史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第二十回・裏:ある組織について 後編

「――『闇』という組織を一言で説明するのは、少し難しいね」

 

 『闇』という組織の歴史は、相当に古いのでという所から、剣星殿は語り始めた。

 武の世界ではタブーとされている『殺人こそ真髄』という考え方を受け入れ、追究する者達が作り上げた組織……なのだという。その為に武術を探求し、極め、時には大きな権力を握る事もあるという。

 世界中の多くの国の政治家の中にも信奉者が居る程、その組織は広大である、と。

 

「そんな組織があるなんて、全く聞いた事もありません」

「そもそも秘密主義の組織だからね。やっている事全てが、表ざたに出来るような事ではないし。そもそも地位も名誉も要らない、ただ只管に武術を極める、そんな者の集まりだからというのもある」

「……」

「ホーク殿。ノートは見せて貰ったね」

 

 そんな組織で先生のお父上は研究者をしていた。それも、どうやら一年や二年では利かない程に長い間。先生は、そう剣星殿に語り……中身を検めさせて欲しいと言った剣星殿はノートをめくりながら話を続け……

 

「正直な話、驚いたよ。ここに書かれている内容は……」

「真実だと思われる。恐らくは」

「その様ね。おいちゃんも医術については多少は造詣はある。だからわかるね……『闇』はその性質上、武術について様々な研究をして来たね。そして、武術を極める為に必要な健康な肉体についても、当然」

 

 その間に、剣星殿の顔は、どんどんと険しい表情に変わっていた。彼の表情から私でも分かる、今がどれだけ厳しい状況なのか。

 

「ここに書かれている内容は、どれもこれも、どんな『実験』の元に行われたのか、正確にそして、精密に書かれているね。お父上は、優秀な人材だった」

「アメリカ軍で軍医を務めていた程だ。それは、間違いない」

「その様ね……」

 

 先生は、一見して表情を変えていない様に見える。けど、机の上で、握りしめられたその手を見れば、心穏やかでないのは凡そ想像がつく。

 『闇』という組織について聞くだけだった筈が、話が余りにも大きくなっている。私も正直、どんな顔をすればいいのか分からない。

 

「先ほど、お父上は何者かに殺された、と言っていたね」

「……そうだ」

「恐らくお父上は、『闇』から抜けた事で、報復を受けて殺された。彼の組織の秘密主義を考えれば、間違いないと思うね」

 

 先生は、ずっと色々な修羅場を潜り抜けて来た。マフィアや、犯罪を生業とした組織相手に戦った事も、最近は増えた。増えてしまった。

だが今回に関しては……規模が違う気がする。

 冗談だと、断じられるなら全然いい。笑い話で済む。だが、目の前に居るのは世界最高峰の武術的組織の長であり、私の先生は、多くの戦場を駆け抜けた、医者としては、異端も異端の超人だ。そんな二人が、至極真面目に話しているのだから……

 

「ホーク殿」

「なんだろうか」

「このノートの事は、他に誰かには話されたかね?」

「……いや」

「では出来るだけこの事は内密に。無敵超人殿に話をされるにしても、慎重を期さねばならないね」

 

 そして、そう言った剣星殿の顔は、今までで一番、険しい物と化していた。

 

「何故?」

「ここに記されているのは、恐らく嘗ての『闇』という組織がかき集め、そして貴方のお父様が完成させた叡智ね。しかし、それを『闇』が既に入手しているなら、このノートはとっくに失われても不思議ではない。流出、させないように」

「処分しても――これがあるという事は、闇はこの知識をまだ、手にしていない、と?」

「少なくとも、全てを入手したとは思えない……そして、このノートに書かれている事の価値は、貴方が一番知っていると思うね」

 

 ……言ってる事は分からないでもない。

 そのノートに何が書かれているのか。それを私が正確に理解できている訳ではない。でも医者の先生が『宝物だ』という程の代物。なんだったら、先生が私を鍛える時にその知識を生かしていても何も不思議ではない。

 

「これを手に入れる為なら、『闇』は多くの犠牲を出すやもしれない」

「……」

「……というのはおいちゃんの勝手な予想だけど。でも、それだけの価値がある物だと医に関わって来たおいちゃんは、思うね」

 

 

 

 ……結局。

 日本に旅立つ日取り等々は後日、という話になった。そう言う話をする雰囲気では無かったのは、間違いなかった。

 先生は、割り当てられた部屋に入った後……直ぐに、ベッドの上に腰を下ろした。いや下ろした、というより、落した、といった方が正しい勢いだった。

 灯りが付いているというのに、先生の顔だけに影が掛かっている気がした。

 

「先生」

「……」

「……も、もう今日は寝ましょうか! 時間も遅いですし!」

「……」

 

 何を言えばいいのか分からなかった。だから取り敢えず、寝てしまえば忘れる。的な雑な考えで口を開いたら一瞬で後悔した。空気が死んだ気がした。なんだったらそれも気のせいだと思う。自分で致命的に間違ったと自覚してたから勝手に自滅した。

 

「その、ですね」

「……」

「えーっとですね……」

 

 口を出すべきなのだろうか。

 私は、先生に師事している立場だ。なんだったら、先生の収入で喰わせてもらっている。その代わり、先生が色々と常識的な事に一切気を回さないので、その辺りのサポートとかはしているけど。それでも大恩しかない人だ。

 

 その人が悩んでいるのだから、力になるのはおかしなことではない、と思う。気がする。我ながら、どうにも煮え切らない答えだが。

 

「……済まないな、気を使わせてしまって」

「えっ!? あ、いやっ、そんなこと!?」

 

 とか挙動不審してたら、先生は私の事を笑ってみてしまった。あっと言う間にバレた様だ。ちょっと、恥ずかしくして、思わず目をそらしてしまった。もうちょっと何かしようがなかったのか、と反省している目の前で、先生はいつの間にか、此方へと顔を向けていた。顔に掛かっていた陰は、消えていた。

 

「……確認する事がある」

「え、あ、はい。なんですか」

「相当厳しい事態に巻き込まれる可能性は、ある」

「え?」

「『闇』という組織について、何も知らずにいるという選択肢は取れない。父が殺された理由は本当にそれだけだったのか……父が母を失った事に関係はあるのか。それを、知らずにはいられない」

 

 それはきっと、先生が覚悟を決めたから、だったのだろう。

 剣星殿の言った通りの巨大で、危険な組織ならば、下手に関わる事を避けようとしても不思議ではない。それでも、先生は『闇』という組織について調べる事を決めたのだ。今、ここで。

 なら……どうして私に、何の確認を取りたいのだろうか。と、次に疑問に思ったのは、そこだった。

 

「だが、君はその事について、一切関係はない」

「そ、れは」

「君は知見を広げるために俺に付いて来ている、が。俺が『闇』について調べる事で君に降りかかる危険は、その範囲を大きく逸脱している。故にここで君は、アメリカの……仲間の元へ戻るべきだと、俺は思う」

 

 ――先生の口から出たのは、余りにも当たり前で、普通の言葉で。

 

「……」

「そうするのであれば、アメリカへの旅費は準備させてもらう。そこは安心して欲しい」

「――いいえ、必要ありません」

 

 だから。

 断った。

 

「……」

「今さらですよ。ずっと、師事してきたんです。その間に幾つ修羅場をくぐってきた、というか潜らされてきたか。先生が、本当に色んなことへ首を突っ込むから、私はいっつも地獄のような目に遭ってきましたよ」

 

 先生だったら『危険だけど付いてこい。問題ない、必ず問題無く』くらい言うと思ってた。

 でも、今の言葉は。先生の。患者を救うためにどんな事だってやってしまう、そんな先生が言うにしては、余りにも普通な言葉だった。普通に私を気遣った言葉だった。普通になったのは、先生に限っては良くない事だと思った。

 物凄い失礼な事を言っている自覚はあるけれど。でも、剣星殿の言う『闇』の印象から考えれば、普通、では足りない気がした。何時もの先生じゃないと。

 

「それに関しては、君も承知していたのだと思うが?」

「だから今回も承知の内ですよ。父を助けてもらった恩だって、こうして育てて貰った恩だってありますし。私は……先生の旅について行きます」

「……そうか」

 

 それなら。

 今、私が背中を押さないと、と思った。

 色んなことがあって、その事を、きっと私以上に理解している先生だからこそ。心の乱れは、私以上にあって当然だ。この人だって、『人』なんだから。でも、それじゃあきっと止まらないから。

 

 心配なのは一つ。私の言葉で、先生の背中を押せるのか。

 

「――なら、余計な節介だった。すまない」

「い、いえ」

「私がするべきは、君を引き剥がすのではなく、君をもっとしっかりと鍛える事だ。どんな艱難辛苦が来ても、君が耐えられる様に……うん、そうだな。請け負った患者を放り出そうとするとは。私も随分と混乱していたようだ」

 

 目の前に立つ、鋼の如き立ち姿を見て、その答えは、明確だった。

 

「メナング」

「は、はい」

「恐らくは、これから先は今までの比にならない程の苦難が待ち受けているだろう」

「……はい」

「だが安心してくれ。君は俺が必ず生かす。健常にする。健康に保つ」

 

 ……先生の友人の、馬 槍月。そして、『闇』という組織。考える事が沢山増えた。

 でも先生が、それに躓くことなく、こうして堂々と立ってくれた事は、良い事だ。きっと日本に渡ってからも、先生はいつも通りだ。

 

 そうなる後押しが出来た、というのが。

 とても嬉しかったりするのである。

 

 

 

「所で先生」

「ん?」

「そんなに熱心にノートをみて、どうなさいました?」

「ああいや。これからの事を考えて『限界寸前』のレベルを見直すべきかと思ってな。私が出来るのは、多くの実戦と、特訓で君を磨く事だけだ」

「…………は、はい」

「本来ならもう一段階踏みたかったが、君の健康を考えれば何方が負担になるかと考えれば段階を一つ飛ばしする位で良いのかと思ってな。構わないかね?」

 

「……………………はい……!!」

 




うだうだ悩むターンよりも。しっかりと弟子に後押しして貰って次に言った方がテンポいいかなと思ってしまいました。此処諸説。
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