史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第十九回・裏:嘗ての因縁 前編

「無理です先生故郷に帰らせてください!」

「ダメだ。私は君をしっかりと育てる義務がある」

「あぎゃぁぁあああもう無理ですって限界限界!」

「大丈夫だ。君はこのレベルであれば突破できる。私は、こうして逞しく育った君の事を信じている。きっとできる。自分を信じたまえ」

「信じきれません!!!!!!!!!!!!!!」

 

 ……正直、悪夢みたいな光景だ。

 目の前の相手が、多分全員自分と同じ位強い。それが、いったい何人くらいいるのか。もうジュルスを味がしなくなるまで擦った気がする。なんだったら先生との特訓で編み出した回避重点のジュルスなんて擦り過ぎて煙が出始めてる。多分。

 でも先生は、真っすぐに私を見て『大丈夫、やれる』と曇りない目で見てくる。

 

「ええい、気持ちの悪い動きで翻弄しよって……!」

「き、気持ちの悪い!? 失礼な、れっきとした武術だぞ使っているのは!」

「これだけの数の敵に当たって、ではなぜ掠りもせぬ!」

「防御を只管に学んでいるものでね!!」

 

 恐ろしいのは……先生は本当に加勢しないという事が分かってしまった。多分、やれると思って僕を信じているから。そして先生の信頼は、きっと間違ってない。誰よりも『患者』の事をよく見てるのは、ずっとこうやって修行してきて、私が一番知ってる。

 実際の話、分かっている。多分、私がひーひー言いながらもう自分が擦り切れる位の限界を尽くせば、多分勝てない事も無い。そんな気がする。先生との特訓は何時もそんな感じだ。

 

『限界ギリギリを引き出すやり方は劇薬だが、しかし。それも用法用量を守れば決して悪いモノではない。苦しいだろうが、私を信じて頑張り給え。メナング』

 

 ――先生は、出来ない事は絶対に言わない。

 

「いい加減に……っ!」

「――っ! そこだ!」

「なにぃっ!? げぼぁっ!?」

 

 だから……正直、心底怖いし、辛いのは間違いないし。自分も信じられるかと言えば正直微妙だけれど。だけれども……先生がやれる、というのであれば。その言葉だけは。信じられる。ならば――

 

「――っはぁ……き、きつ……」

 

 ――本当に勝てちゃったのだから、いや実際の所正直……今、今スッゴイ……びっくりしてる。どうして勝てたんだろう。いやキツイどころの騒ぎじゃない。息も絶え絶えで、本当に。多分、これ以上どうしようもない。無理。

 でも取り敢えず、大きく息を吸って……終わってから先生を見れば。先生は、ほんの少し、ほんの少しだけど。笑顔を浮かべて、頷いてくれた。

 

「――流石だ」

「あ、ありがとう……ご、ざい……ます……あふぅ……」

「まだ動けるか」

「は……なん……とか……」

「ではそこに転がっている彼らを運んで、下がって居てくれ」

「へ、へぃ……へぃぃぃいいいい!?」

 

 そして、相も変わらずに鬼だった。悪鬼かもしれない。

 

「い、いや、せんせい……もう、もう、ミリも……」

「ここから先は私が相手をする。君や、床に寝ている輩がここに居ては、更なる大怪我を負う可能性もある」

「へ……?」

「君も言っていただろう。向こうには、達人クラスの敵がいる、と」

 

 ――その瞬間だった。

 ゾクッとする感覚が背筋を駆け抜けた。唐突に。あんまりにも唐突に。さっき迄、無かった筈の物が、唐突に現れた。荒れていた呼吸が、無理矢理に、引き締められた。

 何かが居る。とんでもない、巨大なナニかが。現れたんだ。後ろに。

 怪物の如き何かが……ここに。

 

「……っ」

「ゆっくりさせたいのは山々だが……君を殺させるつもりはない。急ぎたまえ」

「……はいっ……」

 

 急いで床に転がっている人を抱え上げて、この場から退避し……ちら、と後ろに見えたのは、先程居た空間に、まるで唐突に現れた筋肉隆々の男。

――いいや、違うとその時になって気が付いた。唐突に現れたんじゃない。きっとアレは最初から近くに居て。自分の存在感を解き放っただけだ。気配をあそこ迄、上手に消せていたなんて……私にはきっと出来ない。

 とんでもない化け物だ。間違いなく達人級(マスタークラス)と呼んでいい。

 

「――先生」

「問題ない。それと……」

 

 だけど。

 化け物、というのであれば、先生も大概だ。何より。

 先生は欠片も慌てていない。であれば、その弟子……弟子……弟子ではないけれど。その教えを受ける者として。自分が慌てていては、それこそ情けない。

 

「くれぐれも患者を頼む」

 

 信じようと、頷いて。

 疲れた足に鞭打って。倒れた刺客たちの元へと歩みを進めた。

 

 

 

 

「これで、全部……」

「先生は、本当にこやつらも治療するというのかね。私達を、襲った輩を」

「――えぇ。先生は、何よりも、誰よりも……お医者様ですから」

 

 そう言って、怪訝な顔をする町長さんの言い分も、分からないではない。でも……先生はそう言う人だから。ここまで、この世のどんな医者よりも強く、気高く、そして。逞しく生きてこれたのだと思う。

 だから――心配はしてなかった。

 不安が無かったと言えば嘘になるけど。それでも心配は、無かった。

 

「ふふ、以前とはボクの力も桁が違うと……言った筈だけどねぇ?」

「どうやらその様だ。動の気の昂り方は、私より一つ格上か」

「君を殺す為に腕を磨いたのさ。喜んで欲しいなぁ~?」

 

 ……今、こうして戦場に立つまでは。

 先生の頬に。赤い、筋が走っている。恐らく、一発掠ったのだろう。もしかしたら貰ったのかもしれない。しかし信じられない。あの、守りにかけては人並み外れたどころか砦の如き堅牢さを誇る先生が。一発貰うなんて。

 これが……これが達人級(マスタークラス)。先生ですら、凌ぎ切れない事があるなんて。信じられなくて自分の目を疑ってしまった。

 

「――先生!」

「問題ない。メナング、良く見ていたまえ。見る事も、学びの一つだ」

 

 しかし、そんな僕の不安などよそに。先生は酷く落ち着いていた。自分の守りが突破された事に何も、狼狽える様子を見せていない。というか、ここまで落ち着いていつも通りだと寧ろこっちが『少しは焦って下さい!』と言いたくなる。

 

「余裕かな?」

「いいや。私より格上の相手だ。余裕などない。だが」

「……だが、なんだね?」

「焦っても状況が好転する訳ではない。ならば、焦らないのは基本だ」

「ふぅぅぅ……君のそう言う、余裕ぶったところが僕は、ね……大層嫌いなんだよ!!」

 

――スパパパパパァアン!!

 

 先生の腕が幾度となく閃き。相手の腕を迎撃する。()()()()()()()()

 その景色に、ゾッとした

 

 今の先生の動きと、僕の練習相手を務めてくれる時の先生の動きと比べて、動きに絶望的なまでの差が存在する事。以前の動きよりも、更に、更にその守りの堅さは増しているだろう事は、分かる。

 だが……それ以上に、先生が今、一歩下がった事に、寒気がした。

 守りの鬼、不動にて相手の攻撃を全て凌ぎ切っていた先生が一歩、下がったのだ。

 

 格上という言葉は、嘘ではない。本当の事だろう。

 

「だが余裕を見せた所で、ジリ貧なのは確定的だね」

「今は確かにそうかもしれないな」

「今は? ずっとさ。この差は、埋まらない」

「決めつけるのは早い。君を相手に、少しずつ学習していた所だ」

「――学習?」

 

 だけど。

 それでも先生は、表情を崩していない。寧ろ……余計に、その顔に、その瞳に。光さえ見える気がする。

 

「君は、察するに『動』の武術家だ」

「……あぁ、そうだけど」

「今まで会って来た武術家というのは、どうにも参考に出来ない人が多すぎてな。プレーンな『動』の武術家というのは、サンプルとして最適だ」

「一体何の話をしているんだい?」

「自分の運用する気の基礎を学ばねば、応用には至らない、という事だ」

 

 そう言って構えを取る先生に……男は、声も立てず、ニヤリとただ笑った。相手を虚仮にした、嘲笑的に。

 

「何を言っているのか分からないが。まだボクを止められると思っている事だけは分かる」

「止められない事はないだろう」

「いいや、不可能だね。君は死体になるからなぁ!!」

 

 繰り出される拳は、小刻みで、鋭く、そして真っ直ぐ繰り出されている。拳での連打を目的とした武術なのは明らかだ。しかし、その手数は……私や、さっきの刺客とは比べるべくもない。達人級なのだから当然だけど。

 だが、それにしても。手刀や、掌打を混ぜる、という訳でもなく。徹底して拳を握りしめて只管殴っているのは……そう言う武術なのだろう。

 

「君と、馬 槍月に敗北したあの日から……腕を磨き続けたんだから。何時か、君達をぺちゃんこにする為にねぇ~」

「ふむ、素晴らしい向上心だな」

「お褒めにあずかり光栄だねぇ。とはいえ、君を相手にして、些か努力しすぎてしまった気がしないでもないんだ」

 

 そんな武術家と、先生は戦った事があるようだ。

 先程から、会話を聞いてみてわかったのだが。先生と相手の達人はどうやら知り合いらしい。初耳だ。相手の話をしていた時に特に反応等をしていた訳でもなかったけど。

 まぁ、それは無表情な先生らしいと言えば先生らしいが。

 

「君は馬 槍月へ挑む為の試金石として認識していた。もし何時か巡り合う事があれば君を基準として彼の実力を考える積りでいたんだが」

「――ほう」

「こうしてボクに圧されている君を見ていて……彼にもそう苦戦しないんじゃないかなぁ~なんていう、予想を立てているんだよぉ~?」

 

 しかし。そこには……私の知らない、壮絶な事情があったのかもしれない。僕は先生の過去を知らない。でも、先生はあんな性格だし。

 相手の強さは、正直な話、私からすれば想像の遥か外だと思う。今も、先程と変わらず一歩ずつ後ろに圧されていっているのが見える。それでも、何時だって、患者の為にああして、全く逃げずして真っ向から敵と向かい合う。

 

そんな風に曲がらず、折れず、突き進んだ結果。何が起きても、私は不思議には思えない。

 

「どうした? 大口を叩いておいて、全くさっきと同じ展開の様に見えるがぁ!?」

「……」

「まぁいいこの程度なら。馬 槍月も叩き潰すのに苦労する事も無いだろうなぁ!! それとも真面目に訓練しすぎてしまって、ボクが強くなりすぎてしまったのかなぁ!?」

 

 ――だけど、そんな中でも。

先生の姿を見ていて一つだけわかった事があった。

 

「――二つ」

「んん?」

「訂正させて――もらう!!」

 

 ソウゲツ、という名前を耳にした時――先生は少し、ほんの少しだけ、ピクリと反応していたし。そして。

 

「なっ、弾きっ……!?」

「一つ。同じ展開にはならない。()()()()()()()。動の気のおおよそは把握し、もう私の手によって運用の方法も見当が付いている。そしてもう一つ」

 

 そのソウゲツを倒すのに苦労はしない、といった時。明らかに先生から、圧力というか。何か、荒々しい物を感じた気がした。

 恐らくだが、先生はきっと……怒ったんだろう。そう言われて。

 

「そ、それに……なんだ、この、妙な……圧力は!?」

「――馬 槍月は貴様程度に敗れる男ではない。私の友人を舐めるな。無礼者」

 

 そのソウゲツという人が。大切なんだろうという事は。

 外野から見ていた私にだって、分かった。

 




久々に書いてみると書き方を忘れている気がする。
思い出さなきゃ……(使命感)
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