史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第十回・裏:鷹と月

 ――兄が、人を殺した。

 知らせを聞いた時……正直な話を言えば。信じたくない、という気持ちもあったが……それと同じくらい『あぁ、来るものが来たんだな』という納得の気持ちも間違いなくあった。兄の武術は、間違いなく殺人の方向へと向かっていた。

 破壊、殺意こそが武術の根源、本質。その心と共に拳に殺意を込め、ほぼ半殺しにする事もしばしば。どうにかしようと色々試してみた事もあったが。どれも上手く行かなかった。であれば、結果がどうなるかは想像できてしまった。

 

 だが意外だったのは。

それを、兄自ら決別の文と共に送って来た事だ。筆まめ、という訳でもない兄が、である。そしてその文にはもう一つ、ある男に渡して欲しい、と頼まれたものが付いていた。

 

「……ここかぁ」

 

 それに従い、故郷を離れやって来た、それなりの繁華街。先ほど、地下格闘場などもやっているという噂を聞いて、兄が居そうな場所だと少し溜息を吐いた。

 で。兄はここである人物と武の腕を磨いていたとの事だが。

 

「――えぇ? 禿げた頭の、外国人?」

「そうそう。ここら辺で見た事無いかい?」

「あー……あるなぁ。どうにも節介な奴だよ。でも、俺も助けられた」

「節介?」

「そうだ。怪我人が居ると勝手に処置して去っていくのさ」

 

 その人物というのはとんでもない変態らしい。

 何だ、怪我人が居ると怪我治して去っていくって。辻斬りか。辻斬りならぬ辻治しか。誰かを助ける、って言う心意気は分からないでもないが、それにしてもやり方が乱暴すぎやしないだろうか。

 話を聞く限りでは『良いから治療をさせろ』とばかりに断る暇も与えず、完璧な処置をして去っていくらしい。ただの擦り傷にもガーゼを当てて治療する徹底ぶり。

 

「兄さん、変な人と知り合ったんだなぁ」

 

 ただ。飛び切り優しそうな人でもある。どんな人物なのか、聞き込みをしながらだんだん気になっている自分が居たのは確かで……本命の情報が聞けたのは、兄が通っていた酒屋での事だった。

 

「廃工場?」

「そうだよ。最近は、治療の合間に其処に通い詰めてるな」

 

 気になったのは。

 町で聞いた噂の中に、町の外れの廃屋で、人死にが出た、という噂だった。それが兄の仕業であるのは何となく悟っていたが。そこに通い詰める、というのはおかしな話だ。殺された相手の仲間なら絶対に近寄らないだろうし、しかしそんなとこに通い詰める理由のある人間なんて関係者位だというのに。

 

「……友達だったからねぇ」

「友達、ですか」

「そうだよ。町の奴らは知らんだろうけど、廃屋で暴れた奴と、その探してる奴は友達だったんだ。多分その凶行に、胸を痛めて、せめてもの気持ちで、通ってるんだろう」

 

 そこで初めて知ったのは、この町で珍しく兄が作った友人の事。兄が態々手紙を託すほどに親しい友人が、その男だった事。

 意外だ、というのが率直な感想だった。

 人付き合いの苦手な兄だった。自分で公言する程には。それが友人を作るだけでも驚きだというのに。それが外国人。しかも、ここの辺りで知り合ったばかりなのだという。冗談か何かかとも、考えそうになった。

 

「どういう人なんですか」

「んー……優しい子だよ。誰かが怪我してるのが、許せないんだとさ。その所為で仕事場も、クビになったのかねェ」

 

 ――その言葉を聞いて、向かってみた廃工場。

 鉄くずが曲がり、機械が歪み、其処かしこに多少の破壊の跡が見て取れる。兄は間違いなく更に腕を上げている、それが良く分かった。

 そんな中に、彼は居た。

 

「――」

 

 すっと背を伸ばして立ち、一歩も動かず手を合わせている。綺麗な姿勢で、一瞬武人なのかと思ってしまった。しかし、筋肉の付き方も尋常のそれではない。町で通りすがりに治療をしている、という噂話とは、結びつかない姿だ。

 

「追悼ですか?」

「……そのつもりでは居る」

 

 此方を振り向いたその顔は……一切のオブラートに包まないでいうのであれば。兄以上に見た相手を恐れさせるような面をしていた。悪人面、チンピラ顔、しかもそれが真顔を浮かべているのが猶更怖い。兄の友人、というのが頷けるような強面。

だが、その顔には……ハッキリと涙の跡が見て取れて。他人の為に泣ける人なのだろうというのが直ぐに分かった。

 

「君は?」

「ここで暴れた男の、弟です」

「……槍月の、弟。馬 剣星殿か」

 

 その口から自分の名前が出た事に驚いて。聞いてみれば、酔っていた時に、自分の自慢の弟がいると語ってくれた、と彼は語ってくれた。

 

「彼の愛情が伝わってくる……熱い、言葉だった」

「兄さんが、そんな」

「……私は、貴方に謝らなければならない。剣星殿」

 

 ――その語った直後に、彼が地面に頭を付けたのには、驚くしかなかったが。

 

「な、なにを!?」

「彼が殺人を犯したのは……私の責任だ。私の責任なのだ……」

「あ……いえ、それは。兄は、兄の信念をもって、貴方を助けに行ったのです。それを貴方の責任にされては、兄の覚悟は」

「そうではない!!」

 

 言葉を続けられなかったのは、反論の声が、余りにも悲壮だったら。余りにも、震えて居たから。聞いているこっちの胸が、軋む様な。そんな声だったから。

 

「彼は、彼の信念をもって助けに来てくれた……槍月は……卑劣な行いを、好まぬ男だ。それは短い付き合いの、私でも分かる」

「それじゃあ」

「俺は、その信念に、応える事が出来なかった!! 彼を……っぐ……だずげ……ら゙れ゙な゙がっ゙だ!!」

 

 その声はいよいよ叫び声から、嗚咽へと少しずつ変わっていって。ぱた、ぱた、という音が地面から聞こえてくる。彼は、泣いていた。頭を地面に擦り付けたまま。助けられなかったと、彼は言った。

 

「それは、どういう」

「……っ……俺が……彼らを、治療、出来て居れば……こうは、ならなかった……!」

「治療、もしかして、兄が戦った相手を?」

「槍月は、殺人を……犯すことは無かった……!」

「……」

 

 それは。許しを請うている訳ではない。

 寧ろ、自らを許さぬ、と。糾弾する声だった。

 

「俺は、医に関わる者として……彼らを……治療しなくては……いけなかった! 彼らの命が、失われなければ……槍月は、人殺しに……ならなかった……ここを、去る必要も無かった……!! 彼が、命を賭して……助けに来たのであれば……!!」

「兄の……槍月の事も、自分が守るべきだったと?」

「……ぞゔ……だ゙!!」

 

 もし、彼に責任があったとしても。今の彼を見て、責任を問える者はいるのだろうか。恐らく兄の事に、気も狂えとばかりに心を痛めている彼に。

 少なくとも。自分は、何も問うことは無い。寧ろ……ほんの僅か、ほんの僅かだけだけど救われた気すらしていた。兄は、今の時代に馴染めず自らその道を外れたのではなく。自らの道を貫く故に、道を違えたのだと、分かったから。それがせめてもの、救いな気がした。

 

「う、ゔぅうううううう!!」

「……ホークさん。僕は、兄から、貴方へある物を渡すように言われて、ここに来ました」

 

 懐に入れて置いた『それ』を取り出した。小さく折りたたまれた、そんな紙だった。自分に書かれた手紙よりも、ずっと小さいけれど。沢山の文で記すよりも、そこに書かれた短い言葉に全ては収束されていた。

 

「え……」

「兄からの、せめてもの気持ちだと思います」

 

 たった三文。メモ用紙に書く程度の言葉。

 

「――」

 

『流水にも負けぬ川中の岩のように、何者にも揺るがぬお前であれ』

 

「……っ」

 

『己の手の届きうる全てを守る、理想を諦めぬお前になれ』

 

「……そうげつ……」

 

『お前がそうあると信じ。この蒼天の下、共に己が道を進まん』

 

「……ありがとう……わが……ともよ」

 

 短い言葉だった。

 けれど、そこにはきっと。

 

「――兄の友人になってくれてありがとう」

「……礼を、言うのは。俺の方だ」

「それは兄からの感謝の気持ちだと思う」

「それも、俺のセリフだ。こんな俺の友が、あの男である事に。感謝を」

 

 友達への。兄が残した人らしい思いやりが、込められているのだろうから。

 

 

 

「兄を、追ってみようと思います」

「そうか」

「貴方はどうするんです? 職場をクビになったと聞きましたが」

「関係ない。患者を救うのに、場所は問わない。助けられる人を、助けるまでだ」

「そうですか」

 

 なんというか。兄の友人らしいと言えばらしい。愚直に進む以外の事を一切知らない人だと思う。兄も、どっちかと言えばそのタイプの人だったから。

 

「兄に会ったら、知らせて頂けますか」

「槍月を止めるのか」

「……はい。兄弟として、兄と向き合わねばなりません」

「そうか。分かった。ただ引き留めはせんぞ」

「はい」

 

 この人と、もっと話してみたい気持ちはある。兄の素顔を知る数少ない人だ。兄がどう生きていたのか、知りたい気持ちはあるが……それはきっと今ではない。まだ兄は此処から去っただけで、追いかけられる距離に居るかもしれないのだ。

 兄の事を話すのは、また何れ。

 

「では」

「――槍月に会ったら、伝えてくれないか」

「はい?」

「深酒は余り過ぎるものではない。アルコール依存症の気が見えるようであれば治療すると」

 

 ……正直。今そんな事を真顔で言えるこの人自身にも、ちょっと興味が出て来たけど。

 

「ははっ、分かりました。キツく言っておきます」

「頼む」

「……あ、それと」

「なんだ」

「医療に興味があるのであれば、鍼なんかも習ってみたらどうでしょう」

「鍼……成程、その様な手段もあるのか。分かった、直ぐに調べてみよう」

 

 まぁ、だから今は一つ。お土産だけを置いて。ここを立ち去る事にしよう。人付き合いの苦手な兄に出来た、得難い友人の事を思い出に――兄を、追いかけよう。決して、許されない事をした、兄を。

 

 

 

「……自慢の弟、か。その言葉が分かる、人物だったな」

 

「ん? あぁ、貴方は確か……仕事? クビになっているが」

 

「医者の仕事を斡旋、か。助けられた礼? 俺は俺の仕事を……あ、あぁ。そうか。分かった。それで、患者は何処に居るんだ」

 

「ティダード。そこに俺の患者は居るんだな。分かった。直ぐに向かう」

 




友達が出来て良かったねぇホモ君ねぇ!!

そんなホモ君にピッタリの場所があるんだ!! 行ってみなイカ!?
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