史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第十七回・裏:船出の先へ

 ――先生は、凄い。

 

「Dr! Dr,ホーク!! もうちょっと、もうちょっとスピードを落として! というか助手も誰も付けないで平然と手術をしないでください! 勘弁してください!」

「――よし、処置は終わった、次だ。次は……」

「話を聞いてくださいこの変態! ハゲ! ディッ〇ヘッド!!」

「あぁそうだ、機材の洗浄と取り換えをお願いする」

「死ねぇッ!!!」

「……何故だ?」

 

 本当にすごい。あっと言う間に患者を治す手際もそうだけど。元は敵兵だというのに何の躊躇いも無く手術する。本当に。自分も撃たれていたり、襲撃に巻き込まれているのを忘れているかのように。

 『医者として、患者は誰でも助ける』とだけ。それは、自分の信念を絶対に妥協しないという先生の強い心そのものだった。

 僕は、ティダードの為に、戦うと決めて戦争に向かって。でも、父上が倒れて怯えて。それを先生に助けて貰って。そこからはずっと、先生にくっついてばっかり。

 

「――メナング、メスを」

「あ、はい」

 

 皆を助けようって、決意した時だって。結局先生に頼る事しか出来なかった。僕は、無力な子供でしかないって事が嫌という程分かった。それでも尚、僕はこうやって、頑張り続けている。

 せめて……目覚めた父上に、こんな僕でも、情けなく泣いているだけでは終わらなかったです、と報告できるように。ずっと、頑張ってる。

 

 でも。父上は、褒めてくれるだろうか。僕が、頑張った事。ずっと寝ていた父上は。この変わり切った状況に、戸惑わないだろうか。それだけを、不安に思って――

 

「――メナング! メナングという少年はいるか?」

「は、はい!」

「あぁそこ……か。うん。君のお父上の目が覚めた。連れてきて欲しいそうだが……立て込んでいるなら、後にするが」

 

 結局、先生に断って、僕は父上の元に、走ったんだ。

 

 

 

「――幾らなんでも、酷い言い方ではないか?」

「あぁ。メナングとて、別に戦場にでなかった、という訳でもないのに」

「我々から話を聞いてから直ぐではないか……メナング、そう気を落とすな。あやつとて寝起きで正気ではないのだ。な?」

 

 父上は本気だ。絶対に。

 目はとても真っすぐで。嘘を、ついて無かった。僕を真っ直ぐ見て。言ってた。だからきっと……僕は頑張ったけど、父上には、気に入らなかったんだろう。僕は。じゃあ、どうすれば良かったんだろう。

 

『――戦場より逃げだしたお前など、顔も見たくない。出て行け』

 

 そう一言だけ告げられた。

 

「……まぁ、俺達からも説いて聞かせる。時が経てば落ち着きもするだろう」

「奴も国内に家族を残して来た身だ。武人として、意識の無いままにその様な選択に身を預ける事になった事を良しとは出来ん……だろうなぁ。恐らく」

 

 じゃあ、どうすれば良かったんだろう。足手まといにならない様に。出来る事をして来た積りだったけど。僕は。何も出来ないまま、戦場で倒れればよかったのかな。

 

「――どうした。メナング殿の父上が目を覚ましたと聞いてきたのだが」

「あ、先生。手術、終わったんですかい」

「あぁ。問題はない。だから様子を見に来たんだ」

「……あの、メナングの親父が目を覚ましたんですが……その、えっと。錯乱しているというか」

「なんだと。では退いてくれ事は一刻を争う」

「しまった逆効ぉおおおおおおああああああああ」

 

 先生が堂々と入ってく……先生みたいに、強かったら、こうやってウジウジする事も、無かったのかな……父上に言われた、武術への信念を、自分なりに通したつもりだった。あんな事の為に、もう戦いたくなかったから。

 それが、間違っていたんだろうか。

 

 もう立ちあがれないでいた。ちょっと、鼻にツンと来た。

 その間に、先生は父上と何かを話していたのか……暫くして、先生は病室から出て来てきたんだ。

 

「――」

「……って先生? どうなさったんだい、そんな神妙な顔して」

「患者のプライバシーの優先をしたい。皆、ここから離れてくれ――良いか、くれぐれも誰も残してはいけない。そこに隠れている子供を見逃したり、決してしてはいけないぞ」

 

 ……思わず、顔を見合わせた。それは……その言い方だと、僕だけ見逃せ、と言っているような物だけど。二人して、先生に視線を戻すと、先生は、真顔のままウィンクを一つして、部屋に戻っていった。

 皆、しばし顔を見合わせていたけど。その後、示し合わせた様にぞろぞろと部屋から離れていく。僕も離れようとしたけど、止められた。

 

「ここに居ろ」

「で、でも……なんで僕だけ」

「何か考えがあるんだろう。無意味な事はしない人だ。黙って聞いてな」

 

 ――そう言われ、結局僕はその場に放置されて。

 仕方なく、部屋の前にしゃがみ込んで。そうすると……人のざわめきが無くなったからだろうか、部屋の中の声が聞こえて来た。

 

『人払いは、して貰えただろうか』

『問題ない。医師は患者の味方。プライバシーを守るのも、仕事だ』

『そうか……済まない。体が弱っているせいか、周りの気配を感じ取る事も、難しくてなぁ。さて、話の続きをしたいのだが』

『……本気なのか。メナングを連れて行って欲しい、というのは』

『雇われの医者と聞いた。世界中を巡っているんなら、頼みたい』

 

 連れて行って欲しい。その言葉にドキンとする。

 顔も見たくない、というのは……そこまで本気の言葉だったのかと。

 

『理由を聞かせて欲しいな。理由も無く連れて行けなど、親のする事ではあるまい』

 

 訊かないで。そう思ってしまう。

 聞きたくない。そう思ってしまう。

 けど……足は、どうしても部屋の前から離れない。耳は心とは裏腹に、中の様子を聞こうとしてしまう。それは……信じたいからか。それとも。諦めたいからなのか。

 

『――息子は、未だ未熟に過ぎる』

 

 そして、その言葉に、足から力が抜ける。

 やっぱり、父上は、無力な僕に怒っているのか。もっと、シラットを習った武人として強さを示せなかったのか、と。

 

『……そう思っていたんだ』

『ほう。そう思っていた』

『仲間から話を聞いた時、本当に驚いた。私の思う以上に、息子は必死に頑張っていたのだと。戦う事に必死になるのではなく、自分が無力だという事を自覚しても、それでもやれる事を探して、必死に……本当に驚いたんだ』

 

 ……けど、その時。父上の声色が変わった事が、分かった。

 

『あの子は、必死になって頑張ってたんだよ。私が何も出来ず、寝ている事しか出来なかった、その間に……私なんかより、よっぽど頑張ってた』

『……』

『色々と、あの子には自分の教えられることを教えて来た積りだ。だが、それを生かせるかどうかは別問題だが……話を聞くだけで分かった。教えた事を、あの子は私が思った以上に良く分かっていたようで』

 

 少し、優しい……修行終わりで、頑張り過ぎて、疲れて寝てしまった僕を介抱してくれた時の、その時の声だった気がした。武術に関しては、親としての情を捨てて、全てを叩き込むとまで言っていた父上が見せてくれた……ほんの僅かな。

 さっきの、凄い剣幕とは、全然違う。

 

『――もうあの子は、私の下で学ぶ段階を離れた』

『武術に関して、全てを仕込んだ、という事ですか?』

『いや、武術の型、動き、そんな物を仕込むのは一人でも出来る……一人でも立てるよう私は、先ず武術の信念を仕込んで来た積りだ。武術とは、型ではなく、先ず心意気。それを仕込めば、どんなドブに嵌り込んでも、きっと』

 

 ――ドキッと、心臓が跳ねた気がした。

 僕は父上から、まだまだ学ぶことは多いと思っていた。シラットの武術だって、ジュルスの全てを教わった訳でもない。でも。

 父上は、そうは思ってはいなかった。

 

『……その準備は終わったと』

『そうだ。あの子は、武人として一人で立つ心構えは出来た。そう信じている……まぁ些か、強引な送り出しになってしまったがね』

『何故俺に預ける?』

『ふっ、貴方のような人間の傍で経験を積んでこそ。あの子は大成出来ると思う。我が子には……大きく、強く。自分を、超えて欲しいものだからな』

『――そう、か。そうか。うん。話は分かった』

 

 父上は――僕を、もっと大きくなるように、送り出す為に――

 

 

 

「先生、失礼します。お話、があるんです」

「どうした」

「あの、貴方の旅について行かせてくれませんか」

 

「――話は、聞いたな?」

「はい」

「正直な話をすれば。俺は他人を気遣える程は強くない。患者を治療する事にしか意識の向かない、不器用な男だ。君を守る事が出来る、保証はない」

「……はい」

「それは、承知しておいてほしい」

 

「覚悟の上です。この機会を……僕は、無駄にしたくないです」

 




あのジュナザードの直属で、しかも完全に恐怖を叩き込まれた立場だったはずなのに見ず知らずの弟子の奮闘を見せられて思い出せる位には武術の信念しっかり仕込まれてるのは間違いないし、何だったらそこまでやった師匠って多分……まぁお父さんじゃないかなって、ティダードの武術国家的に、と思ったのがこのティダード編で彼を起用した訳です。

後、凄い人に憧れて、師匠の元から離れてその人について行く、っていうのはやっぱり切欠が必要だと思ったんで、お父さんから送り出して貰いました。
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