乱入して来たのだから感謝もクソも無い。が。先ほど、ほんの一部を見たからこそ。あの禿げがどんな戦い方をするのかは、気にならないと言えば嘘になる。だからこそ探している訳なのだが。

 

「――こっ、このぉおおおおお!!!」

 

 漸く見つけたその先。月明りの下の草むらで、ハゲに向けて放たれた拳は空を切る。

 翻子拳使いの拳は鈍っていない。寧ろ、鋭さを増しているようにも見える。制空圏を攻撃に活かすだけの実力もある。あの三人の中で、一番強かったのはあの男だ。だが、それを、あの禿げは受け、時には捌き、叩き潰している。

 

――翻子連打!!

 

「シャァァアアアッ!!」

「――ふっ」

「ってぇえんなぁっ!?」

 

 お得意の連打も、最初に掴まれてしまっては意味も無く、そのまま地面に転がされるだけだ。しかし、本当に面白い様に相手が転ぶ。相手にとっては、たまらない話だろうが。

 

「ぐ……余裕を見せてくれるじゃないか」

「余裕はない。全力で相手をしている」

「ッ減らず口をぉ!!」

 

 吠えて、更に地面を蹴る……その一瞬、先んじて、ハゲの方が前に出た。

 驚いたのもつかの間、重心が前に乗り切るその一瞬を制され、胸板に掌底を貰いそのまましりもちをつかされた。立ち上がろうとしたが、遅い。もう既に額の中心辺りに右掌が突き出され、その動きを制している。

 

「……ぐぅっ!?」

「どうする。まだ続けるか」

「――」

「どうする」

 

 ……場の勝者は明らかだ。翻子拳の男は、顔を真っ赤に染めて横に転がると、闇夜へと駆けて消えて行った。

 

「――患者は」

「あぁ、俺が説得するよりも前に、周りの奴らが連れて帰った」

「治療機関に連れて行ったのか」

「そりゃあ放置していかなかったのだから治療もするだろう」

 

 ――正直に言えば、どうかは分からん。あの黒虎白龍門会の奴らだ。失敗した刺客を始末するくらいはするだろう。だが、それを話せばこの男はあの二人を追いかけて、本部に乗り込みかねん勢いだ。

俺と戦う前に潰されては、困る。

 

「そうか。であれば心配は無用……と信じたいが」

「言っておくが、何処へ行ったかは知らんぞ」

「そうか」

「――おい」

 

 流石に行方も分からぬ相手を探しようは無いのか。そう言って踵を返すハゲの背中に。一つ声をかけた。その戦う機会は、早ければ早い程、良いというものと、思ったからだ。

 

「なんだ」

「今からでもいい、俺と――戦え」

「いいや。やるならば、休憩時間に来い。その間であれば、構わん」

 

 ……結局。

 にべも無いとはこの事、とでも表現できるようなその一言に完全に機を失され、俺は暫し闇の中に立ち尽くしてから。やけ気味に店で酒を煽ったのだった。

 




同格、又はちょっと格下、怪我人相手にはこんな感じ。
格上相手は、まぁメスガキちゃんの時の様な感じ。

因みにホモ君も槍月さんもこの時点ではまだ妙手クラスです。



あとご理解いただけるでしょうが、作者はバトル描写が下手です(半ギレ) もっと上手になりたいです(半泣き) こんなバトル描写でも楽しんでいただけるなら、頑張って書いていきたいと思って居ます。
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