史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得 作:秋の自由研究
「はぁげはぁげ♡ 『
「……」
片方の、小柄なブロンドヘアーは兎も角。
俺らの界隈では、目の前の日系人は有名な奴だった。『この街一のクソガキ』として。
この街で、アイツの顔を見た事がないティーンはいない。どこで喧嘩してても、何処で殴り合ってても。まるでその事を分かってた、みたいに急に現れて。何がそんなに気に入らないのか。このデトロイトじゃ日常茶飯事なカツアゲだとか、喧嘩を見ると……割って入ってくる。
それが何故かと聞けば『怪我人が居たから』とだけ。そりゃあ、割って入られた側はたまったもんじゃない。
それが祟ってこの前なんかお礼参りに徒党組んで行ったけど、その時は不思議な位反撃一つもしてなかった。周りは銃にビビってたんだ、なんて言ってたけど。
俺は正直そんな風には思えなかった。だって、ただ殴られているだけだったって言うのにアイツは、じっと、腕の間からこっちを見て居たんだ。怯えていた表情じゃなかった。何とも思って居ないように、顔は凄いフラットだった。
今のアイツもそうだ。酷く、酷くやる気が感じられない。
喧嘩の間に割って入る時の、凄い形相のアイツとは比べるべくも無い。というか、あんな風に煽られて、あそこ迄表情を変えないのも凄いが。
「アイツに目ぇ付けられたか……ホークもつくづく不運だよなぁ」
「あぁ。あの女、俺達の股座潰すのが趣味なんだろ?」
「しかもアレは生まれつき、ああなんだと。こえぇよ、人間じゃねぇ」
確かに、ここらあたりの筋金入りの不良は恐ろしい。
俺達の中にも、格ってもんがある。俺みたいな皆楽しそうだから取り敢えず。みたいな奴じゃなくて。それこそ、誰かに暴力振るうのが純粋に楽しいから暴れてる、みたいな。極まったワルは。
あの女も、多分同じ類の奴だ。
「ね~ぇ、その股間のモ・ノ♡ 使い物になるのぉ~? 腰抜けでぇ、反撃一つしないでやられっぱなしぃ、だったんでしょぉ♡」
「……」
「もしぃ、使い物にならないならぁ……潰させてくれなぁい?」
普通だったら、嫌悪感の一つでも浮かべる筈だろう。人によっては怯えたりも、するかもしれない。だってのに。
あのジャップは、まるで何にも反応を示さなくて。
「さいきぃん、あんまりぃ、そこぉ、潰せてなくてぇ。つまんないのぉ」
「……何?」
と、思ってた時だった。
彼奴の目の色が変わった。俺が見た事ある面になった。顔が、強張る位に力が入ってて目は瞳孔ガン開き……ちょっとでも動かしたら弾ける、爆弾みたいな、そんな面。導火線に火が入った、って分かるような、そんな。
ああそうだ。アイツは、喧嘩してるのを見かけたら、あんな面でこっちに向かってくるんだよ。アレを見てると、俺達がなんか悪い事をした気分になる!!
「潰してる? 急所を、か」
「んー? そぅそぅ! なぁにぃ? 興味あるゥ? ふふん、きもちいぃ~のよぉ?」
つっても、あの女もイってる類だ。多分そんな事気にしてない。
「グシャアッ!! ってヒールから伝わる感触がしたら、みぃ~んな!! 腰から崩れて泡拭いて、大の大人も!! めっちゃ楽しいし~ぃ? かぁいかん!!」
「……そうか」
「でもぉ、やり過ぎちゃってぇ、最近はぁ、誰も私に近寄ってくれなくなってぇ」
「もういい。喋るな。口を閉じろ。無駄な話をしてる暇があるならかかってこい」
――あぁ。けれど。
「……は?」
「聞こえなかったならもう一度言おう。来い」
もうダメだ。
多分、多分だけど、今。ホークの、触れちゃいけない所に触れた。アレが何時も俺達をぶっ飛ばす時のアイツなんだ。問答なんかしない。黙ってどっちも叩きのめして帰る。まるでテロリストみたいに、突然に。目の前の女がどうしてブチ切れてるのなんて、全くもって気にしてないんだ。
「――もしかしてぇ、喧嘩売ってるぅ?」
「いいから来い。時間の無駄だ」
「ふぅ~ん? そぅなんだぁ……分かった、潰してやるよ。ジャップが」
ブロンドヘアーの方が、一歩で、でも一気に踏み込んだ。低い姿勢から踏み出される前蹴り。素早いし、小柄で低い位置に、全体重を乗せて、股間を狙うあの蹴りは、何人くらい人間をモロッコ送りにして来たんだろ。けど……
「――は?」
「このヒールは、力を一点に集中させて、人体を破壊しやすくするための物か」
ホークはまるで一切、そんな事を考えたそぶりも見せず。真っ直ぐ突き出されたヒールのピンを握りしめていたのだ。先手を取られてもビビってない。寧ろ、真っ向から目を睨みつけて、相手を完全に威圧しきっているようにも見える。
怯える気持ちも分かる。アイツの目は、真正面から見れたもんじゃない。獣とか、そう言う類の目でも無いんだ。
「っち、まぐれで掴んだ、くらいでぇ、調子にぃ……! っ!?」
「人の急所への攻撃は当然その後への影響も残すが、その激痛から、PTSDを発症する事もある、乱暴にしてはならない器官の筆頭だ。それの破壊を好むというのは、精神疾患を疑わざるを得ない」
「お、おまぇっ!! はなっ! はなせっ!!」
感情が読み取れない訳じゃない。逆だ。あそこ迄表情一つ変えずに、アイツは、自分が怒っているって言うのを、叩き付けてくる。かっぴらいた目を!!
「しかし、俺に精神疾患を治す技術はまだ無い」
「なにをいってぇ!」
「故に。力ずくで制圧する。ケガはさせないように最低限配慮はするが、しかしその異常な行為を止める為には、今の俺にはこれしかない事を、先ずは謝罪しておく」
―びき
「……へ?」
「先ずは、この危険物からだな」
握り込んだ手から、音がする。あそこに握り込まれてるのはヒールのピンだ。そこからの音って事は、割れてるんだ。あんな硬いモノが、握りつぶされてるんだ。持ち主が一番良く分かってる。顔が青ざめてる。
「えっ、えっ、ちょっと、ちょっと待ってよぉ……!?」
「次だ」
「へっ――」
あぁでも……それだけじゃ終わらない。砕いたピンから手を離した思ったら、もうしっかり足を掴んでる。吊り上げた。スカートが翻ろうとお構いなしだ。
次はもう片方のヒールに手を伸ばして……今度は力任せに、その一本のピンを、へし折った。
「う、そぉ」
「こんな凶器で、二度と人を蹴るな。人体は無限に回復する訳ではない」
「っ……うっさい!! いい加減、離せってぇのぉ!!」
蹴りが飛ぶ。正直、あんな状況から、反撃できるってこと自体が、凄い。しかも頭を狙って。
多分喧嘩だけじゃない……ちゃんと、
―ばきぃっ
「っ――終わりか」
「……うそ、よぉ」
「抵抗するのであれば、少々乱暴に制圧せざるを得ないが」
ホークは、それ以上だ。
防ぐ、とか。避ける、とか。そんなんじゃない。受けたんだ。当たったら痛そうな、蹴りだって。顔面を狙ってぶん回された蹴りだって。受けた。側頭部モロ直撃。多分、絶対に痛い筈。でも我慢してる、とかじゃない。気にしてないんだ。
たった一つの事に集中してるから、痛みも、何もかも、度外視してるんだ。ホークは。
「……」
「まだ、やるのか」
「お……ろ、して……わかった。もう、なにもしな、い、からぁ」
――分かるよBAD GIRL
普通じゃないよな。あんな奴と、マトモに殴り合おうって方が無理だ。まるで当然のように喧嘩に割って入って、ぶん殴られても何も反応しねぇ。どんなに手痛くやられても、次の日には当然みたく町をうろついてるとか、アイツはゾンビか、ロボットかのどっちかだ。
「そうか。それは良かった――それで。もう一つ聞きたい」
「な、なによぉ!? もうやめるって言ったでしょうにぃ!?」
「これからもその様な行為を続けるのであれば、俺は君を尾行し、逐一その行動を妨害せざるを得ないのだが。どうする。これからも続けるか」
「……は、はぁ!?」
……あぁ。甘かった。ロボットとか、ゾンビとか。そんなクソ甘い人間じゃない。今わかった。周りの奴が、目を丸くしてる。多分俺も信じられないって顔してると思う。だって顔の筋肉がぴくぴくしてるのが分かる。正気かコイツ。
今、片手で吊り下げて、パンツを丸出しにして、辱めている女を相手に!!
堂々とストーカーするって、衆人環視の前で!! 言い切りやがった!!
あぁ、さっきまで目の前の女について噂してた奴らが公衆電話に目を向けてる。俺だって正直今すぐ警察に電話したい。この町は、多分ロクデナシ共の巣窟だ。それは間違いない。間違いないけど。
「日課が行えなくなるのは残念だが、それ以上に君の行為を止める事は重要だと思って居る。君のその凶暴性は、矯正しなければならない」
「あん、た、一体何を言って」
「だが君が自力でそれをやめる、というのであればそれに越した事はない」
「だ、だから何を言ってんのよアンタぁ!?」
「決めてくれ。今この場で。早く」
コイツは。
そのロクデナシ共の中でも飛びぬけてイカレてやがるんだ。
キャラクターの個性は濃ければ濃い程良し。