史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第十六回・幕間:超人対邪神

「――お主か、将校殿達が『くれぐれも気を付ける様に』と言っていたのは」

「カカッ、無敵超人と名高い、風林寺隼人が来てくれるとは! あやつを態々雇った甲斐があるというものよ!!」

 

 ――そこだけが、神話の如き様相であったのは、間違いない。

 ジャックたちが居るキャンプより、僅か一キロ。超人の足であれば、届きうる距離にてその男は……隼人の前に降りたった。仮面の男、その気当たりは既に特A級を超えている。超人である自分に届きうる物かもしれない、とその拳を油断なく構えた。

 

「お主、名前は」

「シルクァッド・ジュナザード。なぁに、ただの英雄よ!!」

「英雄、か。成程のぅ……その殺気の濃さにも納得のいく名乗り」

 

 話は聞いていた。ティダード王国の独立を守り抜いた英傑、その実力は、この国において神と謡われる程の物。もしティダードに入り込めば、その男と敵対せず、話をして協力を仰ぐように、とは。

 しかし……初めからこれだけの濃密な殺気を身に纏われていては、話し合いも何も無いという話だ。恐らく、ジュナザードは最初から話し合う積りも無かったのだろう。

 

「とはいえ、お主に用がある訳でもないんじゃがな?」

「そういうな! ()はお前の様な強い奴と戦いたいから待っていたというに!」

「ふむ。あの様な娘を雇って、か?」

 

 先ほど言っていたのも、それを顕している。彼女を雇うという事は、それ即ち闇の深い部分と通じているという事に他ならない。

 

――ジャック・ブリッジウェイ。

 

 若くして闇の世界で名を売る武人……しかも、未だ二十歳にも満たない年齢で、既に数十人の『表』及び、『闇』の要人をも殺害しているフリーの『始末屋』でもある。

 彼女の事は、隼人も耳にしていた。『闇』に雇われ敵対する『闇』を始末した事もあれば『表』の人物から金を積まれ敵対する『闇』の政治家を始末、その逆もこなした事がある。表裏何も関係なく、踏み潰し、殺す。その狂気ぶりは、様々な武人から慕われている。

 

「お主も分かるだろう! あの娘はとびきり、末恐ろしい才覚を秘めた怪童。この俺とて我慢も利かずむしゃぶりつきたくなる程の……! だからこそ、必死に堪えて撒き餌として、ああいや、邪魔者の始末も頼んだがな?」

「確かに、あの娘は将来、間違いなく達人へとたどり着く器であろうなぁ」

 

――余りにも若すぎる。

 

 それが隼人から見た、少女の印象だった。

 それはこの年で既に闇に潜っている事もそうだが……その依頼の請け負い方である。若さ故の根拠なき自信、そこから来る無謀か。重要人物の始末依頼など、ある程度は腕を上げてから挑む物。それを……この若さで。

 しかも、その危険な濁流を、彼女は泳ぎ切って来た。それは、恐らく危機に敏感だったから……というだけではない。闇の世界は、それだけではきっとやっていけない。

 たとえ危機だとしても、一歩を踏み出すその勇気……又は、狂気。それが必要だ。

 

 彼女は、恐らく後者だろう。

 そうでなくては、表も闇も関係なく、手あたり次第、等という酔狂も酔狂な真似はしない。嘗ての相棒とてしなかった狂気の戦い方。それを若くして身に宿す、生粋の闇人。

 

 同時に、その若さに救いがあるとも感じた。

 道を踏み外している事については、もはやどうしようもないが……しかし、今止めればまだやり直しの利く歳だ。そして、この年で止めなければ。将来、恐ろしい闇の達人として大成するその未来が、見える。

 居るのだ。本来生き残る筈の無いアウトローの一匹狼。それがごく稀に生き残ってしまい、年を経ると……もはや、何者にも従えられぬ魔獣として化ける。そんなレアケース。闇の中に潜む、旧い獣の如くに。

 

「故に、その前に止める」

「何を言う、ここからアレが育っていくのが面白いのではないか!!」

「そうはいかぬ。若き才を、深き闇に埋めさせる等――な」

 

 ……それを、先達として、見過ごせなかったからこそ。

その少女の為にも、この太平の世の為にも、彼は止めるためにこの国に赴いた。若き才能を血塗られた道から引き戻すのも、世直しの一環だ。

 

「カカカカカッ! ならば俺を超えて行けばよい……だがっ!!」

「――そう容易くはいかぬか」

「この国においては最早俺は武の腕において“神”とまで称される男よ! お主は、ティダードの英雄にして神の前に立っている! 果たして、所詮人のお主が、俺を超えられるか!?」

 

 しかし、それが上手く行くかどうか。立ち塞がる目の前の相手は、今までの経験をもってして、全力で警鐘を鳴らさねばならぬ相手。そして……もう一つ。少女が居る方向から少しずつ、感覚に訴えかけてくるこの、感覚は。

 

「それに、もう少しのようだぞ……! 感じるか、この俺をして悍ましいと感じるこの、この気当たりを! 間違いなく、奴は今この時をもって、殻を脱ぎ捨てる!」

「……」

「俺を抜き去り、その先におる娘を止められる……カァッ!!」

 

 それを感じ取ったのか、狂気の英雄が地を蹴って駆け――

 

気当たりの残像を無視し、後ろを取った本人へ向けて、腰のひねりと脚の踏み込み、体捌きの三つの動きから体重を乗せた拳を放つ。一瞬、本物と勘違いする程ではあったが、音に聞こえた無敵超人、そう容易く背後は取らせない。

 だが、空を破る程の拳は、まるで猫の如くしなるジュナザードの動きを捉えること敵わず。躱したそのままの勢いで続いて足元を狙う動きを、一歩下がる事で捌き、再び距離を取って

 

――という動きを、隼人はほぼ全て見切っていた。

 

「ぬぅ……なんとまぁ」

「そう容易くは、踏み込んでは来ぬか」

「読んでおる読んでおる。本命もだが、一応張っておいた奇策にも対応されてしまったか。これはこれは、超人と謡われる実力は伊達ではないか!」

 

 ジュナザードは、地を蹴って駆ける、そのままの姿勢で停止していた。

 ジュナザードの仕掛ける、技撃軌道戦。凡そ百手は軽く超えたそれに隼人は対処して見せていた。これだけの読み合いに持ち込み、膠着状態に持ち込むだけでも尋常の沙汰ではないがしかし。その全てが必殺のそれ。

 ずっと戦争の真っただ中、其処に居たからこそ。この男は知っている。戦いという物。そしてその只中に置かれた人間という物を。殺気という物がどういう物か。

 英雄、という評価は嘘ではないと、隼人は改めて思い知った。

 

 この男をマトモに相手して居たら、間違いなく間に合わなくなる。流石に向こうもここで派手に戦い始めたら、間違いなく気付かれる。流石にその愚を犯す訳には行かない。出来るだけ……最速でこの男を抜く必要がある。

 

「面白い、では――」

「あまり時間も無い――故に」

『全力で行くとするかのう!!』

 

 

 

 その後。

 無敵超人、風林寺隼人。そして将来の拳魔邪神、シルクァッド・ジュナザード。

 両名の戦いは歴史の通り、迎えの船が付く迄の激闘となり。そして、その結果。歴史の裏に隠れたある少女に、結局風林寺隼人は干渉すること敵わず。

 

 彼は、戦いの最中、感じ取る事となる。

 邪悪な気が、弾ける様に膨らんだ後――不自然なほどに、穏やかに、そして、完璧に制御された流れになるのを。

 

 『気の掌握』にまで少女が辿り着き、新たなる闇の達人が生まれたのを。

 目の前にて、感じ取る事となる。

 




という事で、ジャックちゃんの裏設定回でした。

表も裏も関係なく跳ね回る、成程、ホモ君のライバルとしてピッタリだな!(思考停止)
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