史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第十八回・裏:医師と少年の旅立ち

 結局、アメリカの軍艦はティダードを出発してから、アメリカまで一直線で向かうという事も無く、東南アジアのとある港町に停泊する事になって……先生と僕は、そこで降ろされる事になった。

 

「――元気でな」

「はい。ありがとうございました。もしティダードに帰る時は……」

「あぁ、連絡する。ジュナザード様をお一人で奮闘させるのも心苦しい、出来るだけ早く戻りたくはあるが……そうも簡単にはいかなさそうだ。まぁ気長に待っていればいい」

「はい」

 

 ――先生は、これから世界各地を回るつもりらしい。

 

『何処で患者が待っているか、分からないからな。今までは一か所に留まって治療をしていたが……昔の事を思い出した。俺は、少々と今まで無鉄砲さに欠けていたと思う。だからこそだ』

 

 何処でも良い。兎も角世界中を巡り、其処に自分の様な医者が必要な所があれば、助ける、という事をする、って言う話だ。本当に、当ても、目的も大分大まかなほとんどない様な、そんな放浪の旅だという。

 うん。正直言いたい事はある。そんな雑に誰かを助ける旅とか、色々大丈夫なんだろうかと思ってしまう。何処かへ向かうとか、何処へ行って何をするだとか。そう言う行動の指針を持たないといけないと思う。でも……先生らしいと言えば先生らしいと思う。

 

『ああは言った後で申し訳ないのだが。まぁ言ってそこ迄大変な旅という訳ではないと思う。緊張しすぎないようにしてくれ。緊張のし過ぎは健康上良くない』

 

 って言ってたけど絶対嘘だと思う。

 先生が言う大変じゃない、は『死ぬほどキツイ』の間違いじゃないかと思ってる。だって『ここでの滞在は為になる事の多い旅だった』と今回の一件を評価してるんだから。絶対に物事を測る物差しが壊れてるこの人。

 昨日は僕を脅す積りでちょっと強めな言葉を言いました、的な事なんだろうけど絶っっっっっ対に昨日言った感じが基本だと思う。

 

「その……キツかったらいつでも、俺達の所へ来い」

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。先生が居ますし……うん。少なくとも死ぬことは無いと思います」

「そうか。そりゃあそうだな。あの人が居れば死ぬことは無いか。それを考えればまぁ頑張れる、か?」

「頑張りたいです」

 

 でも、その分。沢山の世界をこの人はズンズン巡り、色んな経験をきっとする。そこにくっついて行けば、きっと僕は広い世界を見て、大きく、大きく成長できる。父上がくれた機会だ。無駄にはしたくない。

 多分何よりも苦しいし、きついし、絶対に吐くくらいになって何十回と後悔する。なんだったら毎秒後悔して涙を流して『ついて行こうなんて言った僕を殺してくれ!!』ってなると思う。何となくそんな確信がある。止まるなら今だと思う。けど。

 

 若いころは苦労を沢山するものだと思うので、全力をかけて頑張ってみようと思う。

 それに……僕以上に、残る皆は、多分苦労すると思うし。

 

「そっちこそ大丈夫なんですか? アメリカの軍に編入されると聞きましたけど」

「降伏して身柄を預けたんだ。それくらいの事はする。何時か、自由に動けるようになってから国許に帰るんだ」

「……そうですね」

 

 多くのシラットの武人が、アメリカで働くのだという。皆が驚いたのは、何か事務仕事、等をさせるのではなく、普通に軍に僕らを引き入れた事……らしい。僕は、なんでそれが不思議なのかは分からなかったけど。

 曰く、普通は降伏した敵の兵士を、自分の軍にそう簡単に編成はしない、らしい。編成する事はあるけど、時間はかかるんだとか。

 

「流石は様々な人種が実力で活躍の場を勝ち取る合衆国、と言った所か。腕があれば元敵とは言え、幾らでも受け入れるらしい。懐が深い、というのか……なんというか」

 

 父上は、シラットの達人、という事で好待遇で迎え入れられる用意があったらしいけど断った、との事だ。前線で働くのが性に合っている、というセリフを聞いて、なんというか父上らしい、とは思った。

 

「親父さんだって、お前程キツくは無いから心配するな。安心して、苦労して来い」

「はい」

「――っと、そうだそうだ。忘れてた。お前の親父さんからコレを渡すように言われてたんだ。未熟者へのせめてもの餞別、だとよ」

 

 そう言われ手渡されたのは。一冊の……ノートだった。船に積まれていた、新品のノートなのだという。どうしてこんな物を。僕は別に、そこまで文字が得意だとかそう言う事じゃないんだけども。

 先生は筆まめ……というか、患者さんの記録を本当に多く取っていて、色んな言葉を知ってる博識な人だけれども。先生にそう言う事も習えって事だろうか。

 

「港から離れてから見ろってさ」

「はぁ。分かりました。ありがとうございます」

「ん、じゃあな。頑張って生き残れよ……いや生き残る事は確定してるか」

 

 それに苦笑だけ返して、先生に振り向いた。先生は……僕と同じようなノートを持ってそれを眺めていた。それも、確かこのノートと同じように、先生のお父さんから、先生に渡された物らしい。

 僕も見せて貰ったけど、半分どころか全く分からなかった。なんか凄い事が書かれてるなくらいの事しか分からなかった。先生曰く『これは人類の医の叡智そのもの。誰かに悪用されぬよう、自分がしっかり管理しないといけない』との事らしい。一体何が書いてあるのか、想像もつかない。

 

「先生、行きましょう」

「あぁ……いや、お父上にご挨拶は良いのかね」

「……多分、追い返されて終わりだと思うので」

「そうか。ならいいが……そのノートは?」

「えっと。父上からの餞別、らしいです。これに何か書けって事でしょうか」

「ふむ……筆記用具等、必要なら言いなさい。お父上から君の事を宜しくと言われているのでね。出来る限りの事はしよう」

「……え、いや、その」

 

 それって、一応ヒミツって事にしている筈では。それを言ってしまって良いのかな。

 

「お父上が目の前にいる訳でもない。なら余計な建前は誤解を生みかねない」

「もう全然気にせず言っちゃう、って事ですか……?」

「あぁ。それに家族とは仲良くするものだからな」

 

 まぁ気持ちとか色々分かるけど。でも、何だろう。物凄い色々と台無しな気がしないでもないんだ。これからこの人はずっとこうだと思うと、物凄い苦労するんじゃないかなぁと思ってしまう。

 

「……取り合えず、ノート見てみます」

「そうだな。それがいい」

 

 この気まずい……いや、気まずいのは僕だけなんだけども。それを払しょくするために取り敢えず、ノートを開く。真っ白なページが目に飛び込んで――来ると思ったら。

 違う、ノートには……黒い線が、しっかりと引かれているのが見えた。

 

「……何か書いてあります」

「ふむ、そうか」

「あ、興味はもってくれないんだ……えっと、なんだろう、コレ」

 

 それは……何かの模様、というか、絵だった。そして、何となくだけど見覚えのあるような形をしていた。それをじぃっと見て……気が付く。これは、シラットだ! シラットは、占領下で舞踊等に隠されて伝承されたとあるけど、間違いない。絵で描かれた舞踊の動きは、シラットそのもの。

 ――コレを僕の為に、と思ったら、少し目が、ウルっと来た。

 

「……どうしたのかね?」

「あっ……いえっ、なんでも!」

 

 このノートを無駄にしない様に、しっかりと型を練習しなければ。と思ってノートを改めてみようとして……ふと気が付く。絵だけではない。その絵の下に書いてあったのは、メッセージ。どうやら、英語のようだった。

 

「――これって……先生、コレ」

「どうした」

「先生に、見せる様にって書いてあります」

「そうか。では済まないが少し貸してもらえるかな」

「わ、分かりました」

 

 手元に持っていたノートを、先生が持ち上げて……そのページを見つめ、一瞬眉をピクリとさせてから。何ページか続けて、捲っていく。最初のページよりも残りのページは素早く、パパッと。

 暫くしてノートを読み終えたのか、パタンと広げていたそれを畳んでから……先生は僕の前にしゃがみ込んで、目線を合わせた。

 

「メナング」

「は、はい」

「一つ、質問したい事がある」

「なんでしょう」

「君は――シラットを極めたいと思うか」

 

 そう言われ……えっ、と返すしかなかった。

 一応、シラットに関しては父上から教えて貰っていたけど、もうこうなっては教えて貰えないだろうし。取り敢えず基礎訓練と、基礎のジュルスの型を繰り返す事で、少しずつでも鍛えて行こうと思っていたから。

 

「えっと、それは、そうですけど」

「分かった。ではお父上からの指示を実行するとしよう」

「えっ、えっ、あの、どういう事なんでしょうか先生」

「単純だ。これには、君を鍛えろ……というか、練習相手になってくれ、と書いてある」

「えっ!?」

 

 練習相手……僕の? 先生が?

 

「あの……し、死にませんか? 僕」

「何故だ。君を傷つける事は一切しない。安心したまえ」

「あ、いやそうか。先生がそんな事する……訳ないよなぁ」

 

 あんまりにも強いから忘れてたけど。先生って基本的に誰かを叩き潰したり、蹂躙するタイプの武人では無かったと思う。寧ろ全然傷つけていないし……あれっ、先生って改めて思うけどどんな武人? そもそも本当に武人?

 

「そもそも俺は相手を傷つける技を殆ど知らない……というか、体得していない。出来てサンドバッグが良い所だ」

「サンドバッグで良いんですか先生!?」

「――君のお父上に頼まれた以上、君も私の患者だ。患者の為であれば出来る事はする」

「そ、そうですか」

 

 ……というか、サンドバッグにしても、マトモに殴れる気がしないけど。でも、先生を相手に、この本に書かれた事を試せるなら。僕は、少しは強くなれるかもしれない。何時か達人への道を歩むのも――

 

「まぁ、サンドバッグについてはまた後程だ。先ずは……」

「先ずは何でしょうか」

「職を探さなければ」

「……えっ?」

「現状私達は無職だ。技能を生かして就職する事を先ず目標としなければ、俺は君を養う事も出来ない。とりあえず、近場で医師を必要としている所を探すとしよう」

「……因みに、先生って医師免許持ってます?」

「持っていない」

「やっぱりぃいいいいいいい!?」

 

 ……不可能じゃない、と。想いたかったり、する。はい。

 




……という事で、第一部、立身編。完!

第二部、達人編はまた改めて書き溜めをしてから投稿したいと思います。その間の妙手時代編に関しては、まぁアイデアが出たら、番外編のような形でちょくちょく、投降できれば、と思います。

では皆様、第二部か、妙手時代編かでお会いしましょう、それでは……そろそろ疾走しても、バレへんやろ(暗黒微笑)


最後になりますが。

ちっそ様 Othuyeg様 塩三様 ヴァイト様 Ruin様 幻燈河貴様 典善様
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誤字報告、本当にありがとナス!!
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