史上最強の弟子ケンイチ 実績『達人としか呼ばれぬ者』獲得   作:秋の自由研究

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第二十一回・裏:乱入の裏側

「――風林寺殿は、今日も留守でした」

『そうか。ありがとうメナング。手間をかけた』

「いいえ、大丈夫です」

 

 ――こうして、先生の勤務先の病院に連絡するのも慣れた。

 小さな病院ではあるが、信頼できる病院という事で紹介されたここで、先生は文字通り猛威を振るっている。言い方が荒っぽいが、実際そうと言うしかない。

 無免許、と承知している筈のここの院長さんからも、実力で信頼をもぎ取って、此処を長く利用している患者の皆様を任せて貰っている。その圧倒的な勢いは『猛威』と形容するのが正しい。

 

「そろそろ一週間程になりますので、一旦戻ろうと思います」

『分かった。俺も話したい事があった。場所を合わせて落ち合おう』

「承知しました。それでは」

 

 通話を切って……望遠鏡を用いてちらと様子を改めて伺う。噂の梁山泊は、正直な話を申し上げると近寄りがたい、というか。

 一度、取り敢えずどんな所かと見に行ったら、なんか……なんか何処かで見た事があるデカいお爺さんに『若いのに鍛えられておるのう。感心、感心』とか言われた。というかフウリンジ殿だったのだろうか。アレが。

 

 それに驚いて逃げてからは、全部留守である。完全にしくじった。

 

「……ミスター・フウリンジ、って一体何者……」

「ほ、うむ。其方の若い子の居る席の隣で構わないかのう?」

「かしこまりました」

 

 ……幾ら偵察とはいえ、飲食店で食事も頼まず、双眼鏡で外を見るだけって全力で目立ってる気がする。お陰でなんか、デカいお爺さんにマーカー扱いにされた。恥ずかしい。

 だけど、一応……なんだっけ。あぁそうだ。ドリンクバー、とか言うのは頼んだから許して欲しい。日本、というのは飽食の国というのは聞いていたが、飲み放題のサービスというのは凄いと思った。

 

「……まあいいや、見た所まだ動きはないようだ。もうちょっと一応見てから戻るとしよう」

 

 ……所で、なんでさっきのデカいお爺さん、あんなに気にならなかったんだろうか。相当デカいと思ったんだけど。不思議だ。

 

 

 

「ふむ。悪い子には見えぬが。ここ最近なんで梁山泊(ウチ)を見ているのか」

「あの、お客様。ご注文は?」

「おお済まぬ。そうだのう……久しぶりに奮発するか、この特製くり~むあんみつを頂けるとありがたい」

「わかりました」

 

 

 

 日本の山というのは、普通治療中の患者が向かう場所じゃないと思う。

 

『患者の様子がおかしい。続けざまで悪いが、監視を頼めるか。私は……診療が終わるまで動けない』

 

 ――というお願いを受けて、張っていたのだが。まさか、その直後にこんな動きがあるとは、正直思っても見なかった。

 

「――どうやら、――山の方向へ向かっている模様です」

『そうか。ありがとう。引き続き、何処へ向かうかを張ってくれ』

「はい。しかし……良いんですかねこんな事して」

『患者の為だ』

 

 まぁ先生はそう言うと思ったけど。しかし。

 こんな夜遅くに、しかもわざわざ先生に『今日は定期の検診を休む』と言って迄。外に出る用事とは。一体何なのだろうか。というか、私と同じくらいの筈なのに、どうして私と同じくらいに……いや、私以上に強そうなんだろうか。

 

「……」

『どうした?』

「あ、いえなんでも……監視を続けます」

 

 とはいえ、あの若人もなんとも認識が足りぬと言いたい。先生を相手に『定期検診を休む』などと迂闊な発言をするとは。まぁ普通のお医者様だったらそれも通じるかもしれないが、先生相手にそれは愚かな一手だ。

 いや、通じる通じないの話では無く。先生は、あくまで医者だ。だから患者が大人しく先生の診療を受けているなら、何もしない。

 

 だが、迂闊に断ろうものなら、その時点で先生は『タガ』を外す。一応、先生にも常識……は、ない。ないな。うん。

 兎も角。相手が普通に治療を受けないのならもう後は先生は侵略を開始する。治療する為に全てを賭けて常識の壁なんか粉砕してくる。多分だけど、あの鈴木はじめ、という患者はもう先生に治療されるしかない。

 

「何の目的だったか知らないけど、哀れな……」

『哀れ? 何の話だ?』

「――っあぁいえなんでもすみません切り忘れてて今切りますねはい」

『あ、あぁ。分かった。もう少ししたら其方に向かうから、くれぐれも見失わない様に。お願いする』

 

 危ない危ない。危ないって事は無いけど、見逃したりしたら先生がどんな無茶な手に打って出るか分からない。それで迷惑を周りに撒き散らさない為にも、私がしっかりしておかないと。

 

「……本当に。困った師匠だことで」

 

 まぁこんな見通しの悪い山奥など、私にとってはそれこそホームの様な物であるからして。ここでしくじるのは余りにも不甲斐ない。シラットの森林、及び密林での力という物を、お見せしようと思う。

 

 

 

「……メナング」

「はい」

「燃えているな」

「あの……その……あそこに、鈴木はじめさんが、入ってから、少し、してから」

「分かった。突入するぞ。下から登っていくのは非効率的だ。上からぶち抜く」

「……はいぃ」

 

 うん。止まるとは思って無かった。なんか急に燃え出して『アレ? もしかしてバレてヤケ起こした?』などと肝が冷えていたが。そんな風に怯えている暇はなかった。あんな風に燃えてる所に突っ込むのが、もう当たり前になってはいるがしかし、慣れちゃいけない気がして来た。

 

「私が先に行く。後からついて来たまえ」

「了解です」

 

 そう言って、普通に木を蹴って、三角飛びの要領で……燃える屋根に突っ込んだ。

 うん。着地して火を払ってから、とかじゃない。そのまま突っ込んで大穴開けた。破壊する事に何の躊躇いも無い。まぁ、大穴を開けて貰ったので大人しく突入するとしよう。

 

……うわっ、凄い熱い。燃えてるから当然だけど。

しかし、こんな立派な作りの建物を燃やすとは、中で一体何が起きているのか。

 

「大丈夫か」

「まぁ、燃えてる現場は初めてではないので」

「そうか。では早速行くぞ」

「え? さっそくって……?」

 

 等と。

 のんびり考えてたら先生が唐突に床を叩いて。

 

「――ふん」

 

 バギャオ! とか音がしたかと思ったその直後には……割ってた。床を。

 もう一度言う。速攻で割った。何の躊躇いもなくああもうホントこの人って強引なんだから下になんか見えてるいや待て紅いぞアレって血か!?

 

「――要治療患者、発見」

 

 あ、先生がバーサーク治療モードに入った。どうやら血で間違いないようだ。というかアレって、鈴木はじめさんだろうか。なんでこんな所で血液を撒き散らしているというのか。こうなってしまう様な事をするのが目的だったのか。はたまたこうなる事が目的だったのか……まぁ。

 いずれにせよ、先生に見つかったなら諦めてもらうしかない。というか、鈴木さん以外に二人ほどいるが、逞しい方も、細身の方も、間違いなく私より強い。哀しくなる。

 

「先生!?」

「逆鬼さん――」

 

 っと、今は此方の人だろう。

 

「先生、この人……」

「あぁ、急がないとな。もう二度と――逆鬼さん。私は彼を連れて離脱する。安全な所で治療したい」

 

 正直、私から見てもどうやったら治療できるのか。という状態だが……正直、後は死を待つしかない様にしか見えない。が、先生に掛かればここまで危険な状態でも、望みがあるという事が凄い。凄すぎて、ちょっと寒気がする。

 助からないだろう、という感想だけは出ない。この人に目を付けられたんだ。死んでも死にきれないだろう。

 

「治んのか……?」

「治す。メナング、彼を頼む」

「分かりました……では、失礼いたします」

 

 そんな中で。

 サカキ、と呼ばれた男は、もう一人、炎の中に立つ男と向き直ってた。でも取り敢えず今は、この人を助けるのを優先しないといけない。先生の開けた穴の所から、急いで外へ抜け出して……その後に何が起きたのかは、私は知る事は無かった。

 

 

 

『……』

 

 ベッドの上で眠る、鈴木はじめ。しっかりと脈がある。そんな彼を、傍らに立った逆鬼さんが見ていた。顔には、傷が残っていた。

 ホントに凄い、とは思う。アレだけの重症、体を貫通する一撃を……見事に治療して見せたのだから。しかし……しかしながら。

 

「意識、戻りませんね」

「アレだけの重症だったからな。治療は出来ても、意識が戻らない事もある」

「……でも、意識は戻る様に最善を尽くすんですよね」

「私が居なくなっても問題ない様に、やり方は伝えた……他にも患者を診なければならないからな。だが、様子は見に来る」

 

 鈴木はじめさんは、意識が戻らなかった。

 先生の治療は完璧であって、命を繋いだのだから目覚める可能性はあったとは思うが。逆にアレだけの重症なのだから、命が助かった事自体が本当に幸運で、目覚めなくても文句の差し挟みようはない……とも、傍観していた私は、思う。

しかし。先生はそう思って居なかった。

 

『――済まない。助けられなかった』

 

 手術を終えて。

 その後、会いに来た逆鬼さんの治療もして。

 

 両者が対面するまでには時間があって。でも……その間に、鈴木さんの意識は戻らなかった。結局。

 鈴木さんのベッドの前で、その事を伝えた後、先生は、逆鬼さんに土下座してそう言ったのだ。地面に頭をしっかりとついて。

 私が止める暇もなかった。

 

「……ありがとう、と言って貰ったが。そんな資格はないよ。俺は」

「そんな事。鈴木さんは、先生じゃなかったら救えませんでした。先生は確かに患者の命を救ったんですよ」

「命だけではない。患者を救うのが、俺の役割だ……まだまだ、実力不足に過ぎる。結局私は、昔から余り成長出来ていない」

 

 呟いた後、先生は目を閉じ、一つ息を吐いて……少しした後、目を見開いた。

 

「医の道は、まだまだ長く果てはない。今回の事を教訓に更に精進せねば」

「こ、これ以上ですか?」

「私はまだまだ医の道においては若輩者だからな。患者を救い、別離を少しでも……それが出来るようにならねば」

 

 その直後、踵を返すように病院の廊下を歩みだす。確か、移る患者の付き添いで、別の病院へ向かう事になっているらしい。重病の患者なので、万が一にも容体が悪化した時の為の備えだという事だ。

 今日は、きっと。いつも以上に気合を入れるだろう。先生は。

 

 先生の道に関して、どうこう言う事は出来ない。

 でも傍に居るのだから。余り無茶をしない様に、諫められたらいい。

 そう思いつつ、ふと思い出した事があった。

 

「そう言えば、今日向かう所って……あ、ヤバイ」

 

 急いで先生について行く事にした。先生が無免許ながら働いているのは、まだまだ継続中だ。それでも何とかなる時はあるが、今から行くところは、そう言う所に相当に厳しい所だ。何しろ、研究所としての側面も持つ病院だから。

 

 今の先生に、何時もの様な上手い誤魔化し方が出来るかどうか分からない。それこそ、私がサポートしないと。こういう時は、私の仕事だ。

 

「あの大企業、『()()()()()()()()』の研究施設だからな……念には念を入れておかないと。先生、待って下さい! 俺もついて行きますから!!」

 




二話以内に収めようとするとどうにも詳しい描写は無理だという事を悟りました(疲労困憊)
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