史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第十六回・幕間:『貫きジャック』

「――女傭兵! 貴様、何故すぐに助けなかった!?」

「……」

「ええい……お陰で奴らを追いかける手間が増えた。戦場から逃げ出すなどという愚かな兵は始末せねばならん。そんな者が残っていれば、我が国自体の弱体も避けられん」

 

――ジュナザード様の為にも、この集団の頭目はそう思った。

 この国は、様々な国からの侵略を未だ受ける。それだけではない。醜い内乱も未だ終わる気配はない。彼らは、今こそジュナザードの元、一致団結して事に臨まねばならないというのにという思想の元、走り回っている。弱兵を抱え込んでいる暇もない。

 

「ごめんなさァい」

「……チッ!!」

 

 精強を謳うシラット部隊が戦場の苦境にこらえきれず逃げ出した。等。外聞の最悪さでは正直群を抜いているだろう。そんな事実は、無い方が良い。

 

「まぁいい。貴様には逃げ出した逃亡兵共の処理を手伝ってもらう。出来るだけ惨たらしく殺せよ。其方の方が『敵兵に見つかりながらも勇敢に戦った』という話に仕立てられる。お前たちもだ。失態は、働きで返せ」

「申し訳ありません……必ずや取り返して見せます」

 

 立ち上がるのは、シラットの悪鬼たち。そして……ティダードという国を、ジュナザードを誰よりも英雄として慕う、憂国の士に相違ない。そのやり方は兎も角として、彼らは間違いなく、何よりもこの国を思う勇士なのだ。

 もし、彼らが生き残り、ジュナザードの元に有れば、この内乱を治める為に活躍した闇の英傑として名を馳せる事も出来るかもしれない。それ程に、彼らは将来を有望視された武人に相違なかったのだ。

 

「取り敢えず、女傭兵。貴様が先ず先陣を切り開け」

「……アタシィ?」

「そうだ。貴様は攻勢に長けた女だ。寧ろこうした『狩り』の方が力を発揮するだろう」

「狩りィ? なァに? 真っ向からやらないつもりなのォ?」

「当たり前だ。これは戦争だ。どんな手を使っても勝つ。あれらは最早我が敵。容赦は」

 

「――だから嫌なのよねェ。戦争ってェ」

 

――ドシュッ

 

「……えっ?」

 

 

 そう。生き残りさえ、すれば。

 初撃、その一撃で、先ず一人が命を刈り取られた。心臓を貫いたのは……ジャックの鋭いヒール。彼女と同等クラスの使い手でも、完全に不意を突かれてしまえば、たったの一撃ではいそれまでだった。

 

「……なっ!? 貴様、一体何を――」

「何ってェ……? お仕事のォ時間だからァ、仕事をォするだけよォ?」

「おのれぇっ! よくも――」

 

 突進と同時に振り上げた剣――ボロの切っ先を、何の感情も無い、どうでもいいかのように、ジャックは見ている。

 振り下ろされるボロの側面を滑らせるように、ドレスのサイド、ザックリと切れたスリットからしなやかな足が伸びる。肉付きのいい、男受けするのは目に見えたその足は、そんな不埒な考えなど許さぬ凶器。

 カウンターの要領で、ボロを振り下ろそうとした男は、やはり心臓を貫かれ、絶命した。

 

「――」

「……ッ!?」

「はぁ~……アンタ等ァ、もうちょっとォ手応えだしてよォ~? こ~んなァ、美しくも無いィ雑魚サル何匹来てもォ、ぜェんぜん興奮ゥ、しないんだけどォ?」

「ど、どうなっている!?」

「貴様はジュナザード様から我らのサポートをする為に先遣されていた傭兵では!?」

「あァ、そうやってェ紹介されてたのねェ私ィ。じゃあァ……改めてェ自己紹介でもォ」

 

 その殺しの手際は、余りにも鮮やかだった。相手の何処を蹴れば、心臓を貫けるのかが分かっている動きだった。殺しなれた……動きだった。

 

「私ィ、『闇』に雇われたァ始末屋ァ、ジャック・ブリッジウェイとォ申しますゥ」

「し、始末屋だと!?」

「此度の依頼はァ……『箱庭を作るのに邪魔な輩の始末』にて。貴方様達をォ……ただの肉塊にィする為にィ寄こされましたァ!!」

「馬鹿な、我々を始末する為に……? で、では奴らを逃がしたのは!?」

「『ターゲット』じゃないからァ。プロはねェ、無駄な殺しをしないのがァ、美しいのよォ?」

 

 シラット使いの頭目の頭に、様々な考えが過る。

 何故自分達なのか。そもそも誰が自分達の始末を依頼したのか。自分達はジュナザードの直属の部隊、そんな物を始末しようなどと……アメリカ側か。ならば何故自分達に攻撃をさせていた?

 ならば、自分達を潰す動機があるのは一体誰か。

 

「考えなくても良いわよォ? 依頼人が誰かァ、とかァ」

「なにぃ?」

「どうせここでアンタ等ザコザコわんちゃんはァ……アタシが優しくゥ優しくゥ、殺処分、するんだからァねェ?」

「――貴様ッ!!」

 

 だが、その思考はあっと言う間に放棄された。少女の浮かべる、その悪辣な、自分達の誇りを嘲笑う、悪意の籠った笑みを目にして。国を守るために、必死になって戦う自分達を小馬鹿にされたのが酷く……酷く、彼の心に火をつけた。

 直ぐに仲間に指示して距離を詰める男。所詮雇われの傭兵相手、護国の熱に燃える我々に勝てる訳もない。動きのキレも、良い。

 

 突き出した貫手はジャックの頬を掠め、その髪を何本か散らす。しっかりと鍛え抜いてきたジュルスの一つだ。基本にこそ忠実に、それを忘れず、何時か達人として、この国の英雄たる、ジュナザードの役に立つために。

 

――こんな女に、遅れなど取るものか。

 

 頭の中に燃え滾る熱が、拳のキレをドンドンと鋭い物にして行く。怒りで鋭さが鈍るという事は武術の中で往々にしてよくある事。だが、怒りというモノは、生物がその凶暴性を高める手段。それを発揮して、鈍るばかりという事はない。寧ろ、自分の動きが何時もよりもきれを増すことだってある。

 

「――っとォ? あぶなァい♡ ふふふふ、ひっしィ♪」

「フン、逃げるのだけは得意か? だが逃がしはしないぞ!」

 

 それに、怒りが頭を満たしていても、男の指示は冷静だった。

 自分の動きに相手を集中させて、後ろに伏兵を伏せ、そして……油断している所を狩る。戦場の武術、シラットだからこそ、多対一で相手を叩く動きはしっかりと身に着けている。ましてや、とっさには反応し辛いであろうヒールなど履いている傲慢。

 破壊力を重視したその考えが命取り。

 

「ここで死ねぇい!!」

「――でもぉ……いいわよォ、そうそうそんな感じィ!!」

 

 そう思っていた。

 だが。だがこの一瞬、ジャックは信じられない行動に出た。

 何と、頭目に背を向けて、後ろの伏兵に向いたのだ。何の躊躇いも無く。

 

「!?」

 

 気づいていただけでも驚きだが……しかし、何の躊躇いも無く自分に背を向けるその度胸たるや。多対一の状況、何処を真っ先に処理するかで、生存確率は大きく変わる。それを分かっている動きだ。

 後ろから、不意打ちでかかってくる刺客というのは、何処かに油断がある。不意打ちだからこそ反撃されるという発想にイマイチかける。それを、理解しているのか。

 

「――ぎゃっ!?」

「がっ!?」

 

 振り切ったヒールの踵が、まるでナイフのように二人の武人の顔を真横に切り裂いた。刃を仕込んでいる様には見えない――人の肘は、素早く振って擦る様に肌に掠める事で、刃物のような切れ味を生み出す事もある。恐らくはその類だろうか。

 

「ッ、この女ぁ!! この国の平穏を……邪魔する悪魔めがぁ!」

「そうそう、熱くなって来たじゃないのォ!! もっとよもっとォ!!」

 

 もはや事ここに至って、頭目は油断などしない。

 相手は正に怪物。全身全霊、全力にて拳を構え、掴みかかる。平穏を乱す不穏分子を確実に潰すべく、護国の炎を燃やして。

 

――猛獣跳撃(スラガンハリマウ)!!

――S・G・H(ショット・ガン・ヒール)!!

 

 猛虎の如き拳撃と無数の蹴りが、空中にて鎬を削る。双方の力は――ほぼ互角に見えない事も無い。頭目の拳は確実にジャックのヒールを払い除ける事が出来ている。

 だが……彼はそれで『互角に戦えている』と思う事が出来ない。払い除ける手に伝わってくる感覚は異様、相手の蹴りを凌ぐたびに、弾くたびに、どんどんどんどん、足の動きが加速していっている。今は何とか凌げているが……これ以上は。

 

「――そうそう、それで良いのよォ!」

「っ」

「美しいじゃなァい……必死になってェ、マイホームを守ろうってェ、心をォ燃やすゥ、その姿ァ!! 美しくないやり方でェ、汚さないで良いのよォ!!」

「貴様ッ、いったい、何の話をッ……ぐぅ、している!?」

「美しい物を見たいのよォ!!」

 

 そして、その顔の笑みは、それ以上に。深く。深く。そして……残酷に!!

 

「美しい物、いっぱいあるってェ!! この仕事をォしてェ! 気付いたわァ!! それは心! 生き様! 物! 全てがそう!! この世はァ、美しい物に溢れてるゥ!!」

「なっ……ごっ!? がっ!?」

「――そしてェ……それを踏み潰した時ィ、私の美しさはァ、更にィ輝くゥ」

 

 ――既に、対処しきれるレベルを超えている。圧倒的な手数の蹴りで、頭目は地面に叩きつけられ、バウンドしたそこを狙い撃ちに、無数の蹴りが空中に彼を繋ぎ止める。

 気は荒みながらも、しかし、決して彼女の手綱を離れていない。彼女の思うが通りに足をイヤ――もはや、ヒールにすら、その体から溢れる、悍ましき、化生と見紛うばかりの気血が通っている様にすら見える。

 

「――」

「私はァ……自分の美をォ、証明したいィ!!」

 

 そして最後の一発が――彼の体を、確実に貫いて。

 天に撒き散らされる血液。まるで雨の様なそれを、黄金の髪に染みわたらせ……頬に

垂れてくるそれを、ペロリ、赤さを超えた、紅い、紅い舌が舐めとった。

 

「その為にィ――こんな仕事ォ、してるんだけどォ……って、聞いて無いわねェ」

 

 力無く地面に転がる――頭目を踏みつけて。ジャックは笑う。

 

「強く在るゥ……強い物をォ超えるゥ……私の美しさはァ、何処までも、天までも上るでしょうねェ……そうよォ、ホークだってそうよォ!」

 

 化け物の如く。

 殺人鬼の如く。

 そして――何処までも、完成された深淵の女神の如く。酷薄に。この世の全てをせせら笑うが如く。笑う。満面の笑みで。

 

「何時かァ! 完璧に、どこまでも完成されたアイツをォ、踏み潰した時のォ……アァ!! アァアア!! タマラナイワァアアアアッ!!!! アハハハハハハハハハ!!!」

 




戦争→意思を汚いやり方で汚すからイヤ。
真っ向からのバトル→大好きィ♡♡♡









ジャック・ブリッジウェイ の 青得が 変化 しました

『動の気:開放』→『動の気:掌握』
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