史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第十二回・裏:策謀の戦線

「ふん、手応えェ、無いわねェ本当にィ」

 

 父上は、先ず防御を僕に教えてくれた。武術というモノは下手に防御を仕込まないのが一番危ないという話だ。しっかりと気血を送り込んだ両の腕は、無防備な体を刃を切り裂く様にバラバラにする、なんて事もあるんだって。

 だからしっかりと防御は鍛えないと、一瞬の隙を突かれて、あっさりとやられてしまうんだって……でもこの人は、全然違う。

 

「ひ、怯むな!! ゴーゴーゴー!!」

「ったくゥ……Go down!!」

「ひぎゃあっ!?」

「げあっ!?」

 

 今みたいに相手が死ぬ気で襲い掛かって来ても。攻める、攻める、攻める。この人の脳味噌からは、きっと防御も後退も纏めてネジが完全に外れている。攻撃を攻撃で潰して、防御を攻撃で踏みつぶして、それ以外は何も知らないようにしか見えない。

 

「ひ、ひぃぃいいいい!?」

「に、逃げろ逃げろ!! 撤退だ!」

「クソッ、この前相当に強い奴をやったって聞いてたのに……!!」

 

 僕じゃ何時までも辿り着けないと思う、あの動きには。彼女はきっと、才覚があるんだ。どうしようもない程に相手を攻撃する、相手を粉砕する、相手を蹂躙する、そんな。真っ向から敵を押し返せるような。

 達人と呼ばれてた、あの父上の動きに何処か通じる所がある気がしないでもない程に、足の動きは物凄いキレているんだ。鋭いんだ。

 

「ったくゥ……」

「オイ、何故逃がした? 殺して奴らを威圧せねば撤退はせんぞ!!」

「別にィ? やる気が乗るならァ……殺しても良いしィ? 寧ろォ、殺したいィ、まであるんだけどねェ? こう言う所のセオリィでしょォ? 殺さないでェ……足、引っ張る様にするのがァ?」

「た、確かにそうではあるが……それにしても、蹴りに気血が乗っていない! やる気が無いのは丸わかりだぞ!!」

「やる気が無いのがァ、お気に召さなァい? 別にいいわよォ? 抜けても」

「ぐっ……!?」

 

 ――そんな人が抜ける、というのは、誰か一人の判断じゃきっとできないと思う。実際成果を出してるんだから。ここ、キャンプの護衛として、これ以上ない程に。

 

「でもォ、タダでさえ不足してるのよねェ? 戦力ゥ?」

「そ、それはっ……!?」

「別の戦線をォ? 支えてるゥ、ジュナザード様をお呼びするゥ? 必死になってェ頑張って下さってる救い主様をォ?」

「ふ、ふざけるな!! その様な事!」

「じゃあ戦力不足でここ捨てるゥ? 大英雄様から任されたのよねぇ、ここ守れってェ?」

 

 僕なんかは当然、大人だって……この人の言葉を否定できない。

 

「そんな大切な場所をォ……? アンタの判断でェ、捨てちゃうのォ?」

「き、貴様など居なくても!!」

「ハゲ頭がァ、必死になって治療してェ、ギリギリ持ってるって言うのにィ? 笑えるわねェ、戦力不足してるってェ、分かってらっしゃらなァい?」

「……ッ!!」

 

 確かに、この人が抜けるのは大きいと思う。ここは、雇われの兵隊の人達がいるから、何とかなってると思う。父上の様な達人であっても、どうしようもない程に、ここの戦況は悪い。でも、この人の言い方は、ちょっと……

 

「ねェ? どうするゥ?」

「ぐ、ぐぐぐ……」

「ここからのォ、帰りのチケットだってェ、取るのはァ時間かかるからァ、早めに決めて欲しいィんだけどォ?」

 

 強ければ、何でも許される訳じゃない、と父上から教わった事があるけれど。その言葉がここまで綺麗に当て嵌まる人も、初めてだ。

 

「……わ、かった……もう、文句は言わん……!!」

「――フ、フフフフフフフフフッ!! そうよねェ? そう言うしかないわよねェ?」

「っ!」

 

 この人は、まごう事無き悪人だ。目の前で、顔を歪めているのも、分かる。今必死になってる人を平気でコケに出来る、酷い人だ。正直、こんなに強くてもこの人の手を借りないといけないといけないのが……悔しい。

 だからこそ、正直信じられない。

 

「――おい」

「……何よォ、文句でもあるのォ?」

「精神的ストレスは既に過剰な状況だ。これ以上は止めろ。それが原因で体調を崩す可能性も十分にある」

「……ふゥん? まぁ、良いけどねェ~?」

「それと、ティダード側の人達に無差別に組手を挑むのもだ。無為に怪我を増やす必要も無いだろう。相手なら、俺がする」

 

 この人が、先生と知り合いだなんて。

 先生は、戦って傷ついた大人の人達を沢山、それこそ寝食を削っても助けてくれている。父上も、未だ目を覚まさないけど、経過は順調だって言っていた。例え兵隊が雪崩れ込んで来ても、傷つけずに制圧してしまう。患者でも、敵でも、人に真っすぐ向き合う人だ。

 

「アラァ、アンタからそんな事言うなんてェ……? なぁにィ? アタシのォ、足に見とれてるのォ? 溜まってるゥ? 」

「何の話だ……――人との接し方が様々あるのは、友人から教わった。貴様には、コレが的確だろう」

「良いわよォ? そ~んなァ、言い訳しなくてェ……それともォ……こ・こ? 揉みしだきたいのォ? サ~ル♡ サ~ル♡」

 

 そんな人相手に。この人は、戦う積りだ。挑発までしてる。自分を治してくれる人相手に。先生だってきっと、それを盾に諫めようとしたのだろうに。そんなの全く気にせず、自分の鉾をちらつかせて。

 

「アタシをォ、蹂躙してェ、奪い取りたいんでしょォ? このォ、綺麗な体ァ?」

「だから何の話だ」

「……ホンット、つまんないわねェ。揶揄い甲斐も無いわァ……じゃあァ? 腕がァ、鈍っちゃうからァ、ちょっと相手ェしてくれなァい?」

「言い訳は良い。俺が処置を終えて、一旦暇になるのを待っていたんだろう」

「あらァ……バレちゃったァ!!」

 

 ――はじめ、の合図すらない。完全な不意打ち。卑劣。

闘いに対する最低限の礼儀も無い。余りにも酷い。

 

「――ッチ」

「会うたびに鋭くなっているな。無駄が無くなっているのも分かる」

「ハァッ……アンタにィ、受けられちゃァ、何の意味も無いけどねェ」

 

 けど、そんな無茶な一撃にも、先生は少しも動じないで、そのヒールの切っ先を明後日に逸らしている。慣れているのか、それとも先生は、何時も一切油断していないのだろうか。いずれにせよ、凄い。

 僕だったら……と想像して、震えが止まらなくなる。あのヒールの先は、何の躊躇いも無く先生の瞳を狙っていた!!

 

「避けんじゃないわよォ」

「眼球が潰されては治療に支障が出る……手も、だが」

 

 捌いた先生の手の甲が……裂けてる。ゾッとした。普通に蹴っただけじゃ、絶対ああはならない。

 ヒールだ。破壊の力を、一点に収束させるあの靴だからあんな事が出来るんだ。あんな靴、飾りだと思ったけど、そうじゃない。アレも、彼女にとっての『武』の一部なんだ。

 

「背に腹は代えられないか」

「ふん、手なんて幾ら傷つけてもコ・コ、が躍らないのよォ」

「胸? 心臓病か何かか」

「……ズレてんのよねェ!!」

 

 そこからさらに前蹴りが容赦なく先生を襲う。

 今のは流石に先生がズレ過ぎている、とは思うのだけれども。それ以前に、目を潰して喜ぶ、って。戦い方も、思考も。明らかに、他の人と何かが根本的にずれている気がする。

 こんな危ない人を、一体誰が雇ったって言うんだろう。

 

 

 

「ったくゥあのハゲ……何時かあの顔、グチャグチャにしてやる。って、定期連絡の時間ね。周りには誰も居ない、か、し、らァ……?」

 

「っと噂をすれば。ハァ~イ? アタシよォー……凄いわねェ~この新型のトランシーバー。米軍からの貰い物なんでしょォ? 技術の発展は光の様、って奴ゥ?」

 

「え? 首尾なら上々。向こうも、私を手放せない位は疲弊して来てる」

 

「んでェ? 何時アタシは裏切ればいいわけェ? 弱い兵隊なんて幾ら磨り潰してもぜんっぜん楽しくないんだけどォ……え? まだァ?」

 

「んもゥ……折角依頼してくれたんだから、早めにアタシを暴れさせてよねェ? シルクァッド・ジュナザードサ・マ?」

 




普通の人だったらこの人を雇おうとは思わない。

普通の人だったら。
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