史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得 作:秋の自由研究
「チクショウ、背後を取られた!!」
「離れるな、固まって応戦しろ!! 奴らの方が圧倒的に機動力があるのは分かっていた事だろう、今更焦るな!!」
「ベースキャンプを制圧すれば前線を上げられるんだ、ここが――」
「――患者に迷惑だ。その危険物を離せ」
「「「ぐ、グワーッ!? ハゲ頭グワーッ!?」」」
正直に言うと、先生の方が危険物だと思う。普通、お医者様は逞しい両腕で軽々と人間をひっくり返してはいけない。少なくとも、僕はそんなお医者様を知らない。
最初の内は先生凄い、とばかり思って居たけど、一緒にいて『アレ? これ普通じゃないよね』と思ってしまってからはダメだった。もうこの人が違和感の塊にしか見えないんだ本当に。やっぱり先入観って良くない。父上も言っていた。
「先生! 下がってください! 先生が怪我したらどうするんですか!」
「メナング、君こそ下がれ。患者の様子を見ていてくれ。彼らは私が制圧する」
「役割が逆なんですよ先生! うぉおおおおおっ!」
取り敢えず、此方に向かっていた兵士の一人を全力で蹴っ飛ばして藪の奥へ送り返す。僕では必死になって蹴り飛ばしてやっとの事を、まるで当然の如く、嵐か何かのようになぎ倒して行ってる先生が可笑しいとは、正直思う。どういう鍛え方をしたら医の腕とアレだけの力を一緒に得られるのだろうか……そもそも、僕がこうして先生の護衛をしているのは必要なのだろうか。一応、護衛するように言われるけども。
「――まだ来るぞ先生!」
「問題ない、今の所処置の必要な患者はいない。彼らの安全を確保するならば、協力は惜しまない」
「そうじゃない! 危ないから下がれと言うとるんだこの人は! 全く、さっきからの攻勢を見て、どうして下がらんのだこの人は!」
全くその通り。状況的に、先生が手を貸してくれるのは嬉しい、と誰もが言うだろう。けれども……こうやって普段から戦いの為の訓練をしてきた僕らが、誰も彼も無傷では居られない程の激戦なのだ。それに先生が巻き込まれでもしたら、一大事だ。そこら辺の医者とは違う。替えが効かない。
「下がれない。ここで患者を守るのも医者としての……む、そう言えばその腕はどうした。負傷したのか」
「ってぎゃあああああ!? 先生に気付かれた!?」
「治療を開始する」
「だ、大丈夫だ! 大丈夫だから先生!!」
……それと、先生が前線に出ていると、強制的に治療室にぶち込まれる、というのもあって皆下がって欲しいんだと思う。そりゃあ、お医者様としては正しいんだろうけど。患者を力づくで治療室に寝かせて治療するというその方針。何かが違う気がする。
先生はこの戦いの中で、大分僕たちに馴染んだと思う。馴染んだ、というか僕たちの方が馴染まされたというか。何と言うか、先生はパワーが強すぎるのだ。治療するという一点において。凄いのだ。
「取り敢えず、取り敢えずここを凌ぐまでは!!」
「終われば即治療だ」
「……お、おう……」
「め、メナング! 説得をしろ! この程度の傷であれば……!!」
「ダメなのは皆承知していたと思って居たんですけど」
「だからといってこんなかすり傷程度で反応されるとは思わんだろうが!」
「かすり傷ではない。この不衛生な環境では僅かな傷であっても大きな傷に発展する事も多々ある。迅速に処置をするから此方へ来い」
「うわぁあああああッ!?」
戦い終わればあっという間だった。そのまま引っ張っていかれてしまう。何の容赦もない。とはいえ、一応は戦いがひと段落してるんだから、別に誰も止めない。普段なら、流石にコレが一段落してからにして欲しい、と止めに入るのだが。皆も、軽く笑って二人を見送って。そして、同時に何人かが溜息を吐いた。
「先生には、頼りきりだな」
「我が国の問題であるというのに……申し訳なく」
「あのような若い者に、我ら年寄りが世話になるとはなぁ。普通は、逆ではないか」
「しかしどうしようもあるまい。あの人が居なければ、ここはもうとっくに……」
――正直、旗色は、良くないらしい。
僕はこうして、ここで先生の護衛をしているだけだ。だから前線の様子は、全く知らないけど……何時も、ここへ戻ってくる大人たちの顔色は、良くない。怪我人も少しずつだけど、増えて行ってるみたいだ。
「――しかし、向こうの勢いの何と衰えぬ事か……」
「我々も、抵抗はしているのだがなぁ。援軍の要請はどうなっておる」
「ダメだ。どこもかしこも忙しく、引っこ抜く戦力はない、の一点張りだ」
「ジュナザード様ご自身が出陣されているというのにか……こんな時に内で争っている場合では無いであろう!?」
「その対処もジュナザード様が行っておられるのだ」
ティダードの内乱と、外からの襲撃。僕らジュナザード様に付いた側は、この国を正気に戻し、この内乱を終わらせるために戦っている。でも、父上は言っていた。ジュナザード様に付いた勢力は、僅かな物なのだと。今、内乱に明け暮れている者達、ティダードの大半は最早……正気を失っているのだと。
「せめて、我らにはジュナザード様が付いている、というのが……救いだ……」
「しかし、そのジュナザード様も、ここにはお顔を見せに来てくださらぬ。コレは」
「言うな。言うでない」
皆。この空気に疲れ果てている。間違いなく。
「――メナング」
「あ、お帰りなさい先生」
「あちら二人に果実を優先的に回すように伝えてくれ。私は補給部隊の人達と話して来る。医療器具がどうにも足りない」
「……はい、分かりました」
そんな中で、先生は頑張っている。
こんな闘いの中で、楽しみなど偶に食べる果実くらいの物だ。それを先生は、常にキャンプの中を見回って、疲弊して、元気のない人に、優先するべき人に回している。こういった事も医者の仕事だって、先生は言っていた。
『心も治療しなければ。心にも、人は傷を負う。この様な状況下だからこそ、心のケアを忘れてはいけない。決して、だ』
どうしてそんな事までするのか、と聞いた僕に対して。そう。
「――おいメナング!! 先生が呼んでるぞ!!」
「えっ? はい……どうしたんだろう」
「補給部隊の奴らが大怪我してるらしい! 向こうの奴らに襲撃を受けたそうだ!」
「!!」
けれど。先生のそんなケアも、何処まで持つのか。僕には、全然分からない程に、この戦いに、終わりというモノが見えないんだ。
「――はは、助かったよ。先生」
「暫く馬車の操縦は控える様に」
「いや、つってもよぉ! 俺達が居ないと、ここら辺の奴ら干上がっちまうぜ!?」
「一度に来る人数を少数で、その代わりに小刻みに来るようにすれば人員の節約をしつつ、物資の輸送も出来るとは思うが」
「し……しかしなぁ」
「兎に角。ここの人達を思って君達のケガが悪化したのでは、それこそ将来どうしようもなくなる。先の事を考えて行動してくれ」
先生は、基本的に治療した人に安静を言いつける。それじゃどうしようもない、って言う人を丁寧に説き伏せて。先生曰く『怪我を十全に治療せず行動するのは悪手』だそうで。前線でもその姿勢を崩さない。その代わり、ああやってキャンプの護衛は先生が引き受けてくれているので、何とかなっているけど。
「奥さんも居るのだろう。一人残して逝ってはいけない」
「……ハァー……そう言われると弱いなぁ。分かったよ。アンタの言う通りにする」
そう言って笑う馬車の乗り手のおじさん。彼らも、先生が治療した事がある人たちだ。戦時中だ、寧ろこの場の関係者で、先生にお世話になってない人の方が少ない。
「で、医療器具だっけか……」
「そうだ。どうにかならないだろうか」
「――良し、任せろ。知り合いに医者がいる。ソイツに何とかならんか、頼んでみる」
「すまない……」
もう皆限界なんだ。
いっそ。いっそ敵が逃げ出してくれれば、どれだけ楽だろう。そうすれば、僕らだって追う必要は無い。逃げてくれるなら。それが一番楽なんだ。きっと。どっちにとっても。こんな何方も苦しい様な戦いをしてたら。
「――アハハァ? 随分と必死そうねェ? 先生ィ?」
「ブリッジウェイ。なんの用だ。負傷はしていない様に見えるが」
「えェ~? 無ければァ、話しかけちゃいけないのォ?」
「今は診療の最中だ」
「あっそ」
……たった一人、この人だけは違うみたいだけど。やっぱりこの人はどこかおかしい。コレに関しては、もう特に何も言えることが無い。
「まァ、一応用があるんだけどねェ?」
「なら先に言え」
「では遠慮なくゥ……前線をねェ? 同郷達が突破したァ、みたいよォ?」
「……なにっ?」
「皆ぁ! 備えろッ! 敵のっ……大規模な、部隊が!」
直後、キャンプ全体に響く声。思わず外に出る。キャンプ地の仲間に介抱され、片腕を押さえて、苦しんでいる仲間が見える。突破されたという、先ほどのブリッジウェイの言葉を思いだした。じゃあ……前線の皆は一体、どうなったんだ。
思わず、駆け寄ろうとした。皆の無事を確かめようとして。
「――突撃ィッ!!」
「「「「Yes,Sir!!!」」」」
そんな僕の耳を、とんでもない大声が、貫いた。
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「――何とか突破は出来たな。それで」
「ターゲットを確認できた。このタイミングで確実に確保するぞ」
「タイミングを合わせろ、一気呵成だ。最初の勢いで押し切れなければ終わる」
「了解した……3・2・1……突撃ィッ!!」
状況が進まないけど、こういう日常(戦場)を描いてこそ、この後の流れにつなげられると思うので、のんびりと書いていきたいと思います。
後最後の会話には、別に深い意味等ございません。本当です。