史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第十六回・裏:降伏しに行こう 後編

「――おいっ! 先生!? 本当に突っ込むのか!? 本当に突っ込むんだな!? 俺らは! どうなっても知らんぞ責任取れんぞ俺は!!」

「馬車を借りてきているのだからもはや後戻りは出来ん。行こう」

「ああくそ分かったよ! もう知らんぞ俺は! 覚悟決めたからな! どんな結果になっても知らんからな! 俺は! いやマジで!」

 

 ――三台ほどの馬車が、密林を抜けていく。

いや本当に、僕も同意だ。元は敵の陣地にこのまま突っ込むとか全然正気じゃないと思うので一旦正気を取り戻して欲しい。先生には。どうか正気を取り戻していただきたいけどいやもう目が据わってるので無理だと思う、哀れな一般シラット使いの子供です。

 仕方ない。もう止められないなら僕らもこの流れに乗るしかないと思う。事こうなってきたら。怯えたら負けだと思う。

 

「もう見えて来たよ! もう帰れないぞ! 分かってんだな!」

「道が空いているではないか、行け」

「ワハハハハハハハハハハハハハハハーッ! こ…ここまでやったんです! 皆の命はッ! このティダードの武人の皆の命だけは助けてくれますよねェェェェ~~ッ!」

「当然だ」

「あっ、力強い返事ありがとうございます……」

 

 物凄い頼もしい肯定の返事だった。聞いてた僕も思わずうわすごいなぁ、って先生の方を見てしまう位には良い返事だった。強かった。

 先生にも、何か考えがあると思う。そう思いたい。これで完全に考え無しで突撃とかしてたら、色々とダメだと思う。という事で僕らに出来るのは先生を信じる事だけなので頑張ってとだけ。

 

「――なんだぁっ!?」

「しゅ、襲撃か!? このタイミングで!?」

 

 ……で、当然のようにアメリカ軍に囲まれる僕達。そりゃあそうだ。馬車が何台もガラコロやって来るなんて、そりゃあ危険も危険だと思う。

 そんな時、真っ先に馬車から飛び出したのは、やっぱり先生だった。

 

「な、なんだぁっ!?」

「ハゲだ! 白衣のハゲが降りて来たぞ! 一体何の用だ!」

「全員止まれ! 此方に交戦の意思はない!」

 

 先ずは先生から交戦の意思は無いと呼びかける。銃を突きつけられてるこの状況下でも顔色一つ変えないのは流石に先生のスゴイ所だと思う。さて、先生は此処から一体どんな交渉というか。材料を出すのか。

 

「戦う積りが無い!? じゃあなんでそんな馬車を引き連れて乗り込んで来た!」

「全面降伏だ! ここのティダード側所属のシラット部隊は降伏しに来た! 私はその付き添いだ! 話を聞いてくれ!」

「降伏!? 全員が降伏だと!? そ、そんな急に……!?」

「其方の司令官と話をさせてくれ! 怪我人が居る! というか其方の怪我人も治療させてくれ!」

「何の話だ!?」

 

 いやホント何の話だと思っても仕方ないと思う。でも、それが先生の本音だから僕としては何も言えないんだ。先生は、どうやら敵の患者であっても放っておけない人らしいので。自分は、結局根っからの医者だったんだ、なんて言って笑ってた。

 

「ま、まぁこっちの患者は兎も角として……本当に降伏なのか? つい先日まで徹底抗戦を唱えていた輩が! だまし討ちじゃないのか!」

「そんな事はどうでもいい! 治療をさせろ!」

「ええい狂人か貴様!?」

 

 ……先生大丈夫かな。本当に何か考えがあるのかな。物凄い、ものっすごい不安なんだけれども。ある様に見えないんだけれども。唯勢いのままに治療しようと突っ込んでいっている様に見えるんだけど。気のせいだよね。

 気のせいだと思いたい。けど……気のせいだと思えない。先生の目が爛々と輝いている様に見える。ギラギラしてる。

 

「――というか君も負傷しているじゃないか!! 傷を見せろ! メナング、私の救急箱を持ってくるんだ! 簡単な治療なら出来る!」

「……ってうわぁ!? なんだなんだ!? 何だいつの間に!? えっ、えっ!?」

「先生何やってるんですか!? 持ってきましたけど!?」

「ありがとう。ええい、ここの医者は何を考えている! 傷の処置が雑だ!」

 

 本当に一瞬でアメリカ兵の上をひん剥いていた。ああ完全に患者の治療に動いてる。ヤバい。目が完全に据わってる。良くない。

 

「えっえっえっ、ちょと、ちょっと待て!? 何で治療してる!?」

「君が怪我人だからだ! 良いから治療をさせろ! この辺りは衛生管理が行き届いているとはお世辞にも言えないんだ、処置が雑なまま放置したらどうなるか……!!」

「ちょ、えっと、あの、コレどうすれば良いんだ!? 助けを求めればいいのか!?」

 

 助けられてるのに助けを求める、とはどういう事なんだろうかと思ってしまう。ううん。

 

「い、いや、それは……とりあえず、連絡はしておくぞ!?」

「なんてだ!」

「『急に乗り込んで来た奴が兵士の治療を始めた、指示を求む!』でどうだ!」

「そりゃあ後でどやされそうな陽気な報告だなぁオイブラザー! このイカれたドクターにでも治療して貰ったらどうだい!」

 

 イカれた呼ばわりはあんまりだと思うけども。でも的は射てる。銃口突きつけられてるこの状況で未だ強引に治療しようとしてるって言うのが、なんだろう。この状況で、脳味噌が恐怖の信号を発していないんだと思う。そもそも恐怖の感情ってものがあの人に元々存在しないというか。

 あ、治療終わってる。凄い丁寧に包帯が巻いてある辺り、銃口向けられた程度じゃ治療の腕は鈍らないらしい。やっぱり恐怖の感情が死んでると思う。

 

「い、痛くない……話は本当なのか」

「そうだ」

「……分かった。上からの指示を待つから。少し――」

「いや、その必要は無い。通してくれ。彼なら信頼できる」

「隊長!?」

 

 ――ふと、其処に。

 キャンプの奥の方から新たに兵士が一人出て来た。他の人より、少し歳を取った、兵士の人。その人が、先生をじっと見つめていた。

 

「……貴方は」

「久しぶりだ。私の事を、覚えて居るかな」

「えぇ。父の葬式では、本当に……ありがとうございます」

「私は別に何もしていないじゃないか。出席しただけで。大袈裟だよ。それよりも。あの頃よりも随分と、また」

 

 少し、目を細めて……優しげな表情で、その人は何度か頷いて。それから、先生の前に立つ兵士二人に対して声をかけた。

 

「お前たちも覚えているだろう。あの時の……」

「……あっ!? 軍医先生の息子さん!? い、いやでも人ってこんなに変わるか!?」

「いや、一度しか会ってませんけど……ここ数年で変わり過ぎじゃないか……」

「本人だ。間違いなく。兎に角通せ。万が一の場合の責任は私が取る」

 

 その言葉に頷いたのか……先生の前から、二人の兵士が退いた。どうやら知りあいらしい。そのわきを通って、堂々と先生はその士官、だと思う人の前に立った。その人は此方を見ると……キャンプ全体に声をかけた。

 

「監視は付けて置け! 私達が戻ってくるまで、絶対に手を出すんじゃないぞ!」

「「「はいっ!」」」

「では行こうか……そちらの少年も一緒に来たまえ。当事者抜きで話をする、というのも余り宜しくないだろう」

 

 そう言って手招きされた先生は、一瞬僕の方をちらと見て。取り敢えず頷いておく。断る必要もないし……先生を一人にするって言うのも、危ないと思ったから。正直、僕が居なくても先生は一人で何とか出来るとも思うけど。

 僕の返事を見て取ったのか、先生はその兵士を負って歩き出した。

 

「まさかこんな所に居るとはね。驚いたよ」

「世間話は大丈夫です。それより……」

「降伏に関してかな? 問題ない。我々はユナイテッドステイツの人間。降伏を受け入れず皆殺し、なんて前時代的な真似はしない」

「であればありがたいですが」

「それに我々は、常に人材に困っているからね。それを考えても……」

「なんです?」

「いや、なんでもない……とはいえ、今までの確執もある。スムーズに、とはいかないかもしれないが、その辺りは分かっているね?」

 

 ……それは、正直分かってる。

 元敵の所に駆けこんで来たんだから。今まで必死になって僕らも抵抗していたから。嘗て必死になって殺し合いをしていた相手を、あっさり受け入れられる訳もないのは、きっと当然だと思う。

 

「大丈夫ですよ。そんな事を気に出来る程、我々に余裕はありません」

「……どういう事だい?」

「此方は味方に追い立てられる形でここに来たのですよ。此方は諦めて、というよりは助けを求めて此方にすがりついて。その状況下で其方に立てつけると?」

「味方に追い立てられて……?」

 

 ――そんな風に話していた直後の事だった。

 取り敢えず、大人の話に割り込むわけにもいかず。僕は空を見上げていた。そんな時に空に見えた……豆粒みたいな染みが。唐突に大きくなっていって。えっ? と思った時にはそれは、僕らの前に降り立った。

 

――ドズゥウウン……!

 

「――」

「……」

「……で、その追い立てられた件についてなのですが」

「続行!?」

 

 先生がマイペースに過ぎる……もうちょっと頓着して欲しい。

 

「ここが依頼の場所で構わんかね?」

「……あっ、はははい!! そうです! 良くお越しくださいました無敵超人、風林寺隼人殿! 我々は貴方を歓迎します!!」

 

 それは、大きな大きな老人だった。いや、老人、というには余りにもその体は大きすぎて。それよりも……僕は、その人を見て、不思議だったのが。

 これだけの大きな、それも強そうな人が目の前に居るのに……全然怖くない。威圧感といえばいいのかな。そう言うのを全く感じない。寧ろ、なんだか安心感すら感じる。それが、なんだか不思議だった。いや、見た目の迫力はどうしようもないんだけど。

 

「うむ、それでは……うむ?」

「向こうの部隊が……なんでしょうか?」

 

 その人と、先生と、視線が合う。その時……お爺さんが、少し驚いたように見えた。

 

「……成程のう、大鷲の子は苦難を経て、大鷹への道を歩み出したか。良きかな良きかな」

「大鷲? 大鷲……イーグル……ッ!? 父の事を、ご存知なのですか!?」

「ふふ、まぁ何れ会う事もあるじゃろうて。その時に。では――参る!!」

 

 そう言って空の彼方へと飛んで行くお爺さん。もうミサイル、とか言う武器と同じ位に凄い。羽とかくっついてるんだろうか。というか、人間ってあんな風に飛べるんだ。凄いなぁ。鍛えるとあそこまで行けるんだ。僕も頑張ろう……

 

「……あの人は」

「世界最強のお人だ」

「世界、最強」

「風林寺隼人殿。無敵超人とも名高い。君のお父上とも、親交があった」

「……そう、ですか。では何時か、父の話など聞いてみたいものですね」

 

 僕としては、あの人が本当に人かどうなのか。その辺りを教えて欲しいくらいだった。

 もし、ジュナザード様と面と向かってお会いしたら、あんな感じなんだろうか。

 

 

 

 

 

 

「――あぁ、客人を案内した。警備を続行してくれ」

「しかしMr.風林寺は大丈夫なのでしょうか」

「彼一人で一個中隊……下手をすると大隊にも匹敵する力だ、信用するしかあるまい」

「いえ、彼個人の実力を疑っている訳ではなく……」

「ジュナザードの干渉、か。そうなった時は我々に天運が無かった、ターゲットの上に幸運の星が輝いていたと諦めるしかあるまい」

「そうでない事を祈りたいですね」

「……ジャック・ブリッジウェイの確保。それが為せなければ、ここ最近の調査の甲斐が無いという物。最低でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからな」

 




風林寺隼人が活躍する話だと思ったか?
ホモ君が覚醒する為の話だと思ったか?

残念!! 全ては、この時の為の伏線よ!!(大嘘)

という事で、次は幕間。このティダード編でずっと伏せられていたジャックちゃんのお話となります。

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