史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得 作:秋の自由研究
アメリカ、とか言う国の兵隊が攻め寄せてきて。父上と共に、僕らは戦いに出て行くことになった。それがどうしてなのかは知らないけど。国を守るために、シラットを習ってきたのだから。戦う事に、少しワクワクしてすら居たんだ……
今日、この時までは。
「ちちうえ……っ! ちちうえ!」
「患者だ患者! どけどけ! まだ助けられる!」
「くそっ、奴ら小勢かと思いきや、装備は相当な物だぞ!」
「分かってる!! だから今、一人でも欠けて貰っては困るのだ!」
遠くから響く爆発音。近くで聞こえる破裂音。
肉を叩き潰す音、木の表面が弾け、割れる音。人の怒号、喚き声、泣き声、そして悲鳴。耳はとっくにバカになった。鼻に感じるのは錆び臭い香りと、泥の匂いばかりで。僕は、必死になって戦場の中をはいずり回る事しか出来なかった。
そんな中で。気が付いたら……地面に父上が倒れていた。周りの人が何かを叫んでいたけどそんなのは気にもならなかった。本当に、一瞬だった。
「ちちうえっ……!」
「ええい取り乱すなメナング!! 貴様も武人であろうが!!」
さっきまで戦場を駆け巡っていた父上が、倒れた。
今まで、不安定な道を行く歩き方、素早い身のこなし、逃げ足の類ばかり仕込まれて不満だった。それをこれほど感謝している。父上を引き摺って逃げられたのは、今までの鍛錬あってこそだ。
「オイ! 手が空いている者は!」
「――こっちだ。こっちに連れてこい」
信じられない。
父上は、何処までも駆け抜ける軽い脚と、強いシラットを持つ、達人だった。それが一瞬で。分かった。分からされた。コレが、戦争なのだ。
「なにぃ!? 貴様、さっき処置を始めたばかりではないのか!?」
「もう終わっている。良いか、無茶をさせるなよ」
「そんなバカな……もう終わっている!?」
「そう言った筈だ。其方は……弾丸の摘出を最優先か。五ヵ所」
そんな中で。自分は何が出来るのだろうか。分からない。震えが止まらない。怖い。自分の浮ついた心が、父上を殺したのかもしれない。
父上は……助かるのだろうか。
「で、では任せて良いのだな!?」
「助ける」
「……分かった、任せるぞ。おいメナング、離れろ!!」
そう思った時、ぐいと無理矢理に父上から引き離されそうになって……必死になってしがみ付いた。イヤだ。コレが父上との最後の時間なのかもしれないのだ。助かるかどうかも分からないならいっそ。
そう思って居た僕の体が……ふいに、ゆっくりと持ち上げられた。父上の体からも自然と手が離れて。
「あれ……?」
「息子さんか」
「あ、あぁ。そうだが……」
「そうか」
僕は、何時の間にか、父を担当する医師に抱えられていた。医師、というには余りにも屈強な体だった。父上ほどじゃないけど、僕なんかとは比べ物にならない程に太い腕、固い筋肉。禿げた頭と、物凄い怖い顔に、一瞬びくっとなったけど。
その人の目が、僕の目をじっと、真っすぐ見つめているのに気が付いて。どうしてか、余り怖くなくなった。それは、父上が僕に武術を教える時、何時も瞳と瞳を合わせてくれたのに似て居たから。
「あ、あの……」
「君のお父さんは、必ず助ける。だから今は、落ち着いて」
「……はい」
「良い子だ。落ち着いて、他の患者さんの迷惑にならない様に。良いね」
「わかり、ました」
そうして地面に降ろされた時には、体の震えは収まっていて。ハゲの人は僕に目もくれず父上をベッドの上に乗せていた。その動きに、淀みは無い。
「では処置を開始する。周囲に誰も近寄らない様に」
「わ、わかっ――」
その瞬間だった。彼が引き抜いたのはカランビットナイフだった。
え、と周辺が目を見開くのもつかの間、鋭く、素早く父上の体をカランビットナイフが撫でた。まるで当然だ、とでも言わんばかりの自然さだった。父上の体を開いたんだと思うけどここからじゃ見えないし、どうしてそんな事を迷いなく出来るのか、それが不思議な程に一気呵成だった。
かと思えばもう片方の手に構えたピンセットが、もう弾丸を掴んでいた。驚いたとか言うレベルじゃない。速い。速すぎる。作業の手が。
「っておい!? 麻酔は!?」
「これほどの重症では麻酔を使う時間も惜しい。意識は無い状態だ、手早く、且つダメージを最低限で摘出するのが最適だ」
「いや、まぁ確かに考え方は間違っちゃいないが……!」
「兎も角、体内に弾丸が残っているのが一番マズい。今はその摘出を最優先する」
しかも、カランビットナイフを振るうその手は異質だ。何百回と繰り返して来た、とでも言わんばかりに、ブレない。真っすぐ、かつぴたりととまる。まるで機械だ。
「縫合完了、次」
「あえっ!? いや、いやいやそんな馬鹿な……もう二発目を……!?」
凄い素早く、且つ正確に。武術をやっているからこそ分かった。筋肉だ。筋肉を最適に動かしているからこんな事が出来るんだ。父上は何時も言っていた。『極端な話ではあるが武術は筋肉をいかに効率的に動かすかという所に帰結しないでもない』と。であれば、先生の物凄い速く、正確な手術も、きっとその逞しい筋肉を、完璧に制御しているからだと思う。
もちろん、どういう風に人を切るのか、そう言った事も、沢山して来て、わかっているんだ。そうじゃなければ、あんな迷いなく、腕を動かせない。
「……ふむ、流石は武人。最低限重要器官を避けていたようだ」
「三発目……!?」
「次だ」
どんな事も、修練と繰り返し次第だ、と言っていた。
なら、あの人は一体どれだけの人を治療してきたんだろう。
「お、おい! 適当にやってるんじゃないだろうな!!」
「四発目」
適当にやってる訳がない。あの人の目は真剣だ。ずっと父上の傷と、体を見ている。きっとその反応を見て、体を切っているんだ。目を鍛えろ、と言われていたのはなんでか、今わかる。見てれば分かる。この人の凄さが。
「――処置完了。続いて術後の処置に移る」
「そんな、こんな素早さで弾丸を……!?」
「退いてくれ。取ってくるものがあるのだ」
「うがっ!?」
凄い先生だと思った。
さっきまでの怖さが薄れてくほどに。
「これで、処置は終了だ」
「な、何という速度……悪魔的……ッ!」
そういって次の患者に向かう先生の後ろ、そこで……父上は、安らかな寝息を立てていた。先ほどまで、荒い呼吸で苦しんでいた姿はもうない。凄い。あっという間だった。なんだかたまらなくなって、先生を追いかけた。
せめて、せめて何かお礼の一つでも……そう思って、テントを出た瞬間の事だった。
「見つけたぞ、敵のキャンプだ!」
「戻って報告しないと……!」
敵の姿。草むらを分けて現れたそいつ等は、父上に向けたような……銃を構えていて。一瞬……構えられなかった。その銃に、怯えてしまって。
「――ここは患者のいる場所だ。銃火器等は厳禁、大声を出すな」
「……へっ?」
「……あれっ?」
とか思ってたらもう銃が奪われていた。そして、兵隊たちは地面にひっくり返っていた。何が起きたのかも分からなかった。投げられたのかな、とか考える前に、それをやった人が……さっき迄父上を助けていた先生だという事に、驚いた。正直信じられなかった。ただのお医者様だと思って居た。と思ったら、銃なんて恐れないで、あっと言う間に相手を……!!
間違いなく、この人は僕よりも強い、というのが分かってしまう。
「えっあっ」
「は……あぁっ!? ちょ、ちょっ、逃げろ! 逃げろぉ!! ほ、報告だ! 兎に角報告しないと……!!」
「――あらァ? 逃がすと思ってるゥ?」
でも、それだけで、事態は終わらなかった。
その逃げようとした米兵二人が、明後日の方向に、一瞬で吹き飛ばされて……何が起きたのか、と頭が追い付かない内に、もう一人、目の前に人が増えていたんだ。
「――ハッハァ! どうしたのォ? ぜぇんぜん、大したァ事無いじゃないィ? あっははははははははァ!!」
「止せ」
「――あらァ? あらあらあらァ?」
それは、胸も背中もザックリ空いた、黒いドレスを着た、金色の長い髪を束ねた、凄い綺麗な女の人。グラマラスっていうのは、こう言うのを言うんだって、分かった。その人が、多分今の二人を蹴り飛ばしたんだ。
凄い、一瞬だった。嵐みたいだった。全てをなぎ倒すその様は。けれど戦場に似つかわしくない程に……その人は綺麗だった。
「なんかァ、足の動きが止められた、って思ったらァ。こんな所でもまぁ奇遇ねェ……ホーク・K・バキシモ」
「俺の前で人死には出させん。それ以上の追撃は止せ、ジャック・ブリッジウェイ」
今、僕の目の前で。
その二人が、睨み合いを、していたんだ。
そう言えばホモ君の医療的な部分って見せた事無かったなって。という事で書いてみたんですけど手術とか俺には書けんのじゃ!! という事で勢いで誤魔化しました(白状)
ほんへに医の達人クラスが居ますからね。少なくとも、それに負けない位を目指しております。
後、感想欄の皆様、ジャックちゃんはヒロインではなくライバルなんですけど、なんで槍月師父と一緒にヒロイン扱いされてるんですかね……?(困惑)