史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第二十一回・裏:白衣の乱入者

「――主治医のホークです。宜しく」

「あ、えっと……逆鬼、です」

 

 ――なんつーか。物凄い、医者とは思えない奴だと思った。

 正直、部屋に入った時に構えなかった俺を褒めて欲しいくらいだ。それくらい、目の前の先生はめっちゃ人相悪い。禿げてるのが余計に。顔で判断するのは、まー良くねぇのは分かるが。それくらい分かりやすい悪人面だ。

 とはいえ、新入りのこの先生は、結構信頼できる医者、らしい。さっきまで、しっかりと診療していた鈴木の様子を見て、そう思った。

 

「……彼奴の体は、どう、なんですか」

 

 故に。聞きたかった。

 彼奴が……今の体で、どれだけ動けるのか。生きて行けるのか。

 お節介だとは思う。けど施設で空手を教えているアイツを見て、思ったんだ。武術家としてではなく、指導者としての生き方なら、もっと長生きできるかもしれない、と。

 友達だから。死んで欲しくない、と。

 

「問題はありません。十分治療できる範囲です」

「そ、そうなんすか……あの、えっと、激しい、運動とかはキツイ、とか?」

「問題はありません。十分に可能でしょう」

「や、やっぱキツ……えっ!? 出来るんすか!?」

 

 ――とか身構えてたんだけど。

 目の前の先生は顔色一つ変えてない。治るって、言いきった。

 

「とはいえ、程度に寄りますが」

「で、でも元々から、アイツ体が弱いって」

「だからといって運動をしなければ余計に体は弱ります。適度な運動が健康に大切なのは基本です」

「いやでも」

「確かに、過度な運動は生命を削ります。弱い体なら耐えられないでしょう。では、少しずつ体を強くしていけば、どうでしょうか」

 

 先生は、まるで俺の知っている医者と違った。

 彼奴がどれだけ長生きできるか、じゃなくて。どうやったら『現状を克服できるか』。その話しかしなかった。

 

 どんな運動をすればいいか。

 どんなペースを保てばいいのか。

 何処を強化する為にどんなメニューを組むのか。薬も併用して、どんな結果が出るのかを、しかも、あいつ自身の話では無く。別の、架空の患者の話で、具体的に、分かりやすく話してくれた。

 

「――このような感じで。気長な話にはなりますが、彼なら問題無く。武術の道を歩んで行けます。問題はありません」

「……マジすか」

 

 今まで会って来た医者も、藪医者はいなかったけど。

 コイツ……いや、この人は、間違いなく今までで、一番の名医だと思った。鈴木の体を『健常にする』という事に、真っすぐ向き合っていた。しかも、アイツの想いに、寄り添ってくれる気がした。

 

「とはいえ……今の勢いでは、些かと危険ではありますが」

「あ、それはそうなんすか」

「えぇ。彼を自制させるのは、ご友人の協力が不可欠です。俺も、ある程度は彼に理解を示して貰っていますが。それでも若干、不安が残る部分はあります」

 

 そう言われ……ふと、もう一人の友人の姿が過る。アイツも、鈴木を死なせたくはない筈だ。協力すれば、アイツを説得できるだろうか。

 ふと、そんな事を考えて、気が抜けていた、からだろうか。

 

「――武人というのは、時に思いに任せて、突き抜けてしまいます」

「……っ!?」

 

 目の前の先生の変化に、気が付かなかったのは。

 デカい体してるとは思った。だが……今の先生は、それだけじゃない。体の奥底に秘めた何かが、目の前にせり出してきてる。この迫力は。なんだか、本郷や、それこそ戦っている時の鈴木を思い出す。

 まるで、武芸者かの様な。

 

「彼の目を、知っています。武術に真剣な者の目です。しかしながら、俺の知っているそれ以上に……魅入られてしまっている気がします。逆鬼さん」

「は、はい」

「彼は、俺が治すのではなく。自分の意思で治していかねばならない類の患者です。私も全力を尽くしますが、貴方の協力は不可欠と言っていい。繰り返しますが、必ずや彼を説得して下さい」

 

 何よりも、目が違う。据わってる、っていうのは勿論だが、俺からはその眼は、透き通ってるように、いや、透き通り過ぎてるように見えていた。

 純粋って言うのは、行き過ぎればヤバイ事になる。この先生の目は……

 

「彼の健康が第一です。それ以外は多少無視しても構いません」

「い、いやでもな」

「貴方がしっかりと彼を説得してくれたなら、後は責任をもって必ず私が治療します。手段は問わず、必ず健常な生活を取り戻して見せます」

 

 ずずい、と此方に一歩踏み込むハゲた医者は、一歩間違ったら犯罪者と間違われても仕方ない様な事を言っている。だが……その異様な空気は、寧ろその言葉の説得力、って奴をパワーアップさせてる気がした。

 

 

 

「――捻じり貫き手!!」

 

 ――あぁ、なんでこんなタイミングで思い出すんだ。

 目の前で、鈴木が死ぬ。本郷の一発を受けて。手加減なんて無かった。そりゃあ、アイツが手加減なんてする訳がない。

先生に言われた通り、どんな手でも使って。アイツを止めて置けばよかったんだ。そうすれば、アイツが死ぬことだって……きっと……

 

 本郷の抜き手から、鈴木が抜け落ちる。

 一撃必殺だ。急所を射抜いていた。いつも通りの……いつも以上の拳のキレだった。なんでこんな時に、とか。変な感想ばっかり頭に浮かんだ。

 

「目は……閉じないで」

「っ!」

 

 体の奥底で、何かが爆発しそうになってる。

 ずっと、戦い続けた。強敵だった。ライバルだった。そんな奴を今……俺は……きっと憎んでいる。どうしようもなく。

 ぶん殴ってやりたかった。

 

 鈴木が死ぬ。

 それがどういう事かを、拳に込めて。

 足に力を籠める。腑抜けた心に、腹の中の熱を注ぎ込んで、喝を入れる。せめて、せめて今。

 

 本郷、お前に――

 

「――要治療患者発見」

 

 ――ぶつけてやる。

 そう思った時、なんかが、降ってきた。天井を割って、降ってきた。呆然とする俺と本郷の間に。炎にたなびくのは……赤と反対の、染み一つない白衣だ。炎に照らされて、禿げた頭が光ってる。

 

「――ホーク先生!?」

 

 間違いない。鈴木の担当をしていた医者の先生だ。でもなんで、こんな所に。そう思って居たら、褐色の、俺と同じくらいの男がもう一人。こっちは見た事がない。

 

「先生、この人……」

「あぁ、急がないとな。もう二度と――逆鬼さん。私は彼を連れて離脱する。安全な所で治療したい。其方の負傷に関しては……済まない」

 

 その言葉に、目を見開く。

 今の一撃、確実に急所を貫いて、本郷は、鈴木を仕留めた。仕留めやがった。そう思っていたが。鈴木をソイツ……多分、助手か何かに担がせて、運び出そうとしてる姿。嘘をついている様には見えない。助けようと、している。鈴木を。

 思わず、言葉が口を突いて出た。

 

「治んのか……?」

「治す」

 

 先生は、此方を一度も見ずに、言い切った。

 

「メナング、彼を頼む」

「分かりました……では、失礼いたします」

 

 褐色の男、メナングというらしい。ソイツが、割れた天井の奥に消えて行く。そうして先生も後を追おうと、上を向いて……

 

『――ホーク・K・バキシモか』

 

 そこに被せる様にまた再び、周りから響く声が。『闇』の連中だ。未だ残っていたのかと思う。しかし、先程の奴らとは、声色が、違う。

 先生は……それに反応した様子を見せない。驚いている様にも見えない。

 

『持っているのかのう? あやつの叡智を』

「――何の話だか、分からない。何者だ」

『ふふ、気付いておるくせに、白々しい……まあ良い、何れ貰い受けに行けばよい話だからな。待っておれよ……』

 

 ――先生は、その言葉にも反応しない。

 『闇』とか言う組織は、目の前の禿げた先生を知っているようだが。

 

 そのまま天井に向けて、足を縮めて跳ぶ姿勢を見せて……その時、初めて。先生は口を開いた。

 

「もし持っていたとしても……お前たちには渡さない。『闇』」

 

 白衣がはためき、暗い奥に消えて行く。後ろを、一度も振り返らずに。

 その背中に、何となくだが。信頼できるものを見た。男ってのは、下手に言葉を言わないで行動で示すもんだから。俺も、下手に言葉はかけなかった。

 大丈夫だ。とは言い切れないかもしれないが。それでも、希望はあると、思ったんだ。

 

「――逆鬼、今のは」

「あぁ? 唯の通りすがりの医者だろう」

「通りすがりの……」

「それよりだ、本郷。分かってんだろうが」

 

 憂いは無い。なら、後は……目の前の馬鹿野郎を。

 

「俺は、お前を許せねぇ……!!」

 

 思いっきり。ぶっ飛ばすだけだ。

 




あんまり深く関わらせてもアレなんで、これ位に。
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