史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得 作:秋の自由研究
これ以上の攻勢を仕掛けるなんて無理だって。皆言った。当然だ。先生が頑張って治療してくれてるけど、それでも皆疲れてる。守るのだって厳しいのに、ましてや自分達から相手に戦いを仕掛けるなんて。愚の骨頂だ。
「貴様らの意見は聞いていない。これは命令だ。ジュナザード様より命を受けて来た我らの言葉は、ジュナザード様のお言葉と同等の重みがあると知れ」
でも……彼奴らは、そんな意見を聞くつもりも無かった。
いつの間にか患者が寝てるテントが包囲されて、キャンプ全体にシラットの武人たちが散らばって、僕ら全体をも包囲していた。迂闊に抵抗すれば、僕らを直ぐにでも潰す。そんな風に僕らを押さえつけた上で彼らは、そう言ったんだ。
「貴様等、正気か!?」
「正気だ。貴様等こそ、正気を疑う。ティダード独立のこの戦いにおいて、何故敵の隙を見逃そうとする。好機では無いか」
「我らは疲弊しきっている……そんな状態で仕掛けるなど、それこそ反撃の機会を生む悪手ではないか! それすらも分からんと!?」
「それは相手も同じだ。そんな相手に我らが負けると。そんな弱気な輩は、要らん」
そんな理屈で、こんなバカらしい事に付き合ってられない。と言った医者の皆が既に殺されていた事を知らされた。ずっと患者のテントで様子を見ていた先生以外を、こっそり集めて意見を聞いていたらしいけど。誰も賛成なんて、しなかったから。
今ここに残っているのは――先生だけらしい。
「何故、殺した」
「ここに居る必要が無いからだ」
「殺すのに何の躊躇いも無いのだな」
「そうだ――分かっているとは思うが、お前が最後だからと言って贔屓はしない。我々の方針に従わないのであれば力づくでここから排除するつもりだ。他の医者共のように、な?」
「……俺に、治療を継続しろと」
「そうだ。貴様の役割は兎に角最低限戦えるように、患者共を治す事だ。拒否権はない。コレはティダードの独立のかかった戦いだ」
――援軍じゃない。こんなの。
自分達を逃がさないために、後ろから見張ってるんだ。僕だってわかる、ここから更に攻撃を態々するのが、どれだけ無茶なのか。皆、疲れ果てていて。これ以上、戦う事なんて難しいのに……そんな、絶対にやっちゃいけない事に。
無関係な、先生迄巻き込もうとしてる。
「先生……ッ!」
「メナング。大丈夫だ……一つ聞く」
全然大丈夫じゃない。だって、そう言われたら先生は。
「なんだ」
「もとより逃げる積りは無い。私が欲しいのは貴様等の言う事を聞けば、私は最後まで彼らの治療に携われる……その事の確約だ」
「ほう? それはまた、仕事熱心ではないか」
「当たり前だ。彼らは俺の……患者だ。放っておけるわけがない」
「良い心がけだ。安心するがいい、我らの戦いの為に、貴様は使い潰す予定だからな」
きっと。僕らを治療する事を選ぶだろうから。この戦いの中で、ずっと。僕らを丁寧に診察して、治療してくれた先生は。
「ダメだよっ!」
「――ここで私が頷かなければ、医者は誰も居なくなってしまう。君の父上の様子も診る事は出来ない」
「っ、それ、は……」
それは、きっと間違ってる。先生は此処に残っちゃいけない。こんなどうしようもない所に残っちゃいけないって分かるのに……先生が居なくなった後の父上の事を考えると。何も言えなくなってしまった。
「心配してくれてありがとう。優しい子だな。メナングは」
「……そんな、事」
「大丈夫だ。私は決して患者を見捨てたりしない。最後まで付き合うさ……おい、私が患者の面倒を見るのだ。医療器具は欠かさないでおいて貰うぞ」
「それは当然だ。道具が無いからと仕事を適当にやられては、此方も困る」
――結局。援軍にやって来た男達の命令で、僕らは更なる追撃の準備をする事になった。ここに居る皆の中で、それに納得した人は、一人も、居なかった。
「あんな奴らを送り込んで来るなんて……!! まるで督戦隊ではないか!」
「実際そのつもりなのだろう。ここを、我々の命を削ってでも死守させるために」
「ジュナザード様は……我々を見放されたのか」
不満が、増えた気がする。
つい先日までは。笑顔が見えた。未だ。でも今は。全然何処にも笑顔が見えない。皆、新しく来たシラット部隊に文句を言っている。空気も良くない。こんな状態で、マトモに戦えっこない。きっと、負ける。
「……先生」
そんな中で、先生は今もテントの中だ。怪我人の中でも、使える者は使う、という彼らと話し合っている。患者の担当は自分だと、無理矢理に割り込んだらしい。出来る限り皆を安静にさせる、と凄い顔で言っていた。
「――あ」
誰かが声を漏らす。テントの中から、先生が出て来た。
「終わったぞ!」
「先生、どうだった……!?」
「……」
顔色は……良くない。いや、真っ青だ。唇を噛んでいる。その表情に、先生の元に駆け寄った何人かが、露骨に落胆して見せた。ダメだったか、と。けれど……
「おいおい、そんなため息吐くんじゃない」
「先生は良くやってくれた。最小限で済ませてくれたよ。なぁ?」
「おう! 志願した俺達三人だけに何とか留めてくれた」
それを否定するように、三人程の大人がテントから出て来た。どういう事か、と尋ねる周りに……三人は、こう言った。最初向こうは、意識が無い者以外は全て戦わせるつもりだったのだ、と。
皆、目を丸くしていた。僕もだ。そんなの……無茶苦茶だ。そんな事したら、きっともっと死人が。もし先生が居なかったら。
「……そうか。そうだったか」
「なら、落ち込むのは失礼だったな。すまん、ありがとう先生」
「――礼を、言われる筋合いはない……」
けれど。
当の先生の声は……まるで消え入りそうなほどに、小さかった。そして、震えている。今きっと、先生は誰よりも、落ち込んでいる。誰だってわかった。
「……先生。落ち込まず、誇ってくれ」
「アンタは、やれる事をやってくれた。落ち込まなくていい。後は、俺達の仕事だろう」
「全くだ。良し、先生が頑張ってくれたんだ。皆も不満を言ってるばかりは止めろ! 拳と武器の手入れを欠かすなよ!」
そう言って散っていく三人。先生の前に集まっていた皆も落ち込んでいた気持ちを持ち直したのか、各々、様々な場所に腰を下ろしたり、武器を磨き始めたりもしている。そんな中でも。先生は……ずっと、うつむいて。しょぼくれたままで。
少し、皆の様子を見つめてから。先生は自分のテントへ……ではなく、患者の居るテントに向けて、少しよろけながら歩いて行ってしまった。その背中が、何時もの堂々とした背中とはまるで違って。
「……先生」
――結局、先生は食事時も、ずっとそのテントから出て来ることは無かった。
「――あまり迷惑をかけないようにしろよ」
「分かりました」
食事を持って行くついでに、様子を見に行く。そう僕が行った時、皆は止めた方が良いと言ってきた。責任を感じて、その分必死になって仕事をしているのだろう、その心意気に水を差すことは無い、と。
でも……だからって、放っておくなんて無理だった。せめて何かしら励ましの言葉でも掛けられれば、と思って。食事をもって。
「――あらァ? どうしたのォ、坊やァ」
行ったら最悪の人に捕まってしまった。
テントの前に、ブリッジウェイが立っていた。どうしてこんな所に、とはこっちが聞きたかった。ケガをしている様にも、特には見えないのだけれども。。
「……何かしに来たんですか?」
「そうよォ? 彼奴ゥ、ここに居るのよねェ?」
「先生、ですか。ここに居ますけど……」
その言葉に頷いたブリッジウェイは、テントの中へと入っていった。今の先生に組手を仕掛けるなんて、良くない。止めないと。そう思って追いかけて中に入る。
テントの中心、患者の皆の寝てる場所から離れた場所で、二人は真っ向から顔を突き合わせていた。先生の顔色は……やっぱり、良くない。少し、目の下が黒くなっているようにも見える。
「あらァ? 随分と落ち込んでるわねェ? Dr.ホーク?」
「治療に来たのか。何処を怪我した」
「べっつにィ……強いて言うならァ、
「何――」
瞬間だった。
その場から先生が吹っ飛ばされた。テントの外、僕たちが入って来たのとは逆の裏の方向へ向けて。早業だった。それをやった下手人は……当然、一人しかいない。
「――何のつもりだ」
「醜さにィ……拍車掛かってるからァ? 醜いものが許せない私としては、こんな醜さに拍車がかかった輩は、徹底的にオシオキしなきゃ、ねェ?」
傭兵、ジャック・ブリッジウェイだ。
そろそろホモ君の一人称も書いてみましょうかね。何時か。